「なに? 何の様?」
 不機嫌そうに装って、レゴラスはアラゴルンを家に招き入れた。
 エルロンド邸。もはやレゴラスの第二の自宅。
「メシ、作りに来たんだよ」
 まったく気分を害する風もなく、アラゴルンは勝手知ったるで入ってくると、キッチンに直行。
「なんでキミ?」
「何でって、エルロンドは残業で泊り込みだし、双子はコンパで帰らないし」
「食事くらい一人でできるよ」
「どうせ缶詰とかだろ?」
 ちょこちょこあとをついてきたレゴラスをあしらいながら、さっさと料理を始める。
「わざわざ誰もいないときに来たってことは、美味しいもの食べさせてくれるんだろうね?」
「普段、双子が絶対作らなそうなもの」
 振り向いて、ウインク。
「カレーライス」



 非常に手際よく料理をするアラゴルンの後で、キッチンテーブルに座って興味深げに眺めているレゴラス。
 きっと、双子が料理をしている時も、こんな感じなのだろうな、などと、その視線に心地よさを感じてしまう。
「いつもそこでメシができるの待ってるのか?」
「まさか。僕はそんな暇人じゃない」
 振り向くと、レゴラスは視線を逸らす。
「邪魔だったら、リビング行ってる」
 拗ねたように立ち上がる。
アラゴルンは苦笑して、鍋の中のものをスプーンですくってレゴラスに差し出した。
興味深々で近付いたレゴラスがぱくり。
「なにこれ?!」
「だから、カレー」
 さっと腰に腕を回し、唇にチュッと音を立ててキスをする。
「いい子で待ってな」
 レゴラスはまた元の場所に戻って、頬杖をついてアラゴルンを眺めた。



「なにこれ、美味しいー! カレー? カレーって、インド料理だよね?」
「そう。でもこれはジャパニーズカレー」
「違うの?」
「違うの」
 へーそーなんだー! と感心しつつ、おかわりまでするレゴラス。
その細っこい身体の、いったいどこに入るんだか。
「なんでこんなの知ってるの?」
「ドゥナダンは物知りでね。見直したか?」
「料理だけはね」
 そう言って、笑い合う。

 リビングでジャンクフードとコークとビールで、
流行のテレビドラマを見ながら、とりとめない時間を過ごす。
「やんなくて、いいの?」
 視線をテレビに向けたまま、レゴラスがぼそりと呟く。
「うん?」
「セックス」
 んー、とアラゴルンはわざとらしく唸ってから、
「今夜は、いいや」
 そう返した。
「やりに来たんじゃないの」
「いつでもできるし」
「いつでもやらしてあげないよ」
 会話が途切れ、テレビの音だけが空しく騒ぎ立てる。
「今夜は、特別」
「何が特別なのさ」
「エルロンドも双子も、アルウェンも、スランドゥイルの親父さんも、
みんなが気を利かせてくれないと、過ごせない、貴重な時間だ」
 ふと、レゴラスがアラゴルンを見上げる。
 わかってる。
 みんながお膳立てしてくれた、特別な、夜。
 一年に、一度くらい、そんな日があってもいいと。
 二人だけで、ゆっくり過ごせる夜。
「こういうの、苦手」
 そう言いながら、そっとアラゴルンの手を握る。
「もっと、激しく、乱暴にして欲しければ、俺はそれでもいいけど」
「それはいつもだろう?」
「ま、ね」
 少し考えて、レゴラスはアラゴルンの膝に、ごろんと横になった。
「じゃ、今夜はセックスなしで」
「………やっぱり、したくなったら?」
 膝の上からアラゴルンを見上げて、レゴラスは人差し指を唇に当てた。
「ベッド、行こう。でも今は、ドラマの続き見よう」
 起き上がって、コークに手を伸ばす。
 そして、アラゴルンに微笑む。
「ああ」
「飲みすぎて酔わないでよ」
 ビールを手に取るアラゴルンに釘を刺す。
「はいはい」
「泥酔して、いつもみたいなやり方、嫌だからね」
「優しくするよ」
 そのまま抱き寄せて、唇を重ねる。
 そっと。



 七夕。
 一年に一度の、恋人の逢瀬。