白いシーツの波間で、その男のモノを咥えながら、必死に思考を切り離す。
苦手な会食の席で、嫌いな野菜を笑顔で食べるようなものだ。
仮面をかぶって、その一時が過ぎるのを待てばいい。

 それより、考えることはあるはず。

(ギル=ガラドが、何故エルロンドを後継者としたか、知っていますか?)

(いいえ。グロールフィンデルさんはご存知なのですか?)

(エルロンドなら、自分と違い、うまくやっていけると考えたからです)

(うまく? 何をうまくやるんですか?)

 平和な時代を生きぬく術を、知っているのですよ。彼はそう言った。
エルロンドなら、愛することを知っている。彼もまた、孤児であったのだから。

(私は、エルロンド卿をお守りする。それだけです)

 あの時代を蒸返されることは、本望ではない。
レゴラスの父もまた、全てを許そうと努力していた。

 憎しみによる過ちを、繰り返さないために。

 

「何を、考えておいでですかな?」

 彷徨っていた思考を、現実に引戻され、レゴラスは目を開けてその男を見た。

「いい声を、している」

 唾液で濡れた唇を舐め、レゴラスは身を起してその男にまたがった。

「もっと、楽しませてよ」

 自らそこに腰を落す。酷い痛みと悪寒が走る。

 それでも、ゆっくりと身を沈めていく。

 グリマは、快感に喘いだ。

「・・・・すばらしい・・・・なんて締め付けだ! まるで、はじめてするよう・・・」

 痛みに麻痺する思考をつなぎ止め、唇をゆがめて見せる。

「エルロンド卿は、いつもこの体を楽しんでおられるのですね」

「そうだよ」

 なんとか奥まで押し込んで、動きを止めて激痛が去るのを待つ。

「エルロンドは、喜んでくれる」

「ええ、そうでしょうとも。あなたの体の誘惑に、勝てる男などおりますまい。
ああ、そうやってあの男を誘惑したのですね」

 痛みに慣れてくると、少し体をかがめて、グリマの目を見る。

「そうだよ。簡単だ。エルロンドは、僕の思うままに動いてくれる」

「悪いお方だ」

「・・・ギル=ガラドはシンゴルとその側近を殺し、邪魔ものを排除した。
麻薬戦争では、僕の祖父を見殺しにしたんだよ。
そして、その財産の全てを受け継いだのが、エルロンドだ。
苦渋を舐めたことのない男。僕が利用して、何が悪い? 
本気で、あんな男を愛しているとでも思ったの?」

 狡猾なグリマの目に、喜びの色が浮ぶ。

「気分が悪くなる。あの男の名前は出さないでよ。それより・・・もっと楽しませて。
卑猥なことを言って、僕を感じさせてよ」

 誘うように腰を浮かせると、グリマは両手でレゴラスの腰を掴んで、強引に引戻した。

「ええ、もちろんですとも!」

 

 思考が追いつかなくなるほど、次々と意味をもたない言葉を口に出す。

「ああ、いい! もっと突いて! 大きい! すごいよ!」

 金髪を振乱しながら、のけぞった喉で叫ぶ。

「レゴラス殿・・・すばらしい、吸いつくようだ・・・・」

 体の奥に当る楔を、快感を得られる場所に導いていく。

「ここが・・・ここが、感じるのですね?」

「そうだよ・・・そう、・・・そこ」

 腰を支えるグリマの片手を、起ちあがりかけた自分のそこにもっていく。

「触って」

 言われるがままに、掴む。刺激を与えることで、そこが変化をしていく。

「ねえ、気持いいよ、わかるでしょう?」

「ええ。こんなに硬くなってる」

「あなたのも、すごく硬くなってるよ。体内であたる!」

「ああ、なんて猥褻な体なんでしょう・・・もう・・・
ほら、あなたの先端から蜜が零れていますよ」

 根元から扱きながら、先端の濡れた部分を指で撫でる。

「舐めて」

 淫靡な表情で囁かれ、グリマはその蜜を指ですくって舐める。

「美味しいでしょう?」

「・・・・ええ、美味しいです」

「僕の、飲みたい?」

「飲みたいです」

「じゃあ、イかせてよ」

 激しく腰を揺り動かし、絶頂を誘う。

 ぎりぎりで動きを止め、レゴラスは身をかがめてグリマの耳元に唇を寄せた。

「あなたの声でイかせて。声を聞かせて。ねえ、あなたのボスは誰?」

 グリマの表情が、一瞬怪訝になる。レゴラスは気に止めることもなく、
首筋から耳にかけてを舐めた。

「ねえ、僕をイかせて。もう、出そうだよ。あなたのその唇で、僕の名前を呼んで」

 また少し、腰を動かしてから、止める。

「レゴラス殿・・・・」

「呼び捨てて」

「レゴラス」

「そう、いいよ。もっと言って!」

 途中で動きを止められることが耐えられないように、グリマがもぞもぞと体を揺する。

「あん、だめ、もう出ちゃう」

 恍惚の笑みでグリマを見下ろし、また呟く。

「あなたの声で僕をイかせて。ボスの名前を教えて。お願い、もう耐えられない!」

 ぎゅっと締めつけながら腰を浮かす。グリマは、無意識にその名を口にしていた。
そのとたん、レゴラスがまた腰を沈める。

「グリマ、出して! 僕の中で、出して!」

 自分で自分のそこを扱きながら、激しく腰を打ちつける。
と、グリマは小さくうめいて終りを告げた。
その後を追うように、レゴラスも彼の腹の上に欲情を吐きだす。

 余韻を楽しむ間もなく、レゴラスはすぐにグリマのそれを引きぬいた。
そのかわり、自分が出した液体を、指に乗せてグリマの唇に押し当てる。

「ほらね、美味しいでしょう?」

 今度はグリマの手を取り、同じように指に付けて口に持っていかせる。

「堪能しててね。シャワーを浴びてくる」

 微笑を残して、レゴラスはバスルームへ向った。

 

 

 

 シャワーのノブをいっぱいにひねり、音を消してからトイレにかがみこんで、
胃の中のものを全部吐いた。

 吐くものがなくなっても、いつまでも胃が痙攣をしている。

 できるだけ深呼吸をして、肉体の拒絶反応を落ちつかせる。

 唇がわなわなと震え、涙が溢れてくる。

「・・・・・エルロンド様・・・会いたいよ・・・・今すぐ・・・・」

 自分を慰めるように小さな声で呟き、頭を振って熱いシャワーを全身に浴びた。

 まだ、だ。まだ泣いちゃだめだ。

 

 

 

 バスルームから出ると、グリマは起き上がっていた。

「約束どおり、これはもらうよ」

 テーブルに投げ出されたままの資料と写真を、自分のブリーフケースにしまいこむ。

「シャワー、浴びないの?」

「あなたの余韻を消すなど、もったいない」

 吐気がするような言葉に、唇で笑って見せる。
それから、脱捨てた服を着込んで、身支度を整えた。

「もうお帰りになるのですか?」

「一度きりだ、と、言ったでしょう」

 きっぱりと念を押す。グリマは諦めたように溜息をついた。

「下まで送りましょう」

 

 

 

 グリマは自分の車で送ると言い、地下の駐車場に下りていった。

 先を歩く男の、数メートル後をついて行く。

 間違っても、二度と触れたくはない。

 

 人気のない、薄暗い真夜中の駐車場。

 グリマは気配に足を止めた。

 柱の影から現れた手が、グリマの側頭部に銃口を押し当てる。

「私のことを、ずいぶんと探っていたようだが」

 低い、その声の主を、グリマは横目で見た。
人を殺すことを、何とも思わない冷たい視線。

「無用な詮索は、命を縮める」

 指が引金にかかっても、グリマは身動きしなかった。
その寸前、サイレンサー付きの銃の先端を、白い指が掴んだ。

 グロールフィンデルが、その指の主を見下ろす。

 レゴラスは、厳しい表情のまま首を横に振った。そして、銃を下に下させる。

 銃を掴んだまま、グリマに振り返り、商業的な笑みを作る。

「ここまで出けっこうです、グリマさん。
グロールフィンデルさんに送ってもらいますから」

「そうですか」

 グリマもまた、あの人を騙す笑みになる。

「お気をつけてお帰りください。契約の件、よいお返事を期待しております」

「ええ、こちらこそ。こちらの善意に応えてくださることを期待しております」

 グリマは軽く頭をさげ、背を向けた。
去っていく後姿に、グロールフィンデルは銃を持ち上げようと力を入れ、
それ以上の力でレゴラスに抑え込まれる。
グリマが重い扉の向うに消えた後、レゴラスは笑みを消してグロールフィンデルを見上げた。

「あなたの手を汚すことを、エルロンド様は望まれません」

 そして手を離し、にっこりと笑って見せる。

「送ってください。エルロンド様に、今すぐ会いたい」

 

 

 

 エルロンドの社長室に入ると、レゴラスはその机の上にブリーフケースを置き、
中から資料を出して広げた。

 エルロンドの目は、冷たくその資料に注がれる。

「どこでそれを?」

 レゴラスの後に控えていたグロールフィンデルも、
その一枚を取りあげて、珍しく口元をゆがめた。
笑っているようにも、怒っているようにも見える。

「懐かしい写真だ」

 その手から、エルロンドは写真を取り上げた。

「グリマは最近うちと取引のある金の輸入代行業者です。
国内に根は張っておらず、その後ろ盾はローハン王家です」

「噂は聞いている。ローハン国王に取入っている男がいるという話は。
ガンダルフが警戒をしていた」

「彼が僕に提示したものです」

「こんなものを、なぜ今更お前に?」

 過去の派閥の確執を、レゴラスに見せたところで、
憎しみを駆りたてられるようなことはない。レゴラスは、僅かに唇を振わせた。

「公表されたくなければ、・・・・・・僕に・・・・」

 言葉が詰り、レゴラスは急にうずくまった。

 また、吐気に襲われる。

 椅子から立ちあがったエルロンドが、レゴラスの肩を抱く。
レゴラスはエルロンドの腕を掴み、わななく唇で笑って見せる。

「大丈夫です・・・・。もう、吐くものなんか、何も残っていませんから」

 口を開いてしまうと、押えが利かなくなる。
涙が溢れてきて、我慢していたものを全て吐きだすように、
レゴラスはエルロンドにすがって泣き出した。

 

 ソファーの上で、怯える子猫を抱くようにエルロンドはレゴラスをその膝に乗せ、
頭を胸にもたせかけた。

「事情はわかった」

 二人の正面に、グロールフィンデルは立っている。その瞳の色は、冷たい。

「申しわけありません。私がもっと早くに気付くべきでした」

「いや」

 エルロンドは、レゴラスの髪を撫でながら、落胆した表情を見せる。

「たぶん、お前ではその男の主の名前は聞き出せなかっただろう」

 いつも何を考えているのかわからない、グロールフィンデルの瞳が、
少しの温かみを帯びてレゴラスを見下ろす。

「・・・・そうですね。レゴラスに止められなければ、私はあの男を殺していました」

 泣き濡れたレゴラスが、瞳を上げる。

「ギル=ガラドが抹殺した情報なら、そう簡単に手に入るわけがありません。
エルロンド様を強請ることもできるような資料を、
僕を抱くためだけに個人で調べたとも思いにくいです。
だったら、グリマを操っている者が絶対いるはずだと」

「そのとおりだ」

 思い出して、また涙を溢れさせるレゴラスの頭を抱いて頬を寄せる。

「サルマン、か。厄介な男が出てきた」

 エルロンドは呟いた。

「グロールフィンデル、グリマという男の周囲を洗い直せ。
それから、ガンダルフに連絡を。早急にだ。スランドゥイルにも警告を出した方がいい。
レゴラス、自分で告げるか? お前をこんな目に合せたのは私の責任でもある。
私も謝罪に行こう」

 かすかに微笑んで、首を横に振る。

「大丈夫です。でも・・・・何をされたかは、父には言わないでください。絶対に」

 その気丈さには、頭が下がる。

「わかった」

 エルロンドは、レゴラスのプライドを尊重した。

「ご自宅まで送ります。お休みになってください」

「いや、自分の車で」

 エルロンドは否定しかけて、秘書の言いたかったことを察した。

「今は、一秒でも離れたくはないでしょうから」

 しがみついてくるレゴラスを抱き返しながら、
エルロンドは素直に秘書の申出を受入れた。

 

 屋敷で二人を下す時、グロールフィンデルはレゴラスに、苦い笑みを作った。

「ありがとう、止めてくれて」

 初めて聞く、感謝の言葉。レゴラスは目を細めた。

「グロールフィンデルさん、僕はあなたが好きです。『今のあなた』が」

 エルロンドはレゴラスを抱かかえたまま、屋敷に入っていった。