「うわー暑苦しい」
 とりあえず社長なのでスーツを着てるアラゴルン。
汗だくというわけではないが、中途半端に伸びた髪と髭は、
真夏には見ているだけで鬱陶しい。
「ウルサイ」
「スマートじゃないよね」
「ほっとけ」
「真夏に会いたくない人、ナンバーワン」
 そういうレゴラスは、セーラーに半ズボン。
「なんだ、お前のそのふざけた服は?!」
「ビョルン・アンドレセンみたいでしょ?」
 アラゴルンの顔が引きつる。
「『ヴェニスに死す』かよ」
「僕に恋焦がれて死になさい」
 がっくり肩を落とすアラゴルン。

「おう、待たせたな」
 実は、仕事の打ち合わせでスランドゥイルの会社に来ていたアラゴルン。
社長の会議が長引いていたので、その間レゴラスが相手をしていた。
 社長室に帰ってきたスランドゥイルを見て、アラゴルンは顔を引きつらせる。
 只今我社はクールビズ発令中。
 と、いうわけで、アロハに短パン、ビーサンの社長。
髪はポニーテールで、片手にウチワ。
「そういうの、アリなんですか?」
「ん〜? 社内会議だからな」
 平然と自分の椅子に座る。
「お前はホント、暑苦しいなあ」
 親子に言われ、アラゴルンがっくり。
「お前暑そうだから、店舗の応接室行くか。あそこはクーラーかかってる」
 店舗と工房はエアコン完備。
「いえ、こちらでけっこうです」
 アラゴルンは、スーツの上を脱いで、シャツの袖をまくった。
「レゴラス、なんか、冷たいもん、持って来てやれ」
「イチゴとメロンとレモンと、何がいい?」
「はい?」
「わしはレモン」
「アラゴルンは?」
 何の事かとしばらく考え、
「……え…と、じゃ、メロン」
「舌、緑になるよ?」
 ニコニコしながら、レゴラスは出て行った。
 数分後、巨大なカキ氷登場。
「ねえ、社長、今度、浴衣祭やろう! 社員みんな浴衣で仕事!」
「うむ、悪くないな。夜はそのまま暑気払いだな」
「決定〜〜〜! じゃ、みんなに知らせるね」
 楽しそうに社内連絡用ラインをいじりながら、レゴラスは出て行った。
 そんなレゴラスを、苦笑して見送る。
「…なんだか、楽しそうですね」
「ん? 何がだ?」
「ここは、いつ来ても、みんな楽しそうですから」
 スランドゥイルは、ニッと笑う。
「わしの、理想郷、だ」



 スランドゥイルの信念の元で育てられたから、
 レゴラスはそれだけ魅力的なのだろう。



「………レゴラス、もらっていいですか」
 不意に口走るアラゴルンに、スランドゥイルは一瞬真顔を見せ、
わざとらしく首をひねった。
「緑色の舌でそんなことを言われてもなあ」
 アラゴルンは、盛大に引きつった。



 わかっている。
 レゴラスは、ここから離れたら、生きていけない。



「好きにしろ」
 ぼそっと呟いて、スランドゥイルは仕事用のタブレットをアラゴルンの前に置いた。
「さっさとカキ氷喰っちまって、打ち合わせを済ませるぞ。
夕方までには仕事を終らせて、ビアガーデンに行くのだからな」