スランドゥイルの宝石店 金持ちの集まる高級繁華街の外れ。 スランドゥイルの経営する宝石店は、さほど広くない。ぐるりと一周簡単に見渡せるほど。 店は、売っている、というよりは、展示に近い。 パッと見、閑散として見えるが、実際は顧客とマンツーマンで取引することが多く、 まあ、息子を筆頭に直接顧客の家に行ったり、どこぞのホテルだのなんだの、外で商売することが多い。 そんなわけで、店が大繁盛で客で溢れかえるなんてことはない。 それでも、宝石店というより、宝石アクセサリーの展示場みたいな店は、たいていそこそこ客はいる。 その日の閉店間際は、お得意さんの初老の女性と、若い女性の二人連れの客がいた。 この店のモットーは、基本、店員がマンツーマンで対応するので、若い女性店員がそれぞれの客についている。 ちなみに、この店の常連、あえて店に来る常連のほとんどは、 この店の社長(ビルの上階のオフィスにおり、時折店に降りてくる)と、 店舗担当の息子(お得意さん周りで留守のことも多いが)である。 もちろん、他の女性店員も美人揃いだし、対応も気持ちいい。 買わなくてもふらっと寄りたくなる。 常連お得意さんの女性は、店員とにこやかに新作アクセの話をしていて、この場で買う気はないっぽい。 大方、目星をつけて後で持ってきてもらう派。 若い女性二人は、楽しそうに、真剣に自分ご褒美アクセを選んでいた。 その時、 高級宝石店には似合わないような風体の男が、ふらりと店に入ってきた。 「いらっしゃいませ」 手の空いてる店員がにこやかに近寄ると、男は片手であっちに行けと身振りし、ショウウインドウに近づいて商品をのぞき込む。 すぐそばにいた若い女性客は眉をひそめる。店員はすぐに女性客と男の間に入って、女性客の視界から不審な男を追い出す。 と、思った通り、というか、男は突然拳銃を取り出して、女性店員の腕を掴んで、その頭に銃口を向けた。 「きゃっ!!」 女性客が悲鳴を上げると、店員の方は、「大丈夫ですお客様」と微笑んだ。 「大丈夫じゃねえ!! そこの宝石を全部ケースから出せ!!」 「手を放してください、お客様」 「うるせぇ!!」 次の瞬間、 その場にいた数人の女性店員は、全員護身用の小型の拳銃を構えて、銃口を男に向けた。 「?!」 「手を放してくださいませ、お客様」 人質にとたれた店員が、真顔になる。 強盗に入ったつもりが、きれいな顔をした若い女たちに一斉に銃口を向けられるという屈辱。 男は苛立たしげにぶるぶると震えた。 「こいつを殺すぞ!!」 「その汚い手を放せと言っている、クソ野郎」 男の首にナイフの刃が当てられる。物音も気配もしなかった。男は「ヒッ」と悲鳴を上げて、パニックになって引き金を引く。 が、銃口を向けられていた女性は男の手を払落し、男は見事無様に自分の足を撃ちぬいた。 「うるさいぞ。他のお客様の迷惑だ。レゴラス、汚い言葉遣いはやめなさい」  男を羽交い絞めにしたレゴラスは、ぺろりと舌を出す。 「みんなも、店の中で物騒なものを振り回すんじゃない。商品に傷がつくではないか」  銃を構えていた店員たちは、肩をすくめて銃をしまう。 「社長、申し訳ありません」  店の奥から現れたスランドゥイルは、つかつかと強盗に歩み寄ると、ぎろりと睨む。 「た…助けてくれ…出来心で…」 「…………嘘をついている目だ。レゴラス、裏に連れて行きなさい。店が汚れる」 「はい社長」  小柄で細いくせに、どこからそんな力が出るのか、レゴラスは強盗をずるずると店の裏に引きずって行った。 「今日は店じまいだ。掃除をせねばならん」  強盗の泥靴の足跡と、血痕で床が汚れている。  それから、スランドゥイルはくるりと振り返り、 「けがはないか、タウリエル?」 「はい、大丈夫です社長」  スランドゥイルは手近にあった細い銀のチェーンを手に取ると、まだびっくりしている若い女性客一人一人の首に、そのチェーンをかけた。 「お騒がせしたお詫びです、レディ」 「え? あの…」 「もしよろしかったら、今度またいらしてください。そのネックレスのペンダントトップを探しに」  微笑んでみせると、女性客二人は、ころりとハマった。 「奥様、お騒がせして申し訳ない」  常連の方にも歩み寄る。 「びっくりしたわ」 「では、お詫びに、今度ゆっくりお茶でも」 「まあ、得したわね」  常連は、頬を染めてニコニコと笑った。  数十分後、強盗は警察に引き渡された。  引き取りに来た警官は、呆れたように苦笑した。 「ばかだなあ、俺だったら、死んでもここだけは狙わないぞ」 スランドゥイルの宝石店。  たぶん、世界一警備が頑丈。