「ねぇ、レゴラス、明日時間あるかしら?」 お昼休み。社長室でケータリングの焼肉弁当(最近和食ブーム)を頬張っていたレゴラスに、電話が入った。 「ショッピングに付き合ってくれない?」 「え? いいよ! もちろん!」 スマホの向こうの愛らしい声に、レゴラスはニコニコと応える。 「でもアルウェン、買いたい物があるなら御用聞きに行くよ?」 「ガラドリエルおばあさまはいつもそうしてるけど、私は自分でショッピングに行きたいの。 色んなお店を見て、美味しいもの食べて、お散歩したいわ」 「うん、いいね! 明日天気良さそうだし。夏物が出回る季節だし」 レゴラスは上機嫌で待ち合わせの時間と場所を決めた。 「で、なんでキミがいるわけ?」 レゴラスがアルウェンの家に行くと、当然のごとくアラゴルンが待っていた。 「失礼だな。買い物に行くって言うから、車を出すんじゃないか」 「ああ、そうか。それと荷物持ちと財布だね」 そりゃ確かにそうだけど、そうはっきり言われるとミもフタもないじゃないか。 専属運転手兼荷物持兼財布。 最近オープンしたショッピングモールを, きゃぴきゃぴしながら見て回るアルウェンとレゴラスを 後から無言でついて行きながら満足げに眺める。 そりゃあ、美人の二人だ。 アルウェンは清楚な白いワンピースで、レゴラスはシャツとスラックスなのだが, これがボーイッシュな少女にしか見えない。(もちろん、本人も意識してのチョイスだ) というわけで、二人が並んでいると、美人姉妹にしか見えない。(多少アラゴルン妄想あり) その二人が手を繋いで談笑しながら歩いていると、それはもうイケナイ女子学園な妄想が……… って、アラゴルンは、二人が入っていった店の前で、かなり手前で足を止めた。 (女性用下着専門店) 普通に入っていける、そして違和感のないレゴラスを、ちょっと尊敬。 「あらレゴラス、あなたにはこちらの方が似合うわ」 「え、じゃあおそろいで買おうよ、アルウェン」 きゃぴきゃぴした声に、アラゴルンの顔が引きつる。 マジか? いや、マジなら装着した姿を見たい………。 アラゴルンの引きつった顔がにやける。 おっといけない。 慌ててアラゴルンは喫煙所を探しに行った。 で、戻ってきてみると、買い物を済ませた二人が店から出てきた。 「はい、荷物持ち」 アルウェンの買い物袋を持っていたレゴラスが、それをアラゴルンに手渡す。 「……レゴラス、ホントに自分用、買ったのか?」 こっそり小声で聞くと、レゴラスはにっこりと微笑み、 「ばか? なんで僕が女の子用の下着買うわけ? ヘンタイ!!」 ドスの効いた返事が返ってきた。 で、女性のショッピングのパワーはすごいなと再認識。 「ねえ、これとこれ、どっちがいいと思う?」 店先で新作のカーデガンを両手に持って、アルウェンがレゴラスに見せる。 白と薄いピンクと淡いグリーン。 「どれも似合うけど、僕は白とグリーンがいいな」 「どっちを買おうかしら」 「両方買っちゃいなよ。すっごく似合うし、かわいいよ。ね?」 意味ありげにレゴラスがアラゴルンに振り返る。 「ああ、両方買えよ」 え、ホント? いいの? と嬉しそうに笑うアルウェンの笑顔、プライスレス。 アラゴルンは何の躊躇もなく財布からカードを取り出した。 アルウェンに渡してあった本日の買い物予算は、とうに消えていた。 天下一品お嬢様アルウェンは、そうそう買い物を楽しむこともなく、 超過保護の祖父母父兄達のおかげで外出もままならない。 そりゃあ、アルウェンのお母さんがあんな亡くなり方をしたのだから、仕方ないのだが。 だから、今日くらい散財してもまったくかまわないと思うアラゴルンであった。 アルウェンの無邪気で楽しそうな顔を見るのは、この上ない幸せだし。 アルウェンはレゴラスを妹のように可愛がっていて(性別違うが) レゴラスもアルウェンになついていて、ショッピングやランチをたまにこうして楽しんでいる。 それにはもう一つ理由があり、レゴラスがついていればアルウェンは安全、 と誰もが思っているから、アルウェンがレゴラスと出かけたいというと、誰もが了解してくれる。 エルロンドも双子兄も、喜んで送り出してくれる。 ショッピングモールを一通り回り、アラゴルンも買い物袋を両手で持つほどに増え、 それでも女子どもの(?)パワーは収まらない。 「アルウェン、疲れない? ちょっと休もうよ」 「疲れたの、レゴラス?」 一晩中ダイハードできるレゴラスが、半日のショッピングで疲れるわけがない。 「うん、ちょっと座ろう」 にっこりと中庭の公園のベンチを指差す。もちろん、アルウェンへの気遣いだ。 木陰のベンチに並んで座る。 「知ってる? あそこのパーラーのアイス、今話題なんだよ。テイクアウトできるの。 食べようよ。アラゴルン買って来て」 アルウェンに向かって微笑みながら、命令口調。 はいはい、とアラゴルンは肩を落とす。 「僕はレモンライムのシャーベット。アルウェンは? オススメはねえ、ダブルベリーのクッキークリームだよ」 「ではそれにするわ」 「量が多いから、ハーフサイズでいいと思うよ。トッピングはフルーツミックスね」 「はいはい」 抱えていた荷物をベンチに置き、アラゴルンはショッピングモールに戻っていった。 「しばらく時間かかるかもね。あの店、いつも並ぶから」 「詳しいのね」 にっこりレゴラス。彼の情報収集能力は斥候並みである。 休日の混雑を避け、平日の午前中に来たのだが、それでも流行のスポットだけにそこそこ混んでいる。 「ねえ、二人?」 軽薄な声色に、談笑していたレゴラスはひくり、と口許を引きつらせた。 「ここ、暑くない? ステキなカフェがあるんだけど、一緒に行こうよ。 流行のハワイアンパンケーキの店」 案の定、ナンパ男二人組み。 そもそも、レゴラス一人でいても男にナンパされるくらいなんだから、 美人のアルウェンと一緒ならナンパされても当たり前。 「遠慮するよ。それに、カレシ待ってるし」 「カレシ来ないじゃん。行こ」 頭のてっぺんからつま先まで、ファッション雑誌から抜き取ったようなファッションセンス。 個性がない。まあ、アラゴルンは個性ありすぎだけど。 「行かないって言ってんの。しつこいよ」 「マンゴーフィズが美味しい店があるんだけどな」 「いらないし」 「おごるからさぁ」 ナメとんのか?! 隣の高級ホテルの最上階でフルコース食べられるほど金は持ってるわ! 「オニイサン、いいかげんにしないと怒るよ?」 アルウェンがそっとレゴラスに寄り添って手を握ってくる。お嬢様はナンパ慣れしてないのだ。 「ね、キレイなお姉さん」 ナンパ男がアルウェンの腕を掴む。アルウェンがビクッと震えると、 レゴラスはムッとしてナンパ男の手を振り払った。 「汚い手で触らないでよ」 「!」 ヒクッと男の顔が引きつる。引きつったまま 「行こうよ。イイコトしよ。仲間呼ぶからさ、天国見せてあげるよ」 もう一度アルウェンの腕を掴もうと手を伸ばしてきたところで、 レゴラスはすっと立ち上がってその手を蹴り弾いた。 もう一人がレゴラスに掴みかかるが、レゴラスは避けずにグーパン一発。 アルウェンを背後に隠す。 「なに? オニイサンたち、天国見たいの? 仲間呼んでいいよ。 20人くらいなら一瞬で昇天させてあげるから」 「レゴラス」 震える声でアルウェンが名前を呼ぶが、レゴラスは片手でそれを制した。 「5秒あげるから、去りな」 1…2… カウントアップする。二人のナンパ男はズボンのポケットからナイフを出す。 と、出した瞬間レゴラスに蹴り上げられ、その一本をレゴラスが握り、 もう一人はナイフを握ったままけり倒されて、その手をレゴラスに踏みつけられる。 「うっ」 踏みつけられた方は痛みに気色悪い低い呻きを上げ、 もう一人のナイフを取り上げられた方の男に、レゴラスは華麗にナイフをくるりと回し、 その眼球の間近に切先を向けた。 「痛いよ」 残忍に笑んで、切先で鼻の頭に触れる。 「ヒッ」 「…3…4…」 カウントアップを続ける。 と、そのナンパ男の頭上からアイスが降ってくる。 「やめろ、レゴラス」 両手に持ったアイスを男の頭にぐりぐりと押し付け、アラゴルンはレゴラスからナイフを取り上げる。 レゴラスは心外だ、という顔をする。 「足もどけろ。指の骨折れるぞ」 「折るつもりだけど」 足に力を入れる、足の下の男が悲鳴を上げ、アラゴルンはレゴラスを抱きかかえてわきにどかした。 「いい加減にしろレゴラス、昼間っから」 静かに叱咤する。 「アルウェンが怯えてる」 振り返ったレゴラスは、体中から緊張感を解いた。 アルウェンの隣りに腰掛け、悪い事をした子犬みたいにアルウェンに擦り寄る。 「ごめん、怖かった? 怒ってる?」 アルウェンは優しく微笑む。 「ちょっと驚いただけ。怖くないし、怒ってないわ」 そう言って、レゴラスを抱き寄せた。そして、タイミングよく現れたアラゴルンに視線を送る。 (ありがとう) アラゴルンもニッと笑い、ナイフを男に返すと、 「ほら、今のうちに消えろ」 とこれまたドスの聞いた声で言った。 ランチはショッピングモールを離れ、ホテルの高級レストランで取る事にする。 ちょっと公園で目立ってしまった後ろめたさがある。 「やりすぎだ、レゴラス」 「だってしつこいんだもん。手加減はしたよ」 「あれを手加減とは言わない」 むすっと口を尖らせる。 「そもそもキミが帰って来るのが遅いのがいけないんだ」 「アイス喰いたいって言ったのはお前だろ。けっこう並んだんだぞ」 「そんなの根性で5分で帰ってきなよ」 「無茶言うな」 くすくす、とアラゴルンの隣でアルウェンは笑った。 「レゴラスは、アラゴルンに無茶ばかり言うのね」 「アラゴルンが頼りないのがいけないんだよ、アルウェン」 そうなの? と微笑んでアラゴルンを見上げるアルウェン。 「ひどいな。俺はレゴラスに信用されていない」 不貞腐れたようにアラゴルンが呟く。 ふふふ、とアルウェンは手を口に当てて笑い、 「冷めないうちに食べましょ」 運ばれてきた料理を指し示した。 その晩。アラゴルン邸。 リビングで、アラゴルンはアルウェンのためにお茶を入れてきて隣に座った。 「今日は楽しかったわ。ありがとう」 「それはよかった」 アラゴルンの肩に頭を乗せ、アルウェンは小さくため息をつく。 「どうした?」 「ううん、あのね……レゴラスは、本当に、あなたがいないとだめなのね」 アラゴルンは眉をひそめる。 「そんなことは、ないだろう」 「昼間だって、はやくあなたに止めて欲しかったのよ。わがまま言って、あなたに甘えているの」 「………」 「私は、そんなレゴラスがかわいいし、一緒にいて楽しいの。 ね、これは私のわがままなのはわかってる。でも、いつまでもこのままでいたい。 あなたも、レゴラスも」 「俺は………」 ふと頭を離して、アルウェンはアラゴルンを見つめた。 「あなたもレゴラスも大好きなの。これはいけないこと? あなたがあの子を抱いている事も、私はそれでいいと思ってるの。 だって、あの子にはあなたが必要なんですもの。私、ずっとこのままでいたいの。 あなたは、こんな私を赦してくれる?」 見上げてくるアルウェンに優しくキスをし、アラゴルンはそっと抱きしめた。 「アルウェン、きみが赦してくれるなら」 アルウェンはアラゴルンの背中に白い手を回した。