「グロールフィンデル、あの資料は」 「はい社長、ここに」 「グロールフィンデル、今日の会議だが」 「こちらが先方の資料、スピーチの原稿はこちらです」 「グロールフィンデル、」 「はいコーヒー」 「グロールフィンデル」 「今日の仕事は以上です。お送りいたします社長」 「グロールフィンデル」 「あ〜親父、家にグロールフィンデルはいないぞ」  息子に指摘されて、エルロンドははたと気づく。 「ああ、すまない、エルラダン、コーヒーをもらえるか」 「もちろん。でも俺はエルラダンじゃなくてエルロヒア」  双子の片割れが、にっと笑う。エルロンドは息子の顔をしばらく眺め、どう反応したらいいか悩む。 「エルラダン、親父をからかうの、やめろよ」  本物のエルロヒアが、ひょっこり顔を出す。  そっくりな双子だが、父親であるエルロンドが間違えるはずもない。  服を変えて口調を変えても、絶対に間違わない。 「俺、時々思うんだけど、親父、グロールフィンデル依存症じゃね?」  コーヒーを持ってきながら、エルラダンは言った。 「…そうだな」 「わ、肯定した」  双子がそろって頬を引きつらせる。  息子の煎れたコーヒーを口に運ぶ。息子たちにコーヒーの煎れ方を教えたのはグロールフィンデルだから、 グロールフィンデルの煎れたコーヒーと同じ味がする。  落ち着く味だ。  誰よりも一緒にいる時間が長いのが、グロールフィンデルだ。  親より、妻より。 「…」  名前を呼ぼうと口を開きかえると、彼はもうそこにいて、じっとエルロンドを見下ろしていた。 「お疲れのようですね。少しソファでお休みになられたらいかがですか。今夜は外せない会合がありますので、まだ長丁場になります」  ふむ、とエルロンドはため息をつく。  自分以上にグロールフィンデルは働いているのだから、疲れているのは同じだ。 「…そうだな。30分だけ、休ませてもらおう」  エルロンドは社長の椅子から立ち上がると、ソファに移動した。そして、隣を指さす。 「………」  グロールフィンデルが隣に座ると、エルロンドはその膝に頭をのせてごろりと寝転がった。 「    」  そのまま目を閉じる。  グロールフィンデルは、子供に示すようなため息をつく。  そして、ソファにもたれかかって、目を閉じた。 「あーこんなところで寝ていると、二人と風邪をひくぞ」  社長室に入ってきたエレストールは、盛大なため息をつく。 「まったく」  ギル=ガラドの所にいた頃と、ちっとも変わらん。  まだ青臭さの残る青年二人は、寄り添うように居眠りをする。 (休ませておきなさい)  そのことに関してだけは、ギル=ガラドも寛大だった気がする。  肩をすくめ、エレストールは自分の用事は後回しにすることにして、社長室を出て行った。  そのドアを閉じる音で、グロールフィンデルが目を覚ます。  時計を見て時間を確かめると、まだ静かに膝の上で寝息を立てているエルロンドに、囁きかける。 「起きなさい、エルロンド」  一呼吸おいて、その瞼に口づける。  エルロンドはうっすらと瞼を上げて、グロールフィンデルを見上げる。 「     」  ため息のような深呼吸をして、体を起こしながら、その唇にキスをする。 「よく寝た。飲み物をもらえるか」 「今すぐ」  グロールフィンデルも立ち上がる。 「社長、先ほどエレストール殿がいらしたようですが」  居眠りする二人を見て、無言で出て行ったのだろう。昔からそういう男だ。 「ああ、連絡してみよう」  自分の仕事机に座り、一呼吸つく。 「グロールフィンデル」 「なんですか」  出て行こうとするグロールフィンデルが立ち止まり、振り向く。 「私は、死ぬまでにあと何度、お前の名を呼ぶのだろうな」  何を言い出すのかと、グロールフィンデルは眉を上げ、そして、唇を吊り上げた。 「私は、あなたが死ぬまでに、あと何度、キスをされるのでしょうね」  エルロンドは肩をすくめる。グロールフィンデルは飲み物を取りに出て行った。