「いいなぁ僕も結婚したいなぁ」
 平日の昼下がり、混雑するバーガーショップでレゴラスは頬杖をついて呟いた。
「あぁ?」
 また分けわからんこと言い出した、と、アラゴルンはため息をつく。
「今度は何だ?」
 ポテトをタバコのように咥えて眉を寄せる。
「この前さ、うちの若いのが結婚したんだよね」
 うちの若いの、ってセリフ、レゴラスには似合わな過ぎる。お前が最年少じゃないのか?
「ギムリの親戚筋の若造が相手なんだけどさ」
 若造って…
「相手に不満とか?」
 いや、不満なら自分も結婚したいとかふざけた事は言い出さないだろう。
「なんて言うの? …若造なんだよ。青臭いの。
その結婚した若い子ってのがさ、父さんが娘みたいに可愛がってて、
まあ僕も兄妹みたいなもんだし、いい子なんだけど気が強くてさ、
男っ気なんか今までまるでなかったのに、何を血迷ったか突然、突然だよ? 
コロッと男に落ちちゃうなんて」
「あーアナ雪ってアニメでそんなのあったな」
「そんな感じ」
「で、お前はエレサみたいに結婚なんか許さん、と?」
「いやいや、僕にそんな権限ないよ。
でも父さんが怒って、彼氏呼び出して、うちの娘に手ぇ出したな!って怒鳴ったの」
 うーむ、想像できる。
「したらさ、その彼氏、足がくがく震えながら、
結婚を許してもらえないなら駆け落ちします、て宣言してさ」
 ほう、それはなかなか。
 アラゴルンは想像してニヤリと笑う。
「親父さん、許したろ?」
「わかる?」
「わかるわかる。気風のいいやつ、好きだもんな。で、なんだ、お前もその場にいたのか?」
「いたいた。一応妹みたいなもんだから、ね」
 妹なのか姉さんなのか。まあそこは置いといて。
「でさ、結婚式がまた大変なわけ。父さんはあんなだから、
娘同然のタウリエルには豪華な結婚式を自分のポケットマネーから出してやるって
息巻いていたんだけど、相手、彼氏の方も有力者の家系だったもんだから、
そこの叔父が自分が全部金出して取り仕切るって言い出して」
「面倒くさい」
「そう。本人同士がもうやめてくれって、2人だけでこっそり式あげたいって言い出したんだけど、
両家の親戚納得しません、みたいな?」
 想像して、アラゴルンは肩を震わせて笑いを堪える。
「まあ何とか折半で話しつけてね、それでこの前結婚式挙げたんだけどさ。
父さんも目を潤ませちゃって。ギムリとか感動して号泣。
だからさ、ギムリに結婚したいならしてもいいよって言ったら殴られた」
 ギムリは極々ノーマルだからな。
「そんなこんなで、色々あったけど、幸せそうな2人見てたらさ、なんかいいな、って。
僕もあんなふうに結婚したいなぁ」
 片手で頬杖をつき、片手でポテトを弄ぶ、レゴラスの両手を、アラゴルンはガシっと握った。
「結婚しよう」
 しばし驚いてアラゴルンを見つめた後、レゴラスはにっこりと笑った。
「その結婚指輪を外したらね」
 自分の薬指を見下ろし、アラゴルンは手を離す。
「レゴラス………」
「まあいいけどね。あんなふうに、普通に恋をして普通に結婚して、
普通の生活が送れるなんて、憧れるけど、僕には無理だし。自分で選んできた道でもあるし」
「俺と逢わなければ」
「うん、きみと逢わなければ、普通に結婚できたかも」
 放置された冷えて硬くなったポテトを眺める。
「だから、責任とって、この冷えたポテト全部食べてね。残しちゃだめだよ。
もったいないお化けが出るよ。
じゃ、僕は仕事に戻るから」
 レゴラスは席を立ちながら、数本のポテトを鷲掴みにしてアラゴルンの口に突っ込んだ。
「むぐっ」
 そして、アラゴルンの唇の端にチュッとキスをする。
「結婚はできないけど、愛しているよ」
「んっ」
 ポテトが飲み込めず、返答できないアラゴルンににっこりと笑いかけ、レゴラスは店を出て行った。