「エルフとは、皆ああなのですか?」

戦いに勝利した朝、エオメルの視線の先を、アラゴルンは見た。

 そこには、石の塀の上に立つエルフがいる。今は静かになった、戦場を眺めている。

「ああ、と言うと?」

 アラゴルンの言葉に、賞賛の瞳を向ける。

「強く、気高く・・・美しい」

「・・・・」

 アラゴルンは、もう一度レゴラスを見た。
たしかに、彼は強く、気高く、美しい・・・かもしれない。

 素直に肯定してよいものか、迷っていると、当のエルフが二人の男に振向き、
軽やかな身のこなしで塀を飛びおり、そして駆けて来た。

「アラゴルン!」

 その瞳は、朝日にきらきらと輝いている。
僅かに頬が高潮し、興奮していることを物語っていた。
それは、なんともいえない色香を漂わせていた。

「アラゴルン! やっぱり、あの森、ヘンだよ! 動くよ! 
ねえ、見に行こうよ! 見に行こうよ!」

 子供のようにアラゴルンの袖口をひっぱる。

「レゴラス、後にしないか。今はそんなことをやっている時ではない」

 たしなめられて、唇を尖らせる。でもすぐに、また瞳を輝かせて、
両手のひらをぽんと叩いた。

「ギムリにも教えてあげなくちゃ!」

 嬉々として去ってゆく後姿に、アラゴルンが叫ぶ。

「ギムリは興味ないと思うぞ!」

 アラゴルンの言葉を無視してレゴラスが去ってしまうと、
呆然としているエオメルに、アラゴルンは向き直った。

「安心しろ。あれは特別だ。普通のエルフは、強くて気高くて美しい」

 

 

 

 

 勝利を祝して、ささやかな宴会が催されていた。

 ありったけのワインと食料が並べられている。

 レゴラスは宴の輪には入らず、少し離れたところでそれを眺めている。

 エオメルは、ワインのグラスを持って、そのエルフのもとを訪れた。

「宴は、お嫌いですか?」

「いいえ」

 レゴラスは曖昧に笑んで見せる。

「もしお嫌でなければ、祝っていただけませんでしょうか」

 差出されたグラスを、レゴラスは素直に受取った。

 それを見ていたアラゴルンが飛んでくる。

「・・・エオメル、レゴラスにワインを勧めたのか・・・?」

 エオメルは少し驚き、戸惑いの表情を見せる。

「何か、失礼にあたるのでしょうか?」

「いや違う。っていうか・・・・」

 アラゴルンがフォローする前に、レゴラスはワインを一口飲んで豪快に顔をゆがめた。

「なにこれ? 粗悪品もいいとこじゃない! 水みたいに薄いし!」

 慌ててアラゴルンがレゴラスの口を片手で覆った。

「我慢しろ、レゴラス。ここではこれが精一杯なのだ。祝いの雰囲気を台無しにするな」

 きょろきょろと周囲を見回し、呆然としているエオメル以外
誰も失言に気付いていないのを確認する。
レゴラスも、アラゴルンにたしなめられて、声のトーンを落す。

「まったく。僕の森から上等なのを2,3ダース持ってこさせるよ。
こんなのワインじゃないって」

「そういうことは、すべての戦いが終ってからにしてくれ。
もう、おとなしく不思議な森でも眺めてろ」

 ムッとしていたレゴラスは、『不思議な森』という言葉にまた瞳を輝かせた。

「うん。そうする」

 そして、にこやかに去っていった。

 取り残されたエオメルは、真白になってる。アラゴルンはその耳元で指を鳴らした。

「すまない。奴の親父はエルフの中でも有名な宴会好きな王でな。
奴もワインに関しては滅茶苦茶うるさいんだ」

 目をぱちくりさせながら、やっとエオメルが正気に返る。

「はあ・・・そうなんですか・・・」

「・・・レゴラスも黙っていれば美人なんだが、
ひとたび口を開くと手におえなくなるから。いや、驚かせてすまなかった」

 エルフを(というか、レゴラスを)どう解釈していいかわからず、
エオメルは困惑した顔でアラゴルンを見つめた。

「アラゴルン殿は・・・扱いが慣れていらっしゃるようですね」

「まあ、付合いが長いから」

 アラゴルンはぼりぼりと頭を掻いた。

 数秒後、エオメルはため息をついた。

(やっぱりアラゴルンはすごい男だ)