とあるビルでの商談、会議を終えたボロミアは、 とりあえずコーヒーを飲みにラウンジへ降りてきた。 そこで見知った顔を見つける。 「子供を商談によこすとは、貴社もそうとう人手不足と見られる」 彼はどうやら年配のサラリーマンに絡まれているようであった。 「話にならん。先の商談は白紙撤回して、 もっとちゃんとした大人をよこすべきだ」 彼は困ったように、それでも笑みは崩さないでいた。 「しかし、この件ではわが社の商談は成立しております。 内容になにかご不満でもあるのでしたら、うかがいますが?」 「女子供がでしゃばるなと言っているのだ。 社長を呼んできたまえ!」 「契約内容に変更はありません。誰とお会いになっても同じ事」 「子供と話をするよりはましだ」 ひとつため息をついて、ボロミアは男と少年の間に割って入った。 「お取り込中ですかな?」 「・・・あなたは確か、ボロミア殿、でしたな? かなりのやり手と噂は耳にしますよ」 「ありがとう。仕事の話でしたら、こんなところではなく、 会議室でなさっては如何ですか?」 「商談は成立しております、ボロミアさん」 レゴラスはボロミアを見上げて微笑んだ。 どうやら助け舟に安堵しているようだ。 「この方はどうしてもご不満のようですが」 ボロミアはレゴラスにかすかに笑いかけ、男に向き直った。 「立ち聞きするつもりはありませんでしたが、 お声が大きいようで。失礼ですが、何か不備でも?」 「・・・不備など・・・ただ私が言いたいのは、 大人の話合いに子供がのこのこ出かけてくるのは どうかと言っているんですよ。どういう社内方針なのかとね」 「あなたは先ほど女子供とおっしゃっておられましたが、 その気になればその言葉は差別的として訴えられますよ? 男女大人子供問わず、その能力は認めて然るべきです。 むしろ、そんなことにこだわる方が無能とみなされますが?」 男は口を閉じて顔を真赤にさせ、鼻息荒くラウンジを出て行った。 男の背中を見送って、レゴラスが大きくため息をつく。 「僕は女性と話をする方が得意ですよ。少なくとも同じように 社会的差別を受けている女性の方が僕の年齢を馬鹿にしたり しませんから」 「無理もありませんな。私もあなたを知るまでは、 さっきの男と同じような考えをもったでしょう。 少なくとも契約を横取されたりしたら」 「人聞きの悪い。有効な書類ですよ。 プレゼンが僕の方が上手かっただけで」 クックッとボロミアは笑った。 「でも助かりました。ありがとうございます」 「いや別に」 にっこりと笑うレゴラスに、ボロミアは無意識に視線を外した。 「ボロミアさん、昼食のご予定は?」 「別にないが・・・」 「では、ご一緒願えませんか?」 レゴラス曰く、一人でレストランに入るのは気が引けるという。 「昼日中でもからまれるし、それに一人で食べるより 誰かとおしゃべりしながら食べた方が美味しいでしょう?」 無邪気に微笑まれると、立ちくらみがする。 あくまで女性に無関心なボロミア。 あらゆる誘惑をクールに断ってきた、その仮面にひびが入る。 こいつは絶対に悪い魔法使いに違いない。 魔法で誘惑して旅人を食っちまうんだ。 そんなおとぎ話さえ脳裏をかすめる。 「すみません、無理にとは言いませんから・・・」 どうやら躊躇が顔に出ていたらしい。 申しわけなさそうに肩をすくめる少年に、 むくむくと怪しい感情が鎌首をもたげ、慌ててそれを踏み潰した。 「いや、ちょっと考え事をしていたもので・・・。 何処に食べに行きますか?」 本当に嬉しそうに、レゴラスは満面に笑んだ。 「嫌いじゃなかったら、中華を」 なんとも複雑な感情に、ボロミアは頭がぐるぐる回るのを感じた。 ビルの正面の通りに出ると、銀色のジャガーから 一人の男が顔を出した。 「やっぱり一緒だったか」 「「アラゴルン!」」 二人が声を揃える。レゴラスは嬉しそうに、 ボロミアはまずいところを見られた気まずい声で。 「エルロンドのところに寄ったら、レゴラスがこっちで 仕事をしているって聞いてな。ボロミアも同じビルに いるはずだから、たぶん一緒になるだろうと思って。 どうだ、仕事が終ったんならメシでも食いに行かないか?」 (アラゴルン、なんて間が悪く野生のカンの働く男・・・) ボロミアの脳裏に冷汗が流れた。 「なんでジャガーになんか乗ってるの? この前はシボレーじゃなかった?」 「もらったんで試運転」 嬉しそうにハンドルを握るアラゴルン。 (誰にもらったんだ、誰に?!) 助手席のボロミアは鼻をヒクつかせた。 そんなボロミアとは対照的に、レゴラスは後部席で のびのび身体を伸ばしている。ルームミラーで それを見たボロミアは、まるで猫のようだと思ってしまう。 アラゴルンはボロミアのひじを軽くつついて、 レゴラスから見えていないのをいいことに、 「顔がにやけてるぞ」とゼスチャーする。 ボロミアがあからさまに嫌な顔をすると、 アラゴルンは声を出して笑った。 この男、ボロミアをからかうのがよほど好きらしい。 「どうしたの、アラゴルン?」 「いいや・・・。ところでレゴラス、寝不足か? エルロンドもご苦労なことだ」 アラゴルンの軽口に、レゴラスがちろりと舌を出す。 「残念でした。昨夜はギムリの工房で 金属の含有率と加工について教えてもらってたんだ」 「勉強熱心だな」 「っていうか・・・ギムリと話をしていると楽しいから。 気がついたら朝だったんだよね」 子供らしい無邪気さでレゴラスは言った。 十分も走る頃、三人は無言になっていた。 「社長」 ボロミアがアラゴルンをそう呼ぶときは、 社員を目の前にしているときか、尋常でない時のみ。 「ああ、気付いている」 アラゴルンはバックミラーをちらりと見た。 「心あたりは?」 「ありすぎて、わからないな」 そう言った瞬間、急ハンドルで道を曲る。 案の定後の車もつけてきた。極力車の通りの少ない方を目指す。 後のプジョーがスピードを上げ、 挑発するようにフロントをぶつけてくる。 「ボロミア! 運転代れ!」 ハイスピードのまま席を交代する。 こんな神業ができる奴は、そうそういない。 何とか言いつつ、二人の連携プレイは恐ろしいほど強力だ。 「レゴラス! シートベルト・・・」 「してたら援護できないでしょう?」 いつの間にやら。レゴラスは愛用の小型の銃に弾を装てんしていた。 窓をいっぱいに開けて顔を出す。 と、数発の弾丸が飛んできて、レゴラスは顔を引込めた。 「やる気だな」 ニヤリとアラゴルンが笑う。それから身体を乗りだして 何処に隠し持っていたのか、マグナムを数発撃つ。 が、どれもアスファルトに跳ね返った。 「へたくそ!」 叫んで、レゴラスが腕だけ出して撃つ。 向うの狙撃手の一人の腕に命中する。 ボロミアは思わず感嘆の息を漏らした。 「アラゴルン、威嚇だけでいい、援護して! ボロミアさん、ぎりぎりまで車を近づけて! 一発で仕留める!」 レゴラスは身体を乗りだした。前輪のタイヤに照準を定めて撃つ。 が、弾は跳ね返った。 「強化ゴム?!」 驚いて叫ぶ。その僅かな隙に、向うの別の狙撃腫が狙いを定める。 「チッ」 舌打ちして、ボロミアは片手でハンドルを握ったまま バックミラーだけを頼りに、助手席に投げ出された コルトガバメントを拾って撃つ。当らずとも向うを怯ませる。 「ナイスフォロー」 アラゴルンの言葉に、キッと睨む。 「レゴラス、そんな豆鉄砲は通じないぞ。これを使え」 アラゴルンが投げてよこしたのは長身のライフル。 「嫌いなんだよね、反動が大きくて」 そう言いながらも装てんを確める。 「後で支えてやるから」 「落さないでよ」 レゴラスは窓から半身を出して箱乗りになる。 助手席の窓から身を乗り出したアラゴルンが、 その背を支える。二人が姿勢を取りやすいように、 ボロミアはスピードを落した。 一瞬後、ライフルが火を噴き、後の車の前輪が跳ね上がった。 レゴラスとアラゴルンが車内に戻ったのを確認してから、 ボロミアはアクセルを踏んだ。 「逃げるぞ!」 そう叫ぶアラゴルンは、なぜか楽しそうだ。 前輪を失った背後の車は、コントロールを失って ガードレールに激突していた。 人気のない路地に車を寄せ、三人は車を降りた。 後はぐちゃぐちゃだし、弾痕がいくつもついている。 「ダメだな・・・」 アラゴルンがため息をつく。 「今度はベンツにしようよ! ベンツ! 装甲しっかりしてるよ!」 「あー? エルロンドはベンツからロールスに買い替えたって? お前は車内が広い方が好きだもんな」 「グロールフィンデルさんに怒られるから、 もう車ではしないんだ」 ジャガーの故障具合を一人もくもくと調べていたボロミアが、 顔を上げる。 「何の話だ?」 「「わからなくていい」」 アラゴルンとレゴラスは声を揃えた。 とりあえず投げ出された銃火器を整理していると、 路地の入口に真赤なフェラーリが停まった。 「派手にやらかしたな。わしのやった車をこんなにしやがって」 出てきた老人に、アラゴルンとレゴラスがまた声を揃える。 「「ガンダルフ!」」 ボロミアだけが首をひねる。 「ガンダルフから貰ったんだ? この車」 レゴラスの問いに、老人が唇を突出す。 「四シーターなぞにちんたら乗っていられるか」 じゃあなんで買ったんだよとは、誰も怖くて聞けない。 「まあよい。レゴラス、お父上は健在か?」 「おかげさまで」 「エルロンドのところに厄介になっているそうじゃないか。 よくお父上が許したものだな」 ははは・・・とレゴラスは笑って見せた。 「アラゴルン、この御仁がお前さんの右腕か」 「ボロミアといいます」 ボロミアは片手を出し、老人と握手を交す。 老人は値踏みをするようにボロミアを眺め、不敵に笑った。 「お父上のデネソールによう似ておる。勇敢な顔立ちじゃ。 安心してアラゴルンを任せられるな」 数年前に他界した父を、何故知っているのか、 ボロミアが口を開きかけると、老人はついと背を向けてしまった。 「後処理はしておいてやるから、 その車はいつもの修理工に持って行っておけ」 「すまない」 アラゴルンが礼を言うと、老人はまたフェラーリに乗りこみ、 走り去ってしまった。 世界最速の老人。 「アラゴルン、あのご老人はいったい誰なのだ?」 「知らない」 間の抜けたアラゴルンの答えに、ボロミアが聞き返す。 「謎なんだよね、ガンダルフって。事件の陰にガンダルフあり。 何でも知ってるし。少なくとも、敵じゃないよ」 レゴラスはにっこりと答えた。 「ところでボロミアさん、遅くなったけどごはん食べに行きましょう」 いつもの無邪気さで、ボロミアの腕にからみつく。 「おい、まて」 「アラゴルンは車を修理屋さんに持って行くんでしょう? 僕もうおなかぺこぺこだし、 これ以上ごたごたに巻き込まれたくないもの」 呆然とするアラゴルンに、 ボロミアまでもがガラにもなくにやりと笑った。 「失礼します、社長」 談笑しながら去っていく二人の背中を見ながら、 アラゴルンはがっくりと膝をついた。 *************************************** 内記、車の種類は外車日本車は愚か、軽と普通車の区別もつきません。 輸入車カタログだけを頼りに書きました。 銃の種類に関しても、知識は0です。 せめてレゴの愛用の銃くらい調べたいのですが・・・(ガクッ) 誰かわかる方教えてください・・・。