馬鹿な家族の話 1 親父の再婚 「再婚しようと思うのだが」 その男は、昼下りのお茶の時間に突然切りだした。 「さいこんーーー?」 彼の双子の息子は、声をそろえて叫んだ。 その男、名はエルロンド。 さる貿易会社の社長で有数の大富豪である。 妻に早いうちに先立たれ、 男手ひとつで二人の息子を育ててきた。 ちなみに娘もいるが、そちらは妻が他界した際、 妻方の祖母と親権争いで負けて、 そちらに取られてしまった。 勿論交流はあるが。 その息子たちも、来年は大学院を卒業して、 彼の右腕(否、両腕か?)として入社の予定であった。 「ま、いいんじゃないのか? 男やもめでここまでやってきたわけだし」 双子のひとり、エルラダンが言う。 「そうそう、財界のパーティーで連れがいないのも 寂しいしな」 双子のもうひとり、エルロヒアが続ける。 「で、相手は?」 双子が声をそろえる。 「うむ・・・先日のホテルのパーティーで お前らも会ってる」 二人は顔を見合わせた。 親父の御めがねにかなうような女がいたか? 「宝石商の御曹司、レゴラスだ」 双子がそろって崩れ落ちたことは言うまでもない。 気付のエスプレッソを飲みながら、 やっと話題を続ける。 「いや、いいんだ、親父の趣味は。問題なのは、 あの宝石オタクの偏屈オヤジをどうやって納得させたかだ」 「エルラダン、そこまで言ったら失礼だろう?」 「そうは思わないのか、エルロヒア?」 いや、そう思うけど・・・。片割が引きつる。 「原石輸入の東南アジアルートの確保で手を打った」 「そりゃあ政略結婚じゃないのか!」 気の合う二人が同時に叫ぶ。 「・・・と、言うのは表向き」 突然窓の外からの声に、一同は驚いて降り向いた。 美しい金髪の少年が、窓枠からにこやかに覗いている。 「レゴラス、ドアから入ってきなさい」 エルロンドにたしなめられても、 少年は無邪気に笑って見せるだけ。 窓のそばにいた双子が、少年をそこから引張り上げる。 「お前らも、窓を玄関にするな」 エルロンドは肩を落している。 「僕が父上を脅したんです。 承諾しなかったら家出するって」 双子は金髪の少年をまじまじと見つめた。 パーティーの時はちゃんとイブニングを着て、 宝石商の御曹司らしい威厳ある態度を取っていたのだが・・・。 ラフな姿に身を包んだ少年は、年齢よりずっと幼く見えた。 「と、いうわけで、今日からお世話になります。よろしく」 語尾にめいっぱいハートマークをつけて少年は微笑んだ。 オヤジ・・・ 息子よりずっと若い愛人をつくるのはやめてくれ。 双子は心の中で叫んだ。 2 魅力は何処に? 真夜中。 大学のレポートの合間に、 リビングで休憩を取っていたエルラダンの所に、 同じように休憩を取りに降りてきたエルロヒアが加わる。 「親父も若いな」 「なんで?」 「さっき親父の部屋の前を通ったら、声が聞えた」 ニヤニヤしながら立上る片割の服のすそを エルロヒアは掴んだ。 「覗きに行くな」 チェッと舌打ちしてエルラダンはまた座った。 「しかし、親父もあんな子供のどこが 気に入ったんだか・・・?」 「やっぱ、アレ、夜の生活じゃないのか?」 にやりと笑うエルラダン。 「お前が赤くなるな」 エルロヒアのほうが、どうやら純情らしい。 「っつうか、魅力はあると思うぞ。なにしろあの顔だし。 それに、パーティーのときのあの態度、 大人顔負けの態度だったじゃないか。 ムチャクチャ頭もいいらしいぞ。 なにせ父親の相方として海外回ってるって言うしな。 それにだ、銃の腕はプロのスパイナー顔負けらしい」 「それであの無邪気さか・・・」 二人は腕を組んでうなった。 「俺らより年下でなきゃなあ・・・」 それが二人の一致した意見であった。 3 娘の認知 「それでお兄様方は、お父様の同棲を許したというわけ?」 母方の祖母の家で育った娘、アルウェンは、 祖母に似て結構厳しい。 双子は笑みを凍らせた。 「自分の子供よりずっと年下の男の子なのよ?」 「まあ、そう噛付くな、アルウェン」 「だって・・・」 言いかけていると、丁度レゴラスが学校から帰って来た。 アルウェンを見て丁寧に挨拶をする。 (商業スマイルだ) 双子は思った。 「エルロンド様はたいそう貴女を自慢しておいでですが ・・・本当にお美しい方なので驚きました」 まあ、とアルウェンも口元をほころばす。 「私も父の仕事柄、色々な女性を見ていますが、 貴女のような美しい方に似合う宝石を捜すのは難しいですね。 本当に美しい女性には、身を飾る石など必要ありませんから。 あ、でも、シンプルなダイヤモンドを一粒、 その胸元に飾れたらと思います。 勿論最高級の石でなくてはダメです。 輝きが負けてしまいますから。 よろしかったら、今度父に頼んで何か 見繕って参りましょう。 貴女のように美しい方に身につけていただけるなら、 宝石も喜びます」 輝く宝石のような笑みでレゴラスはすらすらとしゃべる。 双子はその商魂の身に付いた態度に引きつった。 「まあ、良い少年ではありませんか」 「とんでもない。私のような若輩者が エルロンド様のそばにおいていただけるなんて、 それだけで光栄に思っています」 レゴラスは一礼して着替えのためにリビングを出て行った。 「お父様もなかなかかわいらしい子を手に入れましたね」 にっこりと微笑む妹君に、双子は言葉を失った。 これだから、女ってのは・・・。 4 もうひとりの息子 エルロンドには双子の兄、エルロスがいた。 過去形なのは、彼はもうこの世を去ってしまったからだ。 で、その兄の子をエルロンドは養子として迎えていた。 一人前に育つまでという約束で。 その養子の名はアラゴルン。只今、海外に留学中である。 運悪く、と言うべきか、 アルウェンが父のもとを訪ねていたときに アラゴルンも帰って来た。 そして、運悪く二人はデキてしまった。 「アラゴルンよ、私の兄のものであり お前が本来相続するはずだった会社は、 今その重役どもによって牛耳られている。 お前がしかるべき勉学を身に付け、 己の力で兄の会社を手に入れぬかぎり、 私は娘との結婚は許さん」 エルロンドにはそれが精一杯の譲歩であった。 (自分は若い奥さんもらったくせに) 双子は嘯いた。 ちなみに、その時レゴラスは実家に帰っていた。 こともあろうに、アラゴルンは喜んでそれを受けた。 豪胆な男である。 そこがいいのだが・・・。 話はさかのぼって半月前。 「親父、この前の試験の結果なんだけど・・・」 いくらノックをしても返事がないので、 エルラダンは思いっきりエルロンドの部屋のドアを開けた。 いるのはわかっていたから。 想像がついただけに、そこで顔が引きつって言葉が止る。 そう、父は若い愛人とソファーの上で 思いっきりいちゃついていた。 エルロンドの膝に乗っていたレゴラスが、 ドアの方を向いてにっこりと微笑む。 (少しは恥かしがれよ) そうも思うが、人前でも平気でいちゃつけるこの少年を 嫌いにはなれない。 「ノックはしたぞ」 「聞えてた。用件を言え」 相変わらず、父は無骨だ。 「ごめんなさい。明日からひと月ほど実家に 戻らなければならないもので」 申し訳なさそうにレゴラスが首をすくめる。 「ひと月も?」 「はい。原石の買付けに外回りをしなければならないので、 一緒に行くんです」 外回りとは、海外出張のことらしい。 「あれだけ大きな会社なんだから、人手はあるだろうに?」 エルラダンが首を傾げる。 「そうなんですけど・・・通訳と護衛をかねて、 政府高官とか王様とか、エラい人たちと渡り歩けて 貴婦人のゴマを擦れる人物となると、 そうなかなかはいなくて・・・」 つまりそれらをこの少年がこなすというわけだ。 なんて奴だ・・・。 「わかった。今夜はじっくり別れを惜しんでくれ」 がっくりと肩を落す。 「話はなんだったのだ?」 冷静な父親の言葉。この状況で冷静でいられる、 親父、あんたもエライ。 「明日でいい。急用じゃないから」 「おかしな奴だ」 そう言われてエルラダンは部屋を出て行った。 ソファーの背越しとはいえ、 レゴラスが服を着ていないことはわかったから。 話なんかできるか、ボケ! 事を察して父親の部屋には入らないでいたエルロヒアが、 出てきたエルラダンに無言で質問する。 エルラダンは首を横に振っただけだった。 「いいものを見せてもらったよ。あのこの肌はきれいだ」 エルラダンの言葉にエルロヒアは真赤になって引きつった。 まあ、そんなわけでレゴラスは不在だったわけだが、 この一種修羅場にあの少年がいたらどうなっただろうと 双子は思った。 少年得意の口八丁でうまくまとめただろうか? 「いや、いなくて良かった」 エルラダンは独り言のように呟いた。 レゴラスは、たぶんアラゴルンのシュミだ。 4 別れは突然に レゴラスも戻ってきて、しばしの平穏が訪れた。 が、緊急家族会議でそれは破られた。 「お約束どおり、私は旅に出ます。 きっと会社社長の地位を手に入れて、 アルウェン嬢に求婚に参ります」 本気だったのか・・・。一同は驚いた。 今ひとつ状況がつかめていないのは、親父の愛人だけ。 「うむ。難しい旅になるだろう。 噂ではマフィアなど悪い連中ともつながりがあるらしい。 それでも行くか」 「行きます」 アラゴルン、どこまでも自信過剰で豪胆な男。 お嬢はワイルドに弱いと昔から決っている。 アルウェンはそんな恋人にうっとりとしている。 それまでエルロンドの隣でちょこんと座っていたレゴラスは、 突然立ちあがった。 「僕がついていってあげようか?」 「「「ええええーーーーー?!」」」 一同は怒涛のような叫びをあげた。 「え? だって、マフィアとかナントカ、 よくない連中と渡り合うんでしょう? ひとりじゃかわいそうだよ。僕は腕には自信あるし、 宝石の買付けで危ない目には何度もあってるから、 そういうの慣れてるし」 (慣れるなー!) 「ねえ、アラゴルン」 真白になってる周囲を無視して、 アラゴルンに微笑みかけるレゴラス。 「ありがとう。そうしてもらえると心強い」 アラゴルンはレゴラスの手をとって、 にっこりと笑った。 双子は恐る恐る父親を見た。 無表情に黙り込んでいるエルロンド。 (あの顔は、マジで怒ってる・・・) 双子は顔を見合わせて身震いした。 「どういうつもりだ、レゴラス?」 アルウェンとアラゴルンが 二人だけの別れを惜しむために退却した後、 エルロンドは声を落して呟いた。双子が震え上る。 (あああ・・・俺たちもさっさと退却しておくんだった) 後悔先に立たず。 「え、だって、彼が危ない目にあったら、 アルウェン嬢が悲しむでしょう? アルウェン嬢が悲しむ姿を見たくはないでしょう? だから、僕は貴方のために彼を助けてあげようと思ったんです。 いけませんか?」 無邪気というのか間抜けというのか・・・? 「貴方を愛しています。だから、貴方を悲しませたくなくて」 (だから、お前が危ない目にあうことが 親父は一番大変なことなんだって) 言ってやりたい双子であった。 しかし、レゴラスの愛情表現も、なかなか過激だ。 レゴラスの言い出したら聞かない性格も、 エルロンドは重々承知していた。 「他にも何人か、役立ちそうな奴を見繕ってやろう。 ・・・気をつけて行きなさい」 すっかり人数の増えた旅の一行を見送った後、 エルロンドは双子の息子に呟いた。 「お前たち」 「わかってる。俺たちも後を追うよ。 ・・・卒業試験が終ったら」 親父が不機嫌だと重役が怯えるから。 双子は、この先を思うと気分はすっかり漬物石になった。 5 終演は幸せに 一年で全てが片付き、全ては丸く収まった。 よかったよかった。 新たな会社社長となったアラゴルンは、 アルウェン嬢との結婚式を終えた。 「レゴラス」 無傷で飄々と帰って来た愛人に、 エルロンドは言った。 「お前の父上の気持がわかった。 もうふらふらするのは止せ。 海外に行きたいなら連れて行ってやるから、 私から離れるな」 「はい」 意外にも、レゴラスは嬉しそうに即答した。 「僕も離れていて寂しかったです。 こんな気持になったのは初めてです。 ずっとそばにおいてください」 人目も気にせず抱合う二人を眺めながら、 一番安堵したのは双子であった。 「俺、家を出ようかな」 エルロヒアの呟きに、エルラダンは詰寄った。 「なんで?」 「耐えられるか? 毎日アレだぞ?」 「何を言っている! タダでアレを拝めるんだぞ!」 双子は親父とその若い愛人を見やり、 やっぱり肩を落した。 双子の苦難は続く。 ************************************ ついにやってしまいました。すみません・・・。 キリ晩3000リクエストで、「エルレゴ幸せヴァージョン」 って話で(あれ? 勘違いしてる?) 持ちネタを使おうと思ってたのだけど、 それではリクエストに応えることにならないので、 一から話を考えていたんです。 そしたら、頭が馬鹿ネタに占領されて・・・。 ゆう様、これは冗談です。ちゃんとシリアス考えますから。 ごめんなさい・・・!