学校帰りのレゴラスの隣に、派手なイタリア車が乗りつけられた。 「ちょっと付きあえ」 助手席のドアを開けながら、アラゴルンが顔を覗かせる。 立ち止ったレゴラスは唇を尖らせた。 「今日、僕、オフ日なんだけど?」 「仕事の話じゃない。アルウェンがお前と食事をしたいそうだ」 それはまた珍しい。 「仕事でないならいいよ」 レゴラスは素直に助手席に滑り込んだ。 拉致完了。 エルロンドは、娘夫婦から食事の招待を受けた。 それもまた珍しい。 急ぎではない仕事は後回しにし、どうでもいい書類は秘書に託して、 エルロンドは娘夫婦の邸宅に向った。 呼鈴を鳴らすと、晴れやかな笑顔の娘が出迎える。 「食事なら、家の方に来ればよいものを」 正直、お嬢育ちのアルウェンは、家事があまり得意ではない。 たぶん、料理なら旦那の方が上手いだろう。 「今日はね、お父様の為に特別料理を用意したのよ! 気に入ってもらえるかしら?」 父親を招きいれ、コートを受取る。 「お前が料理とは珍しい・・・・・・」 応接間に入ったエルロンドは、動きと共に言葉にも詰った。 長い金髪をアップにし、シンプルなグリーンのドレスを着た少年が、 ソファーにちょこんと座っている。 その向いで、アラゴルンはばつが悪そうに顔をゆがめていた。 「ね、綺麗でしょう?」 ね、とか言われても・・・・。 女装させられ、化粧まで塗られたレゴラスは、ニコニコしている。 お前、男としての自尊心はないのか? アルウェンは嬉しそうにレゴラスに歩み寄り、隣から肩を寄せて頬にキスをしてみせる。 「ショウウインドウでこのドレスを見たとき、絶対似合うと思ったの! レゴラスって細いから、ウエストだって入るし! 可愛いわ! 私、妹ができたみたい!」 固まった表情でエルロンドがアラゴルンを見やると、 アラゴルンは引きつったまま頭をぶんぶん横に振った。 俺の指しがねじゃ、絶対無いって!!!! エルロンドはぴくぴくと唇が痙攣する。 それを見ていたアルウェンは、にっこりと笑った。 父親のあの表情は、笑いを押し殺している顔だ。 レゴラスは笑みをちょっとゆがめ、上目使いにエルロンドを見る。 「・・・だめ・・・ですか?」 いや、そんな顔をされても・・・。エルロンドはひとつ咳払いをした。 「・・・・その・・・驚いただけだ」 ぱっとレゴラスの表情が輝く。もともと冗談好きな性格らしい。 「自分でも気に入ってるんですよ!」 立ち上がってくるくる回る。子供かお前は! 子供だけど。 「あ、父さんにも写メールしちゃおう!」 自分の携帯を取りだして、誰かが止める間もなくパシャリと一枚。 すぐにそれを送る。間髪入れず、返答が返ってきた。 『何をしている?!レゴラス!! そんなふざけた格好するのなら、今すぐ家に帰って来い!!!!』 相当怒っているらしい。 「うん、明日帰るよ、父さん」 『今すぐだ!!!』 「明日ね、あした」 それから携帯を耳から離し、 「うるさいから切っちゃえ! ポチッと」 容赦なく通話を切る。 (ひどい息子だ・・・・) 誰もが脳みそに冷汗をかいた。 「お持帰り、してくださるでしょう? お父様」 ハートマークをいっぱいにつけた笑みで言われ、エルロンドはぎこちなく頷いた。 「食べるのは、お家に帰ってからにしてくださいね。 せっかくのドレスが汚れてしまっては悲しいもの。 お兄様たちにも見せてあげてくださいね」 エルロンドはまたアラゴルンを見る。今度はギロリと。 アラゴルンは、また目いっぱい首を横に振った。 バラしたの、俺じゃないって!!!! しばらく座ってお茶を飲んだあと、エルロンドは美しく化けた (そのままでも十分美しいと思っているが)愛人を車に乗せて、帰路についた。 ハンドルを握ったまま前方を凝視していたエルロンドは、静かに口を開いた。 「妻の命日は、家では何もしないし、誰もそのことを口に出さない。 誰もが無口になり、沈んだ心のままベッドに入る」 ハンドルを握っていた片手をそっと離し、助手席に座る少年の頬に触れる。 「今年は、違ったものになりそうだ」 頬に触れる指に、愛しげにキスをして、レゴラスは無言のまま微笑んだ。 自宅に着き、玄関を開けると、憂鬱な表情の双子が出迎え、 父親の後に隠れている摩訶不思議な物体に目を見張った。 「・・・・これは・・・どういう冗談だ?」 「何か食べるものはあるか?」 何事もなかったかのように部屋に入っていく父親に、眉間を寄せる。 「いや、親父、アルウェンのところで食事してくるって聞いてたし、 俺たちも食欲なかったから、何も用意してない」 レゴラスは様子をうかがうように口元をゆがめながら、エルロンドのあとをついていく。 「これが、アルウェンの用意していた食事だ」 レゴラスの肩を抱いて見せるエルロンドに、双子は顔を見合わせる。 「・・・・食って、いいのか?」 「お前らはだめだ」 「「けち」」 双子は声を揃えた。 「なんか、急に腹が減ってきたな・・・・」 「作るのも面倒だし、ケータリングで何か頼むか」 にやりと笑い、そそくさと電話を掛け捲る。 30分後、食堂のテーブルはピザやらチキンやら、食べ物で埋った。 やっとありつけたまともな食事に、ドレス姿のレゴラスはニコニコ。 「そうだ! ギムリにも写メールしなくちゃ!」 言うが早いか、ぱちりと一枚。しばらくして返信が返ってくる。電話ではなくメールで。 『そんなの見ても、俺は別に嬉しくない』 双子はワインで陽気になっている。 「ボロミアにも送ろう!」 調子付いてもう一枚。受取ったボロミアはよほど悩んだのだろう。し ばらくたってから返信メールがきた。 『似合ってます』 ボロミアの困った顔が目に浮び、レゴラスも双子も爆笑した。 「グロールフィンデルさんにも送っていいですか?」 一応エルロンドに聞いてみる。珍しくほろ酔いのエルロンドは「かまわない」と応える。 で、また一枚。今度はわりとすぐ返信メールが返ってきた。 『髪はアップにするより、おろした方が似合うでしょう』 レゴラスはすぐに髪をおろして見せた。一同、うんうんと納得する。 グロールフィンデルからの返信メールはエルロンドの携帯にも来た。 『明日の午前中の仕事は、私が片付けておきますので、出社は午後からでけっこうです』 さすが、状況をよく読んでる。 「あ、ハルディアにも送っちゃおうかな! 最近仲良くなったの!」 嬉しそうに携帯カメラをかまえるレゴラスを、さすがに双子は取り押えた。 「それだけは止めておけ!」 「なんで?」 「ハルディアがかわいそうだ」 双子はハルディアを知っていた。 夜更けまでわけのわからぬパーティーは続き、 エルロンドは酔っぱらった息子たちを部屋に追い返し、 自分はレゴラスを連れて主寝室へ消えていった。