窓から朝日が差し込む。 暖かい朝だ。 小鳥のさえずりも聞こえる。 風が揺らす木の葉のささやきも。 こんな自然のメロディーが聞こえてくるという事は、 ここは自分のマンションではない。 自分が住まう高層マンションでは、窓を開けることさえままならず、 外の音が聞こえてくる事はほとんどない。 聞こえてくるのは、空調の低く唸る音くらいなものだ。 こんなおだやかで、暖かな空気に包まれて目覚めるのは、 「彼」の家くらいなものだ。 「彼」の家の雰囲気に慣れるまでに、時間がかかった。 滅多にこの家で朝を迎える事はなかったし。 「彼」との関係は「秘密」であったから、 人の出入りの多い「彼」の家に泊まることは、ほとんどない。 昨夜も、「彼」を自分のマンションに呼んだ。 そこで一夜を過ごすつもりでいた。 「彼」の好きな料理を作り、「彼」の好きなワインを用意し。 マンションでの食事の後、「彼」は突然、仕事を思い出したと言い出した。 どうしても家に戻り、「彼」のパソコンから取引相手に資料を送らなければならないと。 そこで、仕方なく、封を開ける前のワインを携えて、「彼」の家まで送っていった。 「すぐ終るから、待ってろ」 そう「彼」は言った。そうして、小一時間待たされた。 待つことは、別に嫌ではない。 そうしょっちゅう一緒にいられるわけではないので、共有する時間は、貴重なのだ。 仕事が上手くいったのか、「彼」は上機嫌だった。 そう、「彼」は非常に感情的だ。喜怒哀楽が激しい。 が、どんな時でも相手への気遣いは忘れぬ男だ。 上機嫌の時の「彼」は、いたずら好きの子供のようでもある。 冷やしてあったワインを開け、冷蔵庫からチーズやハムを出してきて、 いつも給仕役に回る自分に、楽しげに食とワインを勧めてきた。 本来、アルコールはあまりたしなまない主義だが、「彼」の勧めであれば断らない。 断れない。 そうして、二人で深夜までワインを楽しみ、 いつもよりは幾分軽めの夜の行為を楽しみ、眠りについたのだ。 グロールフィンデルは、心地よい目覚めを迎えた。 明るい朝日に、スランドゥイルの濃いブロンドが反射している。 「父さんの髪は、ひまわりみたい」 いつかレゴラスがそんなことを言っていた。 陽光によく似合う、という意味だ。今朝は、なるほどそうだと思う。 グロールフィンデルが生まれ育った金華家は、 その名のとおり、屋敷の周りをぐるりと金色の花で囲まれていた。 数え切れないほどの、金色の花たち。薄い黄色から、濃い目のオレンジまで。 それに、青い空がよく栄えた。まるで、スランドゥイルの髪と瞳の色のように。 なぜか今朝は、昔の事が思い出される。 そこに、以前のような痛みはない。 柔らかで、心地よい思い出だけが、まるで選別されたアルバムのように脳裏に浮かぶ。 今朝は、とても気分が良かった。 昨夜の、適度なアルコールと、適度な運動のせいだろう。 がつがつと「彼」を求める事は、少なくなっていた。 昔のような「枯渇感」がないのだ。 気分だけではない。今朝は、体も軽い。 よほど疲労しているときでもなければ体の重さを感じることはないのだが、 それでも今朝は、いつもより軽い。 体を起こし、安らかな寝息を立てるスランドゥイルをぼんやりと見つめる。 口元を自然にほころばせ、その髪に触れる。 「・・・・・・・・?」 その時になって、グロールフィンデルはわずかな違和感を感じた。 「?」 視界に入る、自分の手。 「・・・・・・・・??」 自分の体を見下ろし、自分の顔、体を触る。 「?!」 ベッドから飛び降りたグロールフィンデルは、 洗面所に駆け込み、鏡に自分の姿を映した。 「・・・・・・・・!!!」 口を大きく開くが、さすがに無節操な悲鳴はあげない。 異変を感じ取ったのか、もう起床の時間だったのか、 目覚めたスランドゥイルが洗面所に顔を出した。 「どうし・・・・・・・・」 言いかけた口が、あんぐりと固まる。振り向いたグロールフィンデルも。 いつも見下ろしていたスランドゥイルが、目の前にいる。 言葉どおり、目の前。 つまり、これは・・・・・・。 「・・・・番犬・・・・・か?」 「私以外に、ここにいるべき人物がいるのか」 そう言い返す声も、自分のものではない。否、自分のものだ。たぶん、20年位前の。 つまり、 子供、なのだ。 わずかに自分より背の高いスランドィルを見つめる。 スランドゥイルはじっとグロールフィンデルを見つめ返し、 「とりあえず・・・服、着ろ。息子のを出してやるから」 そう言った。 事の元凶は、エルロンドだ。彼の作った怪しい薬。 それをエルロンドはグロールフィンデルを (正しくはグロールフィンデルをそそのかしてスランドィルを)実験台にしたのだ。 薬の効き目が、約24時間で切れるのも実証済みだ。 薬の残りを、グロールフィンデルはエルロンドに返していない。 下心があったわけではないが、正直、忘れていた。 「いやあ、悪かった悪かった」 スランドィルは、終始笑いを堪えている。 「お前の家で偶然見つけてな」 いつぞやの仕返しに、昨夜仕込まれたというわけだ。 レゴラスのスーツを着込んだグロールフィンデルは、 ダイニングの椅子に座って俯いている。これは、怒りか羞恥か。 「うん、息子の服がぴったりだな」 いくぶん胸がきついのは、 レゴラスが幼少の頃のグロールフィンデルより痩せているせいだ。 「・・・今日は、仕事を休めない」 声を震わせて、上目遣いにスランドィルを見る。 スランドィルはニヤニヤしている。 「大丈夫だろう? エルロンドに電話しておいてやろう。 ま、薬を作った本人なんだから、文句も言うまい」 そういう問題ではない。仕事を休めないと言っているのだ。 この姿で出勤しろというのか。 「秘書殿は病欠だとかなんとか、 そういうことにして、代わりのバイトとして行けばいい」 臨機応変。それがスランドゥイルのいいところだ。 グロールフィンデルは、また俯いた。 「けっこう、かわいいじゃないか」 笑いながらスランドゥイルに言われ、 グロールフィンデルは耳たぶまで真っ赤になった。 エルロンドには事前に連絡をしておいて、緊急的な代役として秘書室に通される。 ここはひとつ、代役を演じきるしかない。 レゴラスのスーツを着た少年グロールフィンデルに、エルロンドはしばし表情を固めた。 「もとはといえば、あなたの責任です」 十代半ばにしか見えない少年が、エルロンドを見上げ、 頬を引きつらせてとげとげしく言う。 「それは・・・そうだが」 スランドゥイルほど、エルロンドも臨機応変には対応しきれないらしい。 「早速仕事に移らせていただきますが、車の運転はできないので、ご了承ください。 運転はできますが、この姿で社長の送迎は、周囲が許さないでしょう。 本日のスケジュールは頭に入っておりますので、 これまでどおり、私の指示に従ってもらいます」 グロールフィンデルらしい言い回しだが、 いかんせん、小さくて幼くて声変わりもしていない。 エルロンドは顔を背けて、笑いを堪えた。 「今後、私を見て笑いましたら、後日覚悟をされた方がよいでしょう」 怒っている。 怒っているが、怒っている表情も、かわいらしい。 「・・・わかった。気をつけよう」 笑いを我慢できず、エルロンドは早々に社長室に逃げた。 グロールフィンデルの代理で、親戚の少年が来た。 少年はたいそうな美少年で、驚くほどの天才。 そんな噂は、あっという間にひろまる。 特にグロールフィンデルの直接下の女性秘書たち、及び女性社員たちの間で。 各部署の女性秘書たちが、書類を持って現れる。社長に提出する書類だ。 なぜかこの日に限ってその回数が多い。 そして、何度も無意味にお茶やお菓子を運んでくる。 全て、この美少年の顔を拝むためだ。 相手が普段のグロールフィンデルだと、 彼がどれだけの美貌の持ち主だろうと、皆一歩引きたがる。 なぜなら、怖いからだ。 書類を持ってくる女性たちに、グロールフィンデル少年は、 いつものように「ご苦労」と声をかけるが、 意識して、「ご苦労様です」と丁寧な言葉を使った。 自分は、中身がどうであれ、今は子供なのだ。 そして、無意識に彼女たちに「にっこり」と笑いかけた。 これは、幼少時代に仕込まれた礼儀だ。 貴族として育てられたグロールフィンデルは、 どのような階級の相手でも、卑下に扱ってはならないと叩き込まれた。 エクセリオンに。 メイドたちには丁寧な言葉を使い、尽くしてくれる彼女らに敬意を払い、 それを表情で表すように。それが、今このとき、無意識に実践されているのだ。 飲みたくないお茶を持ってこられても、必ず「ありがとう」と礼を言う。 中身を洗面所に流して、カップを空にして、「美味しかったです」とお世辞を言う。 それで彼女らは喜び、よりいっそう主人に尽くしてくれるのだ。 そんな貴族然としたグロールフィンデル少年の態度に、 エルロンドはただただ感心した。よほど厳しく躾けられたのであろう。 もし、彼の故郷があんな事にならず、そのまま成長していたら、 誰からも尊敬され敬愛される大人になっただろう。 そういった躾けは、エルロンドはされてこなかった。 かしずかれる事を当然とし、常に毅然とし続ける。それだけだ。 グロールフィンデルの体が子供になったとしても、 頭の中はそのままなのだから、仕事に支障はない。 むしろ、周囲の者が社長秘書殿を怖がらない分、円滑に温和に仕事が進む。 ような気がする。 そんな温厚な態度を取るグロールフィンデル少年だが、 エルロンドに対してだけは、とげとげだった。理由はただひとつ。 事の元凶がエルロンドだからだ。 それでも、幼少の頃から叩き込まれた習慣は、きっちりと身についている。 グロールフィンデルの意識はとげとげでも、無意識の部分では主に敬意を払い、 温厚そうな物腰は変わることがない。 エルロンドは、グロールフィンデル少年にすっかり魅入られていた。 が。 以前、スランドゥイル少年を目の前にした時のような「ドキドキ」は感じない。 あの一件で、エルロンドの美少年趣味は露見されたわけだが、 どうもこのグロールフィンデル少年には食指が動かない。 それは、やはり相手が「グロールフィンデル」だからなのか。 それとも、少年の影に見え隠れする彼の最も敬愛する男の姿のせいか。 少年の姿の端々に見え隠れするエクセリオンという男の影は、 エルロンドにとっても大きすぎる。 エルロンド自身、その男にはどうあがいても敵わないと本能が告げるのだ。 グロールフィンデル少年はエクセリオンのものであり、何人たりとも手出しはできない。 それでもまあ、仕事は順調に進んだ。 いつもより順調すぎるほど順調に仕事が片付き、定時退社の時刻となる。 もともと、この日は定時退社の予定であった。 レゴラスは親父さんとの仕事がひと段落し、早い時間に帰る事ができるので、 夕食を共にする約束をしていた。 レゴラスに時間があるということは、 その親父さんであるスランドゥイルも暇ができているわけである。 数日前からの予定で、 今夜もグロールフィンデルはスランドゥイルと会う約束になっていたはずである。 「マンションまで送ろう。私が運転する。それとも、別の場所で約束があるかな?」 仕上がった書類を片付けるグロールフィンデル少年に、 それとなくエルロンドは尋ねてみた。 書類から顔を上げた少年は、眉を寄せてエルロンドを見上げた。実に不快そうだ。 「何か、問題でも?」 それと無しに問うたのだが、グロールフィンデル少年は、大きくため息をついた。 「何か問題でも、とおっしゃるのですか?」 エルロンドが頷く。グロールフィンデル少年は、これ見よがしに肩を落した。 「あなたはこの問題に対する責任というものを、 まったく感じていないというのですね?」 とげのある言葉に、エルロンドが怯む。 「いや・・・しかし、仕事は問題なく終った。 むしろ、普段より円滑であったくらいだ。体の大きさは問題にはならないだろう。 それに、一生そのままというわけでもない。明日になれば、元通りだ。 (たぶん)もちろん、迷惑をかけたとは思っているが・・・いや、 謝罪を求めているのであれば、謝ろう。 だが私は満足しているし、 こんな状態でも普段どおりの仕事をしてくれたお前に感謝している」 ひくり、と、少年の頬が引きつる。 「・・・・あー・・・そうだな、 今夜の買出しがあるのであれば、もちろん付き合おう。 未成年がアルコールを買いに行くわけにはいかないからな」 「買出しの予定はありません」 「レストランの予約とか」 「ありません」 「何か必要なものはあるか? 私にできることなら・・・・」 グロールフィンデル少年の黒いオーラに、エルロンドがじりじりと後ずさる。 「これは私のプライドの問題です」 グロールフィンデル少年がキッパリと言う。 「社の者は、誰もお前だとは気付いていない」 「社の者の話ではありません」 「いや、その・・・そうかもしれないが・・・」 やっぱり、これから会う予定の男のことか? やはり、少年の姿であの男に会うのはイヤか? よしんばベッドまで・・・と思っていたのに、 息子ほどの姿では誘う事もできないとか。 どうやら図星のようで、グロールフィンデル少年は黙り込んでしまった。 うむう。スランドゥイルは女子供には優しいからなあ。 相手がグロールフィンデルとわかっていても、見てくれが少年では、 絶対にベッドまでは行かないだろう。 「いや・・・・本当に、悪かった。 ・・・しかし、あの薬を処分しておかなかったお前にも責任が・・・・」 ぎろり。 上目遣いのグロールフィンデルの睨みに、 エルロンドは小さく肩を丸めた。 そんな時、グロールフィンデルの携帯がバイブした。 グロールフィンデルが慌てて携帯を開く。 『おう、仕事は終ったか?』 耳鳴りがするくらい静まり返っていた社長室に、 かすかにかの人物の声が聞こえてくる。 『メシ、食いに行こうや。運転、できないだろう? 迎えに行こうか。 いや、お前んトコの会社までは行かないぞ? どこか、適当なところまで出て来い』 とげとげしていたグロールフィンデルの表情が、ほわん、となる。 恐るべし、恋の魔力。 グロールフィンデルはエルロンドに背を向け、ぼそぼそと携帯に応えている。 その姿はまるで、初恋の彼女と待ち合わせをしようとしている純真無垢な少年そのもの。 なにやら約束をして、グロールフィンデルは電話を切った。 「そこまで送ろう」 待ち構えていたように声をかけたエルロンドに、 グロールフィンデルはキッと振り向いたが、 その「キッ」は「ほわん」が半分含まれていた。 相手が厳ついグロールフィンデルではなく、 高貴な身なりをした少年であるのをいいことに、 スランドゥイルが選んだレストランは、 普段グロールフィンデルが入る事のない大衆的な民族料理の店だった。 「たまにはこういうところもいいだろう? お前なんか、大衆食堂に入った事などないだろうからな」 今夜もスランドゥイルは上機嫌。 世間知らずなお坊ちゃんを連れまわして喜んでいるようだ。 それに、車だっていつものグロールフィンデルの愛車、跳ね馬じゃない。 スランドゥイルのごっついランドクルーザー。 今夜は金だって自分で払うぞ? と、優位に夏事をすっかり楽しんでいる。 そんなスランドゥイルに、グロールフィンデル少年はすっかり振り回された。 危うく「息子に紹介してやる」などと言い出しかねない勢いで。 そして、 「よい子は寝る時間だ」 と、グロールフィンデル少年を自宅に連れて来た。 寝る時間だから帰れ、と言われなかっただけましか。 「息子のベッドを使うがいい。どうせあいつは帰って来ん」 そんなことを言われて、頬が引きつる。完全に子ども扱いだ。 バスタオルやらレゴラスの着替えやらを出してきて、 リビングにちょこんと座る少年に差し出す。 浅く息を吐いたグロールフィンデルは、もう我慢できないというように顔を上げた。 「・・・子ども扱いは、いい加減にしてもらいたい」 こんな身なりでも、中身は十分な大人。 憤慨するグロールフィンデルを見つめ、スランドゥイルはニッと笑った。 「添い寝なら、してやってもいいぞ」 「だから!」 ふふふ、と鼻で笑いながら、 スランドィルはグロールフィンデル少年の隣に腰掛けた。 そして、少年を見下ろす。 「その姿の間は、不純なことを考えるでないぞ。 お前だってわかっているだろう? その年齢のお前は、あいつのものなんだから」 ハッと唇を閉じる。そして、まじまじとスランドゥイルの顔を見つめる。 鋭い。 この年齢の頃、自分は確かに彼のものだった。彼のものでありたいと願っていた。 「独りで思い出に耽りたければ、お前の家まで送っていこう。 わしは十分楽しませてもらったからな」 スランドゥイルの顔を見つめ、グロールフィンデルはゆるゆると首を横に振った。 「・・・彼は・・・もういない」 「お前の体も、お前の心も、その存在を意識している。 ならば、そいつはお前の中に存在している」 グロールフィンデルは、もう一度首を横に振った。 「いない・・・のだ。あの体温を、感じる事はない。 だから・・・独りにはなりたくない」 ふわりと抱きすくめられ、目を閉じる。 エクセリオン・・・。あなたは、もう、いない。 「ガキ相手に欲情はせぬぞ?」 見透かされたような言葉に、グロールフィンデルは鼻で笑った。 ガキでなくても、男相手に欲情することなどほとんどないくせに。 「私は・・・そんなことは、ない」 「絶対にお断りだ。その姿で何かしでかそうとするなら、本気で追い出すからな」 ため息。確かに、グロールフィンデル本人も、幼い姿では欲情など感じない。 「・・・・・・・・」 「添い寝してやろうか」 スランドゥイルの言葉に、今度は素直に頷いた。 いつものように寝酒を酌み交わす事もなく、珍しく早い時間にベッドに入る。 寄り添っているだけで眠気を感じるのは、蓄積された疲労からか。 若い体に体力がないせいか。 否。この年齢の体力は、年老いた今より遥かに上だ。 これは、たんに心地よいからだ。 酒と草原のにおいのする男の腕にくるまれて、 グロールフィンデルは浅い眠りの中を漂った。 耳もとの寝息に、ふと目を覚ます。 夢を見ていた。心地よい夢だ。 かつて栄華を極めたかの国で、郊外の丘に寝転がり、青く澄んだ空を見上げている。 頬をクローバーが撫でる。清涼な風が、肺を満たす。 ふと影を感じて、視線をずらすと、零れ落ちる水滴のような銀色の髪が風に揺れ、 グロールフィンデルを見下ろしていた。 彼は、いつものように、にっこりと笑っていた。 『さあ、休憩は終わりだよ』 その声で、目を覚ました。 しばらく天井を見上げた後、手を伸ばして目の前に持ってくる。 ゆっくりと体を起こして、自分を見下ろす。 その姿は、 「・・・・戻っている・・・」 元の姿に戻っていた。 見下ろすと、スランドゥイルは寝息を立てている。よく眠る男だ。 よく食べ、よく働き、よく飲み、よく眠る。 更に付け加えるなら、よく笑い、よく怒る。 眠るスランドィルの髪を撫でていると、眉を寄せて身じろぎをし、 スランドゥイルは目を覚ました。 「・・・・もう、朝、か?」 「いや。まだ夜中だ」 うん・・・と、寝ぼけ声で返事をする。 「元に、戻ったな?」 「ああ」 じゃ、おやすみ。そう言ってスランドゥイルは毛布に包まろうとする。 それをグロールフィンデルは阻止し、身包みを剥ぐ。 「子どもでなければ、よいのだろう?」 「揚げ足を取るな」 ふ、と鼻で笑い、グロールフィンデルは眠たげな男に覆いかぶさった。 翌日、グロールフィンデルはいつものように出勤をした。 強面の社長秘書復活に、女性社員たちはがっかりしている様であった。 「元に戻ったようだな。よかった」 そう言うエルロンドは、多少引きつっている。 今回の事件での反撃を恐れているのだ。 が、グロールフィンデルは何事もなかったかのように、それを無視した。 今反撃をする気はない。結局、昨夜も楽しめたわけだし。 半分寝ていたスランドゥイルは、たいした抵抗もせず、なされるがまま。 そんなのも、たまにはいい。 反撃は、またの機会でいい。 あの薬は、まだ少し残っている。