色々訳あって同居している二組の父子。
1
クリスマスが近付くと、ウキウキし出すのは最も縁遠いと思われる天才外科医。
「ジョルジュ〜! PS3買って来ましたよ!」
「わーい、ありがとうパパ! これでサル捕まえていい気分だね!
・・・・って、喜ぶわけないでしょう?!
私はゲームなんかしないし、PS3でサルゲッチュは出ていません!」
大きな箱を抱えてしょんぼりする天才外科医。
「ええっだって、もはやゲーム機ではないほど高性能なのに」
「いりません!」
息子はぷいとそっぽを向く。
「じゃあ、PSPでみんなのゴルフ・・・・」
「やりません!! 昨日だってお母さんからDSと脳トレソフト送られてきて、
ザナドゥにあげたのに」
子供を子供扱いしたいバカ親ふたり。
「まあまあ、ジョルジュ」
見るに見かねたスコルピオンが、ぷんすか怒るジョルジュの肩を叩く。
「ヘルガはな、昔から子供扱いされたことがないんだ。
自分の子供を子供扱いしたい気持もわかってやれ」
あんたに言われたくない。
「そうですよ。物心ついた時には、
サンタなんて非現実的な生物が存在するはずがないと説得され、
五歳の誕生日には百科事典、
10歳の誕生日にはプレゼントだといって勝手に
アインシュタインアカデミーの入学許可書を持ってくるような親だったんです。
トイざらすにも行ったことがないんです」
ベルリンにトイざらすがあったかどうかは不明だが。
「だからといって無意味なオモチャを買ってくるのはやめてください。
私はそんな子供じゃありません!」
息子は父親に容赦がない。
がっくりしょんぼりのヘルガを慰める政治家一人。
「ヘルガ、トイざらすに行きたいのなら、連れて行ってやるし、
欲しいオモチャがあれば買ってやるから」
「本当ですか!」
子供のように目をきらきらさせるヘルガ。
ああ始ったよ、このバカップル。ジョルジュはシカトを決込む。
「私、欲しいものがあるんです!」
「何でも言いなさい」
「あのまったく無意味で無駄に動くエルモの人形!」
エ〜ル〜モ〜? あの赤い不気味な物体〜〜?
「クリスマスセールのトイざらすに行って、
狂喜乱舞する親子をかき分けて買って来て下さいね!
もちろんラッピングはクリスマス仕様で!
カードはサンタさんの絵柄で、ちゃんと最愛のヘルガへって入れてくださいね!」
後悔先に立たず。
「・・・・・・・ジョルジュ、一緒に行こうか・・・・」
「断ります!」
今度がっくりとうなだれるのは、スコルピオンの方であった。
数日後
もみくちゃにされて疲れ果てたスコルピオンは、
リクエスト通りのクリスマスラッピングの箱を持って帰宅。
「わー! ありがとうございます!」
にっこりと笑うヘルガは、スコルピオンの頬にキス。
ほにゃら〜ととろけるバカな男が・・・・。
それを見ていたザナドゥ、冷淡に
「バカが」
そうだそうだとジョルジュも追討ち。
が、しかし、無意味に動く赤い毛玉を楽しそうに眺めるヘルガに、ザナドゥ一言。
「・・・・・・・・かわいい」
「ヒトの父親をかわいいとか言わないでください!!」
怒りのジョルジュ。
ジョルジュ君に明るい明日はあるのだろうか・・・・。
2
ウキウキとクリスマスツリーを飾るヘルガ。
それを見ていたジョルジュ君は、眉をしかめた。
「何をしているのですか?」
「ツリーを飾っているんですよ」
「それは見ればわかります!
そうではなくて、お父さんが一生懸命紙に書いてツリーにぶら下げているのは
何ですかと聞いているのです」
「あ、これ?」
長方形に切った折紙を息子の方にかざす。
「タンザクというものです。これに願い事を書いてツリーにつるすと、
願い事が叶うんですって。日本の風習だとキャサリンが教えてくれました」
またお母さん、いい加減なこと言って・・・・。頭痛さえしてくるジョルジュ君であった。
「お父さん、お母さんに騙されてます」
そこで登場は、再びスコルピオン。
「まあまあ、ジョルジュ。
日本にそんな風習がないことくらい、ヘルガだってわかっている。
ただ、そうやって騙されたふりをした方が、彼女も喜ぶだろう?」
「つまり、お父さんの天然っぷりは全部計算されているってことですね?
凶悪ですね」
騙されているのはお母さんの方か?
「私がそんなこと信じるはずがないことくらい、キャサリンだってわかってますよ」
「・・・・・・・・」
大人の世界って・・・・・。
げんなりするジョルジュ君の隣で、うきうきツリーを飾るヘルガを見ていたザナドゥ君。
「・・・・・・かわいい」
「だから! かわいいって言うな!!!」
怒り心頭のジョルジュ君。
大丈夫、キミにも明日は来る。
3
「お父さんは、もっと男らしくした方がいいと思います」
思い切ってジョルジュ君は進言してみた。
「30過ぎて女顔を自慢しているようでは、
そのうちIKKOさんみたくなっちゃいます!」
「自慢していないし。っていうか、IKKOって誰?」
首をひねる父に、ジョルジュ君
「オカマですよ! 本当に、流行に疎いんですから!
今年の流行語大賞知らないんですか?」
「知りません。そんな極東の話題。
あの場で『そんなの関係ねぇ』はやり辛かったでしょうね」
知ってるじゃないか、十分・・・。
「それよりジョルジュ、あなたの言う『男らしさ』とは、どんなものですか?
もみ上げからあごひげまで繋がっているような人ですか?
胸毛がギャランドゥな人ですか?
ビリーさんみたいなムキムキマッチョな人ですか?
男性ホルモン全開で頭が禿げ上がっているような人ですか?!」
・・・・・・・・それは、いや。
「えっと、そうですね・・・日曜に屋根の修理をしたり、
犬小屋を作ったり、スポーツカーを乗り回して、
彼女をお姫様抱っこするような感じの人です!」
よくわからないけど・・・・。
「わかりました。次の休みには屋根の修理をして、犬小屋を作って、
・・・・スポーツカーを買いに行きましょう」
すっくと立ちあがったヘルガは、すたすたと傍観しているスコルピオンに歩み寄ると、
がばっと抱き上げた。
「お姫様抱っこというのは、こういうのですね?」
・・・・・・・って、どんだけ力もちなんですか、あなた!!
「・・・・・ヘルガ、降ろしてもらえないか」
「ダメです。ジョルジュのリクエストなのですから」
この構図、おかしいだろ?!
慌てふためいたジョルジュは、降ろしていいから、と呟いた。
「・・・・・・・・お父さん、力もちだったんですね・・・・・」
「医療の現場は力仕事ですから。
ちなみに、スコルピオンくらいの体重の患者なら、私一人で担架からベッドに移せます」
呆然としたジョルジュは、素直に頭を下げた。
「すみません。間違ってました」
にっこりと笑ったヘルガは、スコルピオンをソファーの上に降ろした。
相変わらす傍観しているザナドゥ君。
「あ、ザナドゥも抱っこして欲しいですか?」
そうヘルガに聞かれ、思わず頷いてしまう所だった。
ジョルジュの怒りの視線がなければ。
4
ある日、ザナドゥ君は、二人きりになったのをいいことに、ヘルガに詰寄った。
「結婚しよう、ヘルガ」
ヒトの父親を呼び捨てにするな〜! という、ジョルジュ君のツッコミは、今日はない。
「ザナドゥ」
がしっと手を握られ、真剣に迫られ、ヘルガは困ったように眉を寄せる。
「あんな男より、俺の方が若いし、強い。きっと幸せにするから」
ああ、若さっていいな。
「ありがとうございます。でもザナドゥ、あなたの好意に応えるわけにはいきません」
「なぜだ? あんな男のどこがいいのだ?!」
「だってザナドゥ」
ふらりとするような色っぽい目で、ヘルガははっきりと言った。
「あなた、収入ないじゃないですか」
「は?」
「男は稼いでナンボですよ? 私にプロポーズしたかったら、
私の稼ぎを上回ってからにしてください」
そりゃ、一生無理だから。
かくして、ザナドゥ君は失恋したのでありました。
5
タバコも酒もやらない元スポーツマンのスコルピオン。
明日議会で出される資料を勉強中。手元には山盛のグミ。
「あまり甘いものを食べ過ぎると、太りますよ」
「ん? ああ」
生返事で、また一粒口に放り込む。
「ハリボのグミは美味しいんだが、ワームの形のはやりすぎだよなあ」
独り言のように呟く。
「ミミズ、ですか」
「カエル位ならまだしも」
そこでヘルガは、ポン、と手を叩いた。
帰宅したザナドゥ君。リビングに入ると、キッチンの方からなにやら甘いにおいが。
「お父さんが、グミ作ってます」
聞かれる前に、リビングにいたジョルジュはつっけんどんに答えた。
実は先日のザナドゥ御乱心求婚事件はジョルジュ君の耳にも入っていた。
おかげでこの数日、実に不機嫌。
「グミって、作れるんだ?」
「バカですね、ザナドゥは。あんなの、砂糖とゼラチンの固まりですよ!」
バカと言われようと、先日の一件があるので言い返せないザナドゥ君。
パソコンから目も上げないご立腹のジョルジュから逃げるように、キッチンに向った。
キッチンでは、ヘルガが鼻歌交じりに洗物をしている。
「あ、ザナドゥ、お帰りなさい。今、グミを冷蔵庫で冷しているんですよ。
もうすぐできますからね」
ヘルガにっこり。
ああ、やっぱりかわいいなあとか、
ご乱心のまま冷蔵庫を開けてみて・・・・・無言で閉じてリビングに戻った。
そして、無言のままジョルジュの隣に座り、頭を抱える。
「・・・・見たんですね? 冷蔵庫」
「ああ。ヘルガの頭の中がわからない・・・・」
いつもなら「父さんを呼び捨てにするな」とか突っ込まれる所だが、
今日のジョルジュはツッコミも入れてくれないくらい不機嫌であった。
「それはですね、ザナドゥ、あなたがお父さんに対してヘンな幻想を抱いているからです。
あのヒトは、そういうヒトです」
ぱたり、とパソコンを閉じると、ジョルジュは肩を怒らせ二階に上っていった。
入違いでヘルガが皿に山盛グミらしきものを乗せ、その上に布巾をかぶせて登場。
「これをスコルピオンに届けてくるので、ちょっと待っててくださいね」
実に嬉しそうな笑顔。いや、笑顔はかわいいんだ。笑顔は。
「・・・・あれ、あの男は食うんだろうか?」
ザナドゥ君は溜息をついた。
「・・・・・これは、何だ?」
皿いっぱいのグミを差出され、スコルピオンは顔をしかめる。
「グミです。作ったんです。いい出来でしょう?」
そこには、皿に盛られた臓物が。
「発色もいいし、手触りなんかも申し文ありませんよ」
「・・・・俺は、お前が病院から持ちだしたのかと思ったぞ」
「いくら私でも、ホンモノを持ちだせるわけないじゃないですか」
いや、そうなのだが。
「ホラこれなんか、食べて見て下さい」
ヘルガがつまんで持ち上げたのは、どうやら腸らしき肉色の長い物体。
「なんか、端っこ変色しているが?」
「あ、これは癌細胞です。けっこうリアルでしょ?」
けっこうリアルというか・・・・・それを食べろというのか・・・・。
(俺、なんでこいつに惚れてるんだろう)
時々悩むスコルピオンであった。
さて、リビングに戻ってきたヘルガ。
ザナドゥはジョルジュ不在で暇を持余すように新聞を広げている。
「ジョルジュは屋根裏部屋で拗ねてますよ」
ザナドゥは顔を上げ、溜息をついた。
「はいこれ、二人の分。持っていってあげてください。ちゃんと仲直りするんですよ」
なにやら大きめの包みに、ザナドゥはちょっと嫌な予感。
だが、包みを受取ると、すぐに屋根裏部屋に向った。
埃だらけの屋根裏部屋で、ジョルジュは子供みたいに(子供なのだけど)
膝を抱えて不貞腐れていた。
「これ、ヘルガが持っていけって」
「私のお父さんを呼び捨てにしたりするような人は、知りません」
しばらく考え、ザナドゥはジョルジュの隣に座って、包みを開けた。
そこには、巨大なピンク色の・・・・・ハート型のグミ。
唖然とするジョルジュ。
「もう、お父さんはバカですね。こんな大きなグミ、食べにくいじゃないですか!」
「そうか?」
ザナドゥは端をがぶりとかじり、一口分噛み千切ると、ジョルジュに差出した。
(それ、半分っていうか、口に入ったでしょう? 完全に!)
「ほら」
何も考えていないのか、確信犯なのか。
ジョルジュは顔を赤らめながらグミを受取り、自分の口に放り込んだ。
「お前がいないと困る」
ぼそり、とザナドゥは言って、また一口噛み千切り、ジョルジュに渡す。
(なんで私はこんなマザコンで年上趣味のおばかに惚れちゃったんだろう)
くすん。
ザナドゥはジョルジュの髪を撫で、立ち上がって腕を引張る。
「下に降りよう。ここは埃っぽいから」
素直に頷き、ジョルジュは屋根裏部屋を出た。
階下に降りると、ニコニコのヘルガが待っていた。
「あ、丁度良かった! スコルピオンが急な呼出で出かけちゃったんですよ。
これ、一緒に食べましょう!」
(うげっ! あの臓物グミか?!)
ザナドゥは青ざめる。
「どうです? ジョルジュ、いいできでしょう?」
「これ、肝硬変を起している肝臓ですね?」
「わかりました? やっぱりわかってくれる人だと楽しいですね!」
「肺は潰れてるみたいですよ」
「じゃあ、タイトルはタバコを吸いすぎちゃった人の肺ということで」
「もうちょっと黄色がかってるほうがリアルだと思いますが」
ちょっと待て、この親子!
(あの男、仕事にかこつけて、逃げたな)
自分も逃げたい気分だが、ヘルガとジョルジュが楽しそうにしているのを見ると・・・・。
(母さん、生きてて欲しかった)
不幸なんだか幸せなんだか、わからなくなるザナドゥ君なのでした。