過去拍手お礼小説
<指輪物語>



     ゴンドリン編

 

 ふと、グロールフィンデルは目を覚ました。

(誰かが、歌っている)

 ベッドを降り、中庭に通じるバルコニーに出ると、そこに銀色の月が落ちていた。

「エクセリオン」

 名前を呟くと、月光を浴びたそれが、ゆっくりと振向く。

「眠れないのか?」

「いえ、そういうわけでは」

 手招くように、エクセリオンは片手を出す。
グロールフィンデルは、彼のそばに行き、その手を取った。

「月が、きれいだ」

「はい」

 そう応えながら、銀色の髪の持主を見つめる。

 この人は、月だ。

 夜を照らす、清純な光。

 先ほど聞えた歌声は、夜の静寂が彼を賛美している声、だったのか。

「どうした?」

 微笑で見下ろされ、グロールフィンデルは俯いた。

「私など・・・・あなたの足元にも及ばない、と」

 彼の美しさ、完璧なまでの強さ。

「それは困った」

 エクセリオンは戯れのように微笑む。

「キミには、私の横に並んでもらわないと困る」

「無理です、私には・・・・・」

 あなたの完璧さの前では、誰もが平伏してしまう。

「無理、できない、そんな言葉は嫌いだと教えたはずだが」

「はい。それでも」

 エクセリオンは、グロールフィンデルの細い顎を撫で、
指で上を向かせ、その唇に触れる。

「もっと、自信を持ちなさい。
グロールフィンデル、私の隣に立つのは、キミだけなのだから」

 唇が触れ合い、グロールフィンデルはその冷たい吐息を感じる。

「愛しているよ」

 囁かれ、グロールフィンデルは瞳を閉じた。

 愛しています。あなただけを。

 この命が尽きるまで。

 いいえ、たとえ世界が終ろうとも。

 

 聖なる夜。

 あなたのために強くなる。

 そう、誓う。

 

 

 

     闇森親子(馬鹿話バージョン)編

 

「メリー・クリスマス! パパ!」

 会社の連中との宴会を抜け出し、
自宅でのんびりワインを飲んでいたスランドゥイルの元に、騒音の元凶がやってくる。

「うわ、なんだ? お前、今日はどこぞのパーティーだとかぬかしていたではないか!」

「えー? パーティーもいいけど、やっぱり今日はみんなにプレゼントを配らないと」

 ニコニコのレゴラスは、なぜかサンタのコスプレ中。

「はいこれ〜! 僕が独自ルートで仕入れてみました!」

 手のひらに乗るほどの包み。
開けてみると、そこには美しくカッティングされたエメラルドの裸石が。

「すごいな! どこの販売ルートだ?」

「ナイショ」

「・・・・・・エルロンド経由、だな?」

「アタリ〜」

 がっくりと肩を落すスランドゥイル。ああ、さすがに世界のエルロンドだよ。
ムカツク。

「で、これが正真正銘、僕だけからのプレゼント」

「あ?」

 顔をしかめる父親に、レゴラスはぎゅ―っと抱きつき、額と頬と唇にキスをした。

「キスをする相手が間違っているんじゃないか?」

「間違ってないよ。これは、世界一愛しているパパに」

 嬉しそうにニコニコ笑って、もう一度唇にキスをする。

「ああ、わかったわかった。ほら、旦那の所に帰れ」

 仕方なさそうに突放すと、レゴラスはベッと舌を出し、悪びれもせず笑った。

「うん。じゃ、帰るね」

 ひらひら手を振って出て行く。

 はあ、とスランドゥイルが溜息をつくと、レゴラスはもう一度ドアから顔をのぞかせた。

「パパの恋人にも、メリー・クリスマス!」

 スランドゥイルは無言でクッションを投げつけ、
レゴラスはケラケラ笑いながら、今度こそ本当に出て行った。

「・・・・ったく、馬鹿息子が」

 レゴラスのバイク音が遠く消えると、スランドゥイルは自分の寝室に上った。

「そのエメラルドは、私が手配した」

「そうだろうよ」 

 寝室でくつろいでいた男が、にやりと笑う。

 この男、スランドゥイルの好きなワインとオードブルをたっぷり持って現れた。

「じゃ、わしからのプレゼントだな」

 スランドゥイルは腰に手を当て、ふんぞり返ると、その男の唇にキスをする。

 とたん、その男に抱取られ、ベッドに転がされる。

「プレゼント、なのだろう?」

「やっぱ、やめようかな」

 

 世界中の恋人達に。

 

 メリー・クリスマス。  





     馬鹿話(アラゴルン編)

 

「普通、正月っから仕事なんかしないよな」

 社長室のデスクの前で、アラゴルン社長は小学生のように駄々をこねていた。

「仕方がありません。仕事が押しているのですから」

 そんなワガママ社長に付合うボロミアは、なんとなく不機嫌。

(いいから仕事しろよ)

 と、一言言えたらさっぱりするのに。それができない真面目人間。

「一週間、休みくれたら、こんなの徹夜で終らせてやるから」

「正月休み明けには、これは終らせておかなければならないのです」

「クリスマスも仕事してたんだぞ?」

「ハロウィーンにはお休みを取りましたね?」

「何ヶ月前の話だ〜〜!」

 放浪時代が懐かしい。
こんなハードな社長業、エルロンドはよくできるものだと感心してしまう。
あいつ、ゼッタイ人間じゃねぇ!

「帰りたい〜〜〜」

 だから、そうやって愚痴を言ってる間にやってしまえよ。

 ボロミアもピリピリ。

「とにかく、その書類を全部読んで、サインをしてください!」

 デスクの上の、山盛の紙束。

 これ以上愚痴に付合っていられない、と、ボロミアは秘書室に去っていった。 

大げさに派手な溜息をついて、やっとアラゴルンが万年筆を手にしたとき、
勢いよく社長室のドアが開いた。

「やほー! ハッピーニューイヤー! アラゴルン」

 どこのパーティー帰りかと思われるイブニング姿のレゴラスが、にこやかに入ってくる。

「なんだ? 何しに来た?!」

「うわー! 機嫌悪!! せっかく新年の挨拶に来たのに!」

 クリスマスに正月、宝石屋はパーティー三昧だよ。

「正月も仕事の可哀相なアラゴルンさんに、陣中見舞だよ!」

 あー、ハイハイ。可哀相なアラゴルンさんは仕事ですよ。

 アラゴルンは、レゴラスに向け、手を「シッシッ」と振る。

「酷いなぁ。僕なら、ボロミア説得して、半日くらい休み作って上げられるんだけどな」

「本当か!?」

 デスクから身をのりだしたアラゴルン。

「うん。上手くいったら、焼肉、食べに連れて行ってくれる?」

「もちろん! 焼肉だろうとステーキだろうと!」

「チャイナタウンの韓国レストランだよ。あそこは、エルロンド様と一緒には行けないから」

 ニヤリ、と笑うと、レゴラスは携帯電話を取りだして、誰かに電話をし出した。

 レゴラスが電話を切って15分後。

「社長! 申しわけありませんが、今からちょっと出かけてきたいのですが」

 なんとも頬をゆるませたボロミアが駆込んでくる。

「ほう? どうしたのかな?」

「弟が・・・・弟の嫁さんが、どうやら身篭ったらしいのです。それで、お祝いにと」

「それはめでたい! 是非行ってやってくれ。仕事のことは、心配するな」

「ありがとうございます!」

 そそくさと出て行くボロミア。

 アラゴルンはレゴラスを見た。

「どんな魔法を使ったんだ?」

「別に。
僕はただ、ボロミアの弟、ファラミアに『ボロミア兄さんは最近過労気味だから、
何か理由をつけて休ませてやって』と言っただけだよ。ああ、美しきかな兄弟愛!」

 ファラミアも知り合いになっていたのか。恐るべし、宝石屋。

「じゃ、焼肉食べに行こ! もちろん、アラゴルンのおごりでね!」

 そんなわけで、アラゴルンはお正月休みが取れたのでした。