美しい森。
 
 濃い空気。

 溢れる光。

 

 知っているようで、知らない場所。

 レゴラスは、心地よさに酔いしれた。

 

 光と風の中に、誰かがいる。

「この森の美しさに、我心も癒されよう」

 聞き知れた声色。

 ひどく懐かしい。

 美しい金色のエルフの隣に、黒髪のエルフがいた。

 黒髪のエルフはゆっくりと振り向き、

 レゴラスに片手を差出した。

「おいで」

 静かにそう言って、指をひろげる。

 レゴラスは、そっとその手をとった。

 

 

 

 

 溢れる光に目を瞬かせる。

(夢を・・・見ていた?)

 ゆっくりと戻ってくる視界に、レゴラスは夢の続きを見た。

 

 黒髪のエルフ・・・。

 

 あの双子ではない。よく似ているが、違う。

「気分はどうだ?」

 その男は言った。

 夢の男だ。

 レゴラスは、また目を閉じた。

 

 心が溶け出す。

 あまりの光に・・・。

 

「夢を・・・見ているのでしょうか? あそこはいったい・・・?」

「緑森と呼ばれた地の原風景だ。私の記憶の中にある」

 緑森・・・?

 ああ、わが故郷が闇と化す前の。

「レゴラス」

 名前を呼ばれて、レゴラスはハッと我に返った。

「・・・エルロンド卿」

 かの男の名を呼ぶ。
自然に力が入り、彼の手を握っている自分に気がついて慌てて手を放した。
エルロンドがかすかに微笑む。

 

 また、あの感覚。

 心が吸い込まれるような。

 

「申訳ありません」

「かまわぬ。三日も寝ていたのだ。まだ精神が覚醒しておらぬのであろう」

 三日? 三日も寝ていたのか。オークの毒で。

「あの人間は・・・?」

「無事だ。特に子供の方は」

 そうか、と、やっとレゴラスは表情を緩めた。

 よかった。

「己を盾にするとは、無謀なことをするな」

「・・・無謀ですか?」

 エルロンドの言葉に、レゴラスがきょとんと問い返す。

「エルフはあれくらいでは死にませんが、人間はすぐに死んでしまいます」

 レゴラスの言葉に、今度はエルロンドの方が驚いた。
確かにそのとおりではあるが、そのような理由で人間をかばうというのは
珍しい。あの人間の価値を考えれば、もっと正当な理由をもてるだろうに。

 いや、レゴラスはあの子供の正体を知らない。

 きっと、誰にでも同じ事をするのだろう。   

 その時ドアがノックされ、エルロンドの双子の息子たちが入ってきた。

「気がついたか」

 鏡に映るようにそっくりなのに、レゴラスにはもう見分けがついた。

「申訳ありません、弓を傷つけてしまいました」

「かまわない。俺がお前にやったものだ」

 エルラダンはそう言って笑った。

「父上、いかがなのですか?」

 エルロヒアがエルロンドに問う。

「傷はふさがっている。
もう大丈夫だが、しばらく養生した方がいいだろう」

 双子は顔を見合わせ、父の顔を見た。

 きっと、遠方から来たエルフを傷つけた責任を感じているのだろう。
エルロンドは軽く片手を挙げて息子たちに責任がないことを表す。

「私が力不足なために、ご迷惑をおかけしました」

 レゴラスは身をのりだして、力の入らない左肩によろけた。
さりげなくエルロンドは片手でレゴラスの身体を支え、ベッドに戻した。

「誰も気に病むことはない。
スランドゥイル公の子息がどんな理由であれここを訪れたというのは
歓迎すべきことだ。ゆっくり話もできる。
むしろ、このような事故がなければ機会は訪れなかったであろう。
・・・ただ、今はまだ目覚めたばかりなので、心を落着かせることを
優先すべきであろう。レゴラス、気分は?」

「悪くありません・・・」

「けっこう。もう少し寝てから何か食べるといい。お前たちは?」

 息子たちに向き直る。

「彼が無事ならそれで」

「よろしい。では下がりなさい」

 双子は先に部屋を出て行った。
エルロンドは去り際、レゴラスに振り向いた。
微笑むように目を細める。一瞬だけ視線を合わせ、館主は出て行った。

 エルロンドの視線が去ると、
レゴラスは力尽きたようにベッドに身体を預けた。

 

 願わくば、もう一度あの夢が見られますように・・・。

 

 レゴラスの疲れた身体は、またすぐに夢の中を彷徨った。














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 シルマリル読んでないので、パパとエルロンドの関係、わかりません。
またいいかげん書いてます。
 馬鹿話と平行して書いてはダメね。頭の中で混同して、
ギャグに走りそうになる・・・。