「ハッピーハロウィン!! お菓子いらないから悪戯させろ!!」
 社長室のドアを蹴り破らんばかりの勢いで入ってきたレゴラスに、仕事中のアラゴルンとその秘書ボロミアは顔を引きつらせた。
「レゴラス、そのセリフ、おかしいだろ?」
「おかしくないよ。甘いお菓子は嫌いだし、悪戯したいし」
「でか、その服もおかしいだろ?」
 にっこり笑って「にゃん」ポーズを取るレゴラスは、ミニスカ黒猫コスプレ。胸の部分が膨らんでるのは、気のせいか? 
 アラゴルンの視線に気付いて、レゴラスは伸縮性のあるブラっぽい胸当ての首の部分をびよ〜んと伸ばしてみる。
「ここに来るまでに、受付の女の子とか、きみの所の社員とかに、ここにお菓子詰め込まれた」
 なるほど、胸の部分にはキャンディやらマシュマロやらが詰まってる。
 お前はキャバ嬢か。
 ウチの社員も何をやってるんだ!!
 頭を抱えるアラゴルン。ボロミアは苦笑している。
「というわけで、もうお菓子いらないから悪戯させて」
 言うなりボロミアに飛び掛る。
「うわっ」
 低い悲鳴を上げて、ボロミアがひっくり返る、レゴラスは馬乗りになってボロミアの腹部分やわき腹をくすぐった。
「ひゃっやめっ」
 強引に押し戻す事もできず、ボロミア涙目。
「にゃははっボロミア可愛い〜〜〜」
 ひとしきりくすぐったあと、満足げに立ち上がるレゴラス。そして、アラゴルンをちらり。アラゴルン、ドキリ。
 アラゴルンににじり寄り、顔をじっと覗き込む。
「何をしてくれるのかな?」
 期待交じりにアラゴルンがニッと笑うと、レゴラスもにっこりと笑い返す。
「放置プレイ」
「は?」
 顔を引きつらせるアラゴルンに、レゴラスはくるりと背を向けた。
「じゃあね〜! 仕事に励みたまえ!」
 


「お菓子いらないから悪戯させろ〜〜〜〜!!」
 エルロンド邸。リビングの窓から飛び込むと、待ってましたとばかりの双子に取り押さえられる。
「黒猫ゲットだぜ!!」
「うにゃあ!」
「お菓子なんかやらねぇ! 悪戯してやる!!」
 もみくちゃにされる黒猫レゴラス。
 そこに、まるで自宅のように当然平然、ばーんとドアを開けて入ってきたのは、青筋立てたスランドゥイル。
「あれ、父さん?」 
 だいぶはだけた様子のレゴラスが、笑顔を凍らせる。
「何やってる馬鹿息子?」
「え、ハロウィン」
「卑猥な行為にしか見えんが?」
「えー? こんなのいつもだよ〜〜〜」
「ほう?」
 そう、いつもいつも、と双子もちょっとびびりながら口を揃える。
「なに? なんで怒ってんの? てか、なんでここにいるの?」
 レゴラスに群がる双子を引っぺがし、スランドゥイルは息子をひょいと抱き上げた。
「え〜〜〜〜?! なに〜〜〜〜〜〜??!!」
 叫ぶレゴラスは嬉しそう。
「お前が企画した社のハロウィンパーティーに主催者がいないと社員がわしのところに電話してきた」
「あ、忘れてた」
「忘れてたじゃねぇ!!」
 親子喧嘩に、双子は微笑ましく手を振った。

 ミニスカ黒猫息子を車に詰め込み、社員の宴会が開かれている自宅
(正確には自宅近所の空き地で、周囲みんな社員だったり友達だったりで、
しょっちゅうこの空き地で宴会が開かれている)までやってきて、スランドゥイルは車を止めた。
「ったく、わしはまだ仕事が残ってんだ。お前が宴会盛り上げとけ」
 社員にハロウィン休暇やって、自分は残業。でもどうせ、何を言っても聞かないんだ。
 レゴラスは唇を尖らせると、がばっと父に抱きついた。
「父さん、お菓子くれないから悪戯する」 
 膝に乗ってキスをする。それも、ちょっとしたキスじゃない。舌を絡めるディープな奴。
「………」
 数秒、困ったなあと視線を泳がせていたスランドゥイルも、レゴラスを抱きしめ返す。
後ろ髪に指を絡め、息もできないほど深く口づける。
「ん……」
 ちょっとレゴラスがもがき始めるが、かまわず強く抱きしめて、口の中を嘗め回す。飲み込めない唾液が唇の端から滴る。
 ぴくん、と身体が反応し、レゴラスはスランドゥイルの腕の中で脱力した。頬を染め、うっとりと瞳を閉じている。
「………すご…」
「10年早いわ、馬鹿者」
 はぁ…とレゴラスは熱いため息を漏らした。
「気が済んだか」
「うん」
「じゃ、着替えろ。そんな馬鹿みたいに破廉恥な姿を曝すんじゃない」
 ん〜? とまたぼやける頭で父を見上げる。
「だめー? 可愛いのに」
「かわいくない」
 ちぇーっとつまらなそうに舌打ちして、車の後部席に這って行って、積んであるスーツに着替える。真っ黒スーツ。
「これじゃ仮装じゃない〜」
「耳だけ許可する」
 真っ黒スーツに黒猫耳カチューシャ。ま、それはそれで悪くない。
「いいか、脱ぐな。肌曝すな」
 また助手席に戻ってきて、父に擦り寄る。
「あとで気持ちいいことしてくれたら、いい子にする〜」
「あとでな。とにかく、今夜中に書類を送らなきゃならんし、わしの仕事の邪魔をするな」
「わかった〜」
 甘え声で頬にチュッとキスをし、車を出る。そこで一度伸びをしてから、真顔を作り、高感度の高いさわやかな笑顔を作る。
「じゃ、社長、またあとで」
 手を振って、レゴラスは宴会場に駆け出した。