若木に芽吹く新緑の葉は、それだけで美しい。

 ひたすらに光を求め、風を求め、

 与えられた分だけ成長していく。

 そう、何もかもが、彼にとって成長するための養分なのだ。

 緑色濃く成長するまで。

 

 

 

 するりとベッドから足を下したエルロンドは、
己の服を肩にかける。

 消えることのない甘美なぬくもりを抱いたまま。

 

 眠っているのかとのばした手に、
レゴラスはそっと触れた。

 潤む瞳でエルロンドを見上げる。

「少し休んだ方がいい」

 そう言って髪を撫でると、レゴラスは僅かに首を横に振った。

「眠ることは、いつでもできます。旅の途中でさえ。
でも・・・あなたと過す時間は、あまりに短い。
今の私は、一秒だって惜しく思います」

 そんな恋の歌を、誰が彼に教えたのだろう?

 一途な恋の歌を。

「ここにいて、お前に触れていよう。だから、休みなさい。
夢を与えよう。私が知るかぎりの、美しき風景の」

 それは、遠い過去の記憶か、
それとも未知なる未来の予言か・・・。

 きっと・・・

 

 きっとアマンは、彼の心の奥にある。

 

 暖かな日の光に包まれて、芽吹いたばかりの若葉は眠る。

 

 

 

 

 

 

 

 レゴラスは、弓の張り具合を確めていた。
矢を一本ずつ手に取り、矢じりの鋭さを確認し、矢羽を整える。
その真剣な眼差しは、戦士のそれだ。
愛用のロングナイフを磨く目つきの鋭さは、
彼の戦闘能力の高さを物語っていた。

 旅支度を整えるレゴラスを、エルロンドは黙って見つめた。

 誰かに送らせようかと、思う言葉を飲みこむ。

 その必要がないのは、一目瞭然だ。

 軽い武器と少ない食料。エルフの旅人には、それで十分だ。

「他に必要なものは?」

「ありません。ありがとうございます」

 振り向いたレゴラスは、誇らしげに見えた。
戦う武器を身にまとう時、彼は森の戦士となる。

「近々こちらを来訪することになると思います」

 エルロンドは頷いた。
立上ったレゴラスは、己の武器を装着した。

「スランドゥイル公へよろしく伝えてくれ」

「はい」

 背を伸ばし、部屋を出て行く途中で、レゴラスは足を止めた。
何かを思い出すように一点を見つめ、そしてエルロンドに振り返った。

「卿のご好意には感謝いたします。
・・・このようなことを口にするのは時期尚早とは
思われますが・・・昨夜、夢を見ました」

「夢?」

「はい。いつしか近い未来、
私は再びあの子供の盾となるでしょう」

 エルロンドは、闇の森の王子をじっと見つめた。

 それは、予言か・・・。

「心に止めておこう」

 レゴラスは頭を下げた。再び目が合ったとき、
レゴラスは少しだけ潤んだ瞳を見せた。

「気をつけて行きなさい。若き王子よ」

 愛する緑葉よ。

 エルロンドの無言の言葉に、レゴラスは安堵したように微笑み、
そして部屋を出て行った。

 

 

 

 館の門には、多くのエルフが見送りに来ていた。

 その中から、小さな影が飛びだす。

 あの子供だ。

 レゴラスは身をかがめて子供を抱きとめた。

「エステル!」

 子供は叫ぶように言った。
レゴラスは少し驚き、そして満面の笑みを作った。

「名前をもらったんだね? いい名前だ。
また君に会いに来るよ、エステル」

 子供は、泣くのをこらえるように口を結び、
じっとレゴラスを見ている。
幼いながらも、別れはわかるのだ。

「約束するよ、またすぐに来る。
だからエステル、君も約束して。
今度会う時は君の笑った顔をいっぱい見せてくれるって」

 子供は何度も強く頷いた。

 レゴラスは子供を抱き上げ、一度ぎゅうっと抱しめてから、
子供を母親に返した。

 エルフたちに礼を言って、館を後にする。
その時レゴラスは、高い所に宮廷顧問のエルフたちを見た。
それを見上げ、敬意をこめて深くお辞儀をする。

 次に会うときは、怪我をした旅人ではなく、
闇の森スランドゥイル王の息子であり使者として紹介されよう。

 

 谷を後にしたレゴラスは、澄渡る空を見上げた。

 止まぬ探究心は消えはしないが、確かなものが胸に残る。

 

 自分は何を求めて生きるのか。

 

 見えなくなった館に振りかえり、心のままに微笑む。

 

 消えることのない甘美なぬくもりを抱いて・・・。

















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 こんな砂糖漬けの羊羹みたいにゲロ甘なもの、
久しぶりに書いたな・・・。
 エルレゴハッピーエンドヴァージョン、
リクエストに添えたかしら?

 と、言うわけで
 内記、書き逃げします。