エルロンド家のダイニング。

 ダイニングテーブルの三方を三人の青年(一人は二人よりかなり若く見える)が陣取って、
今夜はカードゲームに勤しんでいる。

 若い三人は、色んなことに興味を持ち、色んなことを楽しむ。
家主が感心(呆れる)ほど。

 で、今夜はポーカー。

 それ自体はめずらしいものではない。
が、三人がやっているのは、脱衣ポーカー。(そんなもんあるんかい?)

 いつものように帰宅したエルロンドは、珍しく出迎えない息子と嫁に少々憤慨していた。
が、じつはたびたびそういうことはあるわけで、
そういう時はたいてい、三人で遊びに耽っているか、
レゴラスはエルロンドの書斎で仕事に熱中しているか、なのであるが。

 今回はその前者である。

 従者を引連れてリビングに入り、エルロンドは一度疲れた溜息をついた。

 それから、意を決して低い疑問の声を出す。

「何をしているのだね?」

「脱衣ポーカー」

 三人は口を揃え、カードから目を離さない。

「なんだね、それは?」

「日本の情報誌で、脱衣マージャンってのがあってさ、
マージャンてのが何だかよくわからないけど、
面白そうだからポーカーでやってみることにした」

 エルラダンの返答に、
エルロンドの後のグロールフィンデルが「マージャンというのは」と説明を始める。
本人、そんなものやったことはないだろうが、とにかく知識だけはある人物だ。

 そして、

 誰もその説明を聞いてはいない。

 それもいつものこと。

 誰が勝っているか、など、聞くまでもない。
服を脱いだ気配のない双子に対し、レゴラスはすでに上半身裸なのだ。
溜息をついて、エルロンドは自分のスーツのジャケットをレゴラスの肩にかけた。
ちょっとふり向いたレゴラスが、愛しさをこめた笑みを見せる。

「あ、それ、カウントに入らないからな。次負けたら、ズボンだぞ」

 ニヤニヤ笑いのエルロヒアに、レゴラスは舌を出した。

「わかってるよ」

「しかし、なぜ脱衣、なのだ?」

 父親の質問に、エルロヒアがちらりと視線を向ける。

「金をかけてもつまらないから」

 そうだろうな。金になど困ったことのない連中だ。

「親父も入る?」

 エルロンドは静かに頭を横に振った。
エルラダンはグロールフィンデルにも視線を向けるが、彼もまた首を横に振るだけだった。
そして、主にコーヒーを入れるためにキッチンに向った。

 子供達の悪ふざけを、叱るつもりはない。この程度なら。
今夜はまだ時間が早いし、それほど疲れてもいない。
夕食は接待で取って来たし、息子達もそれを承知で、夜の空いた時間をゲームで潰しているのだ。

 こうしてレゴラスのヌードを離れたところから眺めているのも悪くないし。 

「うっそー! また負けたー!」

 カードを投げ出してレゴラスが叫ぶ。

「脱げ! 脱げ!」

 双子にはやし立てられ、レゴラスはジーンズを脱ぐと、それを椅子にかけた。

 下着一枚でむっつりと座る。

「やめさせなくて、よいのですか?」

 コーヒーを運んできたグロールフィンデルは、それをエルロンドの前に置きながら尋ねた。
あからさまにニコニコはしないが、楽しそうにエルロンドは眺めている。
ふうとグロールフィンデルは溜息をついた。

 こやつらのレゴラスの扱いは、だんだんエスカレートしてきているな。

 エルラダンが手札を配り、レゴラスは唇を尖らせてそれを見つめている。
こんな姿、スランドゥイルが見たら頭から火を噴いて怒るだろうな……と、
グロールフィンデルは思う。
別に、レゴラスがどういう扱いを受けようが知ったことではない。
だがしかし………恋人の息子として考えるなら話は別だ。

 大股でエルラダンに歩み寄ったグロールフィンデルは、その手首をちょいと掴んだ。

「袖口に隠したカードを出しなさい」

「ええ?」

 とぼけて見せるが、グロールフィンデルは鮮やかとも思える素早さで、
エルラダンやエルロヒアの袖口から数枚のカードを取りあげた。

「イカサマとは卑怯ですよ」

 双子は視線を合わせ、肩をすくめる。

「ええ〜〜イカサマだったの? ずるい〜〜!!」

 立ち上がったレゴラスは、腰に手を当てて怒った素振をする。
その前に服を着なさい、とグロールフィンデルは溜息混じりに言った。

「エルロンド卿は気付かなかったのですか?」

「いや」

 平然とエルロンドは応える。この男は………。

「いい手さばきだったが、グロールフィンデルを欺くまではいかなかったようだな」

 双子もエルロンドも悪びれない。まったく。

 と、グロールフィンデルの携帯が着信を告げる。
小言を言おうとしていたグロールフィンデルは、さっさと玄関に向った。

「恋人かな?」

「そうだろう? 隠れて電話するなんて」

 双子は顔を寄せ合ってニヤニヤと笑う。
レゴラスは再び服を着るつもりはないようで、エルロンドに近寄ってべたべたと甘え出す。

「帰ります。明日はいつも通りで」

 そっけないグロールフィンデルの言葉に、双子は「おやすみ〜」と手を振る。
レゴラスを首にぶら下げたまま、エルロンドは真顔で

「いつも通りだ。ご苦労だった」

 と言った。これはちょっとおかしな図だが、誰もおかしく思わないのは、慣れ、か。

 グロールフィンデルはそそくさと帰っていった。

「小言を免れた。グロールフィンデルの恋人に感謝」

 双子は「ヘイ」と両手をあわせた。

 恋人が誰か、なんて追及が及ばぬうちに、エルロンドはレゴラスを抱き上げて寝室へ避難した。

 

「で、レゴラスを脱がせて、何が楽しいのだ?」

 翌日の朝食の席、エルロンドは息子達に尋ねてみた。

「別に」

 そっけない答え。レゴラスのハダカなど、年中見てるっての。

「途中で親父が帰ってきたら、喜ぶかな〜と思って」

 いや、それはそうなのだが。エルロンドは引きつる頬を元に戻して、コーヒーの残りを飲んだ。

 父親思いの子供達だ。