明け方。

 疲れ切って帰ってきた双子を迎えたのは、機嫌の悪い猫一匹。
昨夜はエルロンドも仕事で帰ってない。

 レゴラスは居間のソファーで不貞寝をしていた。

「おなかすいた」

 開口一番。

「冷蔵庫に食べ物なら入っていただろう?」

 そう言ってみるが、この猫、自分で料理する気など毛頭ない。
双子はため息をついて、とりあえずありあわせで
サンドウィッチでも作ってやる。口数が少ないのは、
疲れているからだ。

「何処に行ってたの?」

 双子の機嫌の悪さなど、レゴラスはいっこうに気にしない。

「んー? あー・・・」

 言葉を濁す。おかまいなしにレゴラスは双子にからみつく。

「硝煙の匂いがする」

 さすが目ざとい・・・というか、鼻ざとい。

「・・・親父の仕事の手伝いで」

「僕に内緒で楽しいことしてきた?」

「楽しいこと?」

 さすがにエルラダンは顔をしかめた。だから、疲れているんだってば!
エルロヒアは相棒を軽くたしなめた。

「疲れているんだ。寝かせてくれないか?」

 レゴラスは唇を尖らせたが、すぐに真面目な表情をつくった。

「心配してたのに」

「別に心配など・・・」

「僕は二人みたいに、何かを凄く憎んではいないけど、
好きな人を苦しめる奴は許せないと思う」

 何のことかと二人が顔を見合わせる。

「マフィアの取引現場に乱入して、麻薬取引メチャクチャに
してきたんでしょう? それくらいの情報は僕の耳にも入ってるよ」

「どこから・・・?」

「父さんは宝石の売買でヤバイ橋も渡ってる。
奴らは金になるものなら何でも手を出すから、
こっちも目を光らせてる。僕が護身用に持ち歩いてる銃は
飾じゃないよ」

 双子はレゴラスを凝視し、首を横に振った。

「お前が首を突っ込むことじゃない」

「わかってないのはそっちだよ! 
どうすれば僕を信用してもらえる? 僕は邪魔者でしかないの?」

「レゴ・・・」

「大切な人を失いたくないから、銃の腕を磨いているんだよ? 
酔狂じゃない!」

「馬鹿を言うな! それでお前が怪我でもしたら・・・」

 言いかけて、エルラダンは口を閉じた。

「疲れているんだ。口論はしたくない」

 双子は部屋に下がった。

 

 泥のような眠りから覚めて、双子が居間に下りてくると、
そこにレゴラスの姿はなかった。

「まずったかな?」

「ああ、まずったな」

 双子は肩を落した。どっと心労に襲われる。

 うるさい猫でも、いないと寂しい。

「親父に怒られるかな?」

「怒る親父じゃないだろう」

 ああ、なんでこんなことに・・・。後悔先に立たず。

 

 だらだらと時間が過ぎていく。

 夕方近くになって、派手なバイクの排気音が屋敷の前で止った。
何事かと窓から外を見ると、その主はフルフェイスのメットを
乱暴に剥ぎ取った。見知った金髪。

「レゴラス?」

 きつい表情のまま彼は居間に入ってきて、
二人の前に一枚のMOを置いた。

「うちの会社の極秘情報。中東経由で来る石の荷物に、
ヤバイモノを紛れ込ませようとしている裏切者がいる。
うちの社長は事前にそいつを締上げる予定だけど、
現場を押えないことには証拠を掴めない。
だから僕はあさって中東に飛ぶ」

「何を・・・?」

「これは国内での販売ルート予定。僕が失敗したら、
ここを押えれば尻尾を掴めると思う」

 双子はMOを見つめ、レゴラスを見た。

「これがわが社での僕の仕事だよ。
知らないわけじゃないでしょう? 
パーティーでご婦人の機嫌を取るだけが僕の役割じゃない。
社長は・・・父さんは僕を信用して任せてくれてる」

「昨夜のあてつけか?」

 エルロヒアの言葉に、レゴラスは鼻先で笑った。
嫌みなほど冷淡な表情。

 そうしているうちに、エルロンドも帰宅してきた。

 エルロンドも疲れた顔をしている。
双子の息子を無視して、レゴラスに一枚の封筒を差出す。

「現地でのケレボルンのホテルの連絡先だ」

 ケレボルンは双子の祖母、ガラドリエルの旦那だ。
彼らは世界有数のホテル王だ。
国内においてはガラドリエルの迫力負けで旦那の影は薄いが、
海外のホテルは全てケレボルンの手中にある。
脳ある鷹は爪を隠しまくっている。

「連絡はしてある。何かと力になってくれるだろう」

「ありがとうございます」

 レゴラスは封筒を受取った。

「危ないところに一人で行かせて・・・
親父は心配じゃないのか?」

 エルラダンの言葉に、エルロンドは肩を落した。

「私にできる限りのことはしている。
お前達も、私が止めても自ら火の中に入っていくだろう。
心配の種は一緒だ」

 そう言われて、双子は今朝方のレゴラスの言葉を思い出した。

(心配してるのに・・・)

 これはぜったいあてつけだ。

「わかったよ、今朝のことは謝る」

 双子の言葉にレゴラスの表情が変る。

「そのかわり、俺達もついていく。放っておけるか! 
いいだろう、親父?」 

 エルロンドは唇をつり上げた。

「そうだな、その方が私も安心だ。
だが、くれぐれも無茶をするのではないぞ?」

「大丈夫だよ! 僕が二人を守ってあげるから!」

 三人はそろってレゴラスを見て、がっくりと肩を落した。
無邪気に言うな! 無邪気に!

 レゴラスはいつもの甘え猫の表情に戻って双子に抱きつき、
交互にキスをする。エルロンドの咳払いで、
双子は顔を引きつらせた。

「食事にしてくれないか?」

「おなかすいた!」

 この欠食児童が! 双子はキッチンに向い、
背後で抱擁する親父とその愛人に肩を落す。

「向うのホテルで、三人別々の部屋ってことはないだろうな?」

「ああ、ないだろうな」

「理性が持つと思うか?」

 エルロヒアはにやりと笑った。

「楽しみだ」













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 たしー様へ。
 レゴ、ああ見えて実は何でもできる奴なので、
馬の変りにバイクに乗せてみました。もちろん、
弓は銃なので、双子より銃の腕は上でしょう。