来客の知らせを受け、エルロンドが廊下に出ると、そこにあの声が響き渡った。 「酷いよアラゴルン! 無理矢理僕にあんな・・・・」 「お前だって喜んでいただろうが!」 「喜ぶわけないでしょう!!」 レゴラスはエルロンドの存在に気付き、走り寄ってその腕にしがみついた。 気持悪いというように片手で口元を押え、うっすらと涙さえ浮べて。 レゴラスの髪を撫でながら、エルロンドがキッとアラゴルンを睨む。 普段温厚なこの男、絶対に怒らせてはいけない人物だ。 アラゴルンは怯んでたじろいだ。 「違う! 誤解をまねくようなこと言うんじゃない!」 必死で弁解するアラゴルン。 「何が誤解だよ! 酷いじゃないか!」 うるうるした瞳でエルロンドを見上げ、レゴラスは叫んだ。 「ザッハトルテを二つも食べさせたあげく、出てきた飲物がこってりとしたココア! 僕が甘いもの苦手なの、知ってるくせに!」 「あれは秘書が勝手に・・・・」 って、食物の話しかい?! なんてツッコミは、エルロンドは入れない。 原因がどうあれ、レゴラスを泣かした罪は重い。 「失態を他人のせいにしてはいけない。秘書のミスは己のミスだ」 まるで重大事項のように、エルロンドはアラゴルンを見ながら言った。 その口調の厳しいこと・・・。 「ボロミアはどうしたの?」 「奴は出張中だ」 「じゃあ、ボロミアが帰ってくるまで、僕はアラゴルンの会社に行かないからね!」 少なくとも彼なら、レゴラスにチョコレートケーキを出したりはしないだろう。 「なんですか、騒々しい」 秘書室から出てきたのは、エルロンドより更に怖いグロールフィンデル。 片手にダイエットペプシの缶を持ち、それをさりげなくレゴラスに手渡す。 レゴラスはそれを受取ると、すぐにプルタブを押しあげてごくごくと飲干した。 「社長、会議の時間ですので、あとは私が」 エルロンドは頷き、もう一度アラゴルンを睨んだ後、 レゴラスを己の秘書に託してエレベーターに向った。 「・・・レゴラスー!」 助けを求めるようにその名を呼ぶが、レゴラスはべっと舌を出して、 グロールフィンデルの腕に絡み付いてエルロンドの社長室に入っていった。 ドアを開けたとき、グロールフィンデルが振向き、アラゴルンに厳しい視線を送る。 「まだまだ、甘いですな」 それだけ言って、ドアをぴしゃりと閉じる。 残されたアラゴルンは、こぶしを振りあげた。 「たかだか秘書が来客にケーキを出したことくらいで、 なんで俺がここまで責められなきゃならないんだ!!」