祭りの前日。

 警備隊は集められた。
警備の配置を説明するエクセリオンの後に、グロールフィンデルは立っていた。

「もし奴らが襲撃してくるとすれば、祭りの前夜で浮き足立っている今夜、だ。
心して警備してくれ。夜明けまで。
・・・・・では各自一旦戻り、食事と睡眠をとった後、午後3時に再び集合。解散」

 隊を解散させた後、エクセリオンはグロールフィンデルに振向いた。

「君も館に戻り、休息をとりなさい。君は隊に配属はされていない。
だが、前にも言ったとおり、単独で行動してもらう。
君にはトゥアゴン殿の屋敷で襲名式の準備をしていてもらおうと思っていたが・・・・
状況は緊迫している。すまないが、次の命令が下されるまで街の中を巡回して欲しい。
何かあったとき、君は住民の避難を最優先させること。その時は、君にその権限を与える。
私の隊の者は、君の指示に従う。いいね?」

 グロールフィンデルは、無言で肯いた。

 

 

 

 自分の屋敷に戻り、軽い食事をとる。

 グロールフィンデルの武器は、直前にエクセリオンが手渡してくれることになっていた。
グロールフィンデルが武器を携帯することを、
エクセリオンはぎりぎりまで迷っていたせいであった。

 仮眠を取ることはせず、エクセリオンの屋敷に向う。

 メイドに出迎えられ中に入ると、まるで我が家に帰ってきたような懐かしさに包まれる。

「エクセリオン様はお部屋です。お食事もお部屋でなさるとか」

 相変わらずにこやかなメイドに微笑み返し
、グロールフィンデルはエクセリオンの部屋に向った。

 ノックをして返事を待ち、中に入る。

 テーブルの上には、手のつけられていない食事のトレー。

 エクセリオンはベッドサイドに座り、じっと床を見つめていた。

「・・・・・食事を、取られないのですか?」

 険しい表情のエクセリオンに、そっと声をかける。

「胃に血液が集中すると、脳の働きが鈍くなる」

「しかし、栄養をとっておかないと、肉体の運動が持続しません」

 顔を上げたエクセリオンは、口元を吊り上げた。

「カロリーなら、ちゃんととったよ。果物を少しと、・・・・チョコレートをね」

 言いながらも、手元に置いてあったチョコレートを、一口かじる。

 それっぽっちで、緊迫の一夜を過すのか。

 

 それとも、緊張で何も食べられないのか。

 

 グロールフィンデルが、ゆっくりと歩み寄る。エクセリオンは時計に視線を走らせた。

「あと・・・・2時間か」

 ひとりごちて、目の前に立つグロールフィンデルの腕を引っ張る。
体勢を崩したグロールフィンデルは、エクセリオンに抱きとめられた。

「・・・・・・・」

 名前を呼ぼうとして、唇をふさがれる。

 

 甘い、チョコレートの味。

 

「ん・・・・・・」

 貪るように口の中を犯されて、息を殺す。

 

 甘い・・・・なんて甘い・・・・・

 

 舌を絡め、唾液を吸う。

 頭の中が空っぽになるような、

 

 キス

 

 お互いの身体を掻き抱き、夢中で唇を吸う。

 

 ずっと、ずっと、

 

 そうしていたい。

 

 唇が解放された時、グロールフィンデルは彼の名を呼んだ。

「愛しているよ」

 エクセリオンは囁き、そして、グロールフィンデルの唇を指でふさぐ。

「今はまだ、何も言わないでくれ。
君の答えがどうであろうと、私の心を乱すことには変りはない。
君が何か、一言でも言えば、私は冷静でいられなくなる」

 今、君を抱きたいのを必死で我慢しているのだから。

 グロールフィンデルは、開いた口を閉じ、わずかに目を細めた。

「・・・・・何か、もっと食べないと」

 そんなことを言って見せる。エクセリオンは、苦笑した。

「祭りの席では、腹いっぱい食べさせてもらうよ。君の豪華な衣装を肴にね」

 同じように、グロールフィンデルも苦笑する。

 

 そう。

 夜が開けたら、何か食事を作ってあげよう。

 

 貴方の好きなガナッシュのケーキも、料理長から教わってマスターしたんですよ。

 

「君も、チョコレート、食べるかい?」

 差し出されて、嫌そうに首を横に振る。
少し前のように、エクセリオンは悪戯を楽しむように自分の口に入れたチョコレートを、
グロールフィンデルの口の中に押し込んだ。

「一晩中、甘い味にうなされそう」

 エクセリオンは、笑って見せた。

 

 甘いのは、チョコレートではなく、貴方の唇。

 

「さあ、装備の点検だ」

 エクセリオンは、グロールフィンデル用に用意した銃器をベッドの上に並べた。

 ひとつひとつ説明し、弾を確める。
どれも、グロールフィンデルは訓練で使い慣れたものだった。
この屋敷で、訓練用に使っていたものだ。手に馴染んでいる。

「多くの種類はもてない。もし必要となった時は、敵から奪え」

 それもひとつの戦法だ。

「これは」

 エクセリオンは、サブマシンガンをグロールフィンデルに手渡した。

「イングラムM11。知ってのとおり、連射が早い分、反動も大きい。
君の力では接近戦にしか使えない。・・・・最後の手段だと思っておきなさい」

 グロールフィンデルは肯く。

「これの、余分弾はないからね」

 グロールフィンデルは肯いた。

 狙いを定めにくいマシンガンは、好きではなかった。
ハンドガンやライフルの方が扱いやすい。
グロールフィンデルの癖も、エクセリオンはよく理解している。
その上で、あえてサブマシンガンを持たせるのは・・・・・

 

 それだけ危うい戦況なのか

 

「30分、寝よう」

 銃器をベッドの脇に退け、エクセリオンはグロールフィンデルの体を抱いて横になった。

 

 身体を密着させて、無理にでも眠ろうと努力する。

 目を閉じると、彼の息がまるで自分のもののように感じられる。

 

 そうして二人は、

 しばしの眠りについた。

 

 

 

 誰かに起されなくても、きっかり30分で目が覚める。

 グロールフィンデルは銃器を装備した。

「祭りが、楽しみだ」

 警備隊長の衣装を調えながら、エクセリオンは微笑んだ。

「はい」

 答えて、グロールフィンデルは不安を押し込めた。

 

 

 

 

 

 夜明けを迎えたら

 

 胸のうちを告白しよう。

 

 

 どうか

 

 貴方の一部でいさせて欲しい

 

 と。

 

 

 愛している

 

 と。