双子の部屋はもともと独立した二部屋であった。 しかし、二人が別々でいることはまずなく、 常にどちらかの部屋に入浸り、更にはひとつのベッドで 眠ることもしばしばあったので、見かねた父親が間の壁を 取っ払って一つの部屋にしてしまった。 お互いにお互いを異常なほど依存するのは、 幼少の頃の心の傷が原因であると精神科医は言った。 かなり昔の話である。それがそのまま現在にいたっているわけだが、 別に問題はないのでそのままになっている。 双子は目の前で母親を傷つけられ、 苦しみながら死んでいく様を見ている。 いまだにうなされることがあり、お互いに慰めあって 気丈さを保っていることをエルロンドは知っている。 で、今は双子の隣合せたベッドの上には レゴラスがごろごろ横になり、捕まえてきた片割に 無言で八つ当たりをしていた。怒鳴ったり物に当って蹴散らしたり、 してくれればどんなに楽か。エルラダンは額に冷汗を感じていた。 レゴラスは彼に引っ付きまくって身体を摺り寄せていた。 (男に興味はないが、これで我慢しろってのはさすがに酷だ) 女にも興味はなかったが。 「レゴラス・・・そんなに嫉妬しなくても・・・ ほら、大昔の話しだし」 「嫉妬なんてしてないよ」 (嘘だ! 絶対嘘だ!) 「勉強見るって・・・」 「わからないところなんてないもん」 (これは親父に対するあてつけじゃなくて、 俺に対する拷問だ!!) だいぶ理性が揺るぎ始めた頃、 エルロヒアが息を切らせて部屋に駆込んで来た。 「間に合った!」 勿論、彼が心配していたのは片割の理性の保ち方だ。 エルラダンの方もほっとする。 「レゴラス、親父が心配して・・・」 エルロヒアが言いかけると、すばやくレゴラスは もう片割もベッドにひき込んだ。二人分並べたベッドは、 大の大人三人でも余裕で眠れるほどの広さがあった。 「エルロンド様の若い頃って、二人に似てる」 (そりゃそうだ) 二人は同時に相づちをうった。あの写真のエルロンドは、 今の双子と同じくらいの年齢であった。 (まるで泥酔しているみたいだ) 頬を紅潮させ、潤んだ目で見つめられて双子は思った。 (手におえない・・・) この猫の視線の魔力は、あの堅物の親父でさえ落したのだ。 レゴラスは、まず標的をエルラダンに定めた。 自慢の(?)美貌でじっと見つめる。 (うっ) ヤバイ! ダメだ! 相棒の非難の視線を感じながら、 鼻先を近づけてくるレゴラスに、 エルラダンはつい唇を寄せてしまった。 腕を絡ませ、求められるままにキスをしてしまう。 その甘い感触は、理性をも溶かしてしまう。 つい本気でキスをしている自分に気がついて慌てて顔を離すと、 レゴラスの標的は相棒に移った。エルロヒアは引きつっていた。 怯えているのかもしれない。レゴラスは甘える相手に 飛び掛る猫のようにエルロヒアの上に乗っかり、首筋に顔を埋めた。 空いた両手で宙をもがきながら、 エルロヒアがエルラダンに助けを求める。 「甘えるだけ甘えれば気が済むだろうから、がまんしろ」 開き直ったエルラダンの言葉は冷たかった。 「僕の事、嫌い?」 顔を上げたレゴラスが、上目遣いで問う。 そう聞かれて否定はできない。 (猫だ! これは猫だ!) 自分に言い聞かせてから頭を撫でてやると、 レゴラスは嬉しそうにまた擦寄ってきた。 現状から逃避しないのが二人の性格である。 代わる代わるレゴラスにキスをし、髪や頬を撫で、 背中を抱きしめてやる。気持よさそうにその猫は喉を鳴らした。 決して嫌々ではなかっただけに、足音が聞えてきたとき 双子はかなり惜しい気がしていた。 それでも、命は惜しいのでぱっとレゴラスから離れる。 それと同時に、ノックもせずに双子の部屋のドアが開いた。 「・・・」 ベッドの上にちょこんと座るレゴラスと、 その両脇にいる双子の息子を、訝しげにじろりと睨む。 二人はほぼ同時に、何もしていないとぶんぶん首を横に振った。 「原因は、これか?」 エルロンドは、一枚の例の写真を手にしていた。 双子が、何気なく気付くようにあの本を出しっぱなしに しておいたのだ。 レゴラスは唇を尖らせてそっぽを向く。 エルロンドは深くため息をついた。 (なんでこんな写真一枚で、 自分は振りまわされているのだろう) エルロンドはレゴラスの目の前で写真を破り捨てた。 双子のみならず、レゴラスも驚いて目を丸くする。 その隙に、エルロンドはレゴラスを抱え上げて 双子の部屋を出て行った。双子は引きつったまま、 手を振って親父とその愛人を見送った。 「でもやっぱり、親父が悪いと思うよ」 翌朝。完全に寝不足でげんなりしている父親に、 エルラダンはコーヒーを差出した。 ・・・っていうか、年甲斐もなく一晩中するのはやめなさい。 「昔の恋人の写真を後生大事に持っているってのは」 「しかもお袋の写真と一緒に」 朝食を食べながら、エルロヒアも言う。 「・・・恋人・・・ではない」 「え、違うの?」 答えないエルロンドに、双子は顔を見合わせた。 (違わないじゃないか) 「なんでお袋は、天性のホモなんかと結婚したんだろう」 自分の父親にそんな言い方はあるまい、とも思うが、 昨夜の被害(?!)を考えたらそれくらいの 嫌みは許されるだろう。 エルロンドは黙ってコーヒーをすすっている。 「写真を取っておいたのは、奥さんだと思うよ」 シャツ一枚を羽織った姿のレゴラスに、一同は目を向け、 そのあられない姿に双子は目をそらせた。 同じ貫徹でも元気なのは、単に若さゆえだ。 レゴラスはテープで補修した写真を エルロンドのテーブルの前に置いた。 「奥さんの字でしょう、これ?」 裏に、丁寧な文字が記されてあった。 忘れないで、私はあなたの全てを愛しています。 エルロンドは写真の裏の文字を見つめた。 事件に巻き込まれる少し前、彼の書斎で片付けものをしていた 妻の姿を思い出す。彼女は恥しげに笑って、 本を本棚に戻していた。もしかしたら、 彼女が隠した宝物が、まだどこかに眠っているかもしれない。 レゴラスはシャツのボタンを全部留めて、 エルロンドの飲みかけのコーヒーを一口すすり、 その頬にキスをした。 「実家に寄ってから学校に行くので、先に出ます」 「朝食は?」 「たまには父と取ってあげないと。 僕は家出をした親不孝な息子ですから」 レゴラスは双子にもキスをして、屋敷を出て行った。 「そういえば、レゴラスのお母さんって?」 「亡くなったそうだ。詳しいことは誰も知らん。 奴の父の口は堅くてな」 エルロンドは答えて、コーヒーを飲干し、立上った。 写真を双子に渡す。 「好きにしろ」 受けとったエルロヒアはニヤリと笑った。 「また、どこかの本の間にでもはさんでおくよ」 「・・・それからお前たち」 エルロンドは表情を一変させて双子を見た。 「昨夜、レゴラスに何もしなかっただろうな?」 非常に強調された声色。 「あ、学校に遅れる」 「俺も、友達と約束があったんだ」 逃げるように素早くいなくなった息子達に、 頬を引きつらせる。そんなエルロンドにも、 レゴラスの次に頭のあがらない秘書殿が車で迎えに来た。 高貴な猫との生活は、まだまだ続く。 ************************************ 双子×レゴになっていない?すみません。 でも、返品不可です(くすっ)