「ばっかじゃないの?!」 古い倉庫の裏で、身を潜めながらレゴラスは悪態をついた。 よくあること、だった。 そう、なぜかよくあること、なのだ。 麻薬犯罪に尋常ならぬ怒りを持っているエルロンド (彼の奥さんは、その犯罪がらみで殺されたのだ)のみならず、 アラゴルンもマフィアとのいざこざをよく起している。 もちろん、なぜかレゴラスも。 まあ、レゴラスの場合、宝石売人の家系がものを言うわけなのだが。 で、今回はレゴラスがらみの抗争にアラゴルンが助太刀に入った形である。 「普通、流れ弾とかに当る?」 当ったといっても、腕をかすった程度だが。 「お前なー・・・お前がその豆鉄砲の装てんに手間取ってるから、 援護してやったんだろう?」 「助けてくれなんて言ってないし、助けてくれなくても僕は避けられたよ。 大体、キミ、もっと銃の腕磨いた方がいいんじゃない?」 次から次に浴びせられる罵詈雑言に、うんざりして耳をふさぐ。 もっとも、レゴラスがこれだけ不満をぶつける相手は、 アラゴルンくらいなモノだった。親の前では優等生だし、 旦那であるエルロンドの前では従順な奥さんだし、 エルロンドの双子の息子たちの前でも甘えはしても滅多にグチはもらさない。 レゴラスが友人と呼ぶのは、ギムリとアラゴルンくらいなものだ。 ギムリの場合、ギムリ本人はレゴラスの保護者気分なので、 彼がどんなに悪態をついても上手に聞き流してしまう。 本気で突っかかるのはアラゴルンだけだ。 大人気ないというか・・・。 「あーあー悪かったよ。もう助けてやらん!」 怒った口調で言うと、レゴラスはムッとした視線をアラゴルンに向けた。 わかっているのだ。これも奴流の甘えなのだとは。 「そんな言い方しなくても・・・」 「喧嘩売ってるのは、お前の方だろうが」 (そんな悲しそうな目をするな!!) 強情な性格のレゴラスが口をへの字に曲げると、 ついついこちらから謝ってしまいたくなる。 「・・・もう、うるさいな! 手当するから、腕めくりな!」 へそを曲げたまま、アラゴルンの腕を引っぱって、傷を調べてハンカチを巻く。 なんでハンカチなんか持っているかというと、べつに手や汗を拭くためではなく、 こういう時のためだ。 「たいした出血じゃないけど、消毒は必要だよ」 「ここから出られたらな」 二人は同時に溜息をついて、外を見た。 何でこんな所にいつまでも座りこんでいるかというと、 銃声を聞いた通行人が警察に通報してしまったのだ。 叩けばほこりの出る連中は逃げるか、逃げる途中で逮捕された。 別にやましい事がそれほどあるわけではないが、 警察の厄介になることはできるだけ避けたい。 エルロンドに電話をすれば、すぐに釈放されるのはわかっているが、 そうちょくちょく面倒をかけたくもない。 で、警察がこの近辺から消えるのを、隠れて待っているわけだ。 「アラゴルンが怪我なんかしなかったら、すぐに逃げられたのに」 「また俺のせいにするか」 ぷいと横を向くレゴラスの、顎を掴んで自分の方を向かせる。 「その生意気な口は、素直にありがとうとかごめんなさいとか言えないのかね?」 エルロンドの前では、いつもしおらしく 「ごめんなさい」とか「ありがとうございます」とか連発しているのに。 「誰が!」 そう言いながらも、目は謝っている。 「言えないなら、態度で示せよ」 「土下座でもしろっての?」 「ばーか」 狭い場所で、背中を壁に押しつけて、アラゴルンはゆっくりと唇を重ねた。 「・・・・・・・」 いつもだったら、平手か隠し持っているナイフが飛んでくるところだ。 が、今回よほどアラゴルンにすまないと思っていたのだろう、 レゴラスは黙ってキスを受入れた。 楽しんでいるという風でもなく、半ば目を開けたまま、 入り込んでくる舌を拒絶しない程度に唇を開く。そんな表情が、また艶かしい。 ついつい調子に乗って、強く唇を押し当て、その先を味わおうとした時 「無事だったか」 積みあげられた木箱の向うから声がした。 「「ガンダルフ!!」」 二人が同時に叫ぶと、その老人はニヤリと笑った。 「警察なら追いはらってやったぞ」 謎の老人、ガンダルフ。 危機の時にはどこからともなく現れ、どこかへ去っていく。 スポーツカーを乗りまわす、世界最速の老人。 数日後。 アラゴルンは奥さんの買物につきあっていた。 そして、アルウェンの隣には、なぜかレゴラス。 二人できゃあきゃあ言いながら服を見ている。 「レゴラスはどこのブランドが好きなの?」 「え? 別に・・・ないです。あんまり自分で服とか買わないから」 「あら、じゃあどうしているの?」 「実家にいる時は、家政婦さんとかが買って来てくれたし。 なぜか貰い物が多いんですよね。今はエルラダンとエルロヒアが買ってきてくれるし」 「お兄様たちらしいわ」 アルウェンは楽しそうにクスクスと笑う。 その後で、荷物もちのアラゴルンが、両手いっぱいの買物袋をぶら下げて肩を落す。 女の買物は、どうしてこうも長いのだろう。 アルウェンが試着室に入っている間に、アラゴルンはレゴラスに耳打をした。 「楽しいか?」 「楽しいよ」 お義理でない証拠に、ニコニコと笑っている。 「装飾品はある程度流行にあわせなくちゃね。でも父さんはそういうのに疎いし。 ほら、趣味で宝石屋やってる人だから、売れなくても別にかまわないとか考えてるから。 だから僕が、そういうとこ補助してあげないと」 さいですか。さすがです。 試着室から出てきたアルウェンを褒めちぎり、 この服にはこんなアクセサリーが合うとかなんとか助言している。 荷物もちの旦那は、ただ溜息ばかり。 「アラゴルンは、ホントだめね。レゴラスに来てもらってよかったわ」 「そう言ってもらえると嬉しいです。でも、アラゴルンも役には立ってますよ」 二人でアラゴルンを見る。その役立たずの旦那は、両手いっぱいの荷物を抱えている。 「荷物もちとしてね」 レゴラスが言うと、アルウェンもクスクスと笑った。 その後、三人はエルロンドの家で食事をすることになっていた。 (なんなんだ、この雰囲気は・・・・) 食卓に着いたアラゴルンは、口元を歪めた。 エルロンドは、アラゴルンを完全に無視している。 いつもはそういうことをする人物ではないのに。双子もどこか気まずそうだ。 帰り際、アラゴルンは双子を捕まえた。 「俺、何か悪いことをしたか?」 「自分の胸に聞いてみな」 エルラダンはそっけない。 思い当る節は・・・・なくはないのだが。 「・・・・レゴラスが、何か言ったとか?」 「あいつはああ見えて律儀な奴だから、自分からは何も言わないぞ。 っていうか、では心あたりが大有りなんだな?」 エルロヒアに指摘され、アラゴルンが引きつる。 「いやその・・・じゃあ、誰が・・・・」 「昨日、ガンダルフが親父に会いに来てたな」 またもやそっけなくエルラダンが言う。もしかして、彼も怒ってる? アラゴルンは血の気が引いた。 「当分、ウチの敷居はまたがない方がよさそうだぞ」 エルロヒアは悪戯っぽく言った。 「親父、すげー嫉妬深いから。俺らが冗談でキスしても怒るからな」 冷汗をたらしながら、アラゴルンがあとずさる。 「あ、アルウェンも知ってるぞ。昨日ガンダルフと話をしてたから」 ・ ・・・・ショック・・・・・ そうか、今日の買物は、そのあてつけだったのか。 買物に付き合えなんて、珍しいことを言うと思ったら・・・・。 「ま、自業自得だ。がんばれや。レゴラスを助けたって事実がなければ、 今ごろ首がなくなってるところだから」 エルロヒアに背中を叩かれ、アラゴルンは本当に首を落された気がした。 これからは気をつけよう。 誰にも見られないように。