祭りを一週間後に控え、グロールフィンデルは己の屋敷に帰る支度を済ませた。 このひと月、何度も屋敷に戻っては、襲名式用の衣装の採寸や仮縫いなどを済ませてきた。 急なことだったので、実際の出来上がりは式の前日になりそうだった。 最後の夜、グロールフィンデルはエクセリオンの衣装を見せてもらった。 式典用のものと、警備に当る時の指揮官用の制服。 どれも、白と銀で作られている。 警備の指揮を取る時の服でさえ、艶やかで派手だ。 「目立つだろう」 ニコニコとエクセリオンは笑う。 「誰が指揮官か、すぐにわかる」 「狙われやすいですね」 「そうだよ」 それは、よいことなのか? ただでさえ、彼は背が高く、長い銀色の髪が目を引く。 「君の指揮官服は、きっと金色だね。思いっきり目立つものを作らせよう」 グロールフィンデルは苦笑した。 それから、エクセリオンは、自分がしている指輪を見せる。 ゴンドリンの、トゥアゴンの紋章の入ったものだ。貴族の証。 「襲名式では、これと同じものがもらえるよ。貴族の宗主だけがつけている」 彼の手を取り、見慣れた指輪に見入る。 「その時は、私が君の指にはめてあげよう。結婚式の指輪交換みたいだろう?」 そんな言い方に、また苦笑する。 「それは・・・楽しみです」 笑って見せると、突然エクセリオンはグロールフィンデルを抱きすくめた。 「困ったことがあるんだ」 力強い腕の中で、戸惑いながらも 「何ですか?」 と尋ねる。 「・・・・・・君が、欲しい」 顔を上げて、彼を見上げる。 その瞳に、いつかのように自分が写っている。 「エクセリオン・・・?」 「金華家の跡取として君を紹介された時から・・・・私は、君が欲しいと思った。 私はね、恋愛とは無関係な生き方をしてきた。だから、その感情が理解できない。 わからないから、戸惑っているんだ」 言葉の意味が理解できないように、 不思議そうにグロールフィンデルはエクセリオンを見つめる。 「本当は、君がもっと大人になるまで、待とうと思ってた。 あと、2年か3年。だけど、待てそうもない」 唇が重ねられた時、グロールフィンデルは目を瞬いた。 初めての、不思議な感触。 温かくて、湿った、柔らかな・・・・・。 唇が離れたとき、やはりグロールフィンデルはエクセリオンを見つめたままでいた。 「君に、哀願はしない。今は、どうしても自分を押えたくないんだ。 後悔はしたくないから。そのかわり、後で君に跪いて許しを請おう」 「・・・・・何を・・・・?」 目を見開いたままでいるグロールフィンデルを、エクセリオンはベッドに引き倒した。 「エ・・・・・」 開いた唇を、唇でふさがれる。器用な指先が、服のボタンを外していく。 「あ・・・・・や・・・・・」 やめてください・・・・と、抵抗する手を抑え込まれる。 「君が欲しいんだ」 耳元で囁き、剥ぎ取った服をベッドの下に捨てる。 「ごめん」 何故か、悲しげな声で、彼は謝った。 何を謝っているのか、グロールフィンデルにはわからない。 エクセリオンは自分の中指をグロールフィンデルの唇に押し当て、 無理矢理口の中に差し入れる。噛み切る事だってできるのに・・・・ そうする代わりに、無意識に舌を這わせる。 口の中から指を抜き出すと、エクセリオンはグロールフィンデルの秘部にそれを押し当てた。 「!」 濡らされた指が、ゆっくりと潜っていく。 「・・・・・・あ」 口を開け、背をそらして喘ぐ。 その指は、身体の中でゆっくりと動く。刺激された部分が、ひくひくと痙攣する。 「・・・・・・・」 自分の体のことは、よく知っているつもりでいたのに・・・・。 指先が内壁を刺激すると、そのたび体が跳ね上がる。 「ここ・・・・ここが、いいんだね?」 囁かれた言葉の意味が、理解できない。 身体の中をまさぐられながら、彼の手が敏感な部分を包み込む。 「・・・だめ・・・・」 「ダメじゃない」 否定され、手のひらと指で刺激される。 「ここに、触れられるのも、初めてだね?」 何がなんだかわからないうちに、後と前の両方を刺激され、頭の中が真っ白になる。 「・・・・・あ、あ・・・・」 ぎゅっと目を閉じた瞬間、内側から沸き起こってきたものを吐き出す。 こんな感覚は、初めてだった。 頭の奥が、ガンガンする。 放心するグロールフィンデルを見下ろしながら、 エクセリオンは彼の放ったものを指ですくい、口に入れ舌で味わう。 「初めてかい? 生理的な成長が遅いんだね。私も・・・人のことは言えないが」 背を丸めて瞼にキスをすると、 目だけを動かしてグロールフィンデルはエクセリオンを見た。 「襲名式を終えると、大人として認められるんだ。一人の男として。結婚も許される。 決まった相手がいない場合、内密に性の処理用に誰でも好きな女性を抱けるんだよ。 貴族の特権でね。君が誰かと性的接触をするなんて、私は耐えられないよ。 私は、君の全てが欲しいんだ」 開いた唇が、何か言いた気に動く。 「・・・・私も、女性を抱いたのかと聞きたいのだろう? もちろん、抱いたよ。 女でも、男でも。でもそれは、人間の生存本能の解消でしかなかった。虚しいだけでね。 私は、そんな相手を必要としない。それが・・・・今になって・・・今更、 欲情というものを知ったよ。私は君に、性的衝動を感じる。 どうしようもないほど、欲情する。・・・・君が欲しい。君が、どう思おうと」 言葉の意味とは裏腹に、エクセリオンの瞳は悲しげに見える。 思考の整理がつかないまま、グロールフィンデルはうつ伏せにされ、 腰の下にクッションがあてがわれ、崩れ落ちないようにさせられる。 「?」 羞恥に身をよじろうとする前に、きつく押え込まれ、先ほど指で嬲られた部分を、 今度は舌で弄られる。 「・・・は、あ・・・あ」 腕をのばして、シーツを握り締める。 舌と指で解され、幾分やわらかくなったところを、今度は容量のある熱いもので貫かれる。 「・・・・!!」 声にならない悲鳴があがる。 どこか頭の中で、悲鳴などあげてはいけないと警告が鳴っている。 必死にシーツを引き寄せて、それを噛む。 「きついな。ごめん、痛いだろう?」 うなじをなぞられ、仰け反る。 「自分をセーブできないなんて、初めてだ・・・。私は、気持ちよくて狂ってしまいそうだよ」 膝はがくがくと振るえ、力が入らない。深く揺さぶられるたびに、身体が激しく揺れる。 まるで、不安定な操り人形のように。 「愛してるよ、グロールフィンデル」 「!・・・・」 強く突き上げられた時、自分の身体がぴくりと痙攣するのがわかった。 彼に体内を弄られ、また、果てたのだ。 ぐったりと脱力する。その身体を、エクセリオンは上向かせた。 グロールフィンデルは、ただうつろな瞳で天井を見上げている。 顔を寄せたエクセリオンは、唇を触れ合わせながら言った。 「君の中で、溶けてしまいそうだ・・・」 膝を抱えあげ、己の吐き出した液体が溢れるその場所に、また挿入する。 「あぁ・・・・」 いつのまにかシーツを吐き出し、紅く染まった唇が官能の息を漏らす。 さっきよりずっと、ぬるぬるとして痛みもなく、神経を刺激する。 「愛しているよ」 囁きながら貫く彼に、いつのまにか両手を絡ませて引き寄せる。 無意識のうちに、より深く、彼を求めていた。 「ん・・・ん、・・・・あ」 リズミカルな動きに、快楽の声が鼻を抜けて出る。 何も考えられなかった。 身体の反応に、順応する。 頭の中も、肉体も、どろどろに溶けてひとつになっていく。 浅く荒い息が重なり、心臓の鼓動がひとつの大きなうねるとなる。 激しくお互いを求め合いながら、 何度も何度も絶頂を迎えた。 意識と無意識の境目で、 体温を分かち合いながら、 いつしか眠りの底に落ちていった。 いつまでも、そうしていたかった。 一秒だって、離れたくはない。 だけど・・・・・ 朝日の中、エクセリオンは眠るグロールフィンデルの髪を撫でるのをやめ、 ベッドから起き出した。 グロールフィンデルが目を覚ましたとき、隣には誰もいなかった。 昨夜のことは、幻想だったのか? いや違う。 確かに、彼の熱が身体の中に残っている。 シャワーを浴びて身体を綺麗に洗い、服を着る。 エクセリオンの机の上に、メッセージが残されていた。 謝罪は、襲名式の後にする。 「謝罪・・・・」 その言葉は、痛かった。 リビングに下りていくと、メイドが朝食の用意をしてくれた。 「エクセリオンは・・・?」 「もうお出かけになりました。 グロールフィンデル様はお疲れですから、起さないようにと言いつけられまして」 そう・・・か。彼は忙しいのだ。 「グロールフィンデル様」 皿を運んできたメイドに声をかけられ、慌てて顔を上げる。 「お帰りになられてしまうのですね。寂しくなりますわ」 「近いのだから、きっと毎日でも顔を合わせられるよ」 そう言って笑って見せる。 メイドも、はにかむように微笑んだ。 「襲名式、私も楽しみにしております」 ふと、飾りのない自分の指を見る。 襲名式。 トゥアゴンに家紋の入った剣を手渡され、 ・・・エクセリオンが、この指にあれと同じ指輪をはめるのか・・・ 胸がどきどきする。 式が終わったら、自分は彼に何て告げよう。 返事など、もうわかっているのに。 ひとつになる運命を持っているのだから。 私たちは、 一つの命を分かつ生きものなのだから・・・・。