今日のエルロンド家。

 

 ソファーでひねくれている猫が一匹。

「なんだ、アレ?」

 首をひねるエルロヒアにエルラダン、

「親父が海外出張に行っちまったせいだろ?」

「いや、海外出張なんて年中行事だし。
そもそも、そんな時はいつも実家に帰っていたんじゃないのか?」

 そう。エルロンドがいないときは、レゴラスはいつも実家に帰っていた。
寂しがり屋さんゆえ。

「いや、なんでもスランドゥイルの親父さんも出張中だとか」

 はあぁ・・・とため息のエルラダン。

「出張って?」

「フランクフルトの方の古城で、秘宝展が開かれるとかで、行ってるらしい」

「ついて行かなかったんだ?」

「それがな、ドイツ行きが決まったのが一ヶ月前。
で、レゴラスは親父といる方を選んだ。ところが親父の出張が決まったのが」

「一昨日」

「一昨日にはスランドゥイルのおっさんも出かけちまった」

「それで、ひとり置いてけぼり・・・・ってわけか」

 双子はため息をついてソファーに転がるレゴラスを見る。
すっかり膝を抱えてひねくれモード。

「レゴラス、ローストビーフでも作ろうか?」

「いらない」

「ビーフジャーキー食うか?」

「いらないって言ってるでしょう!!」

 超ご機嫌ナナメ。

「重症だな」

 エルロヒアは両手を広げた。

「気分転換に、あいつでも呼んでみるか」

 エルラダンは携帯電話を開いた。

 

 しばらくして現れたのは

「よう! なんだ、置いていかれたって?」

 ニヤニヤ笑いのアラゴルン。
顔を上げたレゴラスは、額に怒りマークを貼り付け、クッションを投げつけた。

「ご挨拶だな」

「アラゴルンなんか、大っっっ嫌い!!」

 双子はアラゴルンに肩をすくめて見せる。

「そう言わず。焼肉でも食いに行くか?」

 めげないアラゴルン。普段から八つ当たりは慣れている。
すたすたと近寄って、ポン、と頭をたたくと、
有無を言わさずレゴラスの踵落しが飛んでくる。
寸前で避けるアラゴルンは、さすがに手を腰に当てた。

「足出すことはないだろう!」

「嫌いだって言ってるだろ!! 
この前だって、一緒にステーキハウス行く約束してたのに、
ドタキャンしてボロミアとデートしてたでしょう!?」

「はあ? 何言ってんだ? 
俺がボロミアとデートなんかするわけないだろうが! 
仕事だ、仕事!! 急な打ち合わせが入ったんだよ!」

「ああそうですか! じゃ、仕事と肉食べに行きなよ!」

 ぷい、とまたそっぽを向いて寝転がる。

 ふるふると拳を握るアラゴルンの肩を、双子はぽんぽんと叩いた。

「まあまあ。最愛の人が二人とも仕事で出かけちまって、
もう末期症状なんだよ」

「アラゴルンもだめだったか」

 はああああ・・・・・。

「しゃあない、もう一人呼んでみるか」

 エルラダンは再び携帯を出した。

 

 して、しばらくして現れたのはハルディア。

「何の用ですか? 仕事中なのですが」

 仕事熱心なハルディアは、ちょっと不機嫌。
わかってはいるけど、ガラドリエルおばあさまにお願いして、
ちょっと借りたのだ。

「いや、レゴラスがあの調子でね、
なんかハルディアになついているみたいだから、
ちょっと慰めてもらおうと思って」

 エルロヒアの説明に、ハルディアはひとつ頷くと、レゴラスの隣に立った。

「レゴラス殿、どうされた?」

 顔を上げたレゴラスは、今度はにぱっと笑った。

(おお、成功!)

「ハルディア! アレ、アレ見せて!」

 子犬が尻尾をぶんぶん振るような素振りに、
ハルディアは懐からご要望のものを抜き出した。

 コルト・ガバメント 45口径。

「ああ〜〜この手触り! 冷たい感触! 癒される〜〜〜」

 大型の銃口にレゴラスはうっとりしながらすりすりしている。

「こんなレトロなの、最近じゃあまりお目にかかれないし。
ベレッタM92もいいけど、やっぱりガバメントの方がセクシーだよねぇ」

「この口径でこの使いやすさは、やっぱりこれ特有ですからね。
それに、デザインもいい。レゴラス殿はお持ちでない?」

「僕がこんなに大きいの持ってたら、目立っちゃうし。
武器としては最高だけど、僕が持ち歩くには、ちょっと大きすぎるな。
最近はね、ワルサーにハマってるんだ」

「映画やドラマでよく使われますね。
そういうのはちょっと好きではありません」

「P38ミリタリーモデルはちょっといただけないけど、
PPKなんかは好きだよ」 

 うわー銃火器オタクがふたり・・・・。

 エルロンドはレゴラスが武器を持つのを嫌うから、
エルロンドの前では絶対にこんな会話はしない。
エルロンドの知らないきらきらしたレゴラスが・・・・。

 なんにせよ、立ち直ってよかったよかった。

 ホッとする双子。が、無常にもハルディアには仕事の呼び出しがかかった。
どうやらガラドリエルが出かけるので、護衛について来いというものらしい。
そして、ハルディアは銃をしまうと、いそいそと仕事に戻って行ってしまった。

「ああっ! 僕のガバメント〜〜〜」

 名残惜しそうに両手を伸ばすレゴラスだが、
ハルディアは銃を置いて行ってはくれなかった。当たり前だが。

 そして、またレゴラスはソファーの上で丸くなった。

「あれはどうした、アレ」

「アレって?」

 まだ算段している双子。

「ホラ、レゴラスが無条件でなついてるトモダチ」

 むくっと起き上がったレゴラスは、唇を尖らせる。

「ギムリならいないよ。父さんと一緒にお城を見に行っちゃったから」

 そうか。不機嫌の要因のひとつは、それもあるんだな。

「ところで、親父の出張先って、どこなんだ?」

 とぼけたエルロヒアに、あきらめのエルラダンと怒りのレゴラスは声をそろえた。

「ベルリン」

 

 

 

 一方、その頃のエルロンド。

「社長、外出してもよろしいですか?」

 そわそわしているグロールフィンデルに

「ダメだ!」

 本当は来たくなかった不機嫌モード全開のエルロンドは、力いっぱい言った。

「今回の出張中、ホテルと会議室以外の所に行くことを禁じる。
ましてやベルリンから出るなど論外!!」

 

 

 

 かくして1週間後。

 帰宅したエルロンドにレゴラスはしがみつき、
もう1ミリたりとも離れないと主張。もちろんエルロンドもしかり。

 エルロンドの荷物を運んできたグロールフィンデルに、
珍しくレゴラスは鼻先をひくつかせていた。

「楽しかったですか、ドイツ? なんか父さんも行ってたみたいですけど」

 ぎくり、と思わずエルロンドはレゴラスを抱きしめる手を緩める。
エルロンドの荷物を置いたグロールフィンデルは、
口元で笑って見せるも頬は引きつっている。

「レゴラス、知っているかね? ドイツは広い。
とても広いだのよ。
キミの父上が同じ国内にいたとしても、すれ違うことはおろか、
使用する空港もまったく違うのでね」

 へえ、ほお、ふうん。と、意味深なレゴラス。
エルロンドはそんなレゴラスの肩をガシっと掴んだ。

「私たちはこの1週間、ホテルに缶詰でね」

「そうですか」

 何を知ってる? 何を聞き出そうとしている?!

 いや、もうそんなに必死になって隠さなくてもいいのか?! 

 苦労性なエルロンド。

「帰ってもよろしいですか?」

 グロールフィンデルの不機嫌は、今なお続いている。
いや、大人気なく八つ当たりして悪かった。
帰宅してみれば、エルロンドも反省。

「ああ、もちろん。明日から2日ほど休暇だからな、ゆっくり休んでくれ」

 頭を下げて出て行こうとするグロールフィンデルに、レゴラスの追い討ち。

「あ、さっき父さんから電話があって。
なんか、ギムリがモン・サン・ミッシェル見たがっているから、
ついでに大英博物館にも寄って、ヨーロッパ一周して来るから、
帰国を10日ほど延ばすって」

 がん。

 頭を柱にぶつける、かわいそうなグロールフィンデル。

「スランドゥイル殿の旅程など、私には関係ありませんから」

「そうだよね。八つ当たりしてごめんなさい。
僕、エルロンド様とずっと一緒にいたグロールフィンデルさんに嫉妬してました」

「いや、いい」

 ふらふらと出て行くグロールフィンデル。

 

一番かわいそうなのは、グロールフィンデルだったと言う話。

 

 

続く。