色々訳あって、二組の父子は同居する次第となった。

 これが一般的なホームコメディーなら、子連れで再婚した夫婦。
その腹違い種違い、つまり赤の他人の二人の子供が織成すゴールデンバラエティーとなるだろう。
が、そうはいかないのが現実。
父親同士がただならぬ関係、というのは、まあ笑える話ではあるけれど。

 ジョルジュ君は、母一人子一人の典型的な母子家庭で育ったのだけれど、
母親の気まぐれから海越え山越え会いにやってきた父の元に、すっかり居着いてしまった。
(その話はまた別のところで)

 それは別に、父親が好きだったからでもなく、ましてや父親の恋人が気に入ったからでもない。
とんでもない。血が繋がっていても、ジョルジュ君にしてみれば父親など赤の他人も同然。
言ってしまえばどうでもいいのである。

 ではなぜ海越えた地に定住してしまったのかといえば、
実は父親の恋人の息子、ザナドゥ君に惚れてしまったのだ。

 しかしこの彼、そう簡単になびくような輩ではない。
ザナドゥ君は極度のマザコンで、ゆえに母を死に追いやったと信じている父親を酷く憎んでおり、
同居している父親に対する復讐ばかりを考えていて、ジョルジュ君には見向きもしないのだ。

 さてどうやって気を引けばいいのだろうか。ジョルジュ君は今日も悩んでいた。

 

 

 

 今日という日は、実に珍しい日であった。
というのも、馬鹿みたいにクソ忙しいジョルジュ君の父親と(医者である)
その恋人が(政治家である)揃って休みだったのだ。
しかも、学校も休みで、ジョルジュ君とザナドゥ君も家にいた。

 しかし、馬鹿みたいにクソ忙しい大人二人は、
朝からそれぞれ自分の書斎にこもって仕事だか勉強だかをしていた。
ザナドゥ君は怒りのやり場を発散するために、中庭でシャドーボクシングに勤しんでいる。

 この家に、一家団欒という言葉はないのか。ないな。
ジョルジュ君は別に団欒なんかに興味はなかったし、
ザナドゥ君に至っては父親と同じ食卓につくことさえ嫌がっていた。

 ジョルジュ君にしてみれば、大人二人の在不在はどうでもよいことだったのだけど、
片思いの君が同じ屋根の下にいるというのは、これはもうチャンスなわけだ。

 しかし実は恋愛経験のないジョルジュ君。
どうきっかけを作ればよいかと考えあぐねた結果、父親の書斎を訪ねることにした。
なにせあの男、ザナドゥ君の父親をゾッコンメロメロ(死語)にしているのだ。

「お父さん、相談があるのですが」

 書斎を訪ねると、分厚い医学書を広げながら研究レポートを書いていた父、
ヘルガはにこやかにふり向いた。

「あなたが相談とはめずらしいですね。何ですか?」

 遠慮せずに書斎に入り、ちょっと医学書を覗き込んでみる。

(げ)

 そこには、フルカラー総天然色の人体解剖写真がででんと載っていた。

(見なきゃ良かった)

 三十代のクセに女性と見間違えられることもあるこの父は、
キレイな顔をして内蔵でろでろの手術の後、平気な顔でレアステーキを食べるような奴である。
いや、そういう意味では尊敬すべきか。

「お父さんとスコルピオンのおじさんは、性的関係にあるのですよね?」

 がっしゃん。

 分厚い医学書がペン立てを巻き込んで床に落ちる。

「え? あ?」

 引きつりながら慌てふためく父親に、軽く溜息がでる。
隠すつもりがあるなら、子供の目の前でハグとかキスとかしないでもらいたい。

「非難しているのではありません」

(今の所は)

「お父さんはおじさんといつからそういう関係なのですか?」

 歯に衣着せぬ質問に、ヘルガは明かに動揺したように本を閉じる。
中にラインペンが挟まったまま。

「えっと・・・確か、13か4くらいの頃だったと思うけど・・・」

「13,4って!」

 ジョルジュはカパッと口を開けて驚いたように声を荒げた。

「未成年! 子供じゃないですか! おじさん、小児性愛者だったんですか?! 犯罪ですよ!」

「いやだから・・・あのね、ジョルジュ、私が子供の頃って、スコルピオンも子供だったわけで」

 ああ、そうか。

 ぽん、とジョルジュは手を叩いた。
オオカミの扮装をしたスコルピオンおじさんが13の少年をよだれをたらしながら襲うという
ヴィジョンをかき消す。

「どうしてそんな関係になったんですか? どうやったら・・・」

 眉を寄せる息子に、やっとヘルガはその質問の意図を掴んだ。

「・・・あのですね、急にそういう関係になったわけではないんですよ。
お互いの気持が高まって、自然にそういう行為に達したというか。
メンタルな問題ですから、こういうのは。焦ってはいけません。
気持は必ず伝わるのですから、肉体的な関係にこだわってはいけませんよ。
自分の気持を大切にして、相手を思いやる気持を忘れないようにして」

 もっともらしいことを言う。ゲイのクセに。

 胸の中で悪態をついてみるが、まあ一理あるのも確かだ。

「それで・・・お父さんは、スコルピオンおじさんのどういうところが好きなのですか? 
どんな時にそういう関係になってもいいと?」

 本を机の上に戻し、ペンを拾い、落着きをとり戻したヘルガはにっこりと笑った。

「どういうところが、と言われましても困りますが・・・でも、そうですねえ」

 いつの間にやらうっとりと両手を組合わせて乙女チックに目を閉じる。

「情熱的にキスをされた時でしょうか。
試合のあとの控室で、抱しめられてキスをされた時・・・・・・・・・・・って、
ジョルジュ、どこに行くんですか?」

(聞いた自分が馬鹿だった)

 ジョルジュはそそくさと背を向け、父の書斎を後にした。

 

 

 

 父親の乙女モードなど、見ていて気持いいものじゃないし。っていうか、気持悪いし。

 ゼンゼン参考にならないし。

 そんなわけで、ジョルジュは気を取りなおして、父の恋人、スコルピオンの書斎をノックした。

「質問とは珍しい。私で答えられることなら、何でも聞いてくれ」

 父の医学書に負けず劣らず分厚いコピーの束を手にしていたスコルピオンは、
ニコリともせずに言った。
もっとも、この男が笑う姿など、そうめったに見られるものではないが。

「では単刀直入に伺いますが、おじさんはいつから父と肉体関係にあるのですか?」

 どさり。

 スコルピオンの手からコピーの束が落ちる。よかったね、ちゃんと製本されてて。

「非難しているのではありません。参考までに伺いたいだけです」

 ああ、そう、参考にね。ブツブツ呟きながら、スコルピオンは書類を拾い、机の上に戻した。

「14,5、だったかな」

「エロガキだったんですね」

「潰すぞ」

 眉間に怒りマークをぷつぷつ出して拳を握るスコルピオンに

「大人気ない発言は止めてください」

 ジョルジュは冷静に応えた。

「おじさんがエロガキだったなんて、どうでもいいんです。
私が知りたいのは、おじさんがどういう経緯で父と肉体関係に及んだのかと言うことです」

「そりゃあ、・・・・・好き、だったからだな」 

 よく恥しげもなくそんなことが言えたものだ。質問したのは自分なのだけど。

「父のどんな所が好きだったのですか?」

「どんなって、ぜ・・・・」

「全部とか、そういうのはやめてください」

 先に釘を刺すと、スコルピオンは頭を抱えた。

「具体的に、どういうところに好感を持ったのですか」

 質問を口にしながら、ジョルジュはスコルピオンの書斎のドアの所に人影を見た。
どうやら心配したヘルガがそっと様子をうかがっているらしい。

 いい大人が何をやっているのだか。でもまあ、いい。ヘルガだって聞きたいだろう。
自分のどこが好かれているのか。

「教えていただけませんか?」

 しばらく頭を抱えて悩んでいたスコルピオンは、やっと思いついたように顔をあげた。

「ああ見えて、激しい所だな」

「女みたいな顔をしてリングに立って、相手をこてんぱんに殴る所ですか?」

「いや、それはそうなのだが」

 ジョルジュがちらりとドアの方を見やると、ヘルガの顔が引きつっている。

「ベッドの中では豹変すると・・・・」

 どす。

 鈍い音がして、スコルピオンは言葉半ばに体を二つに折った。

「ヘルガ! いつからそこにいた?! しかも、いきなりボディーブローか?!」

 拳を固め、仁王立ちしたヘルガは、ふるふると震えていた。

「子供相手に何を話しているんですか!! あなたは!!」

「聞かれたから答えただけだ!」

「答にも色々あるでしょう!」

「素直に答えて何が悪い!」

(あ〜始ったよ、痴話喧嘩)

 だいたいあなたはねぇ! とか、昔からそういうデリカシーがない、とか、
父親の怒りを背中に聞きながら、ジョルジュはそそくさとスコルピオンの書斎をあとにした。

 

 

 

 まったく参考にならない。
きっと昔からスコルピオンおじさんはヘルガの尻にしかれていたに違いない。

 ジョルジュの母は「馬鹿夫婦」と呼んでいたが、まったくそのとおりだ。
(その辺の話は、また今度)

「はあ」

 自分のこの切ない思い。どうしたらよいのやら。 

 中庭で熱心に汗を流すザナドゥを、ポーチの階段に座り、ほおづえをついて見つめる。

 話をするきっかけは、ないのだろうか。

 

 そんなジョルジュ君を見つめる影。
スコルピオンの書斎の窓から、ヘルガは息子の恋する姿を見下ろしていた。

 まあ、ビミョーにフクザツ。

 そんなヘルガを後から抱きながら、スコルピオンも視線の先を見る。

「ジョルジュは誰に似たんだか。生意気なことばかり言って」

「子供なんですよ。頭がいいから色々なことがわかるけど、
人生経験が少ない分、判断ができない。友達を作るきっかけさえ、わからないんです」

 ふう、と溜息をついて、スコルピオンはヘルガの髪に鼻先を埋める。

「世の中全てを敵にまわしていると思ってるザナドゥだって、昔のあなたみたいですよ。
昔のあなたみたいに暴走しなきゃいいけど」

「俺がいつ暴走した?」

「ほら、自覚症状がない」

 クスリと笑って、首を回してキスをする。

「夜までには、終らせてください。一ヶ月ぶりのお休みなのですから。
今夜はゆっくり過しましょう」

 ニヤニヤするスコルピオンの腕をすり抜けて、ヘルガは部屋を出て行った。

 

 やっぱり、カッコいいなあ・・・。

 真剣なザナドゥの瞳に、ジョルジュはうっとりと見入る。

 ただの見かけだけではなく。彼を支えてあげられたらいいのに。
学校でトップの成績をとったって、それが誰かのためにならなきゃ、何の意味もない。

(だから、医者になったんです)

 父の言葉を思い出して、肩を落す。

 学校の勉強なんて、こんな時、何の役にも立ちはしない。

 ふと視線を感じてふり向くと、家の影からヘルガが手招きをしていた。

 ヒトが思いに耽っている時に、邪魔をしないで貰いたいものだ。
唇を尖らせながらも、歩み寄る。

 家の影で、ヘルガはジョルジュに清潔なタオルと水の入ったビンを手渡した。
そして、汗を流すザナドゥの方を指差す。

「・・・・これ?」

 ニコニコ笑いながら、ヘルガはこくりと頷いた。

「こんなもの?」

「こんなものがいいんです。考えすぎちゃ、ダメですよ」

 ヘルガは、頑張って、と身振りして家に戻って行った。

 こんなありふれたもの・・・。

 半信半疑でありながら、ジョルジュはザナドゥに近寄り、
恥しげにうつむきながらタオルと水を差し出す。

「・・・・オレ、に?」

「そ、そうです!」

 タオルと水を受取ったザナドゥは、「アリガト」と小さく呟いた。

 

 二人で並んでポーチに座る。ザナドゥは汗を拭き、水を飲む。
それから、二人は、ぽつぽつと天気や気温の話、庭の草の話、気持ちよい風の話、などをした。

「ボクシング、私も・・・やってみようかな」

 ジョルジュがポツリと呟くと、ザナドゥはジョルジュを見つめて、

「いいんじゃないか」

 と応えた。

「ホントウに?」

 ジョルジュが瞳を輝かせる。

「教えてもらえますか?」

「あ、うん。オレでよかったら」

 ぱあっと瞳を輝かせるジョルジュに、なんだか悪い気分もしないザナドゥは、
ちょっとだけ笑った。

 

 

 

 色々教えてもらう、という名目で、子供二人は近所のカフェにランチに出かけていった。

「あっけなく進展したなぁ」

「男って、単純なんですよ」

 ヘルガはスコルピオンにランチを用意し、二人で向い合って食べる。

「俺も騙されたクチか」

「私がいつ騙したんです?」

 フフフと笑うヘルガの表情は、悪魔的。

「しばらく帰って来ないかもしれませんね。
親のいないところで、親の悪口に花を咲かせているでしょう」

「かまわんさ。怒りを内に込めるより、誰かに発散した方がいい」

 その方がいい。

 食事途中でスコルピオンは立ち上がり、ヘルガを抱き上げて寝室に向った。

 

 

 

 父親なんて役立たずで嫌いだったけど、ちょっとは役に立つこともあるんだ。

 ジョルジュはちょっとだけヘルガを見直した。

 見直したついでに、ちょっとだけお礼を言おうと書斎に上る。
と、スコルピオンおじさんの寝室から、なにやら話し声が。

「?」

 ひょいと顔をのぞかせたジョルジュは、顔いっぱいに引きつった。

「あ・・・・・・・・・・・・おかえりなさい」

 たっぷり間を開けて、気まずさに強張る父の姿に、

「ばか! ヘンタイ! エロオヤジ!!」

 知っている限りの悪態をついて走り逃げる。

 ヘルガは乱れた服を整えてる最中で、隣には上半身裸のスコルピオンおじさんが・・・。

「してる最中でなくて、よかったな」

 ぼす。

「って、いきなりボディーブローかい?!」

 

 

 

 彼ら四人に幸あれ。   

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  このさい、私が「リンかけ2」をほとんど読んでいないことなどは、無視してください。

 ごめんなさい。気の迷いです……。