レゴラスは、この3日、父親と出張中。

 で、いつものごとく、エルロンドはその間に仕事を片付けておこうと頑張っていた。

 

 やっと先が見えてきた3日目の夜遅く。自宅。

 グロールフィンデルを待たせて、書類に奮闘。

「あと3〜4時間で終るだろうから、ゲストルームで仮眠でも取っておいてくれ」

「大丈夫です」

 ほとんど徹夜が続いているのは、秘書も同じ。

「いや、これが終ったら、お前に任せる。その後、私は休ませて貰う。
明日の朝には通常業務に戻れるよう、今は休養を取ってくれ」

 交代で眠ろうというエルロンドの案に、グロールフィンデルは渋々了承した。
ちょっと前なら、エルロンドが起きている間はずっと起きていて、
エルロンドが休んでからも仕事を続けられた。
しかし、もう年のせいか、以前ほどの体力はない。
否、そうしようと思えばできるのだが、その先のことを考えれば、
今少しでも仮眠を取っておいた方がいいだろう。
明日の晩にはレゴラスは帰ってくる。父親と一緒に。
ならば、エルロンド同様、明日の仕事が終った後、ゆっくり眠れはしないだろう。

 というか・・・・その後のことに体力を残しておきたい。

「・・・では、3時間、休ませていただきます。」

 グロールフィンデルは書斎を出て、ベッドのある客間に向った。

 

 

 

 レゴラスが帰ってきてからのことを思えば、仕事も片付く。
ああ、早く終らせて、明日の夜は楽しもう。

 にやける口元を引締めながら、エルロンドは仕事に集中した。

 

 

 

 自分でも驚くほどの集中力で、エルロンドは予想以上のスピードで仕事を片付けた。

 これをグロールフィンデルに渡し、処理を任せた後は、朝まで眠ろう。
グロールフィンデルのことだ、この書類を持って会社まで行き、
朝までには処理しておいてくれるだろう。
そうすれば、グロールフィンデルも、明日の夕方には開放される。
寝るなり何なり、自由にできるというわけだ。

 もっとも、恋人の呼出がなければ、だが。

 なければないで寂しいだろうから、まあ、そうなったらフォローしてやろう。

 自分から呼びだせるほどの根性を見せてくれればよいのだが。

 エルロンドには強気のグロールフィンデルも、恋人にはめっぽう弱い。

 ほくそえみながら、エルロンドはゲストルームのドアを開けた。

 眠っているグロールフィンデルを起すために。

 

「・・・・・・・」

 ベッドで眠るグロールフィンデルを見たとき、エルロンドは足を止めてその姿に見入った。

 そういえば、彼の寝姿を見るのは何十年ぶりか・・・・も、しれない。

 椅子などで仮眠を取る姿は、なんども目にしている。それも、一瞬だが。

 しかし、ちゃんと寝ている姿を見る機会など、皆無に等しい。

 まだ若かりし頃、ギル=ガラドの屋敷で、情緒不安定な彼を薬で眠らせていた時、以来か。

「・・・・・」

 ドアを閉めるのも忘れて、エルロンドはそっとベッドに近付き、その寝顔を覗き込んだ。

(・・・・・・・・・・・・か・・・かわいい・・・・・・)

 普段のきつい表情からは想像もできないほど、安らかに目を閉じ、
わずかに開いた口元から寝息が漏れている。

 しかも、毛布を巻きこんで、くるりと丸くなって。

 体のでかさを忘れてしまうほど、小さく丸まって寝ている。

 無防備に寝姿を見せてしまうほど、疲れているのだろう。

 そういえば、昔もこんな寝方をしていたような・・・。

 当時はそんな余裕はなかったが、今見ると・・・・・

 

 かわいい・・・・・・

 

 そんなことを思うほど、エルロンドも寝不足でボケているわけだが。
ナチュラルハイな状態で、ニヤニヤ笑い、エルロンドは、
グロールフィンデルの顔にかかる金髪を、自分の恋人にするようにそっと払ってみる。

「・・・・・ん・・・・・・」

 眉根を寄せて寝言に唇を動かすグロールフィンデルに、エルロンドは感動を覚えた。

 

 そうかー・・・こういう姿を、いつもスランドゥイルは見ているわけだな?

 やたらと可愛がる気持がわかる。

 部下には絶対に見せられないなぁ・・・。

 

 スランドゥイルに、軽い嫉妬さえ感じる。

 自分の知らないグロールフィンデルの姿。

 

 もったいないな。

 このまま朝まで鑑賞していようか・・・・。

 

 そんなことを考えているエルロンドは、かなり寝不足ハイになっている。

 

 イタズラしちゃおうかなー・・・・・。

 

 しばらくグロールフィンデルの見事な金髪を弄んでいたエルロンドは、
衝動的に瞼にキスをしてみた。

 

「・・・・・・・・!!!」

 背後からの物音に、ハッとふり向く。

 開け放したドアの向うで、エルロヒアが顔を引きつらせて立っていた。

「どうした?」

「あ・・・・いや・・・・水を飲みに・・・・・・」

 そうとううろたえている。エルロンドは首をひねった。

 おかしな奴だ。

「お・・・俺、何も見なかったから・・・・・!」

 走り去る息子に、エルロンドがもう一度首をひねる。

 本人、この状況を第三者がどう見るかなど、まったくわかっていない。

 グロールフィンデルの眠るベッドにかしずき、髪を撫でながらキスをするなど・・・・。

 

「・・・・エルロンド卿・・・・」

 ふと目を開けたグロールフィンデルは、エルロンドの名を呼んで体を起した。

「すみません、寝すぎて・・・」

「いや、早く終ったんだ」

 そうですか、と、グロールフィンデルはベッドを降りた。

 下着姿で。

 そう。几帳面な秘書は、スーツにしわができないよう、ちゃんと脱いでおいたのだ。

「筋肉は、落ちていないな」

 ニッと笑って、エルロンドはグロールフィンデルの筋肉質の胸を叩いた。
エルロンドの手を握り、寝起きのグロールフィンデルもにやりと笑う。

「今でも、あなたを抱き抱えて走れますよ」

 

「うわ」

 まだ開け放したままのドアからの声に、エルロンドとグロールフィンデルが目をやる。

 今度は、エルラダンだ。

 エルロヒアからの報告に、興味津々見に来たのだろう。

「なんですか、こんな夜中に」

 かけてあったシャツに手を通しながら、グロールフィンデルが顔をしかめる。

「あ、いや・・・・・・親父、徹夜で仕事だって言ってたから・・・・コーヒーでもと・・・」

 エルラダンの方が、頭の回転が速い。

「いや、いい。私ももう寝るので、お前たちも寝なさい。明日も学校だろう」

 父親の言葉に、うん、そうだね、とかなんとか・・・・
エルラダンは引きつった笑いをみせながら去っていった。

 

 

 

 翌朝。

 食卓。

 朝食の支度を終えた双子は、ダイニングテーブルで額を寄せていた。

「親父、グロールフィンデルにキスしてたぞ?」

「俺が見たときは、グロールフィンデル、ハダカで、親父、触ってた。
抱くとかなんとか・・・・」

 ひえー・・・恐ろしい・・・・。

 双子は頭を抱えた。

「おはよう」

 そんなことは我関せず、エルロンドが起きてくる。

 双子は慌てて立ちあがり、やれコーヒーだのトーストだのと走り回る。

「・・・? なにかあったのか?」

「なんでもない! ホント、なんでもないから! レゴラスには言わないし!」

 慌てふためく息子たちに、エルロンドは何のことかと肩をすくめて見せた。

 この場にグロールフィンデルがいなかったことは、幸か不幸か。
いや、いても状況はつかめないだろうから、同じ事か。

 

 双子、要らぬ心配性である。