「そいつを捕まえろ!」

 との声と共に、屋敷の玄関から飛びだしてきた猫一匹。口にくわえたフライドチキン。

 運転席から降りたばかりのアラゴルンは、逃げ出してきた猫をきょとんと見つめる。

「俺らのランチ!」

 朝からランチにフライドチキンを揚げていたらしい。相変わらずまめな男だ。

 レゴラスはアラゴルンの車の助手席に乗りこむと、

「逃げろ!」

 と、愛嬌たっぷりに叫んだ。

 言われるままに、アラゴルンは再び車に乗りこみ、エンジンをかける。
屋敷から飛びだしてきた双子に、レゴラスは窓を開けてにこやかに手を振った。

 

 何がなんだかわからないが、まあきっといつものことだろう。
レゴラスはフライドチキンを食べ終えると、指についた油をジーンズでぬぐった。

「で、何か用事だったの?」

 運転席のアラゴルンは、溜息ひとつ。

「ちょっとお前に用があってな。時間、あるか? 家に来て欲しいんだが」

「いいよ」

 そっけなくレゴラスは答えた。

 

 

 

 アラゴルンの家に着いて、彼の書斎に入る。相変わらず散かっている。
エルロンドの書斎とは大違いだ。

「アルウェンは?」

「出かけてる」

 棚の引出しから、アラゴルンは箱を取りだしてきて、机の上に置いた。

「何?」

「見せたいものがある」

 そう言って、箱を開ける。

「・・・・・・・わ」

 中身を見て、レゴラスは驚きの声をあげた。嬉しそうに顔がほころぶ。

「ヘッケラー&コック社のUSPじゃない!」

 中から出てきたのは、ハンドガン。アラゴルンはそれを取りあげて、レゴラスに渡した。

「最新モデルじゃない! どうしたの、これ?!」

 受取ったレゴラスは、ひっくり返したりすかしたりしている。
それを眺めるアラゴルンも、満足そう。

「ハルディア経由で手に入れた」

「ハルディア!」

「そう、奴は武器マニアだからな。先月ガラドリエルのところに行ったら、偶然会ってな。
話をしてたら意気投合して、奴のマンションに行ったんだ。
すごかったぞ、壁一面コルトのハンドガンが飾られていて」

「コルト! コンバット・コマンダーを愛用しているって言ってたよね」

「ああ」

 レゴラスの目がきらきら輝く。

「ずるーい! 僕も行きたい! って、電話しちゃおう」

 さっそく携帯電話を出すレゴラスに、アラゴルンは慌ててそれを閉じさせた。

「やめておけ。奴は今仕事中だ」

「ずるい! アラゴルンだけ!」

 ずるいとか言われても・・・。

「そいつはお前にやる。
ハルディアに、お前が使いやすいようにチューンアップしてもらってある」

 きらきらしたレゴラスの目が、更に輝く。

「ホントに? 欲しかったんだよね! 
スタイルはオーソドックスなんだけど、軽くて使いやすいんだよね! 
・・・・・でもいいなあ、コルトコレクション・・・」

「お前はそれ以上武器オタクにならなくていい」

「なんで?」

「危なすぎる。第一、どこにコレクションするつもりだ?」

 言われて見れば、たしかにそうだ。
実家に何丁か置いてあるが、コレクションというほどでもないし、
実質住んでいるエルロンドの家には、
普段持ち歩いているハンドガン一丁とノートパソコンと着替えくらいしか置いていないのだ。

「で、喜んでもらえたかな?」

 気を取りなおして、レゴラスはにっこりと笑った。

「そういえば、僕が実家に帰ってるとき、
エルロンド様の家に僕を探しに来てたって聞いたけど。用はこれだったわけ?」

「そうだ」

「なんだ、実家の方に来てくれればよかったのに」

 アラゴルンの口元が、少し引きつる。

「いや・・・・おまえの親父さんは苦手だからな」

 それを聞いたレゴラスが、違った意味でニコニコし始める。
というか、とろけるように頬を紅潮させて、笑う。
普通男がそんな笑い方をすると気色悪いものだが、こいつは特別だ。
むちゃくちゃ可愛い。その理由を、アラゴルンは知っていた。
エルロンドが迎えに行ったのだ。

 よっぽど嬉しかったんだなあ・・・・。
そう思うと、自分は絶対にエルロンドには勝てないのだと思い知らされる。

「ところで、お礼はしてくれるのかな?」

「何が欲しいの?」

 屈託なく聞き返されて、つい

「一発やらせてくれれば・・・・」

 口がすべる。
ニコニコ顔のまま、レゴラスは手にしたままのハンドガンの銃口を、
アラゴルンの眉間に押しつけた。

「装弾されてないぞ」

「でも、これで殴れば血管の2,3本は切れるよ」

 本当にやりかねないところが、怖い。

「下心あっての事なら、返すよ?」

「本気でやらせてもらえるなんて、思ってねえから安心しろ」

 レゴラスは銃を下した。

「まったくしつこいね。奥さんいるんだから、もう少しおとなしくしたら?」

「恋愛と下半身は別問題」

 かちゃり、と音がして、レゴラスは弾が入っている方の自分の銃をアラゴルンに向けた。

「・・・・冗談だって。いつも世話かけてるからな、その礼だ」

 銃の安全装置を戻し(本気で安全装置まで外していたのか!)
レゴラスは二丁のハンドガンをテーブルに置いた。

「いいんだよ。エルロンド様のお嬢さんの旦那だからね。
エルロンド様の義理の息子は、僕にとっても・・・・」

 息子みたいなものだと言うわけだ。アラゴルンはがっくりと肩を落す。

「あの双子のことも息子とか呼んでるだろう?」

「そうだよ?」

「お前な、自分より年齢も身長も上の連中を、よく子供扱いできるな?」

「なんで? 二人は時々義母さんって呼んで抱きしめてくれるよ?」

 いや、それは別の意味あいだろう?

 アラゴルンはレゴラスの肩を掴んで、机の上に上半身を押しつけた。

「俺は、義理でもお前の息子になるつもりはないが?」

「そういうことはね」

 ニヤリ、と笑ったレゴラスは、アラゴルンの股間を蹴り上げた。
短い悲鳴を上げてアラゴルンがうずくまる。

「僕に勝ってから言うんだよ。僕が君の前で武器を手放すのは、君が僕より弱いからだ」

 よりにもよって、そんな所を蹴らなくても・・・。
冷汗をだらだらかきながら、アラゴルンは

「おっしゃるとおりです」

 と、うめいた。

 アラゴルンが唸っている間、
レゴラスは箱からカートリッジなど付属品を取り出して、一つ一つ確めている。
やっと復活して、アラゴルンが嬉々としてハンドガンを弄りまわすレゴラスを眺める。

「もし・・・・・」

 そんなアラゴルンに、レゴラスは振向かずに言った。

「僕がエルロンド様に出会わないで、君がアルウェンに求婚する前だったら、
・・・・・どうしてた?」

 レゴラスの、質問の意味を考える。

「やっぱり、友人以上にはなれないな」

 ハンドガンから目を上げたレゴラスが微笑む。

「俺は、エルロンドみたいにスランドゥイルからお前を奪ってくることはできないし、
それに振りまわされっぱなしになる。
俺にはお前は守りきれないし、俺には安らげる場所が必要だ。
愛する者には、俺の帰るべき場所で、俺の帰りを待っていてもらいたい」

「そう言うだろうと思った」

「そんな質問をするってことは、脈ありなのかな?」

 微笑んだままレゴラスは、弾が入っている方のハンドガンを握る。
アラゴルンは両手を挙げた。

「そういうことはね、僕に勝ってから言うんだよ」

「すみません」

 片方の銃をいつものように服の内側にしまい込み、レゴラスは新しい銃は箱に戻した。

「でも、嬉しいよ。ありがとう」

 大切そうに箱を抱え、レゴラスはアラゴルンの頬にキスをした。

 不意をつかれて、アラゴルンの顔が赤くなる。

「送って行ってよ。家に戻るから」

「どっちの?」

「決ってるでしょう?」

 不良家出息子は、にっこりと微笑んだ。