休日の昼下り。 双子と、その義兄弟、それに自称双子の義母はホテルでのんびりブランチを楽しんでいた。 男率が滅茶苦茶高いこの家族構成の中、話題はほとんど唯一といってよい女性のことであった。 そう、男系家族の紅一点は、現在妊娠中であった。 で、一番心労激しいのは、その夫。妻の妊娠にあたふたしっぱなし。 義理の父親の現在の恋人に散々ちょっかいを出しているくせに、 愛妻のことになると情けないくらい心配性である。 「で、アルウェンはばあちゃんのところに里帰りしているんだ?」 エルラダンの問いに、アラゴルンが疲れ顔でこくりと頷く。 「つわりでつらいらしくてな」 「ばあちゃん所に行っているんなら、安心だろう?」 他人事のように言うエルロヒア。 双子の兄も妹は心配だが、ガラドリエルに対する信頼は絶大だ。 それに、兄ちゃんズは母親が妹を出産するところも知っている。 「そりゃそうだけどな」 「何が問題なんだ?」 双子がそろって眉をしかめると、アラゴルンは肩を落したままうなだれた。 「俺は、してやれることがない」 ばっかでぇ! 双子はにやけながら溜息をついた。 「アルウェンは幸せだね。羨ましいなあ」 ニコニコと笑ってレゴラスが呟く。 「・・・レゴラス、そんなに俺と×××したいのか? それならそうと・・・・」 うつむいた顔を上げると、そのアラゴルンの頬と額に双子のパンチが飛んだ。 「・・・・・ううっ冗談なのに」 肩を震わせるアラゴルンに、もはや同情の声はかからない。 しかし、そんなことはまったく気にしないレゴラス。 「好きな人の子供を身ごもるなんて、幸せだよね。うらやましいなあ」 また始ったよ・・・・。 双子は頬を引きつらせる。なぜかレゴラスは、妊娠中のアルウェンをうらやましがる。 「なんだ、子供が欲しいのか?」 アラゴルンの問いに、レゴラスは曖昧に首を傾げた。 「っていうか・・・大好きな人と自分の融合された命が胎内に宿るのって、 神秘的で幸福の象徴なんだろうなと思って」 うーん、・・・・双子は顔を見合わせた。 「お前、妊娠したいと思うか?」 エルラダンの言葉にエルロヒアは首を横に振る。 「俺、ゲイじゃないし」 そう、この双子は実に健全な恋愛常識の持主である。 双子がアラゴルンを見ると、アラゴルンもぶんぶんと首を横に振った。 そりゃそうだ。こいつは身ごもらせる方。 「しかしなあ、まかり間違ってレゴラスが親父の子供なんて生んだ日には、 育児は絶対俺たちだぞ?」 「そうだなあ、こいつは絶対赤ん坊の世話なんかできないもんな」 双子は納得して肯きあう。 いや・・・・・いくらレゴラスでも、妊娠はできないって。 唯一の妻帯者のアラゴルンは、ガラにもなくまともなツッコミを心の中で入れた。 「待たせたな」 しばらくして現れたのは、問題のレゴラスの旦那と、その秘書である。 エルロンドとグロールフィンデルは空いている席に座った。 まずエルロンドはアラゴルンに娘の近況を尋ね、ごくありきたりの会話を楽しんだ。 エルロンド、こう見えて子煩悩な男である。家族と過す時間を愛する。 「親父、またレゴラスが子供欲しいとか言い出してるぞ」 からかうようにエルラダンが言うと、レゴラスは照れて笑い、 エルロンドも大人の余裕で笑みを返した。 このふたりの間では、珍しくない会話らしい。つうか、慣れるなよ? 「恋人との子供っての、そんなに欲しいもんかね? 男でもさ」 「私は子供が欲しくて恋人を作るわけではない。子供はあくまでその結果だと思っている」 大人のエルロンドは、余裕の笑みでコーヒーを飲む。 まあ、実際子供は3人もいるわけだし。 「かりにレゴラスが女性であったとしても、出産を強要しようとは思わない。 妊娠は自然の摂理だからな」 ほうー・・・と、思わず双子は拍手した。さすが哲学者。天性のゲイだけど。 エルラダンが、ちらりとグロールフィンデルを見る。 強面の秘書殿は、我関せずな顔をしている。 意味ありげに口元でにやりと笑うエルラダンの視線に、グロールフィンデルが片眉を上げる。 「私に何かを期待しているのなら、無駄です。私にそのような欲望はありません」 いつもの彼らしい答え。 「グロールフィンデルのそういうの、想像できないな」 真面目にアラゴルンが言うと、何かを想像したらしい、 エルロンドの唇がぴくりと引きつり、双子はなぜか顔をそむけた。 「えー、でも、グロールフィンデルさん、子育てとか上手そう。何でもできるから」 レゴラスは能天気にニコニコ。 ふと双子の脳裏には、赤ん坊を抱えたグロールフィンデルの姿が映った。 今生後何ヶ月で、体重何キロの乳児だから、 ミルクは何時間おきに何cc、室温は何℃で湿度はどれくらい、 外気浴は何時から何時の間に何分・・・・。 すべて計算どおりに進めそうだ。 「そうだな、息子たちを教育してくれたのはグロールフィンデルだからな」 想像に失笑していた双子は、ビクリと身を震わせた。 そう、グロールフィンデルは第二の母親でもあるのだ。 恐ろしや、恐ろしや・・・。 「もう幼児教育は十分です」 少しだけうんざりしたように、グロールフィンデルはエルロンドを睨んだ。 負けじとエルロンドは意味深に微笑む。 「お前の子供は、拝めそうにないな」 ぎろり、とグロールフィンデルの眼光が厳しくなる。 「そんなもの、私は望みませんので」 いやだから、このふたりの嫌味の言い合いは怖いんだって。 「あー・・・ここのチーズケーキ、美味しいんだよな。アルウェンに買って行ってやろうか」 エルロヒアがわざと大き目の声で言う。 エルラダンもうんうんと頷き、アラゴルンに肘打ちする。 「あ? ああ、そうだ。これからガラドリエルの家に行くから、持っていくよ」 慌てふためく3人。さすがのアラゴルンも、グロールフィンデルの怖さは知っている。 「ここのケーキは、どれも美味いんだ」 大人の会話を気にしないレゴラスは、ニコニコと笑っている。 「そうなの? 最近父さん、チョコレートケーキにはまっているらしいから、買って帰ってあげようかな」 「あの親父さんがチョコレートケーキ? 見えないなあ」 感心するアラゴルン。 「父さんは食道楽だから、何でも好きなんだ」 「あ、親父さんにも用があったんだ。後で行くよ」 「手土産忘れずにね」 強引に会話を別方向にもっていき、大人の火花は鎮火。双子は大きく溜息をついた。 ったく、このふたり、仲がいいのか悪いのか・・・・。 子供世代には知る由もない。 結局、アラゴルンはスランドゥイルの用件を先に済ませ、 後でゆっくり愛妻の元に行くことにした。 「どうだ、父親になる気分は?」 レゴラスに似て陽気なこの男は、一緒にいても気が楽だ。 「いやあ、まだわかんないっすよ」 正直笑って見せる。スランドゥイルも陽気に笑う。 「まあな、子供なんてのはほっといても育つからな」 この男も育児経験者である。 「まあ、旦那様ったら!」 客にコーヒーを運んできたメイドは、くすくすと笑った。 「旦那様ほど子煩悩な父親はいませんわよ。 坊ちゃまが少し熱を出したといっては寝ずの看病をし、 重要な会議だろうとなんだろうと連れて歩き、もう、一時もそばから離さないんですもの!」 馬鹿親代表。 スランドゥイルはメイドに「よけいなことは言うな!」と怒鳴って見せた。 父親に溺愛されて育ったレゴラス。自分の子供が欲しいと思ってもおかしくはないわけだ。 アラゴルンは苦笑した。 所用を済ませ、ガラドリエルの家に行く。 この日、何度目かのお茶の時間。 「つわりはだいぶ落ちついてきたの。今はね、赤ちゃんのお洋服とか選ぶのが楽しいのよ」 アラゴルンの心配をよそに、アルウェンは楽しそうだ。 「何も心配することはないのよ」 ガラドリエルばあちゃんも、余裕の笑み。 大時代の女王のような風格のガラドリエル。 子育てなど乳母に任せっきりで何もしたことがないように見える。 ・・・・が、もちろんそんなのは錯覚である。 アラゴルンの知らない苦労をたくさん知ってる女だ。 「子育てなんてのはね・・・・母親の本能に任せておけばいいの」 さすが、言葉の重みが違う。 「で、俺は何をすれば・・・・?」 気後れするアラゴルンがガラドリエルの旦那の方を見る。 ケレボルンは仙人のように微笑んでいる。 「妻を慈しむことだよ、アラゴルン」 わかったような、わからないような・・・・。 アラゴルンの翻弄は、まだまだ続く。 話は戻って、会社に帰る途中、車の中のエルロンドとその秘書。 グロールフィンデルは相変らずの無愛想。 「・・・スランドゥイル殿の子供は、可愛いだろうな」 まだ続けるか、エルロンド。グロールフィンデルをからかうのが楽しいらしい。 「レゴラスひとりで十分です」 そうかそうか、すでに自分の息子感覚なのだな。 ほかに人目がないので、エルロンドはにやけてみせる。 「あなたはレゴラスを妊娠させたいのですか?」 「まさか!」 妻の妊娠出産を経験しているエルロンド。 「あれはたいへんな気苦労だ。せっかく好きになった相手が同性なのだ。 そういうことは気にせず楽しみたい」 何か言いた気に口を閉じるグロールフィンデルに、 エルロンドは同意を求めるように視線を送る。 しばらくして、グロールフィンデルはふと溜息混じりに呟いた。 「そこまで打算的じゃない」 純情だねえ。 「早く仕事を終らせよう」 エルロンドはにやりと笑って言った。