昔、 人間とポケモンは、同じ生物として、同じ言葉を話していた。 口から出る「音」は別々でも、今でもポケモンたちは会話を交している。 人間だけが、その言葉を理解できなくなってしまった。 それは、「自分たちは特別なのだ」と思う、人間の「おごり」に対する、神の罰なのかもしれない。 深い森の奥で、私はずっと暮していた。 ずっとひとりだったのは、私の心が何かを求めていたからかもしれない。 それはなんなのか、今はまだわからない。 優しい風も、冷たい小川の水も、揺れる木の葉に反射する光も、とても綺麗で、とても好きだ。 ただ、自分は、他のポケモンとはちょっと違う気がしていた。 ポケモンにもいろいろなタイプがあって、「超能力」、なんてものを持っている連中もいる。 だがそれとも違う。自分には、モノを浮かせたり移動させたりする能力はない。 もしかして、こんなことを客観的に考えることが、他のポケモンと違うところなのかも。 いや、世界の運命を変えるほどの力を持ったポケモンもいるのだ。 私のように、ちっぽけで小さなポケモンではなく。 森を散策していて、「人間」に出会うこともある。 彼らは、自分が一番すぐれていると思っている。 彼らを超越する力を持つポケモンがいることなど、考えてもみないのだろう。 どちらにしろ、私にはそんな力など、ないのだけれど。 その日は、なぜか朝から胸がどきどきしていた。 時々、そんな朝がある。 そんな日は、たいていすばらしいものを見つけることができる。 つやつやした綺麗な石とか、この森ではめったに会えない遠い国のポケモンに出くわすとか。 そして、旅の話をちょこっと聞けたりとか。空に虹がかかったりとか。 わくわくすることが起ったりする。 だから、私は、朝からちょっと期待していた。 水を飲もうと小川に下りていったとき、嗅いだことのない臭いに気がついた。 (人間?) 私がそう思った瞬間、川べりにいた人間が、こちらにふり向いた。 (人間) 私も驚いて、隠れるのを忘れた。 「君は・・・・・!」 その人間は、私をまっすぐ見据えていた。 その瞳は、川底できらきら光る透明な石のようで、とても綺麗だった。 (ああ、隠れなきゃ・・・) 「隠れないで!」 そんなことを言われて、驚いた。 (なんだ、この人間? ここは私の水場だぞ?) 「ごめんよ、驚かして。ここは君の水場だったんだね?」 (・・・・・・・・) 私は一瞬、頭の中が真白になった。 ポケモン同士なら、「声」を使わずに会話することもあるが・・・・ この人間、私の考えていることがわかるのか? 「すぐに退くよ」 人間は、投げ出してあった帽子や杖を拾った。 (いいよ、退かなくても。川は広いんだから) 「ありがとう」 その人間は、本当に嬉しそうににっこりと笑った。 間違いない。 私の心を読んでいる。 私はゆっくりと川辺に降りていった。 (あなたは、ポケモンの心が読めるのですか?) 「いいや。他の人間と同じで、その身振りから推測することはできるが、言葉はわからない。 君が、私の心を読んでいるのではないのかい?」 (私に、そんな力はありません) その人間のそばまで来た時、私は強い「風」を感じて目を閉じた。 同じように、その人間も「風」を感じたように目を細めた。 (これは・・・・・) 「波動・・・」 その人間は、ぱあっと顔を輝かせた。 その嬉しそうな表情は、私を驚かせ、そして、今まで見たどんな空よりキレイに輝いて見えた。 ああ、朝からの予感は、この出会いだったのだ! 「君の名は・・・?」 「ルカリオ」 その日、初めて私は「声」を出した。 「ルカリオ!」 人間は、嬉しそうに私の名前を呼んだ。 その弾んだ声は、私の胸をときめかせる。 「ルカリオ! 私は、君と出会うためにここに来た!」 何を言っているのだろう? と、いう疑問と、 そう、私も同じだ、 という感動が、胸の中でぐるぐる回る。 その人間は、私の手を握った。大きくて、暖かな手だ。 その人間の手に触れたとき、私の中で世界が変った。 (・・・・・!) 強い風に包み込まれる。 世界が、ぐるぐると回り、そして、ぶわーっと広がっていった。 外へ、外へ・・・。 見える。 森が。 森の中で暮す、ポケモンたちが。 森の外で暮す、人間たちが。 風が。 空が。 はっきりと。 目で見るより、はっきりと。 (見える!) (そう、これが、君の波動の力だよ!) 「波動!」 声を出した瞬間、その人間は手を離し、そして世界は元に戻った。 ああ・・・・もっと見たい! もっと感じたい!! 「訓練すれば、もっと見られるようになる。いつでも感じられるようになる」 私は胸のワクワクを押えることができなくなっていた。 顔が緩み、笑っているのが自分でもわかった。 「これはね、誰でもできることではないんだよ。 こんなにも私と波動が同調するのは、君がはじめてだ」 その人間も、私と同じかそれ以上に嬉しそうに笑っていた。 「教えてください!」 「私と一緒に来るかい?」 私の答えなど、決っていた。 私は、この人間に出会うために生れてきたのだ! 「私はアーロン。よろしく、ルカリオ」 それが、私とアーロンの出会いだった。