バルドさんとスラ王のくだらない話。 時代背景的な小物は無視。 レゴラスは、王宮の外にある郵便受けから (ホビットに郵便が届くんだから、 エルフに郵便が届いてもいいじゃない? 届けるヒトがいれば) 山盛りの手紙を持って、王の執務室にやって来た。 「父上、手紙」 ニコニコと机の上に手紙の山を置く。 スランドゥイルは、それを一つずつ手にとって確かめた。 「エスガロスから、通行料を半分にしてくれ?………却下」 手元の便箋に、大きく「却下」と書いて、 そばに控えている執務官に投げ渡す。 「あ〜、これも通行料だな? だめだっつうの」 ほとんどが近隣の人間たちから、 闇森の通行料をなくしてくれとか、 少なくしてくれとか、そんなモノだ。 「街道はクモが大量に出没して困ります。 通行料を安くしてください…? うぬ、クモ退治はしてやる。通行料はそのまま」 便箋に殴り書きして、執務官に押し付ける。 「レゴラス」 「クモ退治ね? 了解〜! お昼食べたら行って来ます」 にっこり敬礼。 そこに、警備兵が来客を告げにやって来た。 「谷間の国のバルド王です」 スランドゥイルの眉間にしわが寄る。 そして、案の定 「スランドゥイル王! 我が愛しのエルフ王よ!」 ミュージカルばりにど派手なアクションで入ってきた男に、 護衛隊長とレゴラスの矢先が向く。まさに矢先。じりじりとこめかみに殺気。 「我が王をそのように軽率に呼び賜うな!」 護衛隊長の額に、青筋。 とりあえず、先に矢をしまったレゴラスが護衛隊長をなだめてみる。 「まあまあ、タウリエル、実害はないから」 この護衛隊長なら、殺りかねない。なにせ、王大好きゆえに護衛隊長になった者だ。 「で、バルド、何用だ?」 「いえね、物資を運ぶための通行料を、少しまけてもらえないかと思いまして」 飄々としたこの男、実はドラゴンを倒した英雄。 「却下」 ふん、とスランドゥイルはソッポを向く。 「そんなツンデレも愛しい」 バルドの言葉に、また殺気。 「レゴラス、大丈夫だから、護衛隊長を部屋の外に連れて行け。 いちいちこの馬鹿王の言葉を気にしていたら、何もできん」 スランドゥイルは慣れている。 レゴラスは、殺気立つ護衛隊長を引きずって出て行った。 それを見送った後、バルドはスランドゥイルの前に椅子を持ってきて座った。 「あの娘には冗談も通じないね」 スランドゥイル、げんなり。 クソ真面目なエルフも、けっこういるのだ。 むしろ、レゴラスのような冗談の通じる融通の利く奴の方が珍しい。 スランドゥイルの執務官もクソ真面目な方で、無表情で王の指示を待っている。 「他国との交易は重要なんだ。私の国は、まだ若いから。 通行料を減額してもらえないかな。私とあなたのよしみで。 激しい一夜を共にした仲じゃないか」 ひくり、とスランドゥイルの頬が引きつる。 「それは、五軍の戦いのことを言っているのかな?」 「もちろん」 ぐい、とバルドは身を乗り出す。 「まけてくれないと、夜這いしますよ」 「おい、谷間の国の通行料を5パーセント減額してやれ」 執務官に指示を出す。執務官は「わかりました」とクリップボードにメモ書きをする。 「え〜? たった5パーセント?」 「十分だ。昼飯出してやるから、さっさと帰れ」 シッシッと手を振る。 バルドは素早くその手を取って口づけると、名残惜しそうに去っていった。 「スランドゥイル王はバルド王には寛容ですね」 一部始終を黙って見ていた執務官が、ぼそっと口に出す。 スランドゥイルは、ため息をつき、そして唇の端で笑って見せた。 「激しい一夜を共にした仲だからな」 *** とあるうららかな日。 警備兵がスランドゥイルの元に客を連れて来た。 「我が愛しのスランドゥイル王」 にっこりと両手を広げて入ってくる男、バルド。 そうしながらも、きょろきょろと辺りを見回す。 「あれ? いつもは殺気を感じるのに」 「ああ? タウリエルなら、別の仕事を言いつけておいた。 お前が来ると、いちいち殺気だって面倒だ」 なんかちょっと残念。ああいう真面目な娘は、からかうと面白い。 「ウチの護衛隊長にちょっかいを出すなよ?」 「ああいう気の強い娘も悪くはないけど、嫁にはちょっと。 嫁にするのは、やっぱりあなたしか」 ずかずかと近付いて、がしっと手を握る。 「で、何用だ?」 慣れているスランドゥイルは、慌てもしない。 「あなたに贈り物を持ってきました」 仰々しく、バルドは小さな金色の箱を取り出して、蓋を開けて見せた。 そこには、大ぶりのエメラルドの指輪が。 スランドゥイルの目が、キランと輝く。 「先日、エレボールに行ったら、 地下からエメラルドが見つかったといってくれたのですよ。 ですので、これをあなたに」 「つまり、こればダインからの贈り物だな?」 「いいえ。私からの贈り物です!」 わ・た・し・か・ら・の! 言葉を強調して、スランドゥイルの手を取り、その指に指輪をはめる。 「ちょっと待った!!」 そこに飛び込んできたのは、レゴラス。 「父上! それを受け取るなら、当然これも受け取るんでしょうね?!」 レゴラスは両手で宝箱を抱えて入ってきた。 それを父とバルドの間に置き、蓋を開ける。 そこには、まばゆい宝飾品が。 「………これは?」 目を丸くしたバルドが訊ねる。 レゴラスは、腰に手を当て、勝ち誇ったような笑みを見せた。 「イムラドリスのエルロンド卿、ロスロリアンのケレボルン王、 灰色港のキアダン殿……その他諸々からの貢物」 ああまた面倒なものを持ち出して、とスランドゥイルはうんざり。 「キアダン殿の贈り物の申し出はすごかった。船作ってやるから一族連れて来いって」 「レゴラス、余計な事は言わんでいい」 「でも父上…」 護衛隊長より、諸事情に詳しい息子の方が、面倒だったり。 スランドゥイルはエメラルドの指輪を外すと、 その数々の宝飾品の箱に、ぽいと投げ入れた。 すかさずレゴラスは蓋を閉じる。 「ええ?! そういう扱い?!」 抗議するバルド。 「バルド王、贈り物は、もっと選ばないと」 にっこり笑ったレゴラスは、宝箱を持って出て行った。 さしずめ、あの宝箱はレゴラスの宝箱なのかもしれない。 「……ホビットからの贈り物は受け取ったくせに」 ボソッとバルド。あの場にいなかったのだから、バラしたのは大方レゴラスだろう。 「ホビットは純粋で下心がなかったからな」 ビルボのことを話すときのスランドゥイルは、非常に優しげな表情になる。 「そんなツンデレなところも愛しい」 で、その数日後。 「スランドゥイル王! 贈り物を持って来た!」 懲りもしないバルド王。 「貴様! また来たか!!」 今日は在席していた護衛隊長に矢を向けられる。 「まあまあ、これを見てくれないか」 忘れてはいけない。バルド、スマウグを射止めた英雄なのだ。 護衛隊長に矢を向けられても、ちっともビビらない。 そのバルドが本日持参したのは、 「ドルウィニョン産高級ワイン!」 の樽、一ダース! スランドゥイルの表情が、ぱあっと輝く。 そうそう、その嬉しそうな顔が見たいのだよ! バルド王、ご満悦。 「受け取ってもらえますかな?」 「当たり前だ! 愛しているぞ、バルド! 宴の仕度をしろ!!」 そういうこと、簡単に言うから困った事になるんじゃないか。 そばで見ていたレゴラスは、あきらめのため息をついた。 美味そうにワインを飲むスランドィルの隣で、バルドもニコニコ。 気持ちよく酔っ払うスランドゥイル王に、そろそろ言い寄ってもいいかな、 なんてよこしまな事を考え、じりじりとにじり寄って行く。 それに気づいたスランドゥイルは、酔って空ろな目でバルドを見る。 (イケル!) 抱きつこうとした瞬間、 「レゴラス!」 ひょいと体をひるがえしたスランドゥイルは、息子を大声で呼んだ。 「は〜い」 決して泥酔はしていないレゴラスが、ひょこひょこ現れる。 スランドゥイルは、息子をガバッと抱きかかえると、その場に押し倒し、ちゅう。 「………」 呆然とするバルドの目の前で、その間、たっぷり10秒ほど。 「………」 がばっと体を起こしたスランドゥイルは、盛大にニヤリと笑う。 周囲のエルフたちは、 「始まった! 始まったぞぉ!」 と、大はしゃぎの様子。 「貴様ら全員キスしてやる!」 頭真っ白のバルドをよそに、 スランドゥイルは宴会参加者のエルフたちを追いかけ始める。 そして、一人ずつ捕まえてはキスしていく。 「父上は泥酔すると、キス魔になるんだよ」 ぺろりと唇をなめながら、レゴラスが起き上がる。 「はい〜?」 「知らなかった? そうだよねぇ。客の前じゃ絶対泥酔しないんだけど。 きっど、バルドは特別なんだね」 にっと笑う。 「みんな、慣れてるし。王がハメ外すの滅多にないから、みんな喜んでるし」 そう言われて見回せば、確かに楽しそうだ。 なんて陽気な連中なんだ…。 運悪く(?)次に捕まったのは、生真面目な護衛隊長。 「父上〜! それはダメですよ〜!」 純真初心な護衛隊長に抱きつく王に、一応レゴラスが声をかけておく。 護衛隊長は顔を真っ赤にして、身動き取れない。 と、スランドゥイルはその額に、軽くキス。 それだけで護衛隊長は頭から湯気を出してダウン。 王はまた次の獲物を狙っている。 面白おかしそうにけらけら笑いながら、レゴラスはグラスのワインを飲んでいる。 「父上〜! 一人忘れてますよ〜! ワインくれたヒト」 くるりと振り向いたスランドゥイルに、レゴラスは隣のバルドを指差した。 「な…?」 引きつるバルドに、スランドゥイルはずかずかと歩み寄り、鼻先一ミリまで近づける。 さすがにこれは… ごくりと息を飲むバルドに、スランドゥイルはニヤリと笑いかけ、そのままばったりと倒れた。 「はい、時間切れ」 ニヤニヤ笑うレゴラス。 「終ったか? 終ったか?」 エルフたちがざわめく。ホッとしているのか、残念がっているのか。 気持ちよさそうに眠るスランドゥイルを、レゴラスはひょいと抱き上げた。もちろん、お姫様抱っこ。 「じゃ、父上を寝かしつけてきますね。みなさん、後は適当に」 「おやすみなさい、王子」 「おやすみなさい」 いったい何がどうなっているやら。バルドはただ呆然とするしかなかった。 こうして、今日も闇の森の夜は更けていく。