「で、どうしてあなたがここにいるのよ?」

 ニューヨークにある医大キャンパスのカフェ。キャサリンは目の前の青年を見つめていた。

「どうしてって、勉強するためですよ」

「そりゃあね」

ストローの刺さったカフェオレを握り潰す勢いで、キャサリンはそれをテーブルにたたきつけた。

「そりゃあ、あなたが医学の道に進んだのは知ってるわ」

 

 世界を一斉風靡したドイツJr。それが、あるときを堺に、ぱったりと消息を絶った。
解散したのだ。その理由を、キャサリンは知っている。

(ケンザキとタカネの、最後の勝負)

 あれは、あの時関った全ての少年ボクサーの運命を左右するものだった。

 それでも、ドイツの英雄と呼ばれた彼らは、存続を望まれていたのを知っている。
それほどまでの存在だったから。少年期を終えた英雄は、プロに転向するものと思われていた。

 だが、彼は、彼らは、あっさりとボクシングを止めた。

 その本当の理由も、キャサリンは知っている。

 英雄スコルピオンは、もうボクシングをできる身体ではなかったのだ。

 それでも他のボクサーのように、死ぬまでリングに立ち続けると・・・ある意味期待もされていた。
「英雄」として。

 

「スコルピオンは、何をしているの?」

 それも、本当は知っている。彼は、大学へ進学した。なんて不似合。
笑っちゃうわ、と、キャサリンは思っている。

「勉強してますよ、大学で。
まあ、あのとおり有名人ですから、勉強のほかにも色々忙しいみたいですけど」

「他人事ね」

「他人事です」

 はあ、とキャサリンは大きな溜息をつく。

 ボクシングを止めた彼の参謀は、やはり上の学校に進学した。当然。
もともと彼は、ボクシングなどやるような人間ではなかったのだから。
物理学の博士にでもなるのだろうと思っていたが、彼の進んだ道は「医者」だった。

 その理由も、キャサリンは察している。
だって、スコルピオンの体調は、綱渡りなのだから。

「あなた、スコルピオンの隣で、彼を管理しているんじゃなかったの?」

 クスリ、と目の前の青年が笑う。

(なんて、悲しそうな笑顔)

 キャサリンの胸が、ちくりと痛む。

「私たちは、別々の道を選びました。だから私は、ここにこうして勉強をしに来ているのです」

「一緒にいたら、いけないの?」

「今の私たちは、お互いの足を引張るだけです。過去の亡霊に付きまとわれて。
新たな道を踏みだすためには、距離を置く必要があるんです」

 もっともらしいことを言う。

(本気?)

 と、キャサリンは青年の顔を覗き込む。いつだって、彼はまっすぐな瞳を向ける。今も。
キャサリンの瞳を見つめ返しながら、まるで自分に言い聞かせるみたいに

(本気ですよ)

 そう訴えた。

 

 

 

 ケンザキとタカネの事件は、もちろんキャサリンにも大きなショックを与えた。

 こんなことってあるのだろうか。

(男って、ばか)

 何度もそう繰り返した。

(ばかよ、男って)

 その後、ヘルガが医学部に進学したのを知って、
それまで在籍していた大学の物理学部から医学部に転向した。

 結局、自分はまだヘルガを、ヘルガの影を、追い掛けているのだ。

 

 キレイなお人形さんだったヘルガを変えたのは、スコルピオンだ。
彼に目的を与え、その能力を発揮する場を与え、そして・・・・

(考えたくもないけど)

 友情、それ以上の関係を与えた。

 どれだけ深い関係だったのか、ヘルガの表情を見ていればわかる。
リーダーとして崇拝すると同時に、ヘルガはスコルピオンを深く愛していた。

 お互いに。

 それが、ボクシングの道を絶たれたからといって、別れる?

 そんなの、嘘よ。できるはずないわ。

 そんな薄っぺらの愛情だったの?

 言及したい気持を、何度も押える。

 ヘルガは、

 平気なふりをしている。

 

「あー、でもあたし、この学校に来て正解だったわ」

 スコルピオンについて問質すのを止め、キャサリンはにっこりと笑って見せた。

「あなたにまた会えたものね。学友として。覚えてる? 初めて会ったとき。
あなた、あたしのことシカトしたのよ?」

「そうでしたっけ?」

「そうよ」

「でも、ちゃんと覚えていますよ? 主席の座を争った仲ですから」

「あらうれしいわ。じゃ、また争うわけね?」

「お手柔らかにお願いします」

 初めて会ったときとはゼンゼン違う、やわらかな表情でヘルガは片手を出した。
その手を握りながら、キャサリンははじめてヘルガの「体温」を感じた。

 

 

 

 天才、というのは、確かに存在する。
頭をかち割って、中を見てみたいと思うほど、彼は優秀な頭脳の持主だ。
きっと、凡人の脳みそとは違うつくりに違いない。

 頭がいいだけではない。手先も器用で、思うままにその指を動かすことができる。

 さらに体力。ボクシングをやっていたのは伊達じゃない。
何時間にも及ぶ手術の間(もちろん執刀しているのは大先生だ)
研修生のほとんどが途中でへばっても、彼だけは集中力を失わずにいる。

 ボクシングに無縁で、彼の名を知らない教授や医者先生たちも、彼には一目置いていた。

 それだけ「天才」的才能を見せる彼だが、
人間関係を作ることだけは苦手なようで、特定の「友人」を持つことはなかった。

 かえってその方が、キャサリンには好都合だ。ライバルは少ないに越したことはない。

 ヘルガにとって、キャサリンは「唯一の友人」であった。

 

 そうやって、月日が過ぎていく。勉強に忙殺された日々が、緩慢に過ぎていく。

 気がつけば、あっという間に二度目の秋を迎えていた。

 勉強に勤しんでいるように見えるヘルガは、時折物思いに耽り、遠い空を一人眺めている。

 冬が近付きつつある秋の日、キャサリンはヘルガと並んで並木通りを歩いていた。
もっぱら話題にするのは、学校での勉強の話だ。
それ以外の私的な話題は、ヘルガは口にしようとしない。
キャサリンが何か質問しても、微笑んで口をつぐむだけだった。

「ね、今フリーなんでしょ? 女の子と付合ったりしないの?」

「そんなことをするために、留学しているんじゃないですから」

「女の子と付合うのは、勉強の弊害になる?」

 また、複雑に口元で微笑んで応えない。

 結局、離れていても、あの男のことしか頭にないのだ。「他人」だとか言いながら。
一人で歩いているときも、あの男の影が、いつもそばにある。

「そうともかぎらないわよ? お互いを高めあう関係もあるわ。
私だったら・・・あなたの知的好奇心を刺激できると思うな。
今までだって、ライバルとして刺激しあってきたんですもの」

「では、今までどおりでいいじゃないですか」

 大げさに溜息をついて、キャサリンはヘルガの前に回りこんで人差指を立てた。

「もっと、いろんな事よ。あなた、自分は何でも知ってると思ってる? 
それは驕りよ。あなたの知らないことなんて、いっぱいあるのよ?」

「私の知らないことを、キャサリンが知っている、と?」

「そうよ」

「例えば?」

「例えば」

 顔を近づけ、チュッと唇にキスをする。
驚いて目を見開いたヘルガは、まじまじとキャサリンの顔を見つめる。

「あなた、女のことを知らないでしょう? 女だけじゃない。
根っからのゲイだってわけじゃないんでしょ? あいつしか知らないのよ。
何もかも。あいつの価値観にあわせて、あいつの考え方を先回りして、
あいつが何をしたいかを考えて、あいつのためだけに生きてきたの。
他の人の考え方なんか、関係ないし興味もない。
唯一自分と言えるのが、その脳みそをフル活用した勉学の世界だけ。
今だって、医者になりたいとか言って、本当はあいつの身体を治してあげたいの。
それだけ。他の患者なんか、治験にすぎない」

「そんなこと・・・」

「ない? そう思ってるなら、自分に嘘をついているんだわ。
本当にあいつから離れるつもりなら、もっと他の人間と近付くべきよ。
他の人の考え方を学ぶべき。他の人との付合い方を学ぶべきだわ。
あいつは特殊なの。普通じゃない。
普通の付合い方ってのはね、あいつみたいに相手をがんじがらめに拘束しないのよ」

 キャサリンが何を言っているのか、理解しているのかできないのか、
ただヘルガはキャサリンを見つめ、応えない。

 キャサリンはヘルガの手を取り、自分の胸に当てた。

「他の生き方を、選ぶんでしょう? 私だったら、教えてあげられるわ」

 ヘルガの緑色の瞳が、悲しげに沈んでいく。

「簡単よ。一緒にご飯を食べて、愚痴を言いあって、怒って、笑って、肌を重ねるの」

 卑怯だ、と思う。キャサリンは、自分の言葉を、侮蔑する。
失恋したばかりの人を、その寂しさにつけ込んで騙そうとしている。
そんな自分を、卑怯だと思う。

 ふと視線を外すヘルガに、胸が痛む。

 ヘルガの手を握ったまま、その腕にしがみつき、キャサリンはわざとらしいほどの笑みを作った。 

「ご飯でも、食べに行こう? ね?」

 キャサリンにふり向いたヘルガは、ちょっとだけ笑って見せた。

 

 ヘルガは、あいつを忘れたわけじゃない。諦めたわけじゃない。
あいつ以上に好きな人ができたわけじゃない。

 何があったか知らないけど、ただ、距離を置いているだけ。

 急にいつもの自信を失わせたヘルガは、幼い子供のように見える。

 何も知らない子供。

 そうよ、とキャサリンはひとりごちる。

 私が教えてあげるの。あなたの、知らない世界を。スコルピオンのいない世界を。

 

 

 

 空いた講義の間、キャサリンは学生用のカフェで暖かいココアを飲んで過した。

 まったりとした甘い世界に、一人で浸りたい気分だったから。

(男としては、60点くらいね)

 広げているだけで読んでいない雑誌のページをめくりながら、そんなことを考える。

(ホント、この年まで女をまったく知らないなんて、致命的だわ)

 ぱらり。

(一生懸命さも、かえって白けちゃう)

 ぱらり。

(でも)

 ココアを一口。

(ベッドの中のヘルガは、すごく色っぽくって、それだけで女をイかせちゃうのよ)

 クスリと笑って、あわてて口元に手をやる。

(意外と体温が高くて、抱しめられるとドキドキしちゃう)

 どうしよう、私、本当に彼に恋してるんだわ。そんなことを思いながら、またページをめくる。

「つまらないわ、この雑誌」

 ゆるむ頬を誤魔化すように雑誌を閉じて周囲を見渡す。
大丈夫、誰もそんなキャサリンの姿を見ていない。

 隣のテーブルに、別の雑誌が読み捨てられているのに気付く。
ちゃんとゴミ箱に入れなさいよ。ちょっと悪態をついてみてから、その古ぼけた雑誌に手を伸ばす。

(ドイツ語・・・だわ)

 誰がこんな所に置いたのだろう? 
確かに、大学には多種多様な国籍の学生がいて、いろんな国の言葉が飛びかっている。
ドイツ人だって、ヘルガ一人というわけじゃない。
ヘルガは、同じ国の出身だからとつるむことはないのだけど。

 何の気なしに、そのまま座ってページをめくる。ドイツには行ったことがない。
ドイツ語はわかるし生活習慣とかも本で読んで知っているけど。
でも、こうして向うの雑誌を見るのは新鮮だ。

(っても、1年も前の雑誌だけど)

 どうやらゴシップ系の雑誌のようだ。典型的アーリアン金髪美女のヌードまで載ってる。
この系の雑誌は、ヘルガは見ないわね。確実に。そう思うと、おかしかった。

 流行モノの(一年前のだけど)ファッションや電化製品なんかの広告。
芸能人のゴシップ。政治家の悪口。

 キャサリンは、そういう雑誌は嫌いではない。世間を知るためには必要だと思っている。
そうでなくても、「頭がいい」というだけで周囲から浮いてしまうのだ。
雑学は周囲に溶け込むための必須科目。

 白黒の小さな特集記事に、ふと目がとまる。

(あ、なつかしい)

 あいつだ。スコルピオン。こんな雑誌に載っちゃうんだ? 
記事を指でなぞりながら、キャサリンはただひたすら驚いていた。

(Jr.ボクシング界の若き英雄は政治の世界に転身。
社交クラブに所属し、学生でありながら次の連邦議員を目指す)

 ずいぶん偉そうじゃないの。だったら尚更、ブレーンがいた方がよかったんじゃないの?

(東ベルリンで行われた音楽祭に招待)

 うわーきな臭い。

 鼻の頭に皺を寄せて、掲載された写真を見る。
西の偉そうなおっさん達に混じって、インタビューを受けている。
後の警備員は・・・ロシアの軍服ね。間違いなく東ベルリンだわ。

 あいつ、今でも真正面から向き合ってっるんだわ。祖国と。
そう思うと、ちょっと感心しちゃう。

(ピアニストの美少女に花束)

 やらせくさいわ。

 噴き出して静かに笑ってから、「あれ」と思う。

 何だろう。違和感?

 違う。違和感じゃない。なんかこう、ぴったり当てはまるというか。

 美しく可憐な少女。まっすぐな瞳は儚げで。

 スコルピオンは、男だったんだ、と改めて思わせる写真。
いつも何かを睨んでいるみたいなきつい表情ではなく、女性に対するやさしげな表情。
その写真に見入ったまま、両手の指を組んで口元に当てる。

(つまり、スコルピオンはこのピアニストの少女に恋をしてるってこと?)

 ありえない! 

 力いっぱい雑誌を閉じて、立ち上がる。それから雑誌を両手でねじってゴミ箱に投げ入れた。

 

 ヘルガは、捨てられたの?

 だから、アメリカまで逃げてきたの?

 

 東の嫁をもらって、東西の桟になろうなんて、
そんな浅はかなことを考えているんじゃないでしょうね?!

「キャサリン」

 名前を呼ばれて、ふり向く。
キャサリンの形相に、ヘルガは少なからず驚いているようで、緑色の瞳を丸くしていた。

「・・・どうしたんですか? 何か、あったんですか?」

 なんでそんなに優しいの?

 キャサリンはヘルガの胸に飛び込んだ。
細い見掛けとは裏腹に、しっかりとしたヘルガの胸板は、キャサリンを優しく抱きとめてくれる。

「ごめんなさい。なんでもないの。昨日の今日だから・・・なんかすごく会いたくて」

 昨日。ヘルガは思い出したように、少し頬を染めた。

「好きよ」

 キスをくれる代りに、ヘルガはキャサリンの額を指で撫で、微笑んで見せた。

 

 一日分の授業が終り、図書室で少し勉強してから、
キャサリンは「夕食を作ってあげる」と自分のマンションにヘルガを呼んだ。

「ねえ、本当に、どうしてアメリカまで来たの?」

 キッチンに立ちながら、さりげなさを装って聞いてみる。
ヘルガはソファーで医学判例集を読んでいる。

「・・・実は、逃げてきたんです」

 本から顔を上げずにヘルガが応える。キャサリンの心臓が、ドクンと鳴る。

「向うにいると、うるさくて」

 食前用に用意したドイツワインを運びながら、キャサリンは首を傾げて見せた。

「うるさい?」

「そうです」

 やっと顔を上げたヘルガは、キャサリンからワイングラスを受取った。

「あらゆるボクシングジムからの誘い」

 唇を吊り上げるヘルガの表情は、ちょっと悪戯っぽい。

「断って進学してからも、あちこちの大学からの勧誘。
医学部に進むと決めてからも、何を専攻するのかとか、当然スポーツドクターになるのだろうとか。
正直、自分でも進む道に迷っているのに、横やりが多すぎてゆっくり考えることもできない。
だから、考える時間が欲しくてアメリカまで来たんです」

「スコルピオンは?」

「彼は、もう自分の進む道を決めていましたから、外野の声なんか気にしません。
もともと、他者の意見など聞かない人ですから」

 それはそうね。

「それで、考えられたの?」

「そうですね。外科を。整形外科ではなく、オールマイティーにできたらと思っています。
医療を全体から見られたほうが、治療には役立つと思うので」

 そうなんだ、と、料理を運びながらキャサリンは微笑んで見せた。

 私の思い過し、なのかな。

「結婚はしないの?」

「まだ考えていません。勉強することが楽しいですし。まだまだ学ぶことが多いので。
キャサリンは結婚したいのですか?」

 自分の質問の馬鹿さ加減に、キャサリンは笑った。

「まさか! 家庭に縛られるなんてまっぴらごめんだわ! 自由に生きたいの。
好きな勉強をして、好きな仕事をして。
あなたと付合うのは楽しいけど、束縛する気はないから心配しないで。
お互い、自由でいた方がいいもの」

 ワイングラスを傾け、談笑しながら食事を楽しむ。それでいい。

 話題はもっぱら医療事情のことばかりだけど。

 食事と会話を楽しむと、ヘルガは自分のアパートに帰っていった。
調べたいことがあるのだと。
マンションの前の通りまで送っていった後、キャサリンも自分の部屋で課題の本を読み始めた。

 ここにはスコルピオンはいない。ヘルガを束縛するものは、何もないのだ。

 

 

 

 クリスマスが近付き、世の中は一層騒がしくなる。

 あちこちでパーティーが企画され、キャサリンはいくつか出席するつもりだったが、
ヘルガは全てを断った。

「全部断ることないじゃない。ホント、社交的じゃないのね」

 ネオンに彩られた街の喧騒を避け、静かな公園通りを並んで歩く。

「そういうの、苦手なんで」

 苦笑して見せるヘルガの表情も、好き。

「でも、いいわ。静かにすごすのも悪くないわね。ね、ウチに来てくれる? 
ケーキを用意するわ」

 困った表情をするヘルガの頬にキスをする。

「恋人とはいわないけど、友達として、一緒に過したいの。いいでしょう?」

 肩を落してヘルガは了解する。頼まれると断れないタイプ。

「雪よ」

 キャサリンは、灰色の空に両手を掲げた。白い、綿毛のような粉雪が舞い落ちる。

 雪は、嫌いじゃない。そりゃあ、たくさん降ると寒いし色々弊害も出るけど。
でも、何もかも真白に包み込んでしまう雪は、嫌いじゃない。

 空を見上げていたキャサリンに、ヘルガは自分のマフラーをそっと巻いた。

「冷えますから」

 優しげに微笑んで、前を歩き出す。

 その背中を見つめるキャサリンは、やはり、そこにどうしてももう一つの影を見つけてしまう。

(スコルピオン、身体を冷してはいけません)

 そう言って、ヘルガは自分のマフラーを彼に巻く。

(寒くはない)

 スコルピオンは自分のコートを開き、その中にヘルガを包み込んでしまう。

(暖かい)

 そう囁いて。

 自分を包んでくれる彼がそばにいないヘルガの背中は、なんて寒そうなんだろう。

「寒くはないわ!」

 キャサリンは小走りにヘルガに駆け寄り、マフラーをヘルガに返す。

「ニューヨーク生れなのよ? これくらいの雪、寒くはないわ」

 でも、ベルリンはもっと寒いでしょうね。

 一つにあるべきものが、別れてしまって。

 焦れる思いは、届かない。

 それは、どうしようもない「壁」

「スコルピオンは、壁を壊せる?」

 立ち止ったヘルガは、黙って灰色の空を見上げていた。

 

(逃げちゃ、だめなんだわ)

 

 

 

 クリスマスに浮れる仲間達に囲まれて、キャサリンは多忙な日々を送っていた。
ヘルガともっと話をしたいのに、一緒に食事をしたりしたいのに、
何故だか時間が合わず、すれ違ってしまう。

 やっとすれ違った廊下で

「クリスマス!」

 それだけ叫ぶと、ヘルガは驚いて目を見開き、それから微笑んでこくりと頷いた。

 仲間達のパーティーの用意は、簡単でいい。
それより、ヘルガをクリスマスに呼んだ時、どんなケーキを買おうかしら。
キャサリンはお菓子屋さんのショーウインドーをニコニコと見て回る。

(何か忘れてる)

 ここ数日、その言葉がずっと思い浮んでいる。

(何だろう? 何か忘れてる)

 ケーキ、料理、プレゼントは・・・万年筆がいい。飾りつけはしないわ。地味なのがいい。

 他に忘れていることは?

(何か、大事なことを忘れている)

 ショーウインドーのガラスに、通りを歩く親子が映っている。
お母さんは大きなおなかを抱え、
子供は(弟かな、妹かな? サンタさんからのプレゼントだね?)とはしゃいでいる。

(・・・・・忘れてる・・・・・)

 ぴかぴかに磨かれたショーウインドー。
そこに映る自分の姿を見て、キャサリンは愕然とした。

(忘れてる・・・・・今月、月のものが、来てないわ)

 遅れるなんて、めったにないのに。

 

 その足でドラッグストアに向い、妊娠判定薬を買ってきた。

 目を閉じ、開いても、
キッチンに行ってカフェオレを入れ、それを飲んで帰ってきても、
同じところをぐるぐる回って座りなおしても、

(陽性)

 間違える事だってある。市販のものは正確じゃないもの。

 そんなことって、ある?

 たった、一回よ?

 そうよ、間違っているわ。

(間違ってなんか、いない)

 どうして、こんな時、女って直感が働くのかしら?

「私、妊娠している」

 愕然としながらテーブルを見つめる。

(どうしよう)

(ヘルガの子だわ。他の誰ともしていないもの。ヘルガの子よ)

(教えてあげたら、なんて言うかしら? きっと、びっくりするわ)

(だって、父親になるなんて)

(きっと、そうよ、きっと、結婚しようって言う)

(それで?)

(そうね、きっと、大学を辞めて働くって言うわ。
働き口なんて引く手数多よ。それで、それで・・・)

(きっと、いい夫を演じるの。いい夫、いい父親)

(今だって、私の恋人を演じてくれてる)

(本当は)

「堕さなきゃ」

(堕胎? 本気?)

(本気よ。だって私、まだ学生だわ。やりたいことがあるの。
医者になりたいの。母親になんかなれないわ)

 嗚咽が喉まで溢れて、両手で口を押える。

(本気よ。産めないわ)

(私の子よ? ヘルガの子よ? 殺すの?)

「殺せないわ」

 腹に手を当て、うずくまる。

「殺せるわけ、ないわ」

 

 

 

 大学病院での研修が始っていた。その日は良く晴れていた。
昨日までの雪で、病棟の中庭は真白に染まって、太陽の光を反射している。

 その中庭で、車椅子の少年と話をしているヘルガを見つける。
建物の影に身を隠し、穏かな表情で話をしているヘルガを見つめる。

「手術なんか、したくない」

 少年はうつむき、ぎゅっと手を握っている。子供には、辛い現実。
ヘルガは腰を落して少年と視線を合わせた。

「手術なんかしたって、もう二度とサッカーはできないかもしれない」

「できますよ」

 少年の手を、ヘルガはそっと包む。

「手術をすれば、また走れるようになります」

「なれないって! 
もう二度と歩けないかもしれないって、お母さんが話しているのを聞いたんだ! 
だったら、手術なんかしない! 
サッカーができないなら、このまま死んじゃった方がマシだよ!」

「そんなこと、言ってはだめです」

 目に涙をにじませる少年の頬をそっと撫で、ヘルガはまっすぐに少年の瞳を見つめる。

「確かに、もうサッカーはできなくなるかもしれません。
でも、そうしたらまた別のことを見つければいいんです。
デュラン、生きていれば必ず楽しいことが見つかります。
今は、辛いかもしれませんが、死んだ方がいいなんてことは、絶対にないんです」

 きつく唇を結んだまま、少年は首を横に振る。
ヘルガは、自分の拳を少年の前に出して見せた。

「私はね、昔、ボクシングをやっていたんですよ。
ホラ、ここの骨が潰れているでしょう? 
ボクシングをやっていると、こういう手になるんです」

 何を言いだすのかと、少年がヘルガの手を見る。

「でも、できなくなってしまいました」

「なぜ?」

「子供の頃、あまり過激に運動しすぎると、逆に骨に負担をかけてしまうんですよ。
あなたくらいの頃、私は世界一になるって、本気で思っていました」

 思い出すような遠い目をして、ヘルガが苦笑する。

「もうできないって知った時、本当にどうしていいのかわからなくなって、
自分の価値がまったくなくなってしまったように思えて、・・・・辛かったですよ。
何年か、どうしていいのか呆然と過しました」

「・・・・・・それで?」

「あきらめました。だって、できなことをいつまでも悔んでいても、仕方ないでしょう? 
それで、医者になる事にしたんです。
スポーツをやっていたから、骨や筋肉のつき方なんかに詳しかったですしね。
まったく違う世界で戸惑うことも多いですけど、まったく別の新しい友人もできたり、
悪くないんですよ。生きているって、いいですよ? 
デュラン、人はなぜ生れて来るか知っていますか?」

 少年は、また首を横に振る。

「幸せになるためです。あなたは、愛されて生れて来たんです。
お母さんに、お父さんに、神様に、望まれて、愛されて、生れて来たんです。
あなたは、一生をかけて幸せを探すんです。サッカー選手になることができるかもしれない。
でも、病気とは別の理由でできなくなる事があるかもしれません。
もっと他に、好きなことが見つかるかもしれません。好きな人ができるかもしれません。
サッカー以上の才能を見出すかもしれません。
今を諦めなければ、あなたには無限の可能性があるのですよ」

「でも、手術が失敗すれば、死ぬかもしれないんでしょ?」

「その時は、迎えに来た神様を私が殴り飛ばしてあげますよ」

 目を細めて微笑むヘルガに、少年は声を出して笑った。

「ボクシング、できないんでしょう?」

「殴り返されたらおしまいかもしれませんね」

 笑って笑って、泣きながら少年はヘルガの首にしがみつき、ヘルガは少年を優しく抱く。

「大丈夫です。死んだりしませんよ。だってあなたは、愛されているのですから」

 愛されて、望まれて、生れて来たのですから。

 金色の太陽の光が眩しい。

 祝福の光。

 唇を噛んだキャサリンは、そっとその場を去った。

 

 逃げてはいけない。

 現実から。

 

 キャサリンは学校が終ると、仲間の誘いを断って出かけた。

 情報を集めるには、あそこが一番だから。

 

 

 

 クリスマス直前、キャサリンは多忙なヘルガを呼び出した。

(忙しいのが何よ。今でなきゃダメなの。後回しにはできないの。
時間は、止ってはくれないのだもの)

 ヘルガは才能を買われ、彼の努力もあり、異例のスピードで現場に出され始めていた。

(そうよね、普通のヒトが友達と遊んだりパーティーを企画したり、
ゆっくり家で寝ている間も、ヘルガはひたすら勉強し続けているのだもの。
普通の学生の2倍3倍は勉強しているわ。それだけ先に進んで当然)

「どうしたんですか?」

 今度も、クリスマス前にあの少年の手術の助手で入ることになっているらしい。
それゆえ、女の子とゆっくり食事をしている時間さえない。
それでも、キャサリンはヘルガを呼び出した。
学生が帰宅し、ほとんどひと気のなくなった学校のラウンジ。
もうすぐ暖房も消される時間。

「話があるの。どうしても、今話さなきゃいけないこと」

 自動販売機で熱いコーヒーを買って来て、ヘルガはキャサリンの正面に座った。
キャサリンには温かいココアを買って来る。
それを受取ったキャサリンは、哀しみがじわりと浮んでくるのがわかった。
気が利きすぎるのも、難点だわ。ココアをわきに退け、一枚の紙を差し出す。

「西ベルリンにある聖リヒト病院が外科医を募集しているの。
小さな病院だから、小児から脳外までこなせる人。研修医でもオーケイ。
ヘルガ、あなたなら行ける。学校長からも推薦状を出してもらえるわ。
確約したもの」

 突然何を言いだすのか。ヘルガは紙を見下ろして眉を寄せた。

「あなた、ドイツに帰りなさい。
ベルリンである必要はないのだけど、
たまたま小児外科のシュタイン先生の所にファックスが来てたの。
先生はあなたのことを高く評価していて、
是非祖国でその腕を役立てて欲しいとおっしゃってたわ」

 ヘルガは募集要項の紙と、キャサリンの顔を交互に見る。返答に困惑しているのだ。

「キャサリン・・・私はまだここで勉強を・・・」

「もう、ほとんどの講義は取っちゃったじゃない。
それに、外科医になるって決めたなら、ここにいる必要はないわ。
ドイツに帰って、自分の国で働くべきよ」

「キャサリン」

 キャサリンは首を横に振り、椅子を少し後に引いて、
拒絶するようにヘルガとの距離をとった。

「悪いけど、色々調べさせてもらったわ。
これでもね、私のバックにはまだ『ケンザキ』がついているのよ。
ちょっとばかり、『英雄』のその後をね」

 ヘルガが口を開きかけるが、言葉を出す猶予を与えない。

「スコルピオンは西ベルリンから立候補して、最年少で連邦議会に当選。
でも、ベルリンの壁は西にも東にも影響している。
ベルリンから出た議員の立場は微妙。

 二年前、東ベルリンで行われた音楽祭に招待されて、
そこで知合ったピアニストと交際していたのは公然の秘密。
結婚の申請を出すも受理されず。
東は、ぜったいにピアニストを手放さない。
結婚したければ亡命して来いってこと。
でもスコルピオンはそれに応じない。
愛国心とプライドの高い人だから。
彼女は出産して現役を退いたという噂。真相は不明。
連絡も取れるのかどうか。

 二十代そこそこで、議会内でのバッシングも強い。

 恋愛は成就されず、頼れる腹心もいない。

 彼はどうする? 全部捨てて、ただの一般市民になる? 
無理よね。ストレスで胃潰瘍になったって、這いずってリングに上る人だもの。
今ごろ、本当に血を吐いているかもね。

 ヘルガ、あなた、スコルピオンから離れちゃ、だめなのよ」

 呆然と唇を開いたまま、ヘルガはキャサリンを見つめている。

「だめなの。本当は、何から逃げているの? 
スコルピオンと違う道を選んだから? あの男が女性に恋をしたから? 
それでも、あいつはあなたを必要としているし、あなたもあいつを必要としている。
つらい時、誰があいつのそばにいたの? 誰があいつを支えてきたの? 
あいつが戦って来られたのは、誰のおかげだと思ってるの?」

 一気にしゃべって、息を切らす。額から汗までにじんでいる。
キャサリンはヘルガを睨みつけた。

 呆然としていたヘルガは、ふっと息を吐き、悲しげに口元を歪めた。

「・・・・・・・それまで、音楽になんか、まったく興味のなかった人が、
あの女性のピアノを褒めるんですよ。『癒される』って。
私の役目は、終ったんだと思いました。彼は彼の道を歩んで行く。
だから、私も自分の進むべき道を早く見つけたかった。
それだけです。キャサリン、色々と気を使ってくれるのは嬉しいのですけど、
まだ私はドイツに・・・ベルリンに帰る気はありません」

「だめ!」

 強い口調でキャサリンは半ば叫んだ。

 早く、早くしないと・・・・・時間は止ってくれないの。

 おなかが目立ってくるわ。みんなに知られるのも時間の問題。

「だめよ。今すぐ! 私、私・・・・あなたのことが嫌いになったの。
私といたって、あなた、スコルピオンの事しか考えていないじゃない! 
いつも、いつだって! そんな人と、一緒にいられない。
だってあなた、自分で気付いてた? 
私と寝たベッドの中で、スコルピオンの名前を呼んでいたの。
最低よ。最低! もう、私、あなたの顔も見たくないの。
あなたが学校をやめないなら、私がやめるわ!」

 ヒステリーを起した女みたいで、みっともない。
キャサリンは頭を振って両手で顔を覆った。最低、私・・・・。

「落着いて・・・・・キャサリン、落着いてください」

「嫌よ。約束して。今、ここで約束して。ドイツに帰るって。
スコルピオンのそばが嫌なら、どこだっていいじゃない。
壁に囲まれたベルリンの街じゃなくたって。どこだって。
でも、ドイツに帰って。帰ってよ!」

 手の甲に温もりを感じ、そっと顔を上げる。
ヘルガはキャサリンの手に触れ、ゆっくりとそれを下に降ろした。

「わかりました。キャサリン、あなたにはたくさん恩がありますから。
今担当している患者の区切りがついたら。ドクター・シュタインに申し出ます。
それでいいですか?」

 こんなに間近に見ると・・・宝石のような緑色の瞳に引き込まれる。

(やっぱり、あなたのことが好き)

 じわりと涙が浮んできて、キャサリンはヘルガの優しい手を跳ね除けた。

「もう行って。ひとりにして」

 なんてワガママ。酷い女。自分から誘っておいて、自分からフるなんて。

 ヘルガはゆっくりと立ち上がり、静かに去っていった。

 薄暗いラウンジで、キャサリンはテーブルに突っ伏して泣いた。

 もう泣くのは最後だから。

 これで最後だから。 

 

 

 

 怒涛のようなクリスマスが過ぎ、また怒涛のようなニューイヤーを迎えた後、
ヘルガはドクター・シュタインのもとを訪れた。

「本当なら、君はもっと大きな病院で、もっと難しい患者を相手にするべきだとは思う。
しかし今は聖リヒト病院では手が足りないらしくてね」

 ドクター・シュタインはドイツ系のアメリカ人で、
ヘルガの過去を知る数少ない医者の一人だった。
それゆえ、ヘルガを人一倍評価している。

「ここの大学病院でも、君を手放すのは痛い。
それでも、私は君に祖国で君の腕を役立ててもらいたいと思うのですよ」

「はい」

 微笑んで、ヘルガは応えた。

 

 

 

 1月の終り、ヘルガは手続を終え、飛行場に向った。
平日で、授業があり、見送りに来たのはキャサリン一人だった。

 それまでの1カ月、キャサリンは極力ヘルガと顔をあわせないようにしていた。
つわりが始り、気分が悪かったから。

「顔色が良くないようですが」

 ヘルガの言葉に、唇を吊り上げる。

「ずっと最悪な気分だったもの。でも、明日からはすっきりするわ」

 悲しげに目を細めるヘルガに、キャサリンはうつむき、そっとヘルガの胸に額を当てる。

「・・・・・・うそよ。本当は・・・・今でも愛してるわ」

 ヘルガはそっとキャサリンの頬に触れ、額にキスをする。

「あなたからキスをしてくれたの、初めてね」

「そうですか?」

 そう。そんなことも気付いていなかったのね。

「キャサリン、ありがとう」

「お礼を言われる筋合はないわ。私、これからもずっとあなたのライバルでいたいの。
ずっとよ。何があっても、医者を辞めないで。私も続ける。それが私の支えになる」

 身体を離して、ヘルガの唇にキスをする。

「さようなら、ヘルガ。落着いたら電話をちょうだい」

「ええ」

 一歩、二歩、後退る。

「さようなら」

 背を向け、キャサリンは歩き出した。背後で、ヘルガの去っていく足音がする。
空港を出るまで足を止めず、外に出た時、北風にコートの前を合わせた。
自然におなかに手をやり、体の中の小さな命に語りかける。

「ごめんね、あなたのお父さん、追い返しちゃった。でも、寂しがらないで。
私、その分、二倍あなたを愛するわ。二倍あなたを祝福するわ。
だから私を、赦してね」

 空を仰ぐ。薄曇の空に、飛行機雲。

 これでよかったのよ。

 キャサリンはタクシーを拾うために手をあげた。

 

 

 

 

 数年後。

『拝啓ヘルガ

 あなたの噂は耳にするわ。ずいぶん有名になったみたい。
私も負けていられないわね。

 私ね、産婦人科の医者になったの。
女として、新しい命を取上げる仕事につけたことは、この上ない幸せよ。
私、これでもけっこう評判がいいのよ』

 

「お母さん! もう7時ですよ!」

 キッチンで、幼い少年が叫ぶ。

「今行くわ!」

 キャサリンは慌てて走ってきて、テーブルの上の焦げたスクランブルエッグをほうばる。

「上手になったわね、ジョルジュ」

 少年はにやりと笑う。

「あー、でも学校に行く時間よ」

「一人で行けるから、大丈夫です。お母さんは病院に行ってください」

「ダメダメ!! 送迎は親の義務よ」

 キャサリンは有無を言わさず息子の手を引いてガレージに向う。
少年は急いで自分のカバンを拾った。

 

『あなたの息子は、もう5歳。早いものね。びっくりするくらい天才なの。
キンダ―ガーデンではさじを投げられて、今は小学校の2年生のクラスに入っているわ。
大きい子供たちの中で、ちょっとかわいそう。本人はけろっとしているけどね。
私もあなたも、通った道だわ。この子の方が、ずっと強いけど。

 最近はボクシングに興味があるみたい。血は争えないわね。

 だんだんあなたに似てくる。(性格は私似かしら)

 しっかりしているわ。

 あなたも頑張って。自分の息子に抜かされないように。』

 

 キャサリンの運転するスティングレーの助手席で、少年は大人びた態度で腕を組む。

「お母さんは、どうしていつも出さない手紙を書いているのですか? 
何か出せない理由でもあるんですか?」

「それが女心ってものよ」

 ニッとキャサリンは笑って見せる。

「あなたには難しいわね」

「ボクにわからないことなんて、ないです!」

「じゃ、もっと勉強するのね!」

 キャサリンは、唇を尖らせる息子の頭を、ぐしゃっと撫でた。

 

『追伸

 私は、とっても幸せよ』