今日のエルロンド邸。 双子はリビングで段ボール箱の前で額を合わせていた。 「完璧」 目を合わせて、ニヤリ。 何が完璧かって。話は戻る事2日前。 「親父の出張、今度はどこだって?」 ソファーで雑誌を読んでいたエルラダンが、顔を上げる。 「ロンドン」 エルロヒアは、両手に持ったマグカップをテーブルに置く。二人分のカフェオレ。 「じゃ、我が家の姫は里帰りか?」 「それがさ、アラゴルンの話じゃ、スランドゥイルのおっさん、いないらしい」 嫌な予感に、エルラダンが眉を寄せる。 「どこ、行ってるんだよ?」 「エジプト」 大方、王家の秘宝とかなんとか、釣られているんだろう。 「スランドゥイルの親父さんは、いつ帰って来るの?」 エルラダンの質問に、そんなの知るわけないとエルロヒアは肩をすくめる。 「ギムリは?」 「ヴェネチア修行中だと」 双子は視線を合わせ、がっくりとうなだれる。 「私とて、好きで行くわけではない」 エルロンドは不機嫌そうに、息子たちに言った。そりゃそうだ。 もともと、出張の好きな男ではない。 本人、家でゆっくりしたいと言っているほど。 出張どころか、旅行も好きではない。 「できるだけ、急いで帰るからな」 出張が決まってから、家では一時も離れない引っ付き虫を抱き上げ、 エルロンドはその額にキスをする。レゴラスはもう3歳児並にべったりだ。 それを見ていると、双子はげんなりとする。父親がいない間、コレの子守か・・・。 基本、エルロンド家の姫の子守は嫌いではないのだが。 本音、むしろ「一族の確執」に縛られて、強がるレゴラスを見るよりは、 幼児ばりにべたべた甘甘な姫を大事大事にしている方がはるかにいい。 で、問題はエルロンドのいない3日間をどうやり過ごすか。 エルラダンは、届いたダンボールを開けて、盛大に「にやり」と笑った。 中身は 「『24』シーズン1から3」 そう、あの、一世を風靡し、未だに続編が出続けている、あの人気テレビシリーズだ。 「これは、見始めたら止まらないからな」 24。24時間×3シーズン。これで3日間を乗り切ろうってわけだ。 エルロンド出張1日目。 案の定、不機嫌で帰宅したレゴラスを待っていたのは、ウキウキの双子だった。 「面白いDVDを借りてきたんだ。一緒に見ようぜ」 DVDの山を見たレゴラスは、思惑通り目をきらきらさせた。 「わー、これ、一度見たかったんだー」 「だろ? 飲み物と食い物用意して、今夜からぶっ通しで見るぞ!」 エルロンド出張2日目。 アラゴルンはそわそわしていた。 なぜなら、エルロンドがロンドンに行ってしまったことは知っているし、 その前からスランドゥイルがエジプトに行っていることも知っている。 ともなれば、レゴラスの不機嫌は間違いない。 2日前、レゴラスに会ったとき、彼はすでに不機嫌だった。 みんなで遊びに行っちゃって、僕だけ置いてきぼりとか。 いやいや、遊びではなく仕事だとアラゴルンが言っても、もちろん聞く耳持たず。 であるから、今頃は双子に当り散らしているか、拗ねて丸くなっているか。 今夜辺り様子を見に行こうと思っていた矢先、アラゴルンの携帯が鳴った。 『アラゴルン、お願い。今すぐ来て』 か細いレゴラスの声。何かあったのかと、思わず息を荒げる。 『コークとミネラルウォーターと、ローストビーフのサンドウィッチと、 それから・・・フィッシュアンドチップス買って来て』 腹減りか? レゴラスはもともと料理などしない。双子がいなけりゃ飢えているのも当たり前。 『お願い』 甘え声で言われ、アラゴルンは急いで会社を出た。 リクエスト以上の食べ物を買い込み、エルロンド邸に駆け込む。 「レゴラス? 何かあったのか?!」 リビングに駆け込んだアラゴルンは、そのまま床にへたり込んだ。 ソファーにぐったりと座る双子とレゴラス。 テーブルには食べ散らかした食物の残骸。 そして、巨大なプラズマテレビでは・・・・・・ 「ジャックかよ?!」 某24の主人公が、ぼろぼろになって駆け回っていた。 「今、2本目〜〜。おなかがすいたよ〜〜〜」 そう言うレゴラスは、振り向きもしない。 ああ、心配して損した。 アラゴルンは食べ物の残骸を片付けると、そこに自分の買って来た食糧を並べた。 レゴラスに甘すぎる。 エルロンドも、スランドゥイルも、双子も、自分も。 甘やかしすぎる! そんな憤りも感じる。 なんでこんな甘ったれの面倒を見なければならないのだ! そう思いながら、レゴラスの好きな食べ物を並べる自分が情けない。 「注文どおり買ってきてやったんだから、礼くらいしろよ」 数秒後、コマーシャル・アイキャッチが入ると、 レゴラスはアラゴルンに向き直り、ニコッと笑って見せた。 「ありがと、アラゴルン。大好きだよ」 そして、ほっぺたにチュウ。 それで許してしまう自分が・・・・ああ、なんて情けない!! 「・・・・今、何時間目だ?」 「6時間と53分」 24時間ものだから、まだ序盤か。 「今から見ても、内容についていけないな」 ポップコーンの袋を開けながら言うと、 双子は見終わったDVDのケースをアラゴルンに差し出した。 「今までのあらすじ」 ジャケットの裏を見て、内容を把握しろってか? そりゃ無茶だ。 そうこうしているうちに、1時間終わり、エンディングのテロップが流れ始める。 するとレゴラスはサンドウィッチにかぶりつき、早口で内容を説明し始めた。 話の内容を的確に要約して説明できるのも、レゴラスの特技の一つだ。 だてに外交を得意としているわけではない。 レゴラスが話し終わるころ、次が始まった。 いつの間にか、アラゴルンもそこに居座り、 身を乗り出してテレビに釘付けになった。 さらにその2日後。 エルロンドは帰国した。 会社に戻って資料を置いてくるのももどかしく、そそくさと自宅に戻る。 運転手兼ボディーガードその他諸々のグロールフィンデルは、 エルロンド邸のドアを開けるなり、異変に気付いた。 いつもなら、車の音がするなり飛んできて、 玄関で帰宅を喜ぶレゴラスの姿がないのだ。 エルロンドも眉を寄せている。何かあったのか、と。 グロールフィンデルが先に立ち、リビングに入るなり、 グロールフィンデルとエルロンドは呆然と立ち尽くした。 それは、凄惨な状況だった。 窓は締め切られ、よどんだ空気が充満している。 リビングのテーブルには、食べ散らかしたジャンクフードとソフトドリンクのビンの山。 双子の息子たちはソファーにぐったりと体を預け、 アラゴルンまでもがソファーの上で膝を抱えている。 レゴラスはといえば、テーブルの前でビーフジャーキーをもしゃもしゃと口に含んでいる。 そして、付けっ放しのテレビ。 グロールフィンデルは大きな音で咳払いをしてみせた。 どんよりと振り向く双子。 目をしょぼしょぼさせたレゴラスは、テレビの画面をちらちら見ながら振り向き、 のそっと立ち上がった。 「エルロンド様ぁ」 寝不足で疲れた表情で、よろよろと立ち上がり、エルロンドにしがみついてくる。 「これは・・・・・どういうことだ?」 この酷い状況は。 「あー・・・・親父がいない間、レゴラスの気分を誤魔化そうと思って、DVDを」 同じく目をしょぼしょぼさせたエルラダン。 DVDをって、まさか・・・・。 「4日間、DVDを見続けていた、と?」 エルロンドの怒りを含んだ言葉に、双子は肩をすくめる。 いくらなんでも、やりすぎだろう?! 温厚なエルロンドだが、ちょっと今回は度が過ぎるようだ。 エルロンドに抱きつきながらも、レゴラスはまだテレビを気にしている。 顔を引きつらせるエルロンドを横目に、グロールフィンデルはわざとらしいため息をついた。 「見続けてるっても、ちょっと仮眠を取ったり、食べ物の買出しに行ったりしてるんだけど」 エルラダンの言い訳。 「今、シーズン3の22時間目だから、あと2時間」 言い訳にならないエルロヒアの言い訳。 もう一度ため息をつたグロールフィンデルは、おもむろに口を開いた。 「真犯人は×××だ。このあと・・・・・が・・・・され、 主人公が・・・・になり、結局・・・・・で・・・・・・・。 と、いうわけで、ストーリーは次に続く」 残り2時間を完結に説明され、双子にレゴラス、 ぼんやりテレビを見ていたアラゴルンまでも振り向き、 「ええええええーーーーーーーーー!!!!!」 抗議の悲鳴を上げた。 そんなわけで、DVD鑑賞会はあっけなくお開き。 アラゴルンは義父の厳重注意を受けた上で追い返された。 DVDを強制終了させたグロールフィンデルも帰宅。 自室に戻った双子は、ぐったりとベッドに体を投げ出しながら、顔を見合わせた。 「なあ、グロールフィンデル、全シリーズ見てるのかな?」 「何でも知ってる神様みたいな人だからなあ」 グロールフィンデルが24時間テレビの前に釘付け・・・ってのは、 ちょっと想像を超える状況だが。 で、エルロンドの寝室。 レゴラスはテレビの見すぎで、軽い乗り物酔いのような状態。 まったく。何をやっているのだか。 エルロンドは、流行のテレビにさえ嫉妬してしまう。 こんなにもレゴラスを夢中にさせてしまうとは、けしからん! 怒りを口に出そうとすると、 レゴラスは疲れ目で潤んだ瞳でエルロンドを見上げ、そっと口づけた。 「寂しかったです」 とろんとした口調。 どこまで本当だか、わかったものではない。 が、エルロンドはレゴラスをベッドに押し倒した。 「DVDより私の方が好きだというなら、証拠を見せなさい」 みっともない嫉妬だとはわかっていながらも、つい口にしてしまう。 レゴラスはちょっと笑って、エルロンドのスーツのボタンに指をかけた。 一方。 帰宅したグロールフィンデルは、半日前にスランドゥイルが帰国している事を知り、 早速会いに出かけた。 『おう、来いよ。美味いワインと肉を持ってな!』 スランドゥイルは電話の向こうで上機嫌だった。 スランドゥイル邸のリビングに入るなり、グロールフィンデルはがっくりとうなだれた。 「面白いDVDを借りたんだ」 上機嫌のスランドゥイルの前でつけられているテレビは・・・・ 「・・・・・ヒーローズ・・・・」 そう。あの人気テレビシリーズ。 ああ、ここでもか・・・・・・・。 「ほら、座れ。いいところなんだ」 真犯人が誰で、最後はどうなる・・・という言葉は、 グロールフィンデルは口にするのをやめた。 その代わりに、持ってきたワインや料理をテーブルに並べ、 スランドゥイルの隣に腰を落す。 軽食を口にしながら楽しそうにテレビを見るスランドゥイルを横目で眺め、 (まあ、これもいいか) ちょっと和んでみたり。 たまには、こんな穏やかな休日も悪くない。