出発の時、レゴラスは祖父に思いを馳せた。

 オロフェアは、出陣の折、何を思ったのだろう。

 もう二度と・・・・森に帰れぬことを、悟っていたのかもしれない。

 

 これは、全員の負った宿命だ。

 

 もう、後戻りはできない。

 もう、指輪を目にする前の生活には、戻れない。

 きっと、多くの犠牲をはらうことになるだろう。

 ある者は故郷を失うかもしれない。

 あるいは、己の命・・・・。

 

 それでも行くのかと聞かれれば、やはり誰もが頷くだろう。

 

 友情のため、

 愛する者のため。

 

 レゴラスは、人間に友情を誓った多くのエルフに思いを馳せた。

 

 いつか、人間に裏切られるかもしれない。

 エルロンドは憂える。

 だが、同じように人間に友情を誓い、共に戦ったグロールフィンデルは、
遥か遠くを眺めて呟く。

 後悔はないのだ、と。

 

 もしアラゴルンが、指輪の誘惑に負けたら・・・・・

 

 僕は微笑んであなたを射抜いてあげよう。

 滅亡する世界の業火に、共に焼かれよう。

 

 だが、そんなことにはなるまい。

 そのために、自分はここにいるのだから。

 

 

 決意を固めた旅の仲間が、前を向いて歩き出す。

 怯えた目をしたフロドでさえ、必死に前を向いている。

 

 失うことを恐れてはいけない。

 手のひらに感じる熱を、ぎゅっと握り締める。

 

 恐れはしない。

 

 希望は、いつだって残されているのだから。

 

 

 

 

 ボロミアは、己の役割にすぐに気がついた。

 先導者はガンダルフである。怯え戸惑うフロドを気遣いながら、道を探す。
緊張感を高めているアラゴルンは、近寄りがたい空気に包まれている。
ギムリはドワーフらしく、他の仲間に興味を示さない様子。
エルフは・・・・谷での笑みをまったく見せなくなっていた。
仲間と常に距離を置き、斥候として前を後ろを歩いている。
言葉を交わすのはアラゴルンとのみであり、
そこにふたりの絆の深さを見せられる。

 ふたりのホビット、メリアドクとペディグリン。
陽気なふたりの真の思いを、誰も気遣ってはくれない。
ふたりは、大きな人たちと同じように、
自分たちもフロドを守るために戦いたいと願っていた。
ボロミアは、事あるごとにふたりに戦い方の基礎を教えた。
意気揚揚のふたりには、幼き頃の自分と弟を髣髴させられた。

 このまま、旅が順調に進んでいくことを、誰もが願っていたし、
その先の苦難を想像する気にもなれなかった。

 

 

 

 それでも、残酷な試練は、彼らを見逃してくれはしなかった。