「もー! すっごい頭んくる!!」

 海外出張から帰ってきたレゴラスは、不機嫌の絶頂。

「なに? どーしたん?」

 出迎えた双子は、レゴラスをリビングのソファーに座らせ、両脇を陣取った。

 

 レゴラスはこの数日、父親のお供で、中東の小さな国に商談に出かけていた。

「そこの王様がさ、すっごいわがままなの! 
自分は何十人も奥さんとかいるくせに、愛人になれって言うんだよ? 
でなきゃ、商談には乗らないって」

 双子は顔を引きつらせ、大きくため息をついた。

 まあ、ない話じゃない。

 レゴラスは美人だし。

「スランドゥイルの親父さんも一緒だったんだろう?」

「そうだよ! 当然! で、父さん激怒しちゃってさ。ふざけんなって。
したら向こうも逆切れしちゃってさ。
もう、警備兵は出てくるは、なんだかんだで、結局、強制国外退去。
そんな話ある? 金持ちのわがままも過ぎるっての!!」

 腕を組んでプンスカ怒るレゴラス。

「・・・・ほう」

 リビングの入り口から、突然聞こえた低い声に、
双子とレゴラスは顔を引きつらせてそちらを向いた。

 帰宅したエルロンドである。秘書殿はその背後でうんざり顔。

「どこの国の、なんと言う王様だね? そのような傍若無人なことを言うのは?」

 怒りマークを額に5,6個付けている。そう、非常に嫉妬深い金持ちがここに一人。

「私のレゴラスに下品なまねをするとは、命知らずだ」

 やばい。普段温厚なエルロンド。
しかし、金と権力は絶大で、指一本で国を動かせるほどの人物。

 さらに、数日恋人と離れていたせいで、機嫌も悪い。

 双子は顔を引きつらせ、レゴラスは恋人の登場に怒り顔をほころばせる。

「大丈夫です、エルロンド様! 何にもされていませんし。
ってか、愛人になれって迫られたの、父さんの方ですから」

 

「「はあ????」」

 

 双子は声をそろえて大口を開けた。

 そして同時に、エルロンドの背後で撃鉄を起こす不気味な機械音が。

 慌ててエルロンドはグロールフィンデルの手を握った。
そんな物騒なものを持ち出したところで、犯人はここにはいないし!

「・・・それで、スランドゥイル殿はご無事なのであろう?」

 今度引きつるのは、エルロンドの方。

「もちろんです! 
男にカマを掘られるくらいなら、千匹のピラニアとダンスした方がマシだって、
そりゃあもう怒ってましたから」

 はあ、とエルロンドがため息をつく。

「うむ。まあ、二人とも無事で何よりだった。
今後そのような事があれば、私を呼ぶといい」

「ダメですよ。エルロンド様に助けを求めたら、
5秒で弾道ミサイルが飛んできそうですもの。
トロイ戦争じゃあるまいし、そんなことで戦争になったら大変ですから」

 にっこりのレゴラス。いや、シャレにならない。
双子は頭を抱えた。それ、シャレにならないから。

「そんなことはしない」

 大人びた余裕の表情を見せるエルロンドは、レゴラスに片手を向ける。
レゴラスは嬉しそうにそれに飛びついた。

「確実な刺客を向ける程度だ」

 いやそれ、冗談になっていないから。
双子はイヤイヤをするように手のひらを振った。

「それで、スランドゥイル殿は、今いずこに?」

「胸くそ悪いから、お姉ちゃんはべらせてバーを貸しきるって言ってました。
今頃どこで飲んでいるか」

 エルロンドの腕の中で機嫌を直したレゴラス。それを愛しげに撫でるエルロンド。
双子はさっさと自室に退散する事にした。

「そうか。グロールフィンデル、ご苦労だった。今夜はもう帰っていい」

 背後の秘書に声をかけると、グロールフィンデルは一礼して屋敷を出て行った。

 

 

 

『ああ? ばか言ってるんじゃない! 
そうでも言わなきゃ、あの馬鹿息子は帰らないだろう? 
わしは残務整理だ! 今夜は帰れない』

 電話の向こうのスランドゥイルは、非常に不機嫌。
いや、いつもそんな口調ではあるが。

 グロールフィンデルは、肩を落す。

「そうか・・・。何か手伝える事があれば・・・」

『ばーーーか。貴様などに手伝えるものなどあるか! 
仮にも敵対会社の秘書なんぞに』

 敵対会社、などと言われ、グロールフィンデルはしっぽを丸める。

『しばらくは忙しいからな。遊んでる暇はない。
それからな、レゴラスから何を聞いたか知らんが、
あのエロ王に何かしようなんて思うなよ? 貴様には関係のない話だからな』

 釘を刺されて、がっくり。

 しょんぼりしているグロールフィンデルを察したのか、
スランドゥイルは電話の向こうでため息をついた。

『ボージョレーが解禁になったなあ。こう忙しくちゃ、堪能する暇もない。
適当に見繕って、キープしておいてくれ』

 パタパタとしっぽを振る番犬。

 じゃあな、と電話を切られても、しっぽはパタパタ。

 

 翌日、エルロンドはフランスの取引先と商談ついでに、
現地のレアで最上のワインを1ダースほど仕入れ、秘書のご機嫌取りに使った。