「そうそう、あなたはコウノトリが運んできてくれたんですよ」 突然のヘルガの告白に、 「はああ??」 ジョルジュは頬を引きつらせて首をかしげた。 今をさかのぼる事、十数年前。 ある朝、ヘルガは玄関先に小さな包みを見つけた。 「スコルピオン! スコルピオン、大変です!! すぐ来てください!!」 何事かと慌てて出て来たスコルピオンは、ヘルガの腕の中の毛布に眉を寄せた。 それはもぞもぞと動き、子猫のようにみゃーみゃー音を発していた。 「捨て猫か?」 「違います!! よく見てください。赤ちゃんですよ」 覗きこんでみると、なるほど、人間の赤ん坊。 「捨て子か? すぐ警察に・・・・・」 「何を言っているんですか! これは、コウノトリが運んできてくれた、私とあなたの赤ちゃんです!」 「・・・・・・・・・・・・・・・・はあ?」 「だって昨夜、私祈ったんです。あなたとの赤ちゃんが欲しいって。 そうしたら、コウノトリが運んできてくれたんです」 にっこりのヘルガ。 「・・・・・・・・・・・・・・・・はあ?」 スコルピオンは、首が一周するほどひねる。 「あのなあ、馬鹿な事言ってないで、すぐ警察に届けた方がいいぞ?」 にっこり笑顔が、縦線の入った不気味な笑顔に変わる。 「ではあなたは、この子が捨て子だって言うんですか? あなたがどこぞの女を孕ませて、 その女が腹いせに生まれた赤ん坊をあなたの家の前に捨てたとでも言うんですか?」 「な、な、な、何を言っている? ヘルガ・・・そんなわけないだろう?」 「そうですよね、あなたには前科がありますものね。 警察に届けて、お母さんを探してもらって、あなたに認知させて、 養育費をたっぷり払ってもらいましょうね」 「ま、ま、ま、待て、ヘルガ! 断じて私は浮気などしていないぞ! 身に覚えなどない!!」 「男はやり逃げて、なんとでも言い訳できますものね」 「いやだから、話を聞け!」 「かわいそうなジョルジュ。お父さんが無責任男なんて」 「・・・・って、オイ、名前までつけているのか?!」 「名前、書いてありましたよ。 カードに、『名前はジョルジュです。かわいがってあげてください』って。 フランス語で」 「ふらんすご〜〜〜〜〜〜?」 「ああ、もしかして、この子のお母さんはナポレオン?」 「んなわけあるか!」 「だってあなた、私が日本偵察に行っている間に、ナポレオンとデートしていましたよね?」 「そりゃあアニメ版の話だろう?! デートなどしてないし! それに、あいつは男だぞ!」 「バロア家の資産を持ってすれば、あなたとの赤ちゃんを産むことなど、容易ですよね」 「いや、資産で赤ん坊は生まれないし」 「なんて酷い男なんでしょう! 私、実家に帰らせていただきます!!」 「待て! 待てヘルガ!!!」 背を向けるヘルガをガシっと抱きしめ、スコルピオンはがっくりとうなだれた。 「・・・・・そうか。コウノトリが運んできてくれたんだな。私とお前の子供を」 「やっとわかってくれましたか」 愛らしい天使の笑顔で微笑んで、ヘルガはスコルピオンの頬にキスをした。 「と、いうわけです」 父の真剣な力説に、ジョルジュはがっくりと両手両足を着いた。 「私、お父さんて紙一重の人だとは思っていましたけど・・・やっぱりなんですね」 「紙一重ってなんですか? コウノトリが運んできてくれるなんて、幸せの象徴ではないですか。 ねえ、ジョルジュ? コウノトリが暖炉の煙突から投げ入れなくてよかったですね」 いや確かに、コウノトリが煙突から赤ちゃんを投げ入れるとか、 コウノトリが投げ入れたカエルが赤ちゃんになるとか、そんな伝説もあるけど。 ジョルジュは頭を抱えた。 隣で傍観しているスコルピオンを、ジョルジュは眉を寄せて見上げる。 というか、睨む。 「おじさん? なんとか言ってください」 「本当の事だから仕方がない」 しれーっとしているこの男、ヘルガが白と言えば、黒いものも白くなるような奴だ。 「そう落ち込む事もない」 隣にいたザナドゥはジョルジュの肩に手を置くが、それは慰めているつもりか? ジョルジュはコウノトリが運んできたという話にか、そんなことを真剣に話すヘルガにか。 「ちなみにな、ザナドゥ、お前はキャベツから生まれた」 「はあ?」 スコルピオンの言葉に、ジョルジュは今まで以上に鼻をひくつかせる。 スコルピオンは腕を組み、思い出すように目を閉じた。 「懐かしいなあ。東の音楽祭に招待されて、そこでマレーネと会ったんだ。うむ。 それで、打ち上げでみんなで飲んで、気付いたら彼女のアパートのソファーで寝てた」 「無責任ですね」 ジョルジュのツッコミ。 「まあ、そう言うな。 確かに彼女と一晩を過ごしたのは間違いないが、決してそういうことはしていないぞ? 私にはヘルガがいるからな」 「どうだか」 ツッコミ続けるジョルジュの頬を、スコルピオンはつねった。 「し・て・い・な・い!」 「わかりました! わかりましたよ、もう! そういうことにしておきます!」 「でだな、帰国して一年後、マレーネから手紙が来たのだ。 『先日、月夜にキャベツ畑を散歩していましたら、 瑞々しいキャベツの真ん中に赤ちゃんがおりました。 これはあなたと私の子供です』とな」 「・・・・・・・・・・・・・・・」 ジョルジュはもう言葉もない。 「いやあ、赤ん坊はコウノトリが運んで来るものだとは思っていたが、 キャベツからも生まれるのだな」 「・・・・・・・・・・・・・・そうだったのか」 ボソリとザナドゥ。 「って、何、納得してるんですか!!!」 脱力するジョルジュは、掴みかかる気力もない。 「いや、おかしいと思っていたんだ。 母さんが、こんなダメ男に惚れるなんてありえないと。 オレもこんな奴の子供じゃないとわかって、安心した」 「いや、違うから」 大阪人なみにつっこんで見るも、ボケが三人じゃ話にならない。 「もーいいかげんにして!」 「で、つまり、私もザナドゥも、捨て子だったってオチですか?」 「オチだなんて、失礼な」 ヘルガはにっこり。 「お父さん、そのにっこり、やめてもらえます? そりゃあね、ボクシングで必殺技のないお父さんの、 最強最悪必殺技がその『にっこり』なのは知っていますけどね」 「もっといろいろ必殺技はありますけど、 放送コードに引っかかるのでやめておきますね。 そもそも、『リンかけ2』であなたたちが出て、 石松が『お前らスコルピオンとヘルガの子供か』ってセリフがあったとき、 前作からのフアンの99パーセントは私が子供を生んだって思ってましたよ」 「何の話ですか、何の?!」 「いえいえ。まあ、諸々諸説はありますけど、 コウノトリさんが運んできてくれたって、一番平和的じゃないかなって」 「・・・・・・・・・・・・いいですけどね」 「私、ジョルジュもザナドゥも大好きですよ。家族ですから」 はあああああ・・・・・。 大きくため息をつきながら、まあ、それでもいいかな、と思うジョルジュ君でした。