夕食会に呼ばれたアラゴルンは、エルロンド邸の玄関を開け、出迎えた人物に硬直した。 「・・・・・・・・何の冗談だ? レゴラス」 そこには、メイド服を着たレゴラスが。 「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」 しおらしく、ナナメ45度のおじぎ。 顔を引きつらせて後退るアラゴルンに、目を潤ませて詰寄る。 「こういうのは、お嫌いですか?」 バクバクと心臓は跳ねまわり、滝のような汗が噴出す。 「・・・・・・!!」 思わずがばっと抱きついた所で、ぴかっとフラッシュが。 「浮気現場押えたぞ〜〜!」 レゴラスの背後で、デジカメを持った双子がニヤニヤ。 (やられた) レゴラスは、してやったりと高笑いをしている。 アラゴルンは双子に飛び掛り、子供のようにカメラの取り合いをはじめた。 「いいかげんにしなさい」 そのカメラをひょいと取上げたのは、鬼より怖い秘書。 双子とアラゴルンは、しゅんと肩をすくめた。 グロールフィンデルは、双子の襟首を掴んでキッチンの方へ戻って行った。 「で、何の冗談なんだ?」 正気に戻ったアラゴルンが、眉を寄せ、まじまじとレゴラスを見る。 もともと女っぽい所がない少年だが、こうも女装が似合うとは驚きである。 「コスプレ〜〜」 そしてレゴラスは悪びれない。恥じらいがないから違和感がないのか。 「だって、ただ集ってご飯食べるだけじゃ、つまらないじゃない。余興だよ、余興」 ニコニコと楽しそうな姿は、根っからのイタズラ好きを表している。 「今日は親父さんも来るって聞いてたが?」 「だからだよー。わしを呼ぶなとかナントカ、ぜったい不機嫌で現れるもん。 ちょっと場を和ませてあげようと思って」 否、息子が女装しているとなると、よけい不機嫌になるんじゃないのか? アラゴルンはヒクリと頬を引きつらせた。 このメイドコスプレ。もともとはエルロンドを喜ばせるためのサプライズだった。 が、レゴラスが異様に気に入ってしまったのだ。 エルロンドの反応がよかったせいもあるのだろうが。 そんなわけで、エルロンド家ではたびたびレゴラスのメイド服姿が見られることとなった。 こだわりの人、グロールフィンデルも、なぜか乗り気でまともなメイド服一式を揃えてくれた。 「昔が懐かしいのかもな」 エルロンドはそうレゴラスに囁いて苦笑した。 グロールフィンデルに下心はなく、 レゴラスという美しいマネキンを完璧に仕上ることを目的としているようであった。 それにしても、スランドゥイルも来るというのに、 レゴラスがコスプレしてちゃ、やっぱまずいだろうとアラゴルンは思う。 冷静になれば、常識人。 まあ、あの親子の喧嘩は日常茶飯事で見慣れているし、 掛け合い漫才みたいでちょっと面白いのだが。 しばらくして、玄関チャイムが鳴った。嬉々としてレゴラスが玄関に走っていく。 興味津々、双子とアラゴルン、それにエルロンドとグロールフィンデルもこっそりと後を追った。 「はあい」 語尾にハートマークをつけて、レゴラスが玄関を開ける。 「お帰りなさいませ、ご主人様」 メイド喫茶の定番台詞を言いながら、頭を下げる。 「・・・・・・・・」 すぐに怒号が飛んでくるものと思っていた観客どもは、 硬直しているスランドゥルに首をかしげる。 「?」 レゴラスも顔をあげて、不思議そうに父親の顔を覗き込んだ。 「・・・・・・カレンスール・・・・・・」 ぽつり、と女性の名前を呟き、スランドゥイルは優しくしっかりとレゴラスを抱き閉めた。 「・・・・・・パパ?」 驚いたように目を見開いたレゴラスは、すぐに悟ったように父親の背を抱いた。 「そんなに、ママに似てた?」 スランドゥイルは何も答えず、レゴラスはそっと父の髪を撫でた。 思いもよらぬスランドゥイルの反応に、双子とアラゴルンはかなり驚いたが、 なんだかスランドゥイルの思わぬ一面を見てしまったようで、ちょっと心温められてしまった。 (そうかー。レゴラスは母親になんだな。 おやっさん、普段あんなだけど、ホントは死んだ奥さんのことがすっごく好きなんだな) いやあ、とんだサプライズになってしまったな。 しかし、エルロンドとグロールフィンデルは、ちょっと複雑である。 特にグロールフィンデルは。 三分後に平常心を取り戻したスランドゥイルは、 いつものように息子を叱りつけ (んな馬鹿な格好をさせるためにエルロンドの所にやってるんじゃないぞ! とかなんとか) レゴラスもにっこり笑って反撃したり (いいじゃない、面白いんだから! とかなんとか) で、すぐにレゴラスは普段着に着替え、 食事が冷めるとかワインが冷えているとかエルロンドが仲裁に入り、全員が食卓に着いた。 そして・・・・なにやら急にお互いの愛情を思い出してしまったかのように、 その晩、レゴラス親子はべったりとくっついていた。 もともとベタ甘親子なのだが。 翌日、エルロンド命令でレゴラスのメイド服は禁止、没収となった。 もちろん、グロールフィンデルの強いあと押しもあって。