アラゴルンの社長室で転寝していたレゴラスが、もそもそと動いて目を開けた。

「お、起きたか」

 眠い時はどこでも寝てしまうレゴラスである。
たいていはちょっと寝て、気分爽快起きてくるのだが、今日はちょっと違う。

「なんだ、調子悪いのか?」

 けだるそうにソファーによりかかっているレゴラスに聞いてみる。

「うーん・・・・なんかだるくて」

 ため息をついて、うつむいている。

「なんかー・・・熱っぽいし、食欲もないんだよね」

 それは珍しい。書類をわきに退けて、
アラゴルンはレゴラスに歩み寄って、その顔を覗き込んだ。

「だるいー胸がむかむかするー」

 悪態をつかないレゴラスは、かわいい。
額に手を当ててから、アラゴルンは眉を寄せた。

「・・・・・・妊娠?」

 

 

 

 仕事から帰ってきたエルロンドは、
我が家の異様な雰囲気に足を止めた。

 双子は何やら忙しく走り回っているし、
いつもなら真っ先に抱きついてくるレゴラスは・・・・
ソファーに横になっている。

「どうした?」

 双子の片割れを捕まえて、聞いてみる。

「あ、親父、お帰り」

 捕まったエルロヒアは真顔だ。

「ああ、親父!」

 なんだかんだレゴラスの世話を焼いていたエルラダンも近寄ってくる。

「おめでとう!」

 突然おめでとうとか言われても・・・・? 

「レゴラス、妊娠だって?」

「は?」

「いやあ、年の離れた兄弟ってのも、悪くないかもな」

「ちゃんと赤ん坊の世話はしてやるぞ」

 かわるがわる言われて、エルロンドの顔が引きつる。

 青い顔をしてソファーに寝ているレゴラスを見やる。

「・・・・・何の話だ?」

「レゴラスがつわりで苦しんでる」

 エルラダンが顎でしゃくると、エルロンドは慌ててレゴラスに駆け寄った。

 眠ってはいなかったのか、
レゴラスは目を開けて、ちょっとエルロンドに笑いかけた。

「吐き気が?」

 訪ねてみると、こくりと頷く。

 顔を触って熱を確かめ、軽くキスをすると、
レゴラスははにかんだようにまた目を閉じた。

「レゴラス・・・・・」

「はい?」

 力のない声。

「・・・・・夏バテと夏風邪だ」

 

 いや、そんなことはわかっていたのだが・・・・。

 

 玄関チャイムが鳴り、双子が出ると、そこにはアルウェンが。

「お父様! レゴラスが妊娠ですって?」

 ヒクリ、とエルロンドの顔が引きつる。

「おめでとう! 嬉しいわ! 
今が一番大切なときですから、大事になさってくださいね!」

 いや、違う・・・・。

 反論する前に、再びチャイムが鳴り、
さっき帰ったはずのグロールフィンデルが。

「レゴラスが妊娠ですって?」

 誰から聞いた?

「つわりにはジンジャーがいいそうですから」

 そう言って差し出したのは、ジンジャーエールのビン、山ほど。

 冷静なお前が、そういうこと言うか?

「男の子かしら、女の子かしら? 楽しみだわ!」

 入り込んだアルウェンは、
ソファーで寝ているレゴラスの手を取って、にこやかに言う。

「気が早いなあ」

 双子は笑う。

「社長、育児休暇は今は夫も取る時代です。
今から手配しておきましょう」

 おい待て!

「遅くなった!」

 駆け込んできたアラゴルンは、大きな紙袋をエルロンドの手に押し付けた。

「こういうのは、早めに用意しておいた方がいいから」

 中には、紙おむつやら粉ミルクやら。

 エルロンドは、ただ呆然とするばかり。

「・・・・・・いったい、何の騒ぎなんだ・・・・?」

 レゴラスを囲んでわいわい楽しそうな連中に、
いいかげんエルロンドの額に怒りマーク。

「男が妊娠するか!」

 珍しいエルロンドの怒鳴りに、一同はいっせいにエルロンドを見た。

「いやだって、レゴラスだよ? 妊娠くらいしそうじゃないか」

 エルロンドはその場に崩れ落ちた。

 

 ベッドに移動されたレゴラスは双子に任され、
ソファーに座ったエルロンドに気付けのコーヒーが差し出される。

「こういう冗談に、お前がのるとは思わなかった」

 コーヒーを持ってきたグロールフィンデルを、ギロリと睨む。
グロールフィンデルはニヤリと笑って見せた。

「お義父さん」

 真顔なアラゴルンに、エルロンドは身を引いた。
こいつに「お義父さん」などと呼ばれたことはない。

「妊娠はアルウェンです」

 は?

 と、エルロンドが隣に座る娘を見やる。
アルウェンはにっこりと微笑んだ。

「まだ2ヶ月に入ったばかりなの」

 目をぱちくりさせたエルロンドは、対応に戸惑う。

 なるほど・・・・それで、こんな大掛かりな冗談だったのか。

「社長もお祖父さんになられるんですね?」

 グロールフィンデルの言葉が、一番鋭い。

 いや、確かにその通りなのだが・・・・・。

 困惑しながらも、エルロンドは娘の肩を抱き寄せた。

「おめでとう」

 

 

 

 馬鹿騒ぎが過ぎた後、
寝室で寝ているレゴラスにエルロンドは何度もキスをした。

「アルウェン・・・・おめでたですってね」

 力なく笑うレゴラスの頬を、そっと撫でる。

「気分は?」

「薬を飲んだので、だいぶいいです」

「疲れたのだ。ゆっくり休みなさい」

 エルロンドを見つめるレゴラスの瞳は、熱のせいで潤んで見える。

「・・・・いいなあ・・・僕も赤ちゃん産めたらよかったのに」

 先ほどの馬鹿騒ぎを思い出して、エルロンドは一瞬引きつった。

「今の私の愛では、不満かね?」

 ふるふると首を振り、両手を伸ばして抱っこをせがむ。
そんな甘ったれなレゴラスを、エルロンドはぎゅっと抱きしめた。

「子供を生まない女性だっている。それだけが幸福のすべてではない」

 レゴラスは、こくりと頷いた。

「私は、お前を幸せにしてあげているか?」

「・・・・僕は、幸せです」

 そう言って、レゴラスはエルロンドにキスをした。