「ところで、グロールフィンデル」  深夜残業していたエルロンドは、唐突に秘書を呼んだ。 「はい?」 「最近漢方に凝っててな」 「いやです」 「………まだ何も言っていない」 「実験台にはなりません」  むっとしてエルロンドはグロールフィンデルを見る。 「実験台とは失敬な」 「あなたがそういうことを言い出すのは、ろくでもない時だけですから」  だてに付き合いが長いわけじゃない。  チッとエルロンドは胸の中で舌打ちした。 「わしに何の用だ?」  昼間、所用ついでに呼び出したのだが、スランドゥイル、いつ見てもいい男だ。  などと、グロールフィンデルの前で言おうものなら、その場で足を踏みつけられて骨が折れる寸前までぐりぐりやられる。 「実は頼みごとがありまして」 「レゴラスは嫁にやらんぞ」  何を今更。 「いいえ、そうではなくて、グロールフィンデルのことです」 「番犬?」 「ええ。最近過労気味なので、ビタミン剤を与えようと思っているのですが、彼はサプリメントの類をとても嫌っておりまして。  スランドゥイル殿の言うことなら聞くでしょうから、これを飲ませてやってはいただけませんか」  粉の入った小瓶を差し出す。 「飲み物に混ぜるのがよいでしょう。無味無臭です」  へえ、と素直にスランドゥイルは小瓶を受け取った。  こういう場合、グロールフィンデル本人はともかく、レゴラスだって怪しむ。だが、スランドゥイルは人がいい。 「わかった」  よし。  エルロンドはほくそ笑んだ。  夜。  エルロンドから受け取った瓶を手に、スランドゥイルは少々考え込んだ。  本当にビタミン剤か?  毒物ではないだろう。エルロンドにとって、グロールフィンデルは大事な番犬、ペット? だ。害はないだろうが…。  ふたを開けて匂いを嗅いでみるも、本当に無味無臭。目の前のテーブルに置かれたグラスに目をやり、どうしようかと躊躇する。 「スランドゥイル」  突然声をかけられ、あわあわと小瓶を隠す。 「ワイン、新しいのを開けようか?」 「ん、いや、まだいい」 「そうか」  グロールフィンデルはまたキッチンに戻る。  はっと気づくと、小瓶の中身はグロールフィンデルのグラスの中に零れていた。 「………」  うーむ。  まあ、いいか。  それから二時間後。  レゴラスと甘い夜を過ごしていたエルロンドの所に、電話がかかってきた。 『テメー!! クソッ!! エルロンド!! 何の薬盛りやがった?! 今すぐ首輪と鎖持って、家に来い!!!!!!』   「あー」  その惨状に、さすがのエルロンドも、ちょっと反省した。  なんというか、あれは、理性をちょっとだけ外すもので、効力としては、猫あるいは犬的、いやはっきり言おう。猫化する薬のはずだった。 もちろん、猫か犬かは、その本人の性格によるが。 「あーもうしわけない」 「申し訳ないじゃねぇ!!!」  何が酷いって、大型犬と化した(見た目は変わらないが)グロールフィンデルは、スランドゥイルにおもいっきりじゃれついていた。  グロールフィンデルの方が背が高いし、筋肉質だし、体力もあるし、で、もうスランドィルはなされるがままなのだ。  無論、最初のうちはなんとかなだめたりすかしたりしてたのだろうが。  服は裂かれてぼろぼろだし、べろべろ舐められて髪もぐしゃぐしゃだし、もう疲れ切っている。 (たぶん、犯られてるな)  スランドゥイルは床に這いつくばっているし、グロールフィンデルは上からのしかかって、まだべろべろ舐めている。 「グロールフィンデル、ステイ!」  エルロンドの声に、ぴた、とグロールフィンデルの動きが止まる。  さすが。 「カム」  ふらっと立ち上がり、エルロンドに近づく。 「シット」  エルロンドが床を指さすと、ぺたりと座った。  犬だ。  間違いない。  よく訓練された犬だ。  てか、躊躇なくグロールフィンデルを犬扱いするエルロンドもそうとうだ。 「いや、本当に申し訳なかった。これは想定外の事故だ。グロールフィンデルは連れて帰る。お詫びは後日」  とりあえず、犬化した番犬を従えて、エルロンドは帰って行った。  一緒に来ていたレゴラスは、床にばったり倒れこんでいるスランドゥイルに、しゃがんで顔を寄せる。 「ずいぶん面白いことしてるじゃない、父さん? 呼んでよ」 「あほか」  ううううっとスランドゥイルは呻く。  ふふふ、とレゴラスは面白そうに笑うと、ぼろぼろになったスランドゥイルの顔をぺろりと舐めた。 「今度は僕が舐めてあげるよ」