月明かりの下、レゴラスは書状を持たせた従者を見送った。

 これでもう、後戻りはできない。

 深呼吸を一つする。

「スランドゥイル公は、私を非難するだろう」

 その声に、驚いて振向く。そこに、館主が立っていた。

「もとより、許しを請おうとは思っておりません」

「レゴラス・・・・・」

 エルロンドが一歩踏み出す。それにあわせるように、レゴラスは一歩後ずさった。

「・・・ゴンドールの公子に・・・・ボロミアと言う男に、情を許したそうだな」

 誰が口を滑らせたのか。否、館主に秘密など持てない。

「何故だ?」

「ボロミアの気を静めるためです」

 できるだけ平静を装って、そう口にする。

「お前は、人間の情熱に弱い」

 それは、昔アラゴルンに(当時はまだエステルと呼ばれていた)
情を許してしまったことを言っているのか。レゴラスは瞳を伏せ、背を向けた。

「レゴラス」

「失礼します」

 今はエルロンドと話をしたくなかった。
彼は、自分の弱いところを見抜いてしまう。
弱みなど、自分自身認めるわけにはいかない。
これから、苦難の旅が待っているのだ。

 数歩歩き出して、突如足を止める。目の前に、背の高い男が立っている。

「・・・・・・グロールフィンデル殿・・・・・?」

 見上げた瞬間、腕を捕まれ、唇を奪われる。
後を追ってきたエルロンドの、浅い息が聞える。
グロールフィンデルはエルロンドに視線を走らせ、口元を吊り上げた。

 

 こうやって奪えばいいのだ、と、言いた気に。

 

「な・・・にを・・・・!」

 逃げようとするレゴラスの腕を強く掴んだまま、その耳元で囁く。

「人間の匂いのするお前を奪うのも、悪くない」

「お戯れを!」

「そう、戯れだ。だが、お前はもうすぐ旅に出る。二度と会えなくなるかも知れん。
最後に、私を楽しませろ」

 それは、強制。

 エルロンドの目の前で、レゴラスはグロールフィンデルに引きずられて行った。

 

****************************************

 

 どれくらい前になるのか。

 レゴラスが始めて谷を訪れたのは、頻繁に白の会議が開催されていた頃だ。
闇の森は暗さを増し、そして孤立していた。
会議への参加を、ガンダルフはしきりにスランドゥイルに呼びかけていたが、
スランドゥイルは頑なに断っていた。
ガンダルフ以外の者は、スランドゥイルの存在を無視した。
しかしエルロンドは、スランドゥイルの参加へのアプローチはしないまでも、
彼の存在は気にかけ続けていた。
シンダールは、エルロンドにとって、彼の血筋にとって、無視できるものではない。
その件に関し、ケレボルンは、スランドゥイルの好きにさせるようにとの意見であった。
ケレボルンもまた、ある意味スランドゥイルに負い目を感じているのだ。
シンゴルの血族は、今やケレボルンだけになってしまった。
なのに、ケレボルンはガラドリエルと結婚することでそれを放棄してしまったのだ。
むしろ、ノルドールの側についている。
今はシルヴァンの森を統治しているとはいえ、
それは自らが血を流して守ってきたものではない。
スランドゥイルに嫌われても当然なのだ、と。

 エルロンドは密かに何度も使者を送ったが、
そのたびに王宮に招かれることも無く送り返された。

 スランドゥイルが懐柔策をとってくるとは、夢にも思わなかった。

 突然、闇の森からの斥候が訪れ、使者を送ると伝えてきたのだ。
ただし、公な和解策ではない。これはあくまで、挨拶なのだ、と。
その証拠に、使節団と言うほどではなく、代表者一名とその従者のみの来訪である、と。

 顧問たちの意見は険悪であった。これは、闇の森からの探りだ。
なぜなら、その二年前、裂け谷は重要な人間を保護したのだ。

 エステルと名付けられた子供だ。

 スランドゥイルがそのことを知っているとは思えない。
それは重要極秘事項であったのだ。が、何かは感づいたのだろう。
ガンダルフが何かほのめかしたのかもしれない。

 顧問たちは、闇の森からの使者に警戒した。
が、追い返すことはエルロンドは許さなかった。

 

 やがて訪れたその使者に、顧問たちは驚き、そしてその使者を蔑んだ。

 その使者は、今や裂け谷では目にする事のないほど若いエルフだったからだ。

 顧問たちの蔑んだ視線や態度を、その使者は真向から受け止め、
それでも威厳を保ち続けた。

 エルロンドは、そんな若いエルフを、むしろ尊敬さえした。
その堂々とした態度は、王の子息としてまさしくふさわしいものであったからだ。

 

 

 

 レゴラスは、自分がどれだけ大役を仰せつかっていたのか、自覚していた。

 裂け谷の顧問たちの視線は痛かった。自分が、どれだけ若いか、わかっていた。
本来なら、シンダール族で王の側近である貴族の誰かが選ばれるべき大役であっただろう。
が、レゴラスは自ら志願した。
自分は王の子で、十分な地位はあり、使者として相手に失礼にはあたらない、と。
それだけではない。貴族たちは・・・古いシンダールの者たちは、
ノルドールへの怒りや憎しみを持ち続けている。少しでもそれを見せれば交渉は決別する。
否、血を見る騒ぎにもなりかねない。
その点、自分は若く、ノルドへの直接の憎しみを持ってはいない。

 そして何より、孤立している自分の国を救いたい、光を取り戻したい、
誰よりそう強く望んでいた。だから、ガンダルフの助言に飛びついたのだ。

 実のところ、スランドゥイルは使者を送ることを快くは思わなかった。
貴族たち同様、ノルドへの怒りを抱えているからだ。
が、レゴラスは強く自らの意思を押し通した。

 王が最終的に首を縦に振らないのであれば、自分は勝手に裂け谷へ向う、と。
そして、王はしぶしぶ今回の交渉を承諾した。

 今回は挨拶だけでいい。たったそれだけのこと・・・・失敗するわけにはいかなかった。

 王の子してのプライドは、蔑みの視線を向けられることより、
尻尾を巻いて逃げ帰ることの方を恐れた。

 レゴラスは、スランドゥイルの子としての高いプライドを持っていた。 

 

 顧問たちとの接見で、レゴラスは蔑みの視線を向けられながらも、気丈に通した。
挨拶と自己紹介。それだけでいい。最低限のパイプラインを作る。それが目的だ。
そのためにも、今無下に送り返されるわけにはいかない。
今後も自分がこの谷を訪れることの許可を得たかった。

 たった、それだけ。

 館主エルロンドと、顧問長エレストール、彼らは冷静にレゴラスを観察していた。
レゴラスの本音を、本性を見抜くように。
特にエルロンドの視線は、厳しかったが温かみがある。
彼もまた、闇の森との交渉を望んでいた。
顧問たちに、レゴラスの存在を認めさせたがっているようにも見える。

 静かな会議の場ではあっても、レゴラスは自分が歓迎されていないことも悟っていた。

 色々と質問をしてくる顧問たちの中で、一人だけ、まったく口を開かない男がいた。
レゴラスは、彼の名を知っている。闇の森でも、彼の名を知らぬものなどいないだろう。

 

 英雄グロールフィンデル。

 

 その男は、ただ黙ってレゴラスを見つめていた。
その視線に、レゴラスは他の者からは感じない、恐怖、を感じた。

 

 

 

 会議の後、レゴラスは従者たちとポーチで話し合いを持った。
レゴラスは王の子として特別に部屋が与えられ、
従者たちにはそれ相応の部屋が与えられていた。

「帰りましょう、王子。彼らには、何を言っても無駄です。
彼らの影口を耳にしましたか? 私どもを、シルヴァン訛りの田舎者だと。
相手にするつもりもありません」

「仕方ないよ、本当に、シルヴァン訛りの田舎者なのだから」

 レゴラスは、怒りを隠せない従者たちに笑って見せた。

「レゴラス様!」

「それでも私は、そのことを誇りに思っているよ」

 確かに、この谷のエルフたちとは違うものを感じる。
この谷のエルフたちは、顧問たちは、知的で品がある。
それに比べ、闇の森のエルフたちは素朴だ。
美味しいものを食べ、ワインを飲み、歌い踊っていたい。
このミドルアースが闇の飲み込まれる前の、本来あるべき自由な生活を望んでいる。

「もう少し・・・・私に時間をくれないか。
最初から嫌っていては、交渉も何もできないよ」

「しかし、・・・・王の子息である貴方へのあの視線、私たちには耐えられません」

「私は平気だ」

 きっぱりと言いのける。

 

 平気だ。大丈夫。

 私には、誇りがある。あの森を統べるスランドゥイルの子としての誇りが。

 

「レゴラス殿」

 かけられた声に、レゴラスは飛び上がるように立ち上がった。

「・・・・グロールフィンデル殿!」

 そのエルフは、丈高く、美しく、威厳がある。

「もし、私と話をするつもりがあるのなら、ついて来るがよい」

 レゴラスは、一瞬息を飲んだ。従者が戸惑いの表情を見せる。
レゴラスは彼らに緊張した笑みを見せ、そして

「もちろん、喜んで」

 そうグロールフィンデルに答えた。

 グロールフィンデルの誘いが、何を意味しているのか。
この若い王子は理解していないのだろう。
グロールフィンデルは心配げにレゴラスを見つめている従者たちを、厳しい目で見渡す。

「貴方一人を呼んでいるのだが、よいのであろうな?」

「もちろんです」

 そう言うレゴラスの瞳は、真剣で覚悟を決めた色をしている。
そして実際、
エルロンドのように暖かくないグロールフィンデルの態度に覚悟を決めていた。

 

 大丈夫。私には誇りがある。

 

「では、ついてきなさい」

 レゴラスは、もう一度従者たちに「大丈夫だから」と目配せをして、
グロールフィンデルについて行った。 

 

 

 

「我々は、貴様らを歓迎などしない」

 グロールフィンデルの私室に入ると、ドアを閉めた瞬間、彼は言った。

「歓迎を期待してはおりません」

 即座にレゴラスも返す。現状の厳しさを、ガンダルフから聞いて知っていた。
それに、父や貴族たちの態度、それもまた、ノルドールとの確執を物語っていた。

「ではなぜ、イムラドリスへ来たのだ? 我らに屈服するつもりか。
それならそれで、話は別だ」

「屈服などしません」

 レゴラスは、真直ぐグロールフィンデルを見つめる。

「わが国は小さく、貴方方より弱いかもしれません。
それでも、エルフとして同等の立場ではあると思っております」

「己らを認めさせたいか」

「そうです」

 グロールフィンデルはほくそえんだ。なんとも無鉄砲な王子だ。
こんな若造をちゃんとした護衛もつけずによこすなど、
スランドゥイルにも甘く見られたものだ。
この王子が少しでも不信な態度を取れば、その身の安全は保障できない。
シンダールとは、あの最後の連合の戦いの時でさえ、同盟は結んでいない。
多くのエルフが種族の枠を超え、ギル=ガラドに従って来た時も、
スランドゥイルとオロフェアはそれを拒否した。そして今、彼らは孤立しているのだ。
それを今更、こんな若い王子に何をさせようというのか。
もし王子がノルドの挑発に乗り、剣を抜けば、彼は即座に追放されるか、
最悪肉体を滅ぼされる。そうなれば今再び谷と森は戦闘状態に入り、
そして、兵の数でも武器の優劣においても、スランドゥイルの国は分が悪い。

 それもまた、悪くはないか。

 スランドゥイルの王国は、目障りだ。

 

「ノルドのやり方を、知らぬか」

 その質問には、レゴラスは口を閉じる。

 賢明な態度だ。

「教えてやろう。これが、貴様に対する私の答えだ」

 レゴラスが驚きの悲鳴をあげる間もなく、
グロールフィンデルはその若者を床に引き倒し、馬乗りになった。

「許しを請え。泣いて哀願しろ。我らに屈服すると誓え」

「・・・・断ります」

「ならば、この谷にのこのこやってきたことを後悔するがいい」

 

 

 

 本当に、この若者は何も知らぬのだな。

 破かない程度に服を剥ぎ取り、両手首を掴んで頭の上に固定する。
レゴラスは驚きの眼差しでグロールフィンデルを見つめるだけで、
自分のおかれている状況を理解してはいない。

 下半身を露にされた時、さすがにレゴラスも足をばたつかせて抵抗した。
それさえ、やすやすと抱え込まれてしまう。

「何を・・・なさるおつもりですか?!」

「貴様を犯すのだ」

「おか・・・・・?」

 やはり、わかっていない。

 グロールフィンデルは、濡らしてもいない中指を、彼の秘部に押し当てる。
レゴラスは悲鳴をあげそうになり、慌てて唇を噛んだ。

「助けを望んでも無駄だ。
ここは私の私室で、何人たりとも私の許可なしで入ることはできない。
もっとも、貴様が悲鳴をあげれば当然外にも聞えるだろう。お前の従者たちにもな。
それでも、そ奴等もこの部屋に入ることはできず、
剣を抜けば谷の者に切られるであろう」

 なんて・・・・酷い・・・!

 見開いたレゴラスの瞳から、涙が零れ落ちる。

「これが最後だ。我らに屈服するか、否か。
逃げ帰ってスランドゥイルに報告し、我らとの戦争を望むか」

 何を、選べと言うのだろう?

 レゴラスは唇を噛んだまま、大きく首を横に振った。

「肉体の結合は経験が無いな? その屈辱を受けるというのだな。
言っておくが、私は優しくはない」

 指を押し込まれ、歯を食いしばってきつく目を閉じる。

 

 きついな。

 きっと、傷つけることになるだろう。

 グロールフィンデルは、狂気に興奮を感じる。

 久しぶりだ。こんなに興奮をするのは。

 殺してしまうかもしれない。

 それほどまでに、この若者の肉体は美しかった。

 

 硬く閉じた場所は、異物の侵入をきつく拒んでいる。
小さく舌打ちし、グロールフィンデルはレゴラスの身体をうつ伏せにし、
腰を上げさせた。本人は、自分が何をされているのか、
どんな屈辱的な体位を取らされているのか、わかっていないだろう。
ただ悲鳴を殺すのに必死で、ぼろぼろと涙を零している。

 レゴラスの腰を掴んだまま、
グロールフィンデルは近くにあるチェストの引き出しを開け、中のものをぶちまけた。

 何か、潤滑剤の代わりになるものがあったはずだ。彼を傷つけないためじゃない。
自分のために使うのだ。

 香油の小さな瓶を探り出し、片手で若者の腰を掴んだまま口を使って蓋を開ける。
薫り高い液体を秘部に流しかけると、レゴラスの身が跳ねる。

 いい反応だ。

 そのまま一気に体内に侵入する。レゴラスは殺しきれない悲鳴でうめいた。

「いい締め付けだが、力を抜かないと切れるぞ」

 なんとか押し戻そうとしている場所に指を走らせる。
レゴラスは首を横に振るだけで、いっそう身体に力が入る。

 それならそれでもいい。

 無理矢理押し込んだ場所から鮮血が流れるのもままに、
グロールフィンデルはその身体を犯し続けた。

 

 

 

 エルロンドは、回廊でふと足を止めた。

 レゴラスの従者たちが不安げに寄り集まっている。
もちろん、腕に覚えのある者達なのだろうが、こうしていると頼りなげに見える。

「・・・・レゴラス殿は、どこに行かれた?」

 エルロンドが声をかけると、
彼らは飛び上がらんばかりに立ち上がってエルロンドに礼をした。

「その・・・半時ほど前、グロールフィンデル殿に呼ばれて行きました」

「一人でか?」

「そのようなご所望でしたので」

 エルロンドは僅かに眉を寄せた。

「エルロンド卿、貴殿はご理解があると信じております。
ですので申し上げますが・・・」

 従者の一人が、頭を下げたままで、辛そうに言葉を続けた。

「スランドゥイル王は今回の来訪を快く思ってはおりません。
レゴラス王子が無理を通したのであります。
王子は・・・・未だ無鉄砲なところがあります。若さゆえ、なのですが。
もし王子の身に何かあれば、王は負け戦も覚悟で、この谷に兵を向けるでしょう。
それを王子は承知しております。
ですから余計に・・・事を荒立てることを恐れております。
私たちにも、行動は慎めと。王子は、自ら矢面に立つような方です。
どうか・・・王子の立場をご理解いただきたく思います」

 大切に扱われているのだな。

 エルロンドはレゴラスの気丈さを思い浮かべる。

「様子を見てこよう。あまり心配せぬように」

 そう言って背を向けるが、エルロンドは自分の行動の遅さを反省した。
グロールフィンデルが、穏便にシンダールの者と話をするなど思えない。
もっと早くに気付くべきであった。

 ノルドールにとって、シンダールは淘汰すべき存在なのだ。

 グロールフィンデルより先に、自分が呼び寄せるべきであった。

 エルロンドのそばにいれば、・・・・安全だ。

 

 

 

 エルロンドがグロールフィンデルの部屋のドアをノックしようと手を上げた時、
そのドアは内側から開かれた。

「遅かったですね。どうぞ、今終わったところです」

 ドアを開けたグロールフィンデルの姿に、まず息を飲む。
グロールフィンデルはローヴを肩に引き上げ、はらりと落ちた一筋の髪をかきあげた。
彼の、そんな乱れた姿を見るのは、はじめてであった。

 足早に部屋に入る。

 レゴラスは、床に倒れたまま動く気配もない。

 跪いて頬に触れる。泣き濡れた瞳はぼんやりと開けられたままで、
紅く染まった唇が乾いている。

「意識を閉じているだけで、死んではいませんよ。・・・少々やりすぎましたか」

 エルロンドはグロールフィンデルを睨んだ。

 少々、だと? これがか!

「どういうつもりだ? 王子をマンドスに落すつもりだったのか!」

「まさか!」

 ニヤリと笑うグロールフィンデルに、エルロンドは歯噛みする。

「この程度のことでマンドスに落ちるような、脆い精神ではありますまい。
その程度の者なら、その方が幸せかもしれませんがね。私は何度も警告をしたのですよ。
犯されるのが嫌なら、平伏せ、と」

 そんなこと、この誇り高き王子がするはずがない。

「グロールフィンデル・・・・・」

「我々はスランドゥイルとの和解など望んではいない。それを教えてやったのです」

「だからといって、地位ある者を辱めてよいものではない」

 グロールフィンデルの瞳が、狡猾に光る。

「なら、さっさと貴方が奪ってしまえばよかったのですよ。彼がそれを望むのなら、ね。
レゴラスなら、平伏すより犯されるほうを選ぶ。だから、望みどおり犯してやったのです。
エルロンド卿、貴方は甘いのですよ! あの時も! 
火の山の火口で、なぜイシルドゥアを切り指輪ごと燃やしてしまわなかったのです? 
貴方が決断を鈍らせたからこそ、今またその恐怖が広がりつつあるのです」

 グロールフィンデルの冷たい視線を受け止め、エルロンドは視線を外した。

 自分のローヴでレゴラスの体を包み、そっと抱き上げる。

「・・・・・彼は悲鳴を殺し、一度も許しを請わなかった。その根性は認めましょう」

 グロールフィンデルの言葉を背に、エルロンドはドアに向う。

「いい機会だ。貴方のものにしてしまいなさい。二度と私が手を出せないように。
でなければ、また繰り返しますよ。王子の若い肉体は、魅力的です」

 エルロンドは一度グロールフィンデルに厳しい視線を送っただけで、
無言のままレゴラスを抱えて出て行った。