真っ暗な部屋から、呼び声がする。
 少年は、立ち尽くす。
 何度も何度も、繰り返される夢。
 悪夢。

「目をひらけ」  
 
 それは言う。

「耳を澄ませ」

 少年は、ぎゅっと目をつむり、両手で耳をふさぐ。

「気付いているのであろう
 お前が、
 本当は利用されているのだということ」

 聞きたくない。

「閉じ込められ
 操られ
 尊厳を傷つけられ」

 聞きたくない。

「我を求めよ」

 いやだ。

「我を求めよ
 我を探せ」

 ハルモニア
 そう、それが呼ぶ。

「我のパートナーになるにふさわしいか、
 我が判断してやる
 我を求めよ」







 鋭い悲鳴に、二人の少女はその部屋に駆け込んだ。
「Nさま!」
 幼い少年は、床の上で体を強張らせ、断続的に悲鳴を上げ続ける。
 少女はNを抱き起こそうとするが、激しく暴れる少年に、手をこまねく。
 見開いた少年の瞳は涙に濡れ、紅潮して真っ赤に染まった唇が震えている。
「どうした」
 ただならぬ騒ぎに、その男がやって来た。
 状況を見極めるように、しばらく少女たちと少年を見下ろす。
少女たちは、救いを求めるように男を見上げる。
「………ゲーチスさま……Nさまが」
 男の鋭い表情が、ふと和らぐ。それは、自然のものか、意識した演技か。
そして、膝を落すと、暴れる少年を、力強い手で抱き上げた。
「N様、もう大丈夫ですよ。怖い夢を見られたのですね?」
 胸元に引き寄せ、髪を撫でる。
「大丈夫、大丈夫です。わたくし、ゲーチスがおそばにおります。
N様をお守りします。
さあ、目を開けて。目を開けて、わたくしを御覧なさい」
 少年の瞳に、光が戻る。
が、激しく暴れたせいか、胸が痙攣して呼吸ができない。
苦しげに男を見つめる。
男はそっと唇を重ね、小さな唇に息を吹き込んだ。
そのとたん、少年は生まれたばかりの赤ん坊のように、大きく息を吸い込んで、叫んだ。
「ゲーチス! ゲーチス!」
「大声を出さなくとも、聞こえております」
 少年は、怯えるように男にぎゅっとしがみつく。
男は少年を包み込むように抱きかかえ、少女たちに目配せをした。
 少女たちが頭を下げ、部屋を出て行く。
「どんな夢を見られたのですか? わたくしにお話ください」
 少年はかぶりを振って、いっそうしがみつく手に力を入れる。
「………では、わたくしのベッドに行きましょう。それならいいですね?」
 少年は男を見上げ、こくりと頷く。少年を抱きかかえたまま、男は歩き出した。

 
 イインダ
 イインダヨ
 コノママデ
 ダマサレテテモ
 イインダヨ
 ボクヲ
 ダイテクレルナラ