手に入れたかったのは、非合法ドラッグのサンプルだった。 それを、街のチンピラがマフィアに手渡す前に奪ってガンダルフに渡すのが、仕事だった。 ガンダルフがアラゴルンに頼んだ、些細な仕事で、 レゴラスが手を貸す必要もないことはわかっていた。 「チンピラといえど、廃墟に引きこもった二十人からを相手にするのは、ちょっと面倒だ」 その日は仕事も入っていなかったし、 「手伝ってあげるよ」 と、レゴラスは軽く引きうけた。 「相手はプロじゃないんだから、殺すなよ」 そう念を押されて、笑う。 「殺さない程度に、ね」 一発で足か腕を狙えば、そう弾数もいらない。 レゴラスがチンピラどもを蹴散らし、アラゴルンが首領を探す。 案の定その男は地下の一番深いところにいた。が、そいつはサンプルを持っていなかった。 仕方ない。レゴラスがそいつに銃口を向けて見張っている間、 アラゴルンはもう一度サンプルを探しに出た。 「残念でした」 ラリっているのか、その男は甲高い笑いをする。そして、べっと舌を出すと、 その上に小さなカプセルが乗っていた。 レゴラスが溜息をつく。相当な馬鹿だ、こいつ。 確めもしないアラゴルンも、相当間抜けだが。 「欲しいか?」 口の中にしまって、ニヤニヤする。 レゴラスは、とりあえずアラゴルンが帰ってくるのを待つことにした。 こういう馬鹿の相手は、あいつに任せよう。 「飲みこんじゃうぞー」 「勝手にしろ。あんたの腹を切り割いて取り出すだけだよ」 「このカプセルは、胃酸で溶けるんだよ」 馬鹿さ加減に、また溜息をつく。 まったく、ウチの馬鹿、早く帰ってこないかな・・・。 「お嬢ちゃんにあげてもいいよ」 お嬢ちゃん・・・? 男か女か、見分けがつかないわけではあるまい。 レゴラスを侮蔑しているのだ。視界に男を入れたまま、そっぽを向いて無視をする。 相手にしないほうがいい。 「お嬢ちゃん、その可愛いお口でしゃぶっておくれよ。そしたら、カプセルをあげるよ」 小さく深呼吸をする。挑発に乗ってはダメだ。 「ほらほら、オレのこんなになっちゃったよ。こっち来て、扱いておくれよ。 その可愛いケツをこっち向けな。ぶっといのぶち込んでやるからさ。3分で天国行さ!」 言葉を頭から追いだせ。この男はラリっている。 「腰振って踊っておくれよ。お嬢ちゃん。オレのミルクを飲んでおくれ、 ミルク飲み人形ちゃん」 結んだ唇が、蒼白になる。 「かわいい、可愛いミルク飲み人形ちゃん」 心臓が、頭の中で鳴り響く。 「黙ってろ」 引金を引絞りそうになる指を、必至で留める。 「いっそこのカプセルを、お嬢ちゃんのおケツに入れてあげようか」 「・・・黙ってろ」 押し殺した言葉を搾り出す。男は狂ったような甲高い笑いをする。 「お嬢ちゃん! 可愛いお人形ちゃん!」 ふ、と力が抜けるのを感じて、レゴラスは男に向き直った。動悸が止る。 音が消える。周囲の何も、見えなくなる。銃を構えたまま、ゆっくりと歩み寄る。 「しゃぶってくれる気になったかい?」 レゴラスは、引きつるように笑った。 「上等だ。天国に行かせてやるよ」 銃口を、男の額にぴたりとあわせる。 (やめろ!) スローな時間の中、無意識に指先が動く。 「やめろ、レゴラス!!」 何か強い力が、レゴラスの腕を跳ね上げた。 銃声が響いて、コンクリの天井に、穴があいた。 息を飲んだ男が、カプセルを飲みこむ。レゴラスはすかさず男の腹を蹴り上げた。 腹と股間を何度も蹴ると、男は胃の中のものを全て吐き出した。 「そんな汚いの、僕は拾いたくないからね」 銃をジャケットの内側にしまいながら、レゴラスは言い捨てて部屋を出て行った。 自分も吐き出したくなるのを必死で我慢しながら廃墟を出ると、 レゴラスは狭い路地をふらふらと歩いていた。追いかけていって、肩を掴む。 「送るぞ」 レゴラスは鋭い勢いで、アラゴルンの手を振り払った。 「触るな!」 冷たい瞳の色が、アラゴルンを刺す。 いつか見た目の色。出会って間のない頃、レゴラスは触られるのを極端に嫌っていた。 あの時の目だ。 「レゴラス?」 目の前にいるのが誰なのかもわからないように、少年は飛退く。 「・・・すまない。触らないから・・・とにかく車に乗れよ。 エルロンドの家まで送るから」 できるだけ優しい口調で言うと、レゴラスはほんの少しだけ表情を緩めた。 いつもの軽口もなく、助手席で小さくなって窓の外を見つめている。 そんな姿に、アラゴルンはかける言葉もない。 エルロンドの屋敷に車を乗りつけ、先に降りると、エルラダンが迎えに出てきた。 「ご苦労さん」 いつものようにニッと笑って、助手席のレゴラスを見る。 「・・・・どうした?」 アラゴルンは苦笑いをした。 その後からエルロンドが現れて、助手席のドアを開ける。 レゴラスはのろのろと車から降りた。 「チンピラが・・・その、こいつに卑猥なことを言って挑発したんだ」 アラゴルンの言葉に、エルロンドも顔をしかめる。 そして、そっと片手をレゴラスの方に出した。 「おかえり」 それだけを言う。エルロンドをじっと見上げていたレゴラスは、そっとその手を取った。 「俺は、ガンダルフと会う約束をしているから」 そうは言っても、心残りそうにレゴラスを見る。エルロンドは小さく頷いた。 「よろしく言ってくれ」 エルロンドはレゴラスの手を引いて、屋敷に入っていった。 エルラダンはキッチンにいた片割に、事情を耳打する。 二人がそろってエルロンドの様子をうかがうと、 エルロンドは心配ないというように目配せした。 そして、レゴラスの手を引いて、寝室へ向った。