エルロンドと出会う前の話 「うわーっ!! うそだろうーーー!?」 ハイウェイを気持ちよくバイク走行していたレゴラスの前で、 突然トレーラーが急ハンドルを切り、 タイヤをきしませながらスリップして、道をふさいだ。 「やば!!!」 急ブレーキなんかかけたら、どこかに吹っ飛んでしまう。 バイクとは、危険な乗物なのだ。 「・・・・・・」 レゴラスは正面を凝視したまま、歯を食いしばった。 「社長、輸入会社の重役の方がお見えになりました」 「うむ」 ひとつ咳払いをして、スランドゥイルは立ち上がった。 スーツの襟をただし、秘書の女性の方を向く。その女性は、小さく頷いた。 たかが宝石屋。 だが、自社生産している以上、いろいろな企業とも関係をよくしておかねばならない。 石の買付けだけなら自分で飛んでいくが、他の金だのプラチナだの、 加工過程の機械の調達だの。まあ、いろいろあるわけだ。 貴金属の調達に関する金銭交渉が、今日の目玉の仕事だ。 できるだけ、いいものを安く仕入れたい。 偏屈で有名なスランドゥイルだが、今日の取引先の男も、とんだタヌキだ。 まあいい。一時機嫌を取ってやろう。 気を引き締めて、会議室のドアを開け、儀礼どおりの挨拶をする。 その男も立ちあがって挨拶を返した。 さて、化かし合いのはじまりだ。 「社長」 スランドゥイルが席につこうとしたとたん、 信頼している部下のひとりが慌てて駆寄ってきて、スランドゥイルに耳打をした。 「・・・・・いつだ?」 「2時間ほど前です。病院からご自宅に電話が。 ご自宅のメイドからこちらに連絡がはいりました」 報告を聞いてすぐ、スランドゥイルは来客に向きなおり、ぺこりと頭を下げた。 「急用ができたので、失礼します」 そのまますぐに、会議室を出て行く。来客はぽかんと口を開けた。 社長が去ったあと、残っている重役連中をキッと睨む。 「・・・これは、どういう冗談だね?」 「申しわけありません」 事情を聞いた秘書が深々と頭を下げる。 「ご子息が事故にあわれたので、社長は病院の方へ」 「事故だと?!」 客人が声を荒げる。 「家族の死に目にあわなくても仕事を優先させるってのが、社長ではないのかね?!」 さしてうろたえるわけでもなく、秘書と重役連中が顔を見合わせる。 「・・・・会社を潰してもご家族を優先させる・・・そのような方なので、 私どもは信頼して従っております」 「話にならん!!」 客人は怒って椅子を蹴飛ばし、会議室を出て行った。 病棟の入り口で、スランドゥイルは足を止めた。 公衆電話の前に立っていた少年が、ふり向いてばつの悪そうな顔をする。 「わ〜・・・来ちゃったよ」 スランドゥイルはこれ以上ないくらい眉間にしわを寄せた。 少年のうしろを、看護婦がおろおろしている。 「何をしている?」 「え〜、父さんに電話しようとしてたんだよ。たいしたことないから、来なくていいって」 スランドゥイルは看護婦をキッと睨んだ。 「まだ寝ていなければ、いけません。検査が終っていないのですから」 「大丈夫だって。誰だよ、家に連絡したの?」 どうやら、レゴラスが検査を受けている間に病院の者が家に連絡をしたらしい。 つかつかと息子に詰寄ったスランドゥイルは、レゴラスの腕をぐいとひっぱった。 「看護婦さん、病室はどこですかな? 拘束具も必要らしい」 レゴラスは慌てて両手を振った。 「おとなしくしてるから!!」 父親が真剣なのを、息子はよく分っているらしい。 ハイウエイでの玉突事故。事故台数が多かったわりに、重傷者はほとんどいなかった。 レゴラスは最後尾のトレーラーの後から、そのタイヤの間を滑り込んだらしい。 激突は免れたものの、トレーラーの前で横転していたバンに突っ込み、一瞬意識を失った。 それで、たくさん来た救急車のひとつに乗せられ、病院に運び込まれたというわけだ。 レザーのライダースーツとフルフェイスのヘルメット。慣れた受身で、ほとんど無傷。 しかし、念のためにとあちこち検査を受けていた。 「大丈夫だからって連絡したかったんだけど、病院の人が動いちゃダメだっていうんだ。 ほら、父さんのことだから飛んでくるかもしれないし。今日は大切な会議がある日でしょう?」 ベッドの上で、一生懸命説明する。 スランドゥイルはパイプ椅子に座り、腕を組んで聞いていた。 「あれか。・・・あれは、もういい」 「もういいって・・・」 「お前が心配することはない」 しゅんと肩をすくめる息子に、スランドゥイルはその頭をくしゃくしゃと撫でた。 「ご家族の方ですね?」 書類を抱えた看護婦がやってくる。 「念のため、今夜は入院して頂きます。入院のための書類と手続を」 クリップボードを手渡され、それをすらすらと記入していく。 「・・・・父さん」 「CTでもなんでも撮ってもらっておけ。病院ではおとなしくしているのだぞ」 ボードを看護婦に返しながら、息子を睨む。レゴラスはまた肩をすくめた。 「・・・・ごめんなさい・・・・」 ちょっと口元をつりあげ、スランドゥイルは息子の頬にキスをした。 「無事でよかった」 それまで恐縮していたレゴラスの表情が、ぱあっと輝く。 両手で父親に抱きつき、キスを返してから体を離す。 「必要なものを取ってくる」 「うん」 まるで小さな子供に戻ったように、レゴラスは素直に頷いた。 「では、主治医とお話を」 「うむ」 スランドゥイルは立ち上がり、息子にニヤリと笑いかけて、病室を出て行った。 看護婦の間では、話題になっていた。事故で搬送されてきた、とびきり元気な少年。 実は宝石商の御曹司。どうやら父子家庭。 息子が美少年なら、父親も類を見ないほどいい男。しかも・・・・親子べったり。 夜、父親は着替え云々と一緒に大量のハンバーガーを持参。 「わあ、病院食じゃ足りなかったんだよね!」 レゴラスは嬉しそうにジャンクフードを平らげた。 ・・・・本当に、金持か? さらに、面会時間が過ぎると、レゴラスは幼い子供のように父親の袖口を握って離さない。 「仕方ないだろう、完全看護なんだから」 しぶしぶ手を離す息子に、スランドゥイルは唇を重ねて囁いた。 「明日には帰れるから、今夜はがまんしなさい」 唇を尖らせながらも、何度もキスをして、レゴラスは毛布をかぶって丸くなった。 何事も問題なく、翌日には無事退院。 さすがに、宝石屋の社長は忙しく、家族同然の社員が迎えに来た。 そうなると、レゴラスは御曹司らしい燐とした態度を取り、看護婦を驚かせた。 さてその日の夜。 帰宅したスランドゥイルは、息子と一緒にシャワーを浴びた。 このふたり、別に珍しいことではない。 身体を洗ってやりながら、本当に怪我がないか、丹念に調べる。 あちこち触られて、レゴラスはくすぐったそうにくすくすと笑った。 「ねえ、ほら、変なトコ触るから」 悪戯っぽい口調で唇をつり上げる。 スランドゥイルは変化し始めてる部分に目を止め、 眉間にしわを寄せてレゴラスの額を弾いた。 「ガキが色気づいてるんじゃないぞ」 「生理現象だよ。責任取ってよね」 どこまで本気か分らない(いやたぶん、全部本気だ)息子に、 スランドゥイルは熱いシャワーを浴びせ掛けた。 「うわ」 「熱を冷ませ」 ぷんぷんと肩を怒らせ、スランドゥイルはバスルームを出てタオルを頭に引っかける。 「あー、ちゃんと拭きなよ! 床、びしょびしょにすると、また怒られるよー!」 シャワーを止めて、慌ててレゴラスも出て行く。 そのいいかげんさで、いつも通いのメイドに小言を言われるのだ。 妻が生きていた頃は、彼女が楽しそうにタオルを持ってスランドゥイルを追いかけていた。 リビングのソファーにどっかりと座り、ワインをグラスに注ぐ父親を、 今度はレゴラスが丁寧に拭いていく。 今は気候がいい季節だが、冬だったりすると大騒ぎである。 せめてバスローブくらい着なよ、と、シンプルなバスローブで父親を巻く。 気にせずスランドゥイルはワインを飲み始める。 この親子、あまりパジャマを着る習慣はないらしい。 一通りのことが済むと、レゴラスはスランドゥイルの膝の上に頭を乗せて寝転がった。 「・・・・入院って、やだね。昨夜は眠れなかった」 ひとりでは眠れないレゴラス。そんな体質を作った大きな原因が、この息子溺愛親父。 もともとは、母親を失った精神的ショックから父親べったりになってしまったわけだが、 父も父で、絶対に息子をひとりにはしなかったのである。 どんなに多忙でも、絶対夜には家に帰って一緒に寝ていたし、 外泊しなければならないときは、どんなに重要な会議のためでもレゴラスを連れて歩いた。 で、この一卵性親子は一部で有名になってしまったほどである。 事故のこと、スランドゥイルは責めない。 何も言わず、ただ隣にいるだけ。 ワインを飲みながら、仕事の書類を読んでいたスランドゥイルは、 膝の上でうとうとしていた息子を揺起こした。 「寝るぞ」 気だるげに顔を上げたレゴラスは頷いて、ベッドルームにあがっていった。 寝るときは、何も着ないことが多い。 昨日の今日なので、レゴラスは裸のままスランドゥイルに擦寄って、肌を密着させている。 人肌は温かくて気持いい。 「そんなに抱きつくな。苦しいから」 苦笑いしながら、息子の髪を撫でる。 レゴラスはふるふると首を横に振って、父親の胸に顔を埋めた。 「・・・・怖かったか?」 顔を埋めたまま、こくりと頷く。 「死んだら、パパに会えない」 スランドゥイルは小さな溜息をついた。 「でも、それより寂しかったよ。ひとりで寝てると、すごく寒いんだ」 息子のくぐもった声に、抱き寄せるスランドゥイルの腕にも力が入る。 「ごめんなさい・・・・これからは、もっと気をつける。ひとりになるのは、嫌だよ」 ひとり寝が寂しいのは、自分だって同じだ。でも、そうは言わない。一応、大人だから。 「パパ、愛してる」 スランドゥイルの胸に頬を密着させ、足も絡める。ほんの一ミリも離れたくないように。 スランドゥイルはレゴラスの頬を撫で、つと上を向かせると、唇に唇で触れた。 何度か触れ合ううちに、レゴラスの手がスランドゥイルの首に回り、 ぎゅっと自分の方に引き寄せる。そして、開いた唇から舌でその中を弄った。 「・・・・・・」 強引な深い口づけに、驚いたようにスランドゥイルが身を引く。 唇から、一筋の唾液が滴り落ちる。 「パパ」 レゴラスの瞳は憂いで、じっとスランドゥイルを見つめる。 「パパ、・・・・この頃、僕、おかしいんだ。 パパのこと考えると、身体がむずむずするんだよ。 生理学で習ったから、知ってる。 普通、女の子のこと考えると、そうなるんだよね? 僕、おかしいんだ」 蒼い瞳が潤み、涙が零れ落ちる。 「体中が熱くて、気が狂いそうだよ。パパ、たすけて」 すすり泣く姿は、か弱く、脆い。 レゴラスの身体の変化には、気がついていた。 思春期の息子だから、 いつかはそういったことに目覚めるだろう事も覚悟していたつもりだ。 「レゴラス・・・・」 「パパ、僕が嫌いになる?」 嫌いになど・・・・なるはずないのに。 自分の、身体と精神の変化に戸惑う年齢なのだ。 それでも、もっと別の方法があったかもしれない。 スランドゥイルはレゴラスを抱き寄せ、涙を吸い取った。 自分の足に、興奮した息子の存在を感じる。 「いいか、今日だけは・・・・一度だけだぞ、手でしてやるから」 顔を上げたレゴラスは、複雑な表情で父親を見つめ、頬を染めて小さく頷いた。 たぶん、はじめてであろう快楽に、レゴラスは目を閉じ、唇をふるわせた。 小さく喘ぎながら、自分に触れる父親の腕を握る。 満たされる幸福感は、あっという間に絶頂をむかえた。 早かったなあ、まあ、こんなもんか。 と、冷静を取り戻したスランドゥイルは余韻に浸るレゴラスをきれいに拭いてやる。 ひとしきり落着いたあと、艶っぽい表情でレゴラスは頭を上げた。 「パパは? しないの?」 ひくり、とスランドゥイルの鼻が引きつる。 「ねえ、今度は僕がしてあげるよ」 しがみついてくるレゴラスを、慌てて引き剥がす。 「なんで? だめ?」 「だめだ!」 レゴラスを毛布でぐるぐる巻きにしてから、 スランドゥイルはあまり着る事のないパジャマを着込んだ。 「しつこいと一緒に寝てやらんぞ!」 まるで悪戯を叱られたかのように、 レゴラスは唇を尖らせてベッドの上でごろごろする。 溜息をついて、スランドゥイルはその横に寝転がった。 背後からレゴラスが抱きついてくるが、さすがにそれまでは拒否しない。 「パパぁ」 それとなく弄ってくるレゴラスの手を掴んで、噛むふりをする。 「いいかげんに・・・・」 「僕じゃ欲情しない?」 かなり本気の、色っぽい表情。 「息子相手に欲情するか」 「僕はパパとしたいのに」 背徳行為をさらりと口にする、息子の頬をぎゅっとつねる。 「もうしないからな。あとは自分でなんとかしろ」 イタイイタイと父の手を引き剥がし、しゅんと肩をすくめる。 「ねえ、僕、やっぱりおかしいの?」 「恋人でもできればかわる」 親に対する擬似恋愛など、すぐに忘れる。 レゴラスは、父に抱きつき目を閉じた。 「パパ、愛してる」 「ああ、愛してるよ」 父に囁かれ、レゴラスは嬉しそうに顔をほころばせ、眠りについた。