エルフと人間の戦い方は違う。アラゴルンは剣を振った。
少年とは思えない勇敢さと豪傑ぶりで。

 アラゴルンは、倒したオークの数を数えなかった。数える
必要もなかった。

 森の奥に何匹かが逃げ込んだ。

「深追いをするな!」

 誰かが背後で叫んだが、アラゴルンは聞いていなかった。
エルフたちは予想以上のオークの数に苦戦していた。数本の
矢が道をふさぐオークを倒し、レゴラスが姿をあらわした。

「エステルは私が追う!」

 仲間にそう叫び、アラゴルンの消えた森の奥に走り込む。
後を追うのは簡単だった。オークの死体が転がっている。背
後の戦いの叫びが遠ざかり、レゴラスは足をとめた。

 空気の異変にぞっと身を震わす。本能が危険を知らせている。

 何かいる。オークではない、何か。

 アラゴルンの叫びが響き、レゴラスは恐怖を訴える足を無
理やりそちらに向けた。

 化物だ。

 否、上古の悪しき生物。太い蔓に似た触手をいくつも持ち、
蜘蛛かムカデのように張って進む。その触手の先に、彼はいた。

 触手の一本がアラゴルンの首を締上げている。弓でかなう相
手ではない。もうひとつの武器、ロングナイフでもあの触手は
断切れないだろう。

 迷うことなくレゴラスはナイフで自分の腕を切りつけた。

 鮮血が滴る。

 それを矢の先にこすりつけ、化物に矢を射る。

「こっちだ! お前の好きなエルフだぞ!」

 どっちが前かわからないようなうねうねした化物は、すぐに
向きを変えた。好物のエルフの血を嗅ぎ分けたのだ。触手が緩
んだ隙に、アラゴルンは己の剣で己の首をしめていた触手を斬
りおとした。触手の一本がなくなったことなど、化物はいっこ
うに構わない。エルフに向って突進する。レゴラスはアラゴル
ンと反対方向に走りだした。

「レゴラス!」

 叫んで、今度はアラゴルンがレゴラスを追う。何本か弓を射
ながら、レゴラスはひょいひょいと木の間を抜けた。

「目だ! 目を狙え、アラゴルン!」

 目なんて言われても、どこにあるのかわからない。躊躇して
いる間に、触手の一本がレゴラスの足に絡みつき、細いエルフ
の身体を宙にもち上げた。

 悲鳴をあげたのはアラゴルンの方。

 レゴラスは懸命にナイフで触手を傷つけるが、まったくといっ
ていいほど歯が立たない。そうしている間にも、何本もの触手が
レゴラスの身体に絡みつき、両手両足の自由を奪った。レゴラス
はきつく歯をかみ締めている。他のものと違った形をした一本の
触手がにょきにょきと伸びてきて、レゴラスの顔をまさぐる。何
とか避けようと、レゴラスは頭をのけぞらせた。

「レゴラス!」

 化物に、何度も何度も切りかかる。アラゴルンは何本かの触手
を切り落し、そのうちの一本はレゴラスの足に絡んでいたものだ
った。

 化物は怒っていた。

 せっかくの食事の邪魔をされて。

 それまで人間を無視していた化物は、触手の一本をアラゴルン
にのばし、その足をすくって地面にたたきつけた。アラゴルンは
その触手も叩き切ったが、額から血が噴出した。

「エステル!」

 とっさにレゴラスが叫び、その瞬間、例の触手がレゴラスの口
の中に入り込んだ。

 嫌な紫色をしたブニブニした触手が、薄い唇を割って入り、何
度か脈打つ。

 アラゴルンは見た。レゴラスがぐったりと力尽きるのを。うつ
ろに開かれた瞳から生気が失せ、しめつけられた腕がだらりと下がる。

「!」

 一瞬、パニックに襲われる。が、同時に誰かが頭の中で叫んでいた。

(エルフは死なない! エルフはこんなことでは死なない!)

 それが自分の声だと気付くと、やっとアラゴルンは呪縛が解けた
ように動き出した。

「レゴラスを、かえせーーー!」

 怒りは異常なほどの集中力を呼び、レゴラスの言っていた奴の目
がどこにあるのか判断がついた。そんなもの、考えなくてもわかる
はずだ。

 急所は真中にある!

 食事を楽しむ化物に、アラゴルンは突進していった。尋常ではな
い力で触手を切り落し、その真中にある塊を貫く。

 それは、巨大なひとつの「目」だった。

 緑色の液体をぶちまけながら、化物がのたうつ。アラゴルンは剣
を引きぬき、もう一度正確にその奴の目、心臓を貫いた。

 死に際の蜘蛛の足のように丸まっていく奴の触手から、愛しい人
を奪い取る。

 レゴラスの身体は驚くほどに軽かった。

 両腕でレゴラスを抱え、アラゴルンは森を抜けた。

 グロールフィンデルが、そこに待っていた。まだエルフの何人か
はオークを追っていた。

 森から走りだしてきたアラゴルンの姿に、グロールフィンデルは
息を呑んだ。その身体は化物のべとべとの体液で汚れ、ぐったりと
動かないレゴラスを抱えている。

 グロールフィンデルはアラゴルンの前に立ち、その足を止めると、
無理やり地面に座らせた。

「『エルフ食い』に会ったのか?」

 小刻みに震えて、アラゴルンは口を開けない。グロールフィンデ
ルはアラゴルンの頬を叩いた。

「『エルフ食い』に会ったのかと聞いている!」

 歯を食いしばりながら、アラゴルンは「そうだ」と答えた。

「名前はわからない・・・でもレゴラスだけを狙っていた。だから
・・・そうだと思う」

 胸がつぶされそうな声。グロールフィンデルはレゴラスの身体を
アラゴルンから奪い、自分にもたせかけながら、腰につけた小さな
袋から一枚の草の葉を取りだし、片手で揉み砕いてアラゴルンの額
になすりつけた。

「大丈夫だ。こんなことでエルフは死なない。奴は毒で身体を麻痺さ
せ、エルフの生気を吸う。私にその毒を出す術はないが、エルロン
ドは心得ている」

 それからすぐに立ちあがり、グロールフィンデルはレゴラスを抱
え、館に向けて走りだした。アラゴルンが今まで知らなかったほど
の俊足で。彼の足には到底追いつけはしなかったが、アラゴルンも
出来る限り全速で館に戻った。

 

 

 予感を感じたのか、エルロンドは館の外で彼らを待っていた。

 グロールフィンデルが早口に状況を説明する。動かないレゴラス
をエルロンドが受取ったとき、やっとアラゴルンは彼らに追いついた。

「私の部屋で治療を行おう。誰も入るでない。アラゴルン、お前もだ」

 その口調は穏かで冷やかなものだった。叱咤されるより辛い。

「アラゴルン、来なさい。怪我の治療をしよう」

 静かに言うグロールフィンデルの、のばされた腕を払いのける。

「いらない!」

「応急手当しかしていない。痛むだろう?」

 アラゴルンは大きくかぶりを振った。

 レゴラスを傷つけた。そのことだけしか考えられない。自分の怪
我など・・・彼を傷つけるくらいならあそこで自分が死んだ方がましだった!

 アラゴルンの心中を察してか、グロールフィンデルは素直に引き下がった。

 

 

 天蓋つきのベッドの上で、毒消しの治療を行う。呪文と、薬草と、
・・・そして口づけ。毒とはいっても身体を麻痺させるだけのもの。
中和させるのは難しくない。それよりも、毒によって深く眠らされ
た意識を呼び起す方が大変だ。エルフは肉体より精神の活動の方に
支配される。意識を飛ばすことで「眠る」という休息を長く取らずに
済むように。

 服を脱がせ、外傷を確認する。手足に薄く絞め痕があるほかは、
まったくの無傷だ。

「レゴラス」

 耳元で名を呼ぶ。うつろに開かれた瞳は、光を映さない。

 エルロンドはそっと身体を重ねた。

 愛するという行為は、人間のそれとは違う。肉体の快楽を激しく
求めたりしない。ましてや子供を作る行為でないとするなら。肌を
あわせ、息を絡め、心を融合させる。

 それが快楽。

 温もりを分ちあうことで、肉体の結合以上の絆を生む。

 まるで、光と影のようにはっきりと色の違う髪が、重なり合う。

 レゴラスは夢の中にいた。暖かな日の光。太古の森の濃い空気。
彼が生れる以前の人の手の加わらない風の匂い。

 エルロンドの記憶の中に、彼はいた。

 いつだっただろう? 初めて目にしたときから魅了され続けて
きた王。死すべき運命の人の血を持つ、エルロンド。永遠の命を
捨てるほどの激しい恋愛の末に生れた子。

 彼の激しさと穏かさの中で、レゴラスは目を覚ました。無意識
に両腕を彼の背に絡める。夢の続きをむさぼる様に。

 やがて、やっとレゴラスの意識は今に戻ってきた。

「エステルが怪我を・・・額と、左の手首・・・背中を打って
・・・」

「安心しなさい。エステルは『エルフ食い』を倒して、館に戻っ
てきた」

「・・・でも・・・怪我を。申しわけありません、私がついて
いながら・・・」

 エルロンドはふと笑った。この状況でも、まず彼の心配をす
るのだな。恋をしているのは、自分の方なのかもしれない。こ
の汚れなき王子に。エルロンドは身体を起した。意識と行為が
まだばらばらのレゴラスは、去り行く温もりを惜しんで片手を
持ち上げる。

 本当は、あなたに抱かれていたい。

 エルロンドはレゴラスの手を取り、唇を寄せた。

「エステルならドアの外にいる。会ってやるか?」

 こくりと頷く。エルロンドは手早く服を身に付け、絹のよう
なやわらかい上掛けをレゴラスの胸まで引き上げた。

 それからドアを開け、とりあえず汚れを落しただけの傷つい
た少年を呼びこむ。

「レゴラス」

 戦場での勇敢さは微塵もない。レゴラスはぐったりと横たわっ
たまま、アラゴルンに片手を差出した。その手にすがるように
少年が跪く。

「化物を倒したって? すごいね。見直したよ」

 言葉にまだ力がない。

「レゴラス・・・俺・・・」

「・・・それだけの力があるなら、今度僕の森に来るといい。
美しいところだよ。ここほどではないけどね」

 謝罪を受けいれる暇を作らない。

「俺・・・」

「怪我の手当はしたのかい?」

 小さく首を振る。

「いい機会だから、薬草の知識も学ぶといい」

 疲れたように、レゴラスは小さく息を吐いた。

「アラゴルン、レゴラスは休まなければならない。わかるね?」

 また小さく頷く。エルロンドに促され、アラゴルンは立ちあがった。

「・・・見舞いに、来てもいい?」

「もっと有効に時間を使いなさい」

 やさしく拒絶され、立ちすくむ。その間にも、エルロンドは
薬草の入った水を口に含むと、それを口移しにレゴラスに飲ま
せた。その光景は、とても自分の入れる雰囲気ではない。 

 レゴラスの言いたいことはわかっている。このことで自分を
責めるなと言っているのだ。

意識と無意識の狭間で横たわるレゴラスの姿を見れば、自分を
責めずにいられないし、心が退行していく。だから、見るなと
彼は言っている。

 それでも、アラゴルンの辛さに変りはない。

 レゴラスはエルロンドの手を借りて起き上がった。上掛けが
するりと落ちて、無防備な白い胸があらわになる。こんな時だ
というのに、アラゴルンは頬に熱を感じた。

「アラゴルン」

 腕をのばしたレゴラスに抱すくめられる。

 燃えるように顔が熱い。

「ありがとう、助けてくれて。僕もまだまだだね。あんな奴に
つかまるなんて。認めるよ、君がもう子供じゃないって。
・・・ありがとう」

 レゴラスの滑らかな肌の感触。たかぶる感情をどう理解して
いいのか、アラゴルンはまだ知らない。

 レゴラスはそっと身体を離し、アラゴルンの額にキスをした。

「ちゃんと身体を洗って手当を受けるんだよ? この匂いは我
慢が出来ない」

 いつもの、悪戯っぽい微笑み。レゴラスはアラゴルンの身体
を押し戻した。

「行きなさい。グロールフィンデルの言うことを聞いて。でな
いと、僕がエルロンドに怒られてしまう」

「・・・わかった」

「あとで会おう」

 レゴラスが手を振る。アラゴルンはちょっとだけ笑って、
部屋を出て行った。

 アラゴルンの出て行ったドアが閉ると、レゴラスは差しの
べられたエルロンドの腕に崩れ落ちた。

 彼の腕にしがみつき、がたがたと震える。

「何を・・・見た?」

 震えるレゴラスを抱しめる。

「・・・暗黒と、虚無。どこまでも落ちていく・・・不安定な・・・」

 そこまで言って、レゴラスは言葉につまり、エルロンドの
胸に額を押しつけた。

「・・・怖い・・・!」

 小さな子供のように震えながらしがみつく。

「怖い・・・怖いよ・・・」

 意識が、魔物の見えない胃袋の中に吸い込まれていく。「エ
ルフ食い」と呼ばれる上古の魔物の恐ろしさは、これなのだ。
エルフの意識を、光から闇へとおとしめる。心を殺してしまう。

「大丈夫だ。レゴラス、お前は光の中に帰ってきた」

 やっと戻った意識が、アラゴルンを送りだすことに全て力
を使い果し、意志の糸が切れてまた落ちていく。

「身体が・・・なくなる・・・」

 ほとんど無意味な言葉を繰り返す。

「・・・僕が・・・いなくなる・・・」

 助けて・・・怖い、と繰り返す。

「レゴラス、私を見なさい。お前はここにいる。身体はちゃ
んとある。私の腕の中にいる」

 素肌を愛撫しながら唇を重ねる。

 深く・・・深く。

 ベッドの上で、再び身体を重ねる。体温を分け与える。

「レゴラス」

 何度も名を呼び、頬を撫でると、やっとレゴラスはエル
ロンドの瞳を見た。

「愛しています・・・愛しています・・・ずっと、・・・ずっと」

 無意識がそう言わせるのか。普段なら絶対に言わないこ
とを口にする。

 それは、哀しいことだ。

「・・・愛しているよ」

 耳元で囁き返す。

「お前の意識の中に入ろう。いいね、心を開くんだ」

 うなずくかわりに瞳を閉じる。

 意識の奥まで分け入り、魔の巣食う闇を取りのぞこう。

 エルロンドは、きつくレゴラスを抱しめた。

 

 

 エルロンドの部屋を出てきたアラゴルンを、待っていたの
はグロールフィンデルだった。今度は素直に彼についていく。

 まずは用意された湯で身体をよく洗い、乾いた服に着替える。
それから治療のための部屋に連れて行かれ、椅子に腰掛けた。

 額の傷は乾いていたが、もう一度薬草を塗りなおす。レゴラ
スの指摘したとおり、左手首は捻挫しており、背中に打撲の痕
がある。足首にも裂傷がある。それらを丹念に調べ、手当をし
ていく。その間もグロールフィンデルは全ての傷の具合を口に
し、対応する治療法を教えた。

「質問は?」

 傷の治療というより、授業に近い。

 アラゴルンは首を横に振った。

「どんなことも後に役立つ。しっかり頭に入れておくといい」

 素直に、「はい」と答える。

 治療が終ったあと、グロールフィンデルはすぐには立ち去ら
ずに、アラゴルンの言葉を待った。言いたいことがたくさんあ
るのはわかっていた。

「すみません。俺が余計なことをしたばかりに・・・」

 しばらくしてやっと口を開く。

「そうともいえない。『エルフ食い』は厄介な魔物だ。オークど
もが連れていたところを見ると、運ばれる場所はひとつだろう。
結果的にそれを未然に防げたのだ。それはお前の手柄だ」

「・・・でも、レゴラスが・・・」

「お前が見つけて倒してくれなければ、もっと多くのエルフが
犠牲になるところだった」

「・・・他のエルフなんて関係ない!」

 言ってから、しまった、という顔をする。グロールフィン
デルは嫌悪の変りに口元をつり上げた。

「傲慢だが正直だ。今の自分の言葉が正しいかどうかくらい判
断がつくだろう。それに、お前のその傲慢さをレゴラスがど
う受けとめるかも」

 ぎりぎりと歯軋りをして俯く。

「大人はな、己の傲慢さを表には出さぬものだ。弱さもだ。
お前はレゴラスを助け、魔物を倒した。それでいい。それ以
上のことは口にするな。わかるな? 闇の森の王子はお前を
甘やかしすぎている。心が弱ければ、己の運命にも立ち向え
ぬ。お前も、己の運命くらいわかっているはずだ。それに抗
えない事も。レゴラスはお前を愛しているだろう。だがそれ
はお前の求めているものとは違う愛し方だ。気付いているは
ずだ。人間とエルフは違う。現実を受けとめるのは辛いかも
知れぬが、目を閉じてはならぬ。一時の感情に流されるな。
強くなれ」

 強くなるということ、大人になるということ。心が痛い。
何故人間は、こんなにも早く成長してしまうのだろう? 
なぜエルフのようにゆったりとした時間を過せぬのだろう?

「もし俺がエルフだったら・・・」

 レゴラスは愛してくれただろうか? 自分が求めるような愛を。

「もしお前がエルフだったら、二人ともあの森で食われていた」

 グロールフィンデルは、やさしくアラゴルンの髪を撫でた。

「人間でよかったのだ」

 そして、ゆっくりと立上る。

「いずれ王となる者よ、私はお前に従うようになるだろう。
レゴラスも、エルロンドもだ。しっかりと前を見て歩け」

 王になど、ならなくてもいい。ただ、愛して欲しいだけ。
それも叶わぬのなら・・・。

「強くなるよ」

 誰よりも、誰よりも。己の心の弱さに負けぬくらい。

「それでいい。今は休みなさい」

 グロールフィンデルは出てゆき、アラゴルンも立上った。

 強くなろう。愛しい者を守れるくらい。

 

 

 静かに月日は流れていく。あれから一週間が過ぎた。

 アラゴルンは、今まで以上に剣の修行に励んだ。夜はラン
プをともし、ありとあらゆる本を読み漁る。ここの図書室に
は、一生かけても読みきれなくらいの文献がある。

 よく晴れた朝、庭でアラゴルンは剣を振っていた。

 どこからともなくどんぐりが飛んでくる。気配でそれを察
し、どんぐりを剣で払い落とした。

「もうこの遊びは終りだね」

 高い木の枝から声がする。

「レゴラス!」

 にやけそうになる口元を無理やり引きしめる。

「大丈夫なのか?!」

「もうすっかりね」

 ひらり、と彼は降立った。朝の光に似た金色の髪が舞い落ちる。

 きれいだ、と思う。でも、決して手に入れられない宝石。

「午後には発つよ。ずいぶん長居をしてしまったし」

「レゴラス、・・・きれいになったんじゃないか?」

「そう?」

 彼の美しさが増して見えるのは、ずっと心配していたから
だけではない。

 では何故?

 わかっている。レゴラスは、ずっとエルロンドと一緒にいた。
どんなに望んでも、自分には出来ないこと。薄々気付いてはいたのだ。

 闇の森の王子は、裂け谷の王に魅了されている。

「アラゴルン、ちょっと見ない間にたくましくなったようだね?」

「人間の成長は早いんだよ」

 レゴラスは笑い、アラゴルンも笑んで見せた。

 

 

 エルロンドの許しを得て、午後の日ざしの中、アラゴルンは
レゴラスを送るために森の端まで来た。二人きりの時間を惜し
むように。

「ここまでだよ」

 川を渡る手前で、レゴラスの方から切りだした。

「ああ。気をつけて」

 レゴラスもアラゴルンも一度馬を下りる。それから、アラゴ
ルンはすばやくレゴラスの唇にキスをした。今までのように、
頬や額ではなく、唇に。

 少し驚くレゴラスに、真剣な面持で見つめる。

「十年、待って。俺、強くなるから。誰よりも、強くなるから。
そうしたら・・・」

 思い切った告白。心臓が飛出るほどにどきどきしている。
レゴラスは一瞬だけ切ない表情を見せ、おもいきりアラゴルン
を抱しめると唇をあわせた。初めて知る大人の味。頭の中がく
らくらする。

「楽しみにしているよ。十の冬が過ぎた頃、また来る」

 それだけ言って、レゴラスはひらりと馬に飛乗った。

 レゴラスにはわかっている。エルフと人間の時の流れは違う。
エルフにとっては一瞬の出来事も、人間には長い長い年月なの
だということを。

 アラゴルンな成長するだろう。そして、己を見つけるだろう。
もし・・・もし十年もの間焦れる気持が変らないのなら、彼の
ものになってもいい。

「また会おう、アラゴルン」

 レゴラスは笑んで見せた。

「また会おう、レゴラス」

 アラゴルンも馬に乗った。お互いに背を向け、歩き出す。

 儚い想いを打ち捨てるように、レゴラスは呟いた。

「エルロンドの娘は、美しいだろう」

 そして、それぞれの家路に馬を走らせた。

 

 

 

 

 

 すみません、すみません・・・。

 ファンタジーの醍醐味はやっぱり触手系エロだと思って・・・。
そしたら止らなくなってしまいました。裏話で封印しようかと思っ
たけど、それほどドギツクないかなーと・・・。そんなわけで、
表に入れてしまいました。ああ、ごめんなさい!

 グロールフィンデルは映画には出てこなかったのかな? 覚え
てなくてすみません。原作では怪我をしたフロド達を迎えに来た
のが彼なんですよね? って、原作もまだ七巻読み終ってない状
態なので、本当の彼の役割とかわかっていません。誰でもよかっ
たんだけど、なんか彼かっこよかったから。無知の癖にこんなこ
とばかり書いて大丈夫なのかしら?

 自分であとで後悔しそう・・・。ああ、非難しないで下さい!
 これも煩悩の暴走ゆえ。

 

追伸

 これを書いたとき、シェロブはまだ出てませんでした。
本当です。バルログみたいな化物いるならこんなんもアリ
かなーと思っただけで・・・。

 書き終えて眠らせている間に、ガイドブックを買ってし
まいました。たくさんのなぞ解明!自分の無知さが身にし
みる(号泣)てなわけで、少しだけ手直ししました。