66別バージョン さて、子供化したスランドゥイルの話。 原因はエルロンドの作った「精力剤」。 下心あり(本人否定)で、仕掛けた犯人はグロールフィンデル。 そのうち元に戻るだろうと楽観視していたものの、翌日になっても戻る気配はない。 という話。 こんな姿で家に帰るのもなんなので、 結局グロールフィンデルのマンションに居候しているスランドィル少年。 かいがいしく世話をするグロールフィンデル。 スランドゥイル少年の体型にぴったり合った服を調達。 子供向きで健康志向の食事に、おやつ。新鮮なジュースにミルク。 「お前、子供の世話、慣れているな」 体は小さくても態度はでかいスランドゥイル。 手作りのチョコチップクッキーとミルクが、本日の夜食。 昼間はグロールフィンデルも仕事に行っているので。 「エルロンドの二人の息子は、事実上私が面倒を見ていたのでな」 それは事実。エルロンド、家事の一切できない男である。 「今日で三日目だが、いつになったら元に戻るやら。 わしの仕事はパソコンで済ませているものの、 いつまでもそういうわけにもいかんしな」 チョコチップクッキーをほおばりながら、ため息をつく。 そうしていると、またもやスランドゥイルの携帯が鳴る。 電話には出ない。声も子供なのだから。 自分の携帯電話を取り上げて、発信元の名前を見て、またため息。 電話をかけてきたのは、息子レゴラスだ。 今日で三日目。 電話には出ず、メールで返事を出す。 一応、急な出張だとか、忙しくて手が離せないだとか、 もっともらしい理由はつけているが。 最初は「そう」と、引きが早かったが、さすがに三日目になると、 留守電のメッセージも切なくなってくる。 『大丈夫?』『何かあったの?』『夜中でも早朝でもいいから、電話をして』 心配性、というわけではないが、息子は極度のファザコンなのだ。 そしてスランドゥイルも極度の親馬鹿。心配げな息子の声に胸が痛む。 「あーーーーもう、しょうがないな。エルロンドに直談判に行くか」 ミルクを飲み干して、肩を落す。 グロールフィンデルは、ミルクのビンを掲げて見せるが、 スランドゥイルは「もういい」と手を振った。 早急に手を打たなかったのは、なんとなくここが居心地がよかったからだ。 もともと、世話を焼かれるのは好きだ。 ほとんど完全に引きこもり状態で、日中パソコンで仕事をする他は、 テレビを見たり音楽を聴いたり本や雑誌を見たりしてのんびり過ごしている。 もちろん、三食おやつ付き。 必要なもの、欲しい物はグロールフィンデルが何でも買って来た。 そしてもちろん、夜の・・・はない。 一緒のベッドで寝ていても、 グロールフィンデルは少年スランドゥイルに手を出す事はなかった。 「引きこもりにも、飽きてきたしな」 美少年を囲い、奉仕する日々をグロールフィンデルも楽しんでいたが、 まあさすがに永遠に続けるわけにもいかない。 本音を言えば、グロールフィンデルは三日も「我慢」を強いられているわけだし。 完全に信用し、あどけない寝顔を見せられては、唇にキスさえできない。 「明日、ランチの時間に席を設けよう」 グロールフィンデルは答えた。 翌日。 昼にグロールフィンデルはスランドゥイルを迎えに来て、 エルロンドを待たせてある馴染みのレストランの個室に連れて行った。 シーフードレストラン。 車から降りて店の看板を見上げたスランドゥイルは、子供らしい微笑を見せた。 「ロブスター、食べたいな」 「注文してある」 人目につかないように、少年を抱きこみながら個室に向かう。 この殺人的な身長差も慣れた。 グロールフィンデルに促され、VIPルームに入ると、 正面にエルロンドが座っていた。 事情は聞いているものの、 エルロンドは実際目にするスランドゥイル少年に息を呑む。 想像以上の美しい少年だった。 まさしく、磨き上げられたカラフルな宝石のオブジェのようだ。 金髪は濃く、瞳の青は深い。鋭い視線は、レゴラスのものとは違う。 スランドィルは、グロールフィンデルに導かれ、エルロンドの正面に座った。 その物腰は、かしずかれる事に慣れた、高貴なものだった。 スランドィル少年は、物怖じをせず、真っ直ぐエルロンドを見つめる。 エルロンドは、その視線に、まぶしささえ感じた。 「・・・どう責任を取るつもりだ?」 よく通るボーイソプラノで、少年は言った。 「・・・・調合した薬を、もう一度分析しなおしているところです。 今夜か・・・明日には、なんとかしましょう」 真っ直ぐにスランドィル少年を見つめながら、エルロンドがそう答える。 そして、テーブルの上で組んでいる少年の手に、自分の手を伸ばす。 と、 「・・・・・・・・・!!」 エルロンドは、一瞬顔を引きつらせて、手を引っ込めた。 そして、隣に立つグロールフィンデルを睨み、見上げる。 テーブルの下、エルロンドの足を、グロールフィンデルが思いっきり踏んでいる。 (足の骨が折れるかと思ったぞ!) (その時は、ご自分で手当てをなさってください) 腰をかがめて、グロールフィンデルはエルロンドに耳打ちをする。 「どうした? 顔色が悪いぞ?」 事態を察しない少年スランドィルが、わずかに眉を寄せる。 「なんでもない」 グロールフィンデルはそっけなく答える。 が、スランドゥイルはグロールフィンデルに鋭い視線を送った。 「飼い犬は飼い主の心配をするもんだ。 そうでなくても、お前は飼い主に迷惑ばかりかけているのだからな」 思い人に叱咤され、グロールフィンデルのしっぽが丸まる。 それを見たエルロンドは、ニヤリと笑った。 グロールフィンデルにそんなことが言えるのは、 この世界でスランドゥイルだけだ。 その隙に、エルロンドはスランドゥイル少年の手を握った。 「今夜にでも、私の実験室にいらしてください。なんとかし・・・・・」 言葉の途中で、エルロンドは正真正銘の殺気を感じた。 スランドゥイルに窘められて、手は出さないまでも、 グロールフィンデルが真っ黒なオーラに包まれている。 慌ててエルロンドは手を離した。 「冗談だ、グロールフィンデル。別にやましい思いがあるわけではない」 「そうでしょうか? あなたは、年端も行かぬ少年が好きですからね」 そういうわけではないのだが・・・。エルロンドの顔が引きつる。 「何言ってんだ?」 スランドゥイル少年は、純朴そうに首を傾げて見せた。 「とにかく、今夜中に何とかしろよ? 仕事もあるし。 レゴラスも心配しているからな」 ここでエルロンドの回想シーン。 「父さんが、電話に出ないんです」 自分の携帯電話を握り締めて、どんより沈んでいるレゴラス。 「お父上は、出張なのだろう? そう心配する事もない」 「でも・・・三日も電話に出ないなんて、おかしいです。 何かあったんでしょうか。 家にも帰っていないし、会社の者も父がどこにいるのか知らないし」 普段口げんかばかりしている親子だが、レゴラスは「パパ大好き少年」なのである。 「スランドゥイル殿も大人なのだ。何かあれば、連絡してくるだろう?」 そう言って肩を抱いてみるが、レゴラスは携帯電話を握ったままため息をついている。 夜のお楽しみでさえ、心あらずの状態だ。 そんな苦境の原因が、自分の調合したクスリのせいだとなると、 エルロンドは引きつるしかない。 目の前の美少年を堪能してばかりもいられない。 「それに、急がないとあいつが出てくる」 スランドゥイルは腕を組んで、椅子にもたれた。 「あいつ?」 「ガラドリエルだ。あの女、こういうことにだけは目ざとい」 エルロンドの頬が、またピクリと痙攣する。 「昨日の昼間、あの女に呼び出されてな」 で、スランドゥイルの回想シーン。 どこでどうかぎつけたのか、 グロールフィンデルのマンションに、ケレボルンが迎えに来た。 半ば連行されるような形でガラドリエルの自宅へ赴く。 「まあ、本当に大変な事になっているわね」 自宅の豪華なソファーに座ったガラドリエルは、 楽しそうにスランドゥイル少年を眺めた。 「なぜ知っている?」 少年は嫌悪感をそのまま表情に出す。 「わたくしに知らないことはなくってよ?」 にっこり笑うガラドリエルの微笑みは、天使か悪魔か、女王か。 「お困りでしょう? わたくしがなんとかしてあげてもよろしくてよ?」 「え?」 藁をもすがる思いで、スランドゥイルは腰を浮かす。 「昔のように、わたくしの手にキスをして、『助けてください』と懇願すればね」 勢いあまってそのまま立ち上がり、スランドゥイルは顔を赤くして両手を振り回した。 「誰がするか! 誰が!!」 暴れる少年を、傍観していたケレボルンが羽交い絞めにする。 「落ち着きなさい、スランドゥイル。私たちは、キミを心配しているのだよ?」 「ふざけるなぁ!」 怒り心頭も、あっけなくケレボルンに抱きすくめられてしまう。 この男、只者ではない。 子供をあやすようにすっぽりと抱き込んで、 ケレボルンはスランドゥイル少年の髪を撫でた。 「まったく、キミはかわいいね」 昔も今も、子ども扱いか! 否、今は正真正銘の子供なのだが。 「本当、かわいらしいわ」 「ガラドリエル、息子が欲しくなったかい?」 「そうね、息子もいいわね」 背筋に冷たいものを感じるスランドゥイル。 このままじゃ、こいつらの息子にされかねない。 「いつでも手を貸すわよ、スランドゥイル? 助けて欲しくなったら、わたくしのところにいらっしゃい」 冗談じゃない! 回想から戻ったスランドゥイルは、苛立たしげに足を揺らした。 「とにかく、今夜中に何とかするということで」 エルロンドは引きつった笑みを作る。 早急に何とかしなければ、 レゴラスの頭の中が父親の事で完全に一杯になってしまう。 「グロールフィンデル、料理を持って来てもらってくれ。 注文してあるのだから、食せずに帰るわけにも行かないだろう」 何とか平常な雰囲気に戻そうと、エルロンドはそう言った。 グロールフィンデルは頭を下げ、ウエイターを呼びに行った。 「・・・レゴラスは、母親似、ですね?」 胸を落ち着かせようと、エルロンドはそんなことを言ってみる。 確かに、スランドゥイル少年はレゴラスと雰囲気が違う。 「ああ、そうだな」 スランドゥイルは、ニッと笑って見せた。 ウエイターを呼びに行ったグロールフィンデルは、 すぐに戻ってきたが、表情がなんとなく硬直している。 「どうした?」 エルロンドの問いに、 「見つかってしまいました」 グロールフィンデルの鼻先が引きつる。 「見つかった?」 エルロンドが問い返す間もなく 「エルロンド様!!」 グロールフィンデルの後ろから、少年が飛び出してきた。 「レゴラス?!」 エルロンドとスランドゥイルが同時に叫ぶ。 「わ!!」 スランドゥイル少年を見たレゴラスは、驚いて飛び退いた。 たぶん、一瞬、浮気現場とでも思ったのだろう。 顔中が険悪に引きつるが、すぐに目を見開いて口をあんぐりと開けた。 「・・・・・・・・・・・パパ?」 なぜわかる?! エルロンドとグロールフィンデルは、その場で硬直する。 「おう」 腹を決めたように、スランドゥイルは片手をあげる。 「なんで? どうして?」 「緊急事態でな。詳しくは話せんが、 まあ、エルロンドが何とかしてくれるってことで話はついた。 心配するな」 「・・・だから、電話にも出なかったの?」 「そうだ。こんな姿をさらすわけにはいかんだろう?」 「だって・・・・今までどこに?」 「身を隠す場所など、いくらでもある」 レゴラスは、スランドゥイルの隣の椅子を引き寄せて座った。 「心配したんだよ! あちこち探し回って。 そしたら、このレストランの駐車場にエルロンド様の車があって」 「だからって、乱入するもんじゃない。 もし、エルロンドが重要な相手と会っていたらどうするつもりだったんだ?」 「その時はその時だよ」 まったく、無鉄砲にもほどがある。 スランドゥイルはため息をつき、息子の頭を撫でた。 「本当に、心配したんだからね」 レゴラスは、自分より若干小さい父にしがみついた。 「あー・・・・料理が来たようだ。レゴラス、一緒に食べて行きなさい」 美少年二人の抱擁に、心臓が高鳴るエルロンド。 それを察したグロールフィンデルは、エルロンドをギロッと睨んだ。 一人分追加して、ろくな会話もせずに食事を急ぐ。 その間、レゴラスはスランドゥイル少年から一ミリも離れようとはしない。 「とまあ、そういうわけで、 今夜エルロンドのところで何とかしてもらう事になっている。 お前は心配せずに帰れ」 スランドゥイル少年に言われ、レゴラスは少年の顔をじっと覗き込んだ。 「今夜、元に戻るんだね?」 「そうだ」 父の顔を見つめていたレゴラスは、盛大なニタリ笑いをした。 「じゃ、今のうちに楽しまなくちゃね」 「は?」 「父さん、すっごくかわいい」 「はぁ??」 レゴラスはスランドゥイル少年を引っ張りあげると、 腕を絡めて出口に引きずっていった。 「こら! 何をする? レゴラス?!」 「こんな、すっごくかわいいんだもん。堪能しなきゃ。 家でゆっくりさ。大丈夫だよ、父さん。痛くしないから」 「はあぁぁ???」 「ご馳走様でした。お先に失礼します」 一度振り向き、ニコッと会釈をしてから、 レゴラスはスランドゥイル少年を引きずっていってしまった。 「・・・・・・・」 「・・・・・・・」 呆然としているエルロンドとグロールフィンデル。 「・・・・・・・いや、待て!!」 ハッと我に返ったエルロンドが立ち上がる。 「社長、まさか、やましいことを考えているのではありませんよね?」 グロールフィンデルの突っ込みに、エルロンドはたじろがない。 「何を言う?! スランドゥイル殿が何をされてもよいのか?」 何をって・・・・。 「・・・それは・・・」 「レゴラスの愛情表現は、普通ではないのだぞ?!」 グロールフィンデルは無言でエルロンドの手荷物を持ち、出口に向かった。 「追います」 スランドゥイル少年の貞操が守られたかどうかは、神のみぞ知る。