大会開始にあたり、資料整理に追われるジョルジュ君。 「なんでスタッフや側近は女性ばかりなのですか?」 「それは、大会を派手に見せる演出です・・・・・・って、お父さん?! 何で? いつからそこにいるんですか?! しかもドーナツ食べながら!」 来客用ソファーでドーナツもりもり食べてるヘルガパパ。 「あ、これはお昼ご飯です。朝から手術続きで、血糖値が下がるといけないので」 「いえ、ドーナツが問題なのではなくて、 お父さんがいつからそこにいるのかを聞いているのです」 「さっき。忙しそうだったから、声をかけなかったのですが」 気配も感じさせないとは・・・。タダモノではないな。 確かに、タダモノではないのだけれど。 「まあねぇ、私のときはムサイ男ばっかりで、花がありませんでしたからねえ。 私の後を追い掛けてくるのは、男ばっかり。暑苦しいですよねぇ」 それ、ドイツ親衛隊ではなく、ヘルガ親衛隊だったでしょう? とか、ジョルジュ君はツッコミを止めておく。 「で、何をしに来たんです?」 「スコルピオン、来ませんでした?」 「来ていませんよ」 「おや? 今朝、ものすごく怒っていたんですよ。 あんな自己欺瞞の大会など、中止させてやるって。大人気ないですよネ。 だから、先回りして、来たら追い帰してやろうと思っていたのですが。 まあ、途中で気が変ったのならいいです」 ああ、スコルピオンおじさんを止めに来たのか・・・・って 「だったら、朝のうちに止めてくれればいいじゃないですか。わざわざ忍び込まずに」 「失礼な。忍び込んでなんかいませんよ。 なんか、その辺うろうろしてたドイツ軍の制服着てた男の子に聞いたら、 案内してくれましたよ。ここまで。 それで色々噂を聞いたのですが、ジョルジュ、 あなた部下の統率ができてないみたいじゃないですか。 なんか、『オレのボスはスコルピオンでヘルガじゃない』とか言ってましたよ?」 チッ、モスか。余計な事言って・・・。 「お父さんには、関係ないでしょう? 彼は特別なんです。ザナドゥに恩義があるとかで」 「関係ないですけどね。恩義なんて言ってるなんて、あなたもまだ子供ですね」 パパ、クスリ。嫌味な奴め。 「じゃあ聞きますけど、お父さんは誰でも言う事を聞かせられるんですか? できないでしょう?」 「そりゃあ、無理ですよ。そのために拳があるんじゃないですか」 (前ドイツ軍、参謀最強伝説) 「でも、あの子だったら、すぐですよ。あ、喉が乾いたのでコーヒー買って来て下さい」 エマニエル婦人ばりで偉そうに足を組むヘルガに、 『ハイ、すぐお持ちします』と頭を下げる大男が。 「あんたはスエンですか!!」(「クレオパトラD.C」参照) 「新谷かおるの漫画なんか知りません。 そうじゃなくて、そもそも、ジョルジュ、その野暮ったい服がいけないのですよ、きっと」 「野暮ったいとか言わないでもらえます?」 「ほら、だって顔が半分隠れてますよ? せっかくかわいい顔をしているのに」 可愛いだなんて、そんな正直な。ちょっとニヤリとするジョルジュ君。 「いっそ、そんなのやめて、メイド服なんてどうです? アキバ系ミニスカの。 きっと90パーセントの部下は落せますよ」 「そうかなぁ・・・・って、そんなの着るわけないでしょう?!! お父さんは着るんですか?!」 「これ以上下僕を増やしても困るので。あ、でもスコルピオンの前なら着てもいいかな」 ハートマークかよ?! おっさん! なんか、大会前なのに、すっごい疲労を感じる現参謀。 「もー! 用がないなら、帰ってください」 「息子が冷たい・・・・」 くっすん。 「泣き落しは私には効きませんから」 そう言われて、ケロっとにっこりヘルガさん。 「じゃ、帰ります」 ドーナツ入りと思われる紙袋を抱えて、ドアを出て行くお父さん。 ドアの向うから鼻歌が聞えてくる。 ♪できるかな〜できるかな〜今日は腫瘍全部取れるかな〜 転移してなきゃいいな〜悪性腫瘍〜〜♪ 恐ろしい歌を、楽しそうに歌わないでほしい・・・・。 はあぁぁーーーと、大きく溜息をついて、 奥に続く(父が出て行ったドアとは反対側)ドアをノックして開ける。 さっきまでいた人影がない。ジョルジュ君は眉を寄せて、名を呼んでみる。 「総統?」 返事なし。 「ザナドゥ? お父さん、帰りましたよ」 すると、デスクの後からひょっこり顔を出すザナドゥ君。 「なんで隠れるんです?」 「いや、あの人は苦手で」 気持はわかるけど。 「ザナドゥ見っけ〜〜」 ジョルジュの後から、にっこり再登場、ヘルガパパ。 顔を引きつらせるザナドゥの手に、さっき持っていた紙袋をガサっと乗せる。 「忙しいのはわかりますが、ちゃんと食事はとってくださいね! ジョルジュもですよ」 訝しげに紙袋を開けると、ベーグルやらサラダのカップやら、 野菜ジュースやらが入っている。 「アメリカ人の昼食ですか」 「アメリカ大好きー」 かくいうジョルジュ君のお母さんもアメリカ人。 それを考慮してか、ヘルガは時折、アメリカナイズされた食事を用意したりする。 きっと、ジョルジュに気を使っているつもりなのだろう。 アメリカ=ジョルジュのお母さんを、決して嫌いではないということ。 そういうことをされると、仕方がないなあ、 とジョルジュ君は父の暴走した言動を許してしまえるのであった。 いつも笑って馬鹿なことやってるけど、本当は辛かったんだろうな。 死ぬほど大好きな人に内縁の奥さんがいて、その忘れ形見の息子を引取って。 なんて、ほだされていると、 「ザナドゥ、かわいいー」 と、どうしていいかわからず固まってるザナドゥを抱しめて、頭なでなでしているヘルガ。 「おとーさーんー離れなさいーーーー」 「やつれてない頃のスコルピオンに似てて、かわいいのに」 そんなこと、おじさんが聞いたら怒りますよ? 「もう、本当に、何しに来たんですか!」 「ケンザキの顔を見に」 一瞬、ジョルジュの表情が強張る。 「・・・・なんで、それを?」 「参謀は情報集めてナンボですからね」 ザナドゥも眉をしかめる。 「でも、スコルピオンは知りませんよ。集めた情報のどれを報告するかは、参謀の裁量しだい。 すべて報告すればいいってモノじゃないですから。ねぇ、ジョルジュ?」 チクリ、と刺される。 「では、その参謀殿に伺おう。この大会、どう見る?」 低い、考え込むようなザナドゥの言葉に、ヘルガの眼光が一瞬光る。 ジョルジュが息を飲むのがわかる。 ヘルガは、ニッと笑い、人差指を立ててザナドゥの鼻先に触り、ジョルジュを指差す。 「知りませんよ、そんなこと。私はスコルピオンだけの参謀ですから。 あなた達の催す大会が、どうなろうと知ったことではありません。 今日は、大会を止めさせるだのなんだの騒いでたスコルピオンを止めに来たのであって、 そもそもこの大会に興味なんかありませんから」 差した指でジョルジュの顎を触り、まるで恋人にするように頬を撫で、耳元で 「そんな、余裕のない顔をするんじゃありません」 そう囁いた。 「信じるって決めたのでしょう?」 痛いところを突かれ、唇を結んで父を見る。 「自信を持ちなさい。あなたは、私の息子なのですから」 ジョルジュの唇を触り、その指をザナドゥの前に広げて見せる。 「ああ、ひとつだけ助言。ここの救護室で手におえない患者が出たら、 私の病院に運びなさい。保険にも入っていないような単身外国人旅行者は、 どこの病院も受けいれたがりませんからね。私だったら、書類をちょろまかしてあげます」 「お父さん、それ、犯罪です」 「請求書はジョルジュに回しておきますから」 「なんで私なんですか? 経理宛にしてください」 「もう、そこがお馬鹿なんですよ。まともに処理したら、大金かかってしまうでしょう? 参謀なら頭使いなさい」 確信犯か。 「お父さん、そうとう悪いこと、していましたね?」 「スコルピオンのためなら、なんでもしますよ。昔も、今も」 やっぱり、参謀最強伝説は本当だったか。 「じゃ、午後の手術が始っちゃうので、本当に帰りますね。 ちゃんとゴハン、食べるんですよ!」 「試合、見ないんですか?」 「今日でなくてもいいです。今日は、本当に忙しいので」 広げていた手のひらを、ぴた、とザナドゥの顔に付け、 それから指を振ってヘルガは出て行った。 なんでヘルガに顔を触られたのかわからないザナドゥ。 しかし、実はジョルジュは知っている。 ヘルガはよくスコルピオンの唇を指で触り、その指を自分の唇にあてていること。 (つまり、間接キ・・・・・) とたんに顔を赤くするジョルジュに、首を傾げるザナドゥ。 「まったく! 人騒がせな!」 わざと悪態をついてみる。 「今大会、そうとうな怪我人が出るという見解か」 つぶやくザナドゥを、ジョルジュはキッと睨んだ。 「私だって! ザナドゥのためなら、なんでもするんですからね!」 ムキになるジョルジュに、ザナドゥは唇の端を吊り上げて見せた。 「わかっている」 それからジョルジュの唇に指で触れ、それを自分の胸に当てた。 「選手の調整を終らせてくれ。でもその前に」 紙袋をジョルジュの手に押付ける。 「ちゃんと食事をとれ」 「ザナドゥ?」 「アメリカ人の食い物など、好かない。あとで何か持って来てくれ」 ヘルガの好意。いや、最初からこれは、ジョルジュに食べさせるためのもの。 最近気を張っていて、食欲のない息子に。 「わかりました」 返事をし、部屋の外にいる側近の女性にザナドゥの食事を指示しながら、ジョルジュは、 (やっぱり父は越えられないものか) と考える。 でもきっと、そんなこと父に言ったら、笑い飛ばされるのだろうな。 (そんな馬鹿なこと考えてないで、目の前の課題をこなしなさい) あんな父でよかったのか、悪かったのか。 ジョルジュ君の苦悩は、まだまだこれから。