スランドゥイルの宝石店。 休日前の夕方。 女性客が多いこの店だが、もちろんカップルや夫婦の客もある。 男性一人の場合だと、まず彼女や奥さんへのプレゼントだ。 そんな場合、親切な女性店員が、丁寧に対応してくれる。 女性の好みに疎い男性でも、安心だ。 その日、店に入ってきたのは、一人の青年。ちょっと野暮ったく、こんな店には不釣り合いな雰囲気だ。 「いらっしゃいませ」 しかし、どんな客にも親切丁寧がモットー。 女性店員が対応に出ようとすると、珍しく店にいたレゴラスが「僕が行くよ」と、にこやかに制した。 「いらしゃいませ。贈り物ですか」  にこやかに青年に近づく。青年は、明らかにこんな店に来たのは初めてで、どうしたらいいか迷っている様子。 「えっと…彼女に…」 「恋人にプレゼントですか。いいですね。どのようなものをお探しですか」  青年は、レゴラスに目を合わせようとせず、挙動不審なくらい周りを見回している。  そして、ショウウインドウの中のアクセサリーを見て、てか、その値段を見て 「うわっ高い!!」  思わず叫ぶ。その声は意外と店の中に響き渡り、他の客たちの視線を浴びる。青年は、マズイ、という顔をする。 「そうですね。少々値の張るものが多いですが。ご予算に合わせてオーダーメイドも可能ですよ」 「オーダーメイドって…やっぱり、俺、無理」  逃げ腰の青年。そこに、どうやら暇だったらしい社長登場。 「金のない奴でも歓迎するが、愛のない奴は歓迎しない」  偉そ気に腰に手を当ててるスランドゥイルに、レゴラスは苦笑する。 「社長、失礼ですよ」 「本当のことだ。金などいくらでも工面できるが、愛は工面できん」  突然現れた堂々とした男、しかも金髪碧眼で年齢不詳、この場合決して若くないことはこの男の美貌に磨きをかけている。  何とも言えない存在感に、青年は気後れするも、一歩踏みとどまる。 「プロポーズか?」 「違う。その、彼女には、どんな指輪が似合うかなって…そう思っただけだ」  スランドゥイルはじっと青年を見下ろし、おもむろに青年の手を取ると、その指に触った。 「労働者の手だ。うむ。いい手をしている。サイズは○○号かな。で、彼女の指のサイズは?」 「えっ? わ、わかんない」   スランドゥイルはレゴラスをちょいちょいと呼んで、その手を取って青年に引き出す。 「この指とどっちが細い?」  青年は恐る恐るレゴラスの指に触れる。すると、レゴラスは恋人にするみたいに指を絡めた。  青年はびっくりして手を引っ込める。スランドゥイルは、やりすぎだ、と、レゴラスをひと睨みした。 「えっと…同じ…くらい…かな?」 「彼女の好きな色とか、石とか、あるか」 「えっ?」  青年は挙動不審に店の中を見回し、ショウウインドウの奥にあるケースに目を止めた。 「あ、あれ」  スランドゥイルとレゴラスは、青年の視線の先を見た。 「あれと同じ色がいい…」 「あれは、イエローダイアだ。値が張るぞ?」 「イエローダイアって…ダイアモンドは、不純物で色がつく。色の入ったダイアは価値が下がるんじゃ?」  ほう、よく知っているな? とスランドゥイルは眉を上げて青年を見た。青年は、そんなの当たり前だろ? という顔をしてる。  石自体の価値はそうかもしれないが、それが宝飾品となるとまた別の付加価値がつくものだ。 「レゴラス、イエローダイアだ。サイズは、お前の小指のサイズでいい。あったな?」 「すぐ持ってきます」  レゴラスは嬉々として奥に入っていくと、すぐに金庫から一つの指輪を出してきた。 「これでどうだ?」  スランドゥイルが指輪を青年に差し出す。青年は素手で指輪を受け取ると、それを天井の明かりにかざした。 「石は小さいが、細工に埋め込んであるので、普段使いでも邪魔にならん」 「すげ…」  青年は感心したように指輪に見入った。 「手練れの職人の作ったものだが、よければお前に売ってやろう」 「えっでも、俺には買えない…高すぎて…」 「じゃあ、お前が今小指にしている指輪と交換だ」  びっくりして青年は自分の指に触れた。 「………これは、俺が作ったもんだから、何の価値も…」 「価値はわしが決める」  ほんとに? からかわれているのか? 青年はオドオドと周囲を見回すが、他の客も店員も、青年に興味はないらしく、見向きもしない。  レゴラスは青年の指輪を見る。 「技術は稚拙だね」 「俺、まだ、修行中だから…」 「じゃあ、」  レゴラスは青年に顔を寄せて、にっこりと微笑んだ。 「自信がないなら、彼女を幸せになんかできないね?」 「彼女のことは幸せにする!」   青年はきっぱりと言うと、自分がしていた指輪を外し、スランドゥイルに差し出した。 「キーリ?! こんなところで何をしているの?!」  外出から戻ったこの店の女性店員は、思わず叫んだ。そして、慌てて口を両手で塞ぎ、青年と社長に駆け寄る。 「ああ、タウリエル、ちょうど商談がついたところだ」  スランドゥイルはニッと笑い、あのイエローダイアのピンキーリングと青年の手作り指輪を交換したと言った。 「えっ、あの指輪は、昨日納品されたばかりでしょう? デイルから」 「違う、エレボールからだ。あ奴の作った指輪など、うちのショウウインドウに並べたくない」  またそんなこと言って。レゴラスは失笑する。  スランドゥイルは飄々とまた店の奥に戻って行った。若い二人は、放っておこう。  レゴラスも後をついて行く。 「父さん、その指輪、どうするの?」 「技術は拙いが、トーリンの紋章だ。面白いじゃないか」 「ほんと? それだけ?」  立ち止まり、振り向いたスランドゥイルは、ニヤッと笑った。 「ミスリルだ」  指輪をレゴラスに投げ渡す。 「え、それじゃ…」 「坊や、あとで叱られるだろうな。ミスリルとプラチナの交換じゃ」  そりゃあひどい。 「でも、あのイエローダイアの指輪も、ダインのところで作ったもんだ。悪くはないだろう」  レゴラスは肩をすくめた。  きっと近々、ダインかトーリンか、キーリの兄のフィーリあたりから、抗議の電話が来るんだろうな。