「ウマソウは?」

 「エサ、食いに行ってる」

 「遠くまで?」

 「あいつ、けっこうでかくなったから、沢山葉っぱが必要なんだよ。
 そのうち、この辺の葉っぱ、みんな食われちまうかもな」

 「………それは、困るね」

 「お前は困らないだろう? 海の中なんだから」

 「困るよ。葉っぱがなくなったら、
 この辺の草食いがいなくなっちゃうでしょう? 
 そしたら、ハートはもっとずっと遠くまでエサを探しに行かなくちゃいけなくなるじゃない」

 のそり、と、岩肌から頭を持ち上げる。
 振り向くと、そいつはニコニコしながら空を見ていた。
 いつも、ニコニコしている。
 何がそんなに楽しいのか。

 「そしたら、サカナ、食うよ」

 「うそつき」

  とぷん 
 と、そいつは海に滑り込む。

 最近、ヘンだ。

 いや、ヘンのなのは、自分の方か。

 海の深いところに行かれると、追いつけない。
 「ペロペロ」
 呼ぶと、そいつはすいっと寄って来る。
 「お前さ、卵、産むか?」
 「産まないよ。知ってるでしょう? 
  それに、ボクとハートの子どもって、想像できないよね」
 おかしそうにそいつは笑う。
 そりゃあそうだ。
 爪があるのか、ヒレがあるのか、首が長いのか短いのか………。

 「ハート、旅に出たいんでしょう?」

 泳げないハートが、手の届かないぎりぎりのところで、そいつが笑う。

 「発情の季節だもんね。行っておいでよ」

 「ウマソウ連れて、行けない」

 「じゃあ、置いて行けばいい。ウマソウも、もう留守番できるよ。ここで」

 「お前は?」

 「ウマソウと留守番してるよ」

 ハートが卵山に行ってきた時みたいに。

 「………」

 「行っておいでよ」

 何か分からないものにイライラして、
  体の中がむずむずして、
  バシャバシャと海に入っていく。
  やがて足がつかなくなり、どぶん、と沈む。
 ペロペロがハートの体を押し上げる。
 「ぷはっ」
 「大丈夫?」
 「大丈夫じゃない!!」
 ハートを背中に乗せたまま、ペロペロは驚いた顔をする。
 「お前とウマソウ、よわっちい二人を置いていったら、
  心配で心配でしょうがないだろうが!」
 海にも陸にも、肉食いはいるのだ。

 自分もそうなのだけど。

 「でも、ハート」

 どうするの?

 すっと泳いで、ハートを浅瀬に乗せる。

 イライラして、むずむずして、

 相手を求めている。

 不意にペロペロは首を伸ばして、遠くを見た。

 「ウマソウが帰ってきたみたい」

 はあっ、とハートはため息をつく。
  ウマソウが無事に帰ってきた安心感と、
  話の続きを誤魔化せた安心感。
  と、ちょっとの苛立ち。

 「今夜、ウマソウが寝たら、話そう」

 「うん」

 ペロペロが返事をするのと同時に、
 「ただいまあ!」
 ウマソウが入り江に駆け込んできた。